原子力委員会参与会

第 10 回

日 時 昭和31年11月30日(金)午後2時〜4時

場 所 人事院ビル236号室(原子力委員会会議室)

出席者

 伏見、児玉、三島、茅、山県、大屋、倉田(代理大西)、松根、久留島、瀬藤、稲生 各参与

 正力委員長、藤岡、湯川、有沢 各委員

 井上専門委員

 篠原科学技術庁次長 佐々木局長、井上調査官、島村、荒木、藤波、堀 各課長 ほか担当官

 日本原子力研究所 駒形副理事長、木村理事、岡野監事、弘田研究員

 原子燃料公社 高橋理事長、原副理事長

 一本松関西電力常務

議  題

1.訪英原子力発電調査団、原子力産業使節団について
2.放射線障害防止法案について
3.その他

配布資料

1.放射線障害防止法案(第1次)
2.原子力委員会第9回参与会記録

議事概要

 定刻佐々木局長開会の挨拶を行い、議題を紹介。まず、両調査団の海外視察報告に入る。

 大屋参与:わたくし達の原子力産業使節団は9月17日に出発して11月23日に羽田に帰着した次第である。一行は専門家揃いというわけでもなく、いわば最大公約数を出そうという漠然たる目的であった。一首にしていえば広く常識を得てきたと申せようか。印象を順次申し述べれば、米英は当然だとしても、カナダ、スウェーデンなどが存外立派なものを持っている。たとえば、ストックホルムに実験炉を設置しようとしている。英国はハウエル1ヵ所に集中していて、現在の八つの炉のほかに新しいのをふやしている。化学方面ではプルトニウムの関係が進んでいる。米国のブルックヘヴンも、軍事目的からの延長で、軍事費も出てはいるが大分桁違いであって、日本も予算を300億に増やしたいと話してその場を繕わねばならぬ状態であった。スウェーデンは水力豊富な国と想像していたら、冬凍るし都会地への送電の困難性もあって、原子力発電の施設を具体的に始めている。スイスは水力涸渇しており、天然ガス、地熱の利用のほか、なおかつ原子力を進めようとしている。

 カナダのブリティッシュ・コロンビアの水力も需要地に遠いので、ケベック地方などは原子力も案外近い将来と見通されている。一般に中近東情勢の悪化にともない油に非常な不安を持っていて、電力は先高である。ウラニウムは久留島参与もみてこられたようにカナダが豊富のようである。開発機構としては、米国はAECが尨大な予算を持ってやっている。シッピングポートはAECが大部分金を出したものであるが、最近では10万キロ以上のものを民間が9割出資し、1割の研究費をAECが出すという態勢になっている。カナダにはアトミック・エナジー・オブ・カナダという公社があって、ハウ氏が主管大臣である。スウェーデンは、アトミック・エナジー・カンパニイという官民合同の会社でやっている。西独は日本と非常によく似ている。イタリアは官民合同であって、復興金融公庫と産業設備営団とあわせたようなものがある。

 それからアメリカでは、各種各様の炉を民間でAECと相談しながら研究している。シカゴの展示会の模型だけでもたいへんなものである。ただ、経済問題にまではまだ立入っていない。秘密条項は五つの炉については解除された。アメリカでは経済上引き合うかどうかは問題にしていないのであって、シカゴでもデトロイトでも競争価格でできることは疑わないでやっている。最小限度いくらと質問しても的がはずれる。自信を持っているわけである。イギリスでは、コールダーホールの発電所とウインズケールの化学処理工場とを1日がかりで見学した。原子力公社と電気庁の幹部総出でディスカッションに立ち合ってもらったのであるが、詳細は訪英調査団の方に譲りたい。

久留島参与:原料関係について申し上げれば、わが国内の探鉱は、できるだけ急がねばならないが、4、5年はかかるので、その間、どこからか輸入せねばならないわけである。カナダの北の方のエドモントからさらに北にウラニウム・シティというのができていて水路の便があるが、今のところ、飛行機輸送で行っている。片麻岩地帯である。エルドラード探鉱製錬会社が最大であって、平均6%まで製錬したものを政府が買い上げて、米国へも送っている。1日700トン採掘しているが2,000トン可能にまで拡張を始めている。

 その他、オンタリオ湖岸から10マイルくらいの便利なところに、品位1%、埋蔵量数千万トンのものが発見された。時間の都合上、見なかったが1日3,000トンの生産能力の工場ができるということであった。鉱石については、2、3年後には非常に有望になり、安心してよいと思う。もちろん、ウラン鉱輸入は国際外交の問題でもあるが、生産は3、4倍になるものと思われる。米国では、コロラド高原をまわったのであるが、水成岩の中の鉱層で、予想外に大きい。ユタ、コロラド、アリゾナ等の台地が開拓されている。米国のウランの生産量や消費量は詳細不明であるが相当多い。坑内に大きな機械を入れて1日400トン採掘している。10万キロワットの電力が150年間送電できるそうである。ここ数年の間に輸送機関もジープから大型トラックへと進展している。

