文化の花を世界に咲かせよ

原子力委員会参与   稲生 光吉

 ウラン原子の核分裂による原子動力の平和利用が開発せられたことは、特にわが国のごとき化石燃料の資源に乏しい国にとっては、天来の福音ともいえるであろう。もちろんウラン資源もわが国に多くは望めないことではあるが、これを輸入に俟つとしても、石炭や石油に比べ、きわめて少量で大きなエネルギーが得られるため、輸入に要する船腹も節約できるし、また燃料の長期対策も容易となることは言うまでもない。

 昨年秋英国においてコールダーホールの原子力発電所が完成し、その改良型発電所の設計が発表せられて以来、わが国にもその導入に関する意見が起り、引き続き日米原子力産業会合同議の席上、米国PWRおよびBWRの実用性が論議せられ、いよいよ原子力発電所をわが国に建設しようという動きが活発となってきた。産業の規模の伸張と、国家電源の貧困を思うとき、一日も早く原子力発電を取り入れることは誠に重大な意義があると思う。巷間あるいは時期尚早を唱える向きもあるが、今着手しても発電所完成までには5年くらいの歳月を要するものであるから、その間の発達改善を取り入れることもできるであろうし、早期の導入がわが国独自の原子力技術開発を促進することとなることを思えば、時期尚早とばかり待ってはいられない。ただ十分注意すべきことば危険防止の点であり、万が一の災害が、国民思想をして永久の危避を醸すことのないように心懸けるべきである。

 天然ウランか濃縮かについては、相当論議の種子となっているが、現在初期の段階においては両方とも導入すべきであると思う。昔ディーゼル機関が導入された当時、2サイクルか4サイクルかとやかましい論議があった。 2サイクルは同じシリンダーで倍の燃料が燃やせる。多少趣はちがうがいわば濃縮型に相当するものである。議論は議論として、現在2サイクルも4サイクルも両方ともそれぞれの分野において、立派に働いておるのを見るではないか。航空発動機にしても、液冷型と空冷撃との両者を導入し、その技術の上に立って独特の日本の航空発動機が進出したことも記憶に新たである。

 日本は燃料資源に乏しい。できる限り、その完全燃焼を図らなければならない。増殖型のごときは正にわが国の特技として開発せらるべきであろう。しかしその前提としては、増殖型に限らずできるだけ早く完成した技術をとり入れる必要がある。戦時中、高オクタン航空燃料に窮したとき、水の補助噴射により、低オクタン燃料を高オクタンと同様に使用し得ることに成功した研究は、普通の航空発動機の技術の上に立って開発されたものであった。

 国産増殖炉を完成し、更に進んで核融合炉を開発し、ウランやトリウムから更に広汎に存在する水素原子の利用を達成できるようになれば、もはやわが国は持たざる国の範畴に呻吟することはない。化石燃料、これは正に高分子化学の有用な原料であり、これをあたら灰燼に帰することは大なる損失である。神与の天水を活かして水力となし、無生の資源ウランや重水を離合して、電力を開発し、船舶を運航するに至れば、石炭石油を原料とする化学工業により国運は開け、文化の花を世界に咲かせることも夢想とばかり退けることはできまい。

(三菱日本重工業株式会社取締役 三菱原子動力委員会委員長)