海外における原子力関係情報

 前号にひきつづき在外公館長から外務大臣あてによせられた報告のうち、国際協力局を通じて原子力局に通報された海外における原子力関係情報から次の二つ(いずれも在英西大使発)をえらんで紹介する。

英国の新原子力発電計画について

 英国政府は3月5日上下両院において1955年の白書による計画を改訂する新原子力発電計画を発表したが、その概要、上院におけるミルズ動力相発言ならびに主要新聞論調下記のとおり報告する。


1.新原子力発電計画の概要

(1)1955年原子力白書の目標を約3倍に拡大し、1965年末における原子力発電計画を500万〜600万kW に引き上げた。

(2)上の新計画は、人的物的資源ならびに資金源等を勘案の上決定されたものである。

(3)本計画の実施に必要な資本は合計14億6,000万ポンドにのぼり、同一規模の在来方式発電所建設に比し約7億5,000万ポンドの投資増となる。(送電施設費を含む)

(4)本計画に予定される原子力発電所建設数は19(現在建造中の3ヵ所を含む)であるが、これは必ずしも敷地19ヵ所を必要とするものではない。(一敷地に2発電所の建設も可能と考えられている。例、SomersetのHinckley Point)

(5)上記19発電所は現在のところ、いずれもコールダーホール改良型と考えられており、この点1955年白書と趣きを異にしている。(同白書では総数12ヵ所のうち後半に建設するものは液体冷却型を考慮していた。)

(6)原子力発電所は主としてイングランド南部地区に建設されるものとみられるが、その他スコットランドのみならず、ウエルズおよび北アイルランドにも最少1ヵ所の建設が予定されている。

(7)本計画実施により1965年未において節約可能な発電用炭はおよそ1,800万トンにのぼる見込みである。

(8)しかしながら本計画は英国の石炭産座業になんらの影響を持つものではなく、石炭開発は今後もその緊要性を失うものではない。

(9)新計画による単位容量当り建設コストは平均約125ポンドであり、これは、現在CEA及びSSEBが建設中の3発電所の平均コスト145ポンドより若干下回っている。

(10)上記建設中の原子力発電所の発電コストは、新鋭火力に比しわずかに上回っているが、原子力発電の効率は今後急速に高まると考えられるので、火力の効率向上を考慮に入れても、結局は原子力の方が安くなるものと期待している。

(11)原子力発電所は敷地の関係で country sideに建設されるため、地方のamenityが害されるのではないかという点が問題となっているが、この点はある程度やむをえないものとされている。

(12)敷地決定のためには関係地方当局の承認を求めねばならないが、現在の手続によれば、これにあまりにも時間をとられすぎる憾みがあるので、今後これを簡素化し決定をスピード・アップすることを考えている。