(鉱石のサンプルを提示・回覧)

一本松氏:わたくしは、ロンドンで石川団長と別れて一足先に帰国したのあるが、正式の報告は後のこととして、暫定報告として作成したものの要点をお話しいたしたい。訪英調査団としては天然ウラン・重水型原子炉についての調査が使命であって、団員10名、前後22日間滞英、イギリスのほとんど全施設を見せてもらい、最終討論会も行った。英国原子力公社が同国原子力行政の9部まで行っていて、電気庁が電力につき責任をもつ制度であって、メーカーは四つのグループに分れている。各界の首脳者ほとんど全部に合ったわけであるが、ことに10月30、31両日は原子力公社幹部と熱心にディスカスし、コールダーホール、ウインズケールを訪れた。11月1日はスプリングフィールドで燃料加工状況見学、2日はリスレイの産業グループ訪問、5日再び原子力公社打合会、6、7日はハウエル研究所を詳細に見学し、さらに原子力公社の幹部と打ち合わせた。四つのメーカーのグループ全部にわたって設計図を見せてもらった。11月16日最終討論会を開き、同日午後新聞発表を行い、17日に暫定報告書を作成した次第である。

 英国は、1946年から米国と離れて独自の原子力研究を進めてきている。プルトニウム生産から出発したハウエル研究所が原動力になっている。5,000人の従業員を有し、原子炉も八つ建設され、世界有数である。研究は大学をも含み、統一的に行っている。原子力公社としては、ハウエルで研究したものをいかに実際に移していくかを考えている。化学処理も、ウインズケール、スプリングフィールド、ドーンレイという系列で行い、施設の具体化の研究も行っている。八つの炉の設計者が100人以上製図を行っていて、コールダーホールに6基。ウインズケールに2基設置し、エネルギー不足の国情に合致させようと努力しているが、この型の炉は7年間の研究の成果である。

 当初、ヒート・イクスチェインジャーを入れる体系からコールダーホール型になってきたのであるが、電力はむしろ従であることが理解された。近く都合10基となる予定で、この体系を完成したら、エネルギーを主体にしたものを作る由である。電気庁の電力専用のものが近くできるはすであって、4グループに発注している。10月1日に6トンにおよぶ見積書が提出されたそうである。主任技術者が会食の際の冗談に、大体一段落したから今なら2、3ヵ月間日本へも行けるといっていた。体系を完全に積み上げるのはなかなか難しいと感じ取った。原子燃料は、火力発電の場合の石炭のように重要なのであるが、原子力公社ではできるかぎり供給を約束するといっており、ファブリケーションも教えると常識的回答があった。さらに念を押してきいたところ、英国が滅びないかぎり大丈夫だということであった。ただ、前述のとおり、コールダーホール型はプルトニウムが目的であって、木炭を焼くのと同様な燃料の使い方であり、経済ベースの問題もこの観点から理解できると思う。

 発電所計画の技術的内容もいろいろ調査したが、コールダーホールでは予定出力の7割くらい出ており、ヒントン卿からの手紙にもあるとおり、インスペクションのために一時運転休止しただけで、だいたい順調である。わが国の地震の問題については満足な回答が得られなかったが、常識上はなんらかの対策があろうと思う。グラファイトは15年から20年使えるということで、天然ウラン・ガス冷却方式は、本質的には安全で爆発など考えられない由である。経済性の問題で最も力をそそいだのは、コールダーホール型が対象でなくて、次の電力専用のものである。14万キロ2台、都合28万キロを推薦するといっていた。メーカーの問題であるので、四つのグループと話し合った。大型は小国には向かないといったところ、小さいものは天然ウランは本質的に都合がわるく、最小1台10万キロていどで2台で20万キロくらいが最も好都合であり、14万キロ2台、28万キロ、あるいは15万キロ2台、30万キロくらいが適当でそれによって値段がでてくるわけである。28万キロで計算すると、新鋭火力と比較して若干高くなる。しかし、将来のことを考えると経済ベースに近いという結論になる。負荷率を80%にすると一層差がちぢまってくる。

