原子力局

昭和31年度原子力平和利用研究概要

 昭和31年度原子力平和利用研究補助金は、さきに決定されたとおり24社、39テーマについて323,257千円(うち国庫債務負担行為分126,600千円)であるが、その交付対象となった研究の概要は次のとおりである。

1.ウラン鉱の選鉱、製錬等に関する研究

(燐鉱石よりウラン抽出に関する研究)

1.交付先 日産化学工業(株)

2.補助額 10,230千円(うち2,390千円は負担行為分)

3.研究内容 昭和30年度の委託研究により実施した研究の結果に更に改良を加えて収率の向上、製品コストの低下を図らんとするもので、燐鉱石を燐酸または燐硝酸の混酸で分解し、高濃度の燐酸肥料を得るとともに石膏または硝酸を分離する。これを燐酸製造工程において繰り返してウランを燐酸液中に濃縮せしめ、これをイオン交換樹脂で分離抽出する。この過程における反応、ろ過、分離、収率等の各条件につき試験研究を行い最適のものを決定する。

(共沈法による燐鉱石中のウランの抽出に関する研究)

1.交付先 ラサ工業(株)

2.補助額 12,115千円(うち5,165千円は負担行為分)

3.研究内容 燐鉱石より燐酸を製造する際、これに硫酸チタンを加えてその際生成するコロイド状の燐酸チタン沈澱とウランを共沈せしめ、これよりウランを分離してU3O8を精製する過程における反応、ろ過、洗浄、収率等の条件について研究する。

(UO2−Al系分散型プレート原子炉燃料要素の粉末冶金法による製造に関する研究)

1.交付先 住友電気工業(株)

2.補助額 7,455千円(うち1,085千円は負担行為分)

3.研究内容 金属ウラン燃料の変形、変質等の欠陥を除去するためには粉末冶金法による分散型燃料によることが、最も確実である。このため、ウラン塩よりUO2の製法およびアルミニウム焼結体について研究を行い、UO2−Al混合焼結体の混合方法、プレス焼結方法についての製造条件、加工工程における処理条件について研究する。

(天然ウランの熔解及び造塊に関する研究)

1.交付先 住友金属工業(株)

2.補助額 8,471千円(うち7,271千円は負担行為分)

3.研究内容 ウラン地金を高周波誘導式熔解炉及びアーク式熔解炉で熔解し、所要のウランの鋳塊を得る研究を行う。

(原子燃料の被覆に関する研究)

1.交付先 (株)日立製作所

2.補助額 9,480千円(うち5,730千円は負担行為分)

3.研究内容 原子炉燃料要素用被覆材料の化学的、塑性学的諸性質を究明し、各種の使用状況に適応した被覆材選択の規準を明らかにし、これらの材料を使用する被覆法を研究し燃料要素の製造法の基礎を確立するため、ウラン及び被覆材と被覆形式の関係、被覆の欠陥の検査法等について研究する。

(金属トリウムの乾式製錬に関する研究)

1.交付先 (株)本荘亜鉛工業所

2.補助額 1,397千円(うち1,187千円は負担行為分)

3.研究内容 モナズ石より採取した酸化トリウムを精製し、金属カルシウムまたは金属マグネシウムを加えてアルゴン気流中で還元する方法と、酸化トリウムを弗化トリウムの形に変えて金属カルシウムまたは金属マグネシウムを加えて還元する方法とについて、100g及び500gの還元炉の規模によって製造方法並びに条件及び原単位等について研究する。

2.重水の製造に関する研究

(交換反応法等による重水の低濃度濃縮に関する研究)

1.交付先 昭和電工(株)

2.補助額 60,660千円(うち31,000千円は負担行為分)

3.研究内容 水の電解を利用した交換反応による重水製造の工業化方式の確立のため、多段式交換反応塔を電解槽に組み合せ、交換反応塔の交換反応平衡到達段数の決定、電解槽の交換反応系列の確定及び白金系以外の交換反応用触媒の工業的利用の基礎及び応用研究を実施し、あわせて重水の中間濃縮法としての水の蒸溜法の基礎研究を行う。

(回収電解法による重水の高濃度濃縮の研究)

1.交付先 旭化成工業(株)

2.補助額 17,053千円(うち7,073千円は負担行為分)

3.研究内容 回収電解法による重水の高濃度濃縮に際しての電解分離係数の最大となる電解条件の研究と、発生する爆鳴気の安全な連続的燃焼法について、触媒法と直接燃焼法の両者の工業的優劣の比較研究を行う。

3.原子炉用黒鉛の製造に関する研究

(原子炉用黒鉛の製造に関する研究)

1.交付先 昭和電工(株)

2.補助額 40,507千円(うち14,947千円は負担行為分)

3.研究内容 高純度の石油コークスを用い、高純度、高密度、異方性の少ない黒鉛の工業的製造条件の確立のための工業化試験を行うとともに、低品位の原料を用いて、化学処理を行うことにより、高純度のものを得る研究を行う。

(原子炉用黒鉛特に減速材用黒鉛の製造に関する研究)

1.交付先 東海電極製造(株)

2.補助額 10,078千円(うち328千円は負担行為分)

3.研究内容 高密度、異方性のない、減速材用黒鉛の製造方法として熱圧型込法を採用し、原料は石油コークスにカーボンブラックを