(13)新計画はフレキシブルなものであり、今後も定期的に検討を加え改訂されるものと考えられるので、今回改めて白書を発表する計画はない。

2.ミルズ動力相の上院における発言内容

 政府はイングランドおよびスコットランド電力当局ならびに原子力公社と協議の上、今回去る1955年2月に発表した1965年末までに会計150万ないし200万kWの原子力発電所を建設するという白書内容の再検討を完了した。英国が毎年2億5,000万ポンドからの燃科(主として石油)を輸入している事実、ならびにこれが英国の外貨収支尻に次第に大きな重荷となりつつある事実にかんがみ、新エネルギー源としての原子力を開発する重要性は疑問の余地のないところである。したがってわれわれに課せられた任務は、過去2年間に達成された技術的進歩からみて、1955年計画をどの程度まで拡大できるかを見究めることであった。
 原子力関係専門家の十分な検討を加えた意見によれば、現在の技術知識にてらし、中央電力公社およびスコットランド電力公社は、1965年末までに最低500万kWの原子力発電所を運転することが合理的な目標であり、またもし技術的開発が順調に進展し、必要な物的財的資源が利用可能ならば、同じ年までに600万kWの原子力発電が可能であろうとの結論であった。
 この助言にもとづき政府は、電力公社および原子力公社の完全なる同意のもとに、現在の計画の基礎として1965年末までに容量500万ないし600万kWの範囲の原子力発電所の運転を実施することに決定した。この決定は、原子力発電に必要な原料供給、用地の取得ならびに送電網計画がいずれも、1965年未までに600万kWの原子力発電を実現させるのに十分な規模で行われることを意味する。実際に同年末までに建設される原子力発電の容量は、今後の資本費の動向をもあわせ、計画の進展にともなう技術的進歩と開発および物的財的資源の利用可能性の如何にかかわるであろう。なおわたくしは、本日北アイルランド政府は同政府の提議にもとづき、1963年ないし1964年までに15万kW原子力発電所の運転を北アイルランド電力庁が計画している旨発表したことを、ここで申し上げる権限を与えられている。
 今回の原子力計画の推進は英国のエネルギー資源に大きな寄与を加えるであろう。すなわち、600万kWの発電能力を年間フルに運転すれば、石炭およそ1,800万トンを節約することとなろうに。しかし、同時にこのことは、1960年代初期における電力公社の年間投資計画が著しく増大することを意味しており、国家の資本源がいずれにせよ極度に逼迫すると考えられている期間に大きな重荷となるものとみられる。
 なお本計画には、これまで電力需要問題の及んでいなかった地方における発電所新設と、高圧送電線の建設をも含んでいる。このことは不幸なことではあるが、原子力発電所用地には特殊な問題が存するため、やむを得ないと考えられる。政府ならびに電力当局は、本計画の実施に当り、田園地方の住み心地ないしは個々人の権利とできるだけ摩擦を起さないように決心している。しかしながらわれわれは、このことを実行可能と信じており、同時に本計画の推進を著しく阻害するおそれのないようにするため、現行手続を促進化するなんらかの規定が設けられるものと考えている。この点に関しわが政府主計長官は、現議会の他の場所で審議中の電力法案中にある既存法律の修正を上程することとなろう。
 最後にわたしは今回の原子力発電計画の見通しから、英国石炭産業の重要性にいかなる影響をももたらさないであろうことを附け加えでおきたい。
 いかに急速に原子力の開発をすすめようとも、石炭はわが国経済の基盤として残るであろうし、国内石炭資源をフルに開発する必要性は、将来とも緊急の問題としてとどまるであろう。

(以下、アレクサンダー・オブ・ヒルスポロー子爵、リー卿、アトリー伯爵、ローソン卿、ホール子爵、ルカス・オブ・チルワース卿の質問に答え)

 まず「ヒ」子爵の物的財的資源に関する質問については、わたしの発言にある「原料資源(material resources)」という言葉で単に用地ばかりでなく、鉄鋼その他の原料およびなかんずく本計画の作業に従事すべき科学技術者の頭脳をも含めたつもりである。わたしは本計画を上院に発表する前に、それが実行不可能なものであることのないよう十分情勢の検討を行った。わたしが石炭の重要性を強調したのは、それが英国の基礎的財産であるからである。しかしわが国のエネルギー需要はきわめて急速に増大するので、より多くの石炭、より多くの石油、それに原子力をあわせ必要とするのである。世界の競争はますます増大し、もしこれに対応しようと考えるならば、わが国産業の機械化を促進しなければならず、それにはもっと多くの動力を必要とするという点をわれわれは心に留めておかねばならない。したがって石炭は、わたしの見通しうる限り将来にわたってわれわれの依存すべき基本的燃料の位置を保つであろう。