 建設費は1キロワット12万円とみているが、将来1割くらい下ると思われる。ロイヤリティは10%で高いが、日本のサンプル・リアクターが使えるし、天然ウランもやすくなろうし、長期契約の方法もある。製作法も今後改良の余地あり、燃焼率もよくなる。使用済み燃料の利用は日本で処理できるものはそうしたいと思う。負荷率の改善や、グラファイトの寿命など問題も多いが、火力発電の方は石炭塩蔵量の問題もあって、5年先を考えると、原子力発電はほぼ採算がとれるところにきたものといえよう。容量をどのくらいにすべきかという問題は依然残るけれども、大体以上のとおりに考える。

久留島参与:ユーゴスラビアをぜひ見てくれというので行ってみたら、ソ連の原子炉を入れる準備をしていた。日本の燃料公社も製錬を行うことを本気に考えてよいと思うので、私見ながら補足する。

大屋参与:新聞あたりで、両団長の意見がくい違っているようにいわれるけれども、技術的にみれば違っていない。たとえば2インチのパイプでは5、6万キロが限度であっても3インチになると10万キロ出るようになり、資金の有無にもよるが、はるかに能率のよいものができるわけであって、根本的な意見の相違はない。

湧川委員:日本の技術では、2インチと3インチの相違はなかなか困難な問題である。

倉田参与代理大西氏:ゼネラル・エレクトリックになぜウェスティングハウスのように活発に動かないかときいたところ、今は動力実験炉の段階であって、外国にまで売り付ける良心は持っていないから来年12月まで待ってもらいたいということであった。同社はサンノゼに250人の研究者を集めて熱心に研究を行っているが、たとえば、20万馬力のタービンの注文を17万5千馬力にとどめて大事をとっている現状である。バブコック社は、米、英別々にやっていたが、最近代表者が会って話し合っている。日本式に型をきめられては困るのであって、アメリカで成功した型をそのまま持って行きたい。ナトリウム冷却ができるまで待つべきではないかと第三者として話していた。ロンドン・パブコックでは、さきほどの詰もあったとおり、トラック3台の見積書を原子力公社へその日出したところだといっていた。2インチ以上の鉄板を使うことは保証できない。日本での現場溶接になるし、職人全部を連れて行くわけにいかない。

 また、大型のものは一層難しいが、アメリカ側と提携してナトリウム冷却に移って行きたい由であった。

藤岡委員:アメリカの火力・原子力併用の発電炉の話はきかれなかっただろうか。

大西氏:重油併用のものは、全部のカロリーが電気にかわるように能率よくできる。ただ自動化が面倒であり、またプレッシャーがあれ以上には上げられない。

瀬藤参与:英国では、ターン・キイ契約ということをいっていた。つまり四つのグループのものなら引き受けやすいので一括して引受けさせるわけで。この方式を日本にもすすめるといっていた。

正力委員長:先刻の新聞報道の話は、大屋参与からの通信に5、6万キロとあり、一本松重役は14万キロ2基といわれる。その辺のことが誤り伝えられたものらしい。つまり、実験炉と本格炉の違いである。ヒントン卿来日以来、米国に刺激を与え、CP−5の会社が自分の方のも経済ベースに合うといってきた。すなわち10月にウェスティングハウスのノックス社長が来日した際、ティーパーティの席上、経済ベースに合うというので、翌日稲生参与、嵯峨根理事、法貴局次長も立会って官邸でさらに懇談したところ、一旦帰米のうえで返事するということであったが、数日前その回答が着いて、ヒントン卿のものより高くないといってきている。大会社は損をしてでもやることがあるもので、自分も20年前、カナダから紙をやすく買ったことがある。日本の新聞社がいろいろ遠慮している間に自分はあえて買って4年間得をした。それと同様に、ウェスティングハウスもやすい炉を作ると思う。日本の財界は、米国ほど原子力に気を入れないが、経済ベースに合うならば、わが国の会社も気を出すであろう。

大屋参与:ナトリウム冷却と炭酸ガス冷却の話であるが、停電の有無が眼目であってイギリスの方が安定がよいと思う。ナトリウムを液体でまわし得るかは未知である。待つということは当分安定供給が難しいということになるのであってガス、冷却も重視せねばならない。もう一つは規模の問題であるが、10万キロでは金がかかりすぎるから5万キロでもやってみたらどうであろうかというつもりであった。ウェスティングハウスが経済ベースに合うというのは当然な話だと思うが、ただ、その責任いかんによることである。なお同社はホモジニアスのものを熱心に研究している。

佐々木局長:第二の議題の放射線障害防止法案はお持ち帰り願って、次回に御意見を伺うようにいたしたい。

岡野研究所監事:重要なので、要点だけでもご説明願いたい。

(担当官要点説明)

次回の参与会を12月21日(金)に開催することを決定して午後4時閉会。