若き人々に期待する


原子力委員会委員長  宇田 耕一

 原子力委員会も今年で第2年目を迎えた。第1年たる昭和31年は、わが国の原子力開発利用にとって画期的な第一歩をふみだした年であり、多くの重要な政策が決定され実施された。幸にして各方面の協力一致の結果、関係法令の公布を初め開発利用基本計画も一応の内定を見、日本原子力研究所もいよいよわが国最初の「第三の火」を東海村に点じようとしているし、ウラン鉱資源もわが国にきわめて優秀なものが存在することが確認されたし、第1年目として希望は更に大きいものはあるが、まずまず順調なすべり出しであったといえる。

 しかしながらわが国エネルギー需給の状況を見るに、国力の進展を反映して電力需要は急角度をえがいて上昇しており、一方これに対する供給を見るに、水力は開発すればするほど高価になるという現実からも見られるとおり経済的開発の限度も遠からずというところであり、また石炭、重油の輸入も国家全体の経済という観点から見るとき、これまた大きなかべにつきあたらざるをえない。

 かかるときこの「第三の火」はわが国のエネルギー需給にとって頼もしき援軍といえよう。不幸な原子力の洗礼にはじまったわが国としては原子力の開発利用に全国民が重大な関心を持ち、その方針決定にあたって慎重の上にも慎重な態度をとったことは当然のことであるが、各方面の念願が、わが国原子力の憲法ともいうべき原子力基本法にまとめられ、平和、自主、公開の三原則に従って本格的な体制のもとに開発にのりだしたのは昨年からであり、この先進諸国に対して10年の遅れというハンディキャップをのりこえ、原子力を平和的にのみ利用することを悲願としてこれを自家薬篭中のものとするためには、国家経済、国民経済全体から見た総合的計画を樹立し、しかる後彼等に数倍する努力をもってこれが遂行にあたらなければならない。エネルギー資源に恵まれた諸国においてすら異常なほどの情熱をささげてこれが研究開発にあたっているのを見るにつけ、われわれは全力をあげてこれにあたらなければならないものと確信する。力をつくしたもののみが最後の喜びをとる権利を有するのである。

 特に私は若き研究者、技術者が進んでこの新しい計画に身を挺してあたることを切望する。この若き人々の熱意と努力があってはじめてわが国の原子力の開発利用は美しく花を開き、実を結ぶであろう。若き研究者、技術者の育成こそ原子力委員会の大きな使命の一つといえよう。