 また「ヒ」子爵は政府が本件に関し白書を発表する意志はないかと質問された。しかし現在のところ政府はその意志をもたない。その理由は、本原子力計画が定期的検討を必要とするフレキシブルな計画であらねばならぬからであり、したがってわたくしは、上院が本件に関し再検討の行われる都度白書の発表を欲せられるかどうかを疑うものである。次に「リ」卿の質問(注、政府はできるだけ田園環境を損わぬためごく小型の文庫箱くらいの原子力発電設備を開発する用意はないかとの質問)に関しては、これはわたくしの予見可能な範囲を超える質問としか思えない。ただわたくしにいえることは、原子力科学の発展はきわめて急速であるから、将来どのような可能性が生じても驚くに当らないということだけである。
 次に「ア」伯爵は建設コストについてただされたが、もしここで伯がこれを単に推定数値として考えてもらえるならば、若干の値を示すことができると思う。以下の数値は現状において、われわれのなし能う最善の推定によるものである。元来本計画は、今後変更、改善が行われることを条件としている。したがってわれわれは今後行われるすべての有益な改良および発見を取り入れるであろうし、計画し進展にともないコストが低下することを期待しかつまた信じているのである。今回の計画に示された電力を得べき在来型の発電所のコストは8億1,000万ポンドと推定されるが、これに対し容量600万kWの原子力電所のコストは14億6,000万ポンドにのぼることとなろう。しかしその他の附加コストを勘定に入れるならば、両者の差は7億5,000万ポンドに達するであろうの。
 次に「ロ」卿は本計画を議会に発表する前に他に漏らしたのではないかと指摘されたこが、確かに報道機関は、政府がいかなる改訂計画を決定するかについて、数ヵ月前より種々の想像を行っていた、わたくしは国民が本件に関し政府の意向を承知したいと待望しているものと確信する。しかし本計画の発表が今日まで遅延したのは、一にかかってわたくにし自身、われわれの実行できる実際的な計画を得たいと欲したからである。次に「ホ」子爵は原子力発電所の数について尋ねられた。本計画を実施するためには、わたくしはすでに今日発注をみている3発電所のほかに、さらに16ヵ所以上の発電所を建設する必要はないものと考えている。
 「ホ」子爵はまた輸出問題についてただされたが、わたくしは原子力公社が行ってきた研究開発の結果、本件に関してなされた実際的研究ならびに英国がこの分野で確立したりリードからして、輸出面でも成果をあげうるものと希望している。なおまた本計画は、わが国が輸出の増大を期待できるようになったときには、十分それを実現しうるごとく考慮されている。子爵はさらに経済面に関して発電コストに言及されたが、すでに発注された3発電所の発電コストは新鋭火力発電所に比しごくわずかながら上回るものと予測されている。この場合発電コストには運転コストのみならず資本コストも含まれているが、原子力の場合資本コストは相当高い反面、運転コストは非常に低い。しかしながら、一方で在来発電所の効率が改善される間に、原子力発電所の効率がさらにより急速に改善されることは確実に期待できるから、究極において原子力発電所の発電コストは在来型のそれに比し下回るようであろうことを希望できると思う。
 次に「チ」卿の、政府は本計画にともなう尨大な資本費が他の必要な資本を圧迫することはないかとの質問に関し、わたくしは英国の資本需要については政府が常時検討を行っていることをはっきり申し上げておきたい。
 最後に卿は苦情申入れのための機関に言及された。さきに発言したごとく政府は田園地方の住み心地を損わぬことと、個々人の権利を護ることの必要性については深い関心を払っているのであって、政府が考えているのは、ただある場合用地の問題があまりにも暇どっているので手続を迅速化する方法を検討しているにすぎない。
 本計画はある者が自己の意向にしたがって事をすすめる権利を何人に対しても拒否するものではない。卿が示唆されたように、わたくしはできる限り田園地方を保護し個人の権益を守るためになし能うすべての点において満足を与えるよう適当な苦情処理機関を考慮すると申し上げたい。しかし同時に卿は、わが国が電力を必要としていること、また原子力発電所および送電線等を見えないような具合に田園地方に建設するわけにはいかないという点を認めて戴きたい。もしわが国が本計画を推進することに決定を見たならば、田園地方にも相当数の発電所が存在するようになるという事実、かつまた青空の下なにものも存在しないというわけにはいかない事実を受け入れざるを得ないこととなろう。

3.主要新聞論調

 3月6日付各紙は新原子力計画の発表について、それぞれ社説に取り上げ論じているが、その要旨次のとおり。

(タイムズ)
 1965年末における原子力発電容量が500万kWになるか600万kWになるかは今後の事情によって決定されようが、いずれにせよ1965年には英国の電力の4分の1が、新しいエネルギー源によってまかなわれることとなるわけである。
 原子力発電所は石炭を産しない地域に電力を供給するため、主としてイングランド南部に建設されることとなろうが、これは一部は送配電のコストを低減するためであり、一つには原子力発電所が尨大な冷却水を必要とするためである。
 本計画は英国が新しい科学技術の分野で推進した測り知れない進歩を証拠だてるものであり、いかなる他の国にも見られない最も野心的な計画である。たとえ石油の輸入は今後とも増加するにしても、本計画によって、わが国の輸入燃料への依存度を減ずるであろうし、新規輸出をもたらすべきこの新分野における英国の工業力を強化するものとなろう。この際本計画を促進することは、英国のごとく高価な在来燃料の輸入に今後ますます依存することを余儀なくされている国にとり特別の重要性を有するが故に、歓迎さるべきものである。
 発電容量を500万kWにするか600万kWにするかは後刻経済面その他の情勢にてらし決定されるであろうが、いま一つ他の面でもフレキシビリティがなければならない。それは現在のところ原子炉型については、根本的変更を行わぬ方が今期間に対し経済的に望ましいと断定されているけれども、他方米国およびカナダは他の型式の原子炉を開発しており、これに対しヨーロッパは主要な型式すべてをサンプルとして取り上げる模様にみられるからである。それ故この革命的新動力の最良の利用が図らるべきものとすれば、その手段についても最大のフレキシビリティが必要であるといえよう。

