昭和32年度原子力関係予算について

 昭和32年度の原子力関係予算は、年度中に支出可能な現金額60億、これに債務負担行為額30億を加えて総額90億となった。これを31年度に比べると、現金において40億、債務負担行為額において14億円の増となる。前年度に比し、54億円の増、約2.5倍となったことは、前々年度3億6千万円であったこともあわせ考え、一見驚くべき増加率を示したといえよう。しかし、32年度は、原子力の研究、開発が輸入第1号炉の運転開始、同じく輸入第2号原子炉の据付、国産原子炉築造の具体化、動力炉建設への準備研究等基礎的研究の段階より本格的開発段階に移行する年であることより見れば必要最小限の額であり、諸外国の原子力予算に比べるといまだ立ち遅れた地位にあるといわざるを得ない。
 32年度原子力予算の内訳は別表の示すとおりであるが、前年度より特に増加の著しい項目としては、日本原子力研究所の35億4千万、原子燃料公社の9億3千万、国立試験研究機関の4億5千万、助成費3億1千万、核燃料物質等借料及び購入に必要な経費6千万等であり、新たに設けられた項目としては、放射能調査関係3千3百万および放射線総合医学研究所の設置5億9千万がある。
 以下そのおもなものについて述べると次のとおりである。

1.日本原子力研究所は32年度は茨城県東海村の研究所も逐次整備され、研究者の大部分を東海村に移し本格的な研究を開始する。31年度より建設に着手した2基の研究用原子炉のうちウォーター・ボイラー型原子炉は、4月に据付けを完了し、6月末から本運転に入り、これによる実験および訓練を開始する。CP−5型炉は、年度初めから建屋の建設を始め年度内に据付けを完了する。さらに34年度を完成目標とする国産1号炉建設の準備を行い、その完成に必要な物理、化学、冶金等の基礎研究を推進するとともに、指数実験、制御系試験等にもとづく設計を進め、32年度内に本体の一部と制御系の発注を行う。また、燃料再処理、燃料加工、廃棄物処理等の研究を進め、放射線利用研究施設の整備をはかる。これら研究活動の開始にともない、廃棄物の処理および放射線防護に必要な諸施設を完備し、その管理に万全を期する。
 このほか、動力炉導入の準備ならびに増殖炉の基礎研究を進めるとともに、船用原子炉、ウランの濃縮、核融合等将来における重要問題について基礎的調査を進める。また外国技術を早急に習得するためひきつづき海外に留学生を派遣するとともに、研究所諸施設の整備をまって国内各方面の研究者の養成ならびに研究の便宜をはかる。
 研究所の建屋および付帯設備については、昨年度の継続工事を完成するとともに、研究第3棟、放射線照射室、原子炉開発試験室事務本館等の建設に着手し、また取水、給排水、送配変電、ガス、暖房等付帯設備の整備に努め、また職員ならびに外部からの研究員の生活環境を整えるため独身寮および個人住宅を増設する。
 以上の事業を遂行するため総額56億1千7百万(債務負担15億3千9百万)が計上され、定員250名を増加して年度末450名に増強される。

2.原子燃料公社は、32年度は、前年度に引き続き、鳥取県、岡山県下の小鴨地区、人形峠、倉敷地区において坑道、ボーリング、トレンチ等による探鉱を行い、特に人形峠地区に重点をおいて実施する。このほか31年度に地質調査所が発見した岡山県、山口県、岩手県等の有望鉱床地区について鉱床精査を主とする探鉱を実施する。製錬については中間試験工場の建設を予定し、精製、還元施設の年度内試験操業を行い、破砕抽出施設は年度内着工、33年度初め操業を予定している。原料面については、国内鉱石開発の現状から見て量産は困難であるので一部は国産鉱石を買い上げるが、精製還元施設に用いる精鉱の輸入を予定している。これらのため、定員120名を増加し32年度末220名とし、総額10億7,800万(債務負担4億2,700万)を計上している。

3.科学技術庁、工業技術院その他各省所属の国立機関においては、昭和29年度から、材料その他原子炉構造材料、ウラン精錬、放射線標準の確立、アイソトープを使用する各種試験等を行っているが、32年度も、原子炉の制御系および熱伝達、放射線遮蔽材料、廃棄物処理、熔融塩電解法によるベリリウム等稀有金属の製造、原子炉用不銹鋼等45の研究題目について研究を実施する。

4.助成費は、国産炉建設のための民間技術育成を目的として昭和29年度より始められたもので、研究範囲も順次拡大され、成果も挙りつつあるが、32年度も前年に引き続き燃料、炉材、附属装置等の研究を行うこととし、補助金3億5,700万(債務負担1億2,100万)、委託金2億8,100万(債務負担2億)、これに探鉱奨励金として3,000万円が加えられ、合計6億6,800万円(債務負担3億2,100万)が計上されている。

5.新たに設立されることとなった放射線総合医学研究所は、これまで国立予防衛生研究所、衛生試験所、公衆衛生院、国立東京第一、第二病院等で行っていた放射線障害防止に関する医学的研究を中心として、これに化学的物理的等総合的な研究を集め行うもので、3ヵ年計画で一応完成することとし、初年度定点40名、予算5億9,100万(債務負担4億4,700万)である。

6.原子力委員会については、常勤委員1名の増、原子力局については10名の定員増加をすることとしていよいよ繁忙となる原子力行政に備えることとなった。また留学生派遣費についても、前年度より多くの留学生の派遣が可能となった。ウラン等借料および購入費は32年度当初より運転を開始するW.B型原子炉および次いで設置されるCP−5型原子炉等に要する濃縮ウランを現在の協定による「貸与」より「購入」の形に切りかえることとし、目下日米原子力協定の改訂について折衝中であるため、これにより必要な増額分の経費が計上されたものである。
 放射能調査費は、原爆実験をはじめアイソトープの広範な使用により今後放射線検出量の増加が予想されるため、この影響の少ない現在の状況を調査し、引き続き将来の放射線増加量を記録していこうとするもので、農業技術研究所、農業試験場、水産研究所、気象庁等で行うほか、地方衛生研究所その他に調査を委託する。

7.以上のほか外務省における国際会議費、国際原子力機関分担金等、国際協力関係費、その他関係各省における調査費、図書費等関係各省における行政費6,000万があるが、これは関係各省に直接計上されるものである。
 以上、32年度原子力関係予算は、これまで3ヵ年にわたり推進し来った原子力の研究開発をいよいよ本格的段階に進めるために必要な経費が計上されたのであるが、昨年秋原子力委員会で定められた長期基本計画はこの予算によってその実行が裏付けられ、今後わが国の原子力開発は長期の見通しのもとに整々と進められろことになった。


昭和32年度原子力予算総表          原子力局

日本原子力研究所に必要な経費

原子燃料公社に必要な経費

外国留学生派遣に必要な経費

核燃料物質等借料及び購入に必要な経費

放射線量測定調査の委託に必要な経費

試験研究の助成並に委託に必要な経費

国立機関試験研究に必要な経費

放射線総合医学研究所に必要な経費

原子力委員会に必要な経費

原子力局に必要な経費

各省庁行政費