昭和33年度原子力平和利用関係予算見積方針


原子力委員会
32.8.23

 わが国における原子力開発利用の実情を見るに、昭和29年度以来遂年増加する財政支出と、これに呼応した関係各方面の研究開発意欲の増進と相まって、研究基盤の育成にはみるべきものがあり、内外の情勢から33年度はいよいよ基礎研究の段階に止まらず、応用研究へ第一歩を踏み出すべき時期と考えられ、これにともなって人材の充実が強く要請せられている。さきに当委員会は、実用発電炉の導入を決定したが、その趣旨の一つは将来わが国が独自に諸種の原子炉を開発するための知識、経験の習得を促進し、人材を養成するという点にあり、このように原子力研究開発の応用面への拡大が33年度以降の一つの重点となることは動かし難いところであろう。もっとも先進諸国に比し、10年以上といわれる立遅れを回復することに急なあまり、基礎的部面の研究の深化をおろそかにするならば、将来の原子力開発利用の健全な発展を期待し得なくなることはぜい言を要しないところであり、特に国家資金の重点的配分という見地からは、基礎的な原子力技術の研究開発になおきわめて多額の国家資金が投入されるベきであると考える。実用発電炉の導入を決定した際受入主体は民間資金を中心とした新会社による旨を明らかにしたのもこの趣旨にほかならない。
 われわれは、上述のごとき原子力研究開発の応用面への拡大と基礎的部面の充実という二つの要請をともに満たすために、人員を充実し、これにともなう施設を完備することが、33年度原子力予算の最大の課題であることを考慮しながら、以下の原子力予算の見積を行ったのであるが、世界の主要国が莫大な原子力予算によって発電、船舶等の実用化に努力し、日進月歩の成果を得つつあり、後進諸国もまたこれを追って原子力利用に懸命となっている実情を思い合わせるとき、この見積は今日の日本にとって適切なものであることを確信する。

(1)見積の前提

 この予算の見積は、さきに内定した長期基本計画および目下検討中の年次別計画の線に沿い、動力炉受入に関する当委員会の決定を前提として作成したものである。ただし、実用発電炉の受入にともなう予算上の措置については、別途考慮するものとする。

(2)日本原子力研究所

(イ) 基礎研究の充実と実用研究の拡大を計るため、人員を充実強化する。

(ロ) ウォーターボイラー型原子炉による実験研究を行うとともにCP−5型原子炉を完成する。

(ハ) 国産1号炉の設計製作を進展せしめるとともに、将来の目標である増殖炉に関する各種の試験研究を本格的にする。

(ニ)動力炉国産化と舶用原子炉の開発を促進するために動力試験炉1基を海外に発注するとともに、冶金等工学関係の研究部門を充実し動力炉に関する各種実験研究を開始する。

(ホ)アイソトープ研修所を整備し、原子炉学校の開設を進めて、研究者、技術者の養成訓練を図る。

(3)原子力船開発

 海外における原子力船に関する研究の急速な発展とわが国の海運への高い依存度から、32年度予算要求の際すでに原子力船の研究の緊要性は認められていたが、なお慎重を期し32年度は調査の段階に止めた次第である。その後わが国におけるこの分野の調査研究も進展し、原子力船の開発の可能性についての見通しを得たので33年度から原子力船に関する具体的な研究に着手することとする。そのため基礎的研究を運輸技術研究所等において開始するとともに上述の日本原子力研究所に導入する動力試験炉を地上試験用舶用原子炉として共同に使用できるよう考慮する。

(4)核燃料対策

 原子力開発上核燃料対策はきわめて重要であるので以下の措置を強力に推進する。

(イ)地質調査所ならびに原子燃料公社の行う概査および精査を拡大強化するとともに探鉱奨励金による民間の成果にも期待する。

(ロ)原子燃料公社の開発体制を整備するとともに、鉱石の買上げ等により民間における燃料資源の開発の促進を図る。

(ハ)原子燃料公社が32年度に着手した精製還元中間試験工場を完成し、主として海外から輸入するイエロケーキを原料として試験生産を開始する。   

(ニ)原子燃料の選鉱、粗製錬の研究の成否が国産低品位ウラン鉱石利用の死命を制する重要な問題であることを考慮し、関係各機関において分担研究を行うほか、原子燃料公社において原子燃料試験所を設け各種の試験を実施する。

(ホ)核燃料の加工、再処理および廃棄物処理の研究は日本原子力研究所および各研究機関における研究を促進する。

(5)民間企業等の助成

 原子炉および関連機器材料の国産体制を確立し、アイソトープの利用を促進するために、これらに関する各種の研究に対し、補助金、委託費を交付して民間における試験研究を促進する。

(6)アイソトープの利用研究施設の整備

 日本原子力研究所の施設を整備するとともに、国立試験研究機関についても放射線障害防止の必要性をも考慮し、緊要度に応じて施設の整備を図る。

(7)放射線医学総合研究所

 第2年度計画の研究施設の充実を図るとともに、人員を拡充することにより、研究体制を確立し、放射線障害に関する技術的諸問題の解明およびこれが予防対策等各方面からの強い要望に応えるよう遺憾なきを期する。

(8)放射能調査

 自然放射能調査は、今後の原子力利用の推進に関係するところが大きいので、その科学的基礎資料を把握するため、関係各機関を動員して、大気、地表、動植物等の自然放射能の調査を推進する。

(9)海外との連けいの強化

 内外技術の進歩にそなえ、その調査を充実し、海外との連けいを強化する。このため国際原子力機関および第2回原子力平和利用会議等国際会議への参加、在外アタッシェの活動強化、各種調査員の派遣、海外からの専門家の招へい等を行う。

(10)人員の養成

 海外へ留学生を派遣するほか、アイソトープ研修所を整備し、原子炉学校の開設を促進する等、技術者の養成訓練を強化する。

(11)法律の施行

 32年度に成立した「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」および「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」が、33年度には具体的な実施の段階に入るので、その適確かつ円滑な施行に万全を期する。

(12)原子力知識の普及

 原子力平和利用に関する国民の知識の向上を図るため、パンフレットのはん布、映画の製作、講習会の開催等の普及措置を講ずる。

(13)原子力委員会・原子力局の強化

 以上の諸政策を実施するため、原子力委員会の非常勤委員を常勤委員とし、専門委員を増員する。また原子力局の人員を充実強化する。