(マンチェスター・ガーディアン)
 あらゆる点からみて、今回の原子力発電計画は野心的なものといえる。それは今日までいかなる国家も予期するだけの勇気を持ちえなかったほど大規模なものだ。しかしこの計画は同時にまた健全な計画であるといってよい。現在までにコールダーホール型発電所のよさは、よしんば立証済とまでいかないにせよ、すでに十分試験済であって、その信頼性がきわめて大きければこそ、新計画による原子力発電所は、旧計画において種々の型式を織り込む必要があると考えられていたのに対し、すべて同型を基礎とするもので推進するだけの可能性が生れたのである。このことは、実際に建設を開始するまでに、特に新たに設計を行ったり、研究を行ったりする必要がすくなくてすむことを意味する。にもかかわらずミルズ卿は昨日賢明にも、今回の計画はフレキシブルなものであると強調した。誠に前回の計画が技術的進歩のためわずか1年くらいで書き改めねばならぬ状況であれば、今日新たに樹立された計画もまた果していつの日まで最善のものとして留ることができようか。すなわち、ここ2、3年の間にもみずから消費する以上の燃料をつくり出すごとき原子力発電所の設計が可能となることも十分あり得よう。そうした場合、ミルズ卿は再び計画を考え直さねばならぬだろうからである。
 原子力のごとき急速に変化する分野にあっては、フレキシピリティこそすべての政策のねらいであらねばならない。ことに指摘しておきたいことは、わが国がいまや経済的に成立する原子力発電の一つの方式を見出したからといって、さらに新しい方式を研究するための資金を出し惜しむようなことがあってはならないという点である。
 原子力のもつ大きな長所は、時とともに、かつまた開発が進展するにともないますます安くなるとみられることであり、低廉な電力こそ英国産業が欲し求めている一つの資産といってよかろう。
 なおまた原子力発電が実用化するにともない英国産業は、より大量の電力を、昼夜を通じ今日みられるよりもっと平均して使用するのが有利であるような条件で電力を買うことが可能となるだろう。

(ファイナンシャル・タイムズ)
 御馳走の出るのが遅れると、ますます食欲をそそるということもあるが、久しく待望された原子力発電に関する政府の今回の発表は一般的に歓迎されよう。
 政府は二つの理由から、より大きな信頼をもって原子力開発の推進に乗り出した。その第一は、輸入燃料に大きく依存することから生ずる戦略上の危険と支払バランス上の負担があまりにも大きいことである。そして第二の点は、原子力の分野における技術的進歩の見通しはきわめて大きく、そのため、国内における燃料費がやがてはさらに安くなるばかりでなく、世界でも最も急速に発展しつつある産業の一つである原子力界において、輸出面における英国のリードを決定的たらしめることを約束している点である。
 政府が決定するにいたったこの二つの理由を強調しておくことは大切である。 なぜならこの決定にともない、いくつかの困難な問題と危険が生ずることは避けがたいからだ。それらのうちあるものは技術的な問題  たとえば、特株な分野に属する労働力とか材料をどうするか、また原子力主発電所を連続的に運転するためになんらかの実際的方法を発展させねばならないといった問題である。
 しかしながら、問題の大部分は一般に見られると同様の経済面に関連している。 すなわち計画を強行する必要上初期に建設される若干の発電所がいくばくもなく陳腐化する可能性もあるため、投資資本のある部分が無駄になるおそれがあるという事実がそれだ。 本計画の不利な点は、また、発電面から見ても送電面からみても在来方式発電所の場合よりも高くつくという原子力発電への投資と同時に、本計画期間中他方で石炭および石油の必要な供給を確保するため、その方面へも多額の投資を要するのではないかと見られることであろう。1965年までに原子力発電600万Wを実現するために要する費用は、同容量を石炭燃焼ないし石油燃焼方式による在来型発電所でまかなった場合に比し7憶5,000万ポンドも上回るといわれる。 この投資増は、1955〜1965年の10年間に対しすでに実行中の他の投資計画すなわち、在来発電所に対しなお20億ポンド程度、石炭開発に10億ポンド、ガスに5億ポンド、鉄道に12億ポンド、さらに増加しつつある道路開発改良への投資等とあわせ検討されねばならない。もしこれらの投資計画にともない民間産業の設備および在庫への投資増と支払バランスのかなりの余剰とが生ずるものとすれば、インフレ防止のための問題は、すくなくとも過去10年間におけると同様切実な問題として今後に残されるであろう。

(デイリー・テレグラフ)
 ミルズ卿の改訂原子力発電計画の発表は、かねて予想されたとおりのものであった。
 今回の新計画は、真に驚異に値する技術的進歩によって可能となされたものである。しかしながらその真の意義は、いまや原子力工学が次第に通常の工業計画の一部にまで成長しつつあるという事実であろう。 原子力をめぐる多くの問題について今日なお不分明な点が存在するにもかかわらず、原子力発電所で生産される電力、その建設に必要な材料の面については、経済の一般的形態に適応させる必要があり、かつまた日常の連続作業という観点から判断されねばならない。
 1965年における電力需要は、石炭換算6,500万トンにのぼるものと推定されており、このうち原子力が1,800万トン相当分をまかなうものと計画しているが、これは全体のわずか4分の1にすぎない。 かりに1965年から1975年にいたる次の原子力発電計画において、さらに3倍までその規模を引き上げたとしても、それは上記の10年間における推定電力需要増とどうにか見合う程度にすぎないだろう。したがって今後20年間における残余の部分−それ自体新規需要増よりはるかに大きな部分を占めるものであるが−については、引き続き石炭および石油をもって賄わねばならぬことになる。このように新原子力計画をエネルギー計画全体からみて正しい位置において考える必要のあることは別としても、この計算から今回の計画が石炭増産計画にとって代るという点ではまだはるかに隔りのあることが知られるであろう。それどころか、原子力計画を拡大させれば、させるほど、石炭および石油への依存が大きくなるといっても決してパラドックスではない。なぜなら原子力計画にとって鉄鋼は最も重要な原料の一つだからである。
 以上のごとく冷静な判断をもってすれば、今回の計画は、英国の動力供給面に歓迎すべき増加をもたらすものではあっても、決して革命的な追加をもたらすものではないといえよう。 しかしながら同様の観点からして、いま一つ他の問題を見逃してはならない。それは原子力計画への資本支出は他の多くの産業、とくに鉄鋼業への刺激をもたこらすから、社会主義者の好んで論ずる「経済不況」の幻も偽りとなって消え失せるだろうという点である。

英ミッチェル・エンジニアリング社の西独第1号発電炉受注について

 かねて米国A.M.F.Atomic Inc.と提携し沸騰水型動力炉の開発に乗り出していた当地Mitchell Engineering Ltd.は3月19日西独第1号原子力発電所の建設を受注せる旨公表した。
 要旨下記のとおり御参考までに報告する。


1.発 注 元
 今回の受注は西独最大の電力会社Rheinisch−Westfalisches Elektrizitatswerk A.G.(通称RWE)に対するものであり、これまで「同社は1万ないし1.5万kW原子力発電所建設に関し内外8社(独米提携1、英米提携1、米単独6)からテンダーを提出されていたが、昨年来RWEにて検討の結果、ミッチェル=AMFグループに発注決定したものである。

2.発電所容量および建設費

熱  出  力 58MW
電 気 出 力15MW(熱効率約25%)
総 建 設 費 約400万ポンド
原子炉関係建設費 約190万ポンド(530万ドル)
内ミッチェル受注分 約110万ポンド(300万ドル)

3.建設地および完成年次

建設地は最終的には決定していないがケルン・デュッセルドルフ間ライン沿いが有力視され、地下建設も考慮されている模様である。
運転開始予定 1959年末

4.建 設 分 担

ミッチェル=炉耐圧容器、熱交換器(1次および2次)その他原子炉附属装置(制御関係を除く)
A M F=炉コアー、制御装置、計装関係
シーメンス(Siemens−Schuckertswerke,Erlangen)=発電機、タービン、変送電関係

 なお整地、建物等土木工事は現地西独会社に下請させる計画という。

5.原子炉要目

型式 クローズド・サイクル沸騰水型

燃料   濃縮ウラン3.6トン(うち大部分は低濃縮、一部高濃縮といわれる)

      トリウム2.4トン

      計 6トン、価格約150万ドル

      バーンナップ不明なるも、イニシャル・チャ−ジにより2年間運転可能といわれる。

1次回路 圧力900ポンド/平方インチ(約63kg/cm2

       温度華氏530度(摂氏約277度)の飽和蒸気使用

2次回路 圧力600ポンド/平方インチ(約42kg/cm2)温度華氏498度(摂氏約260度)

6.発電コスト見積り

  1kWh当り 2ペンス〔約8円)といわれる。

7.その他参考事項

(1)本計画はユーラトムの承認を受けている趣きである(タイムス紙報道による)。

(2)今回の受注経過よりみて、米会社単独の場合よりも、英米会社提携せる方が、建設費見積りを低くできることが明らかとされ今後この種提携が原子力分野で広まるのではないかとの予想が行われている(マンチェスター・ガーディアン紙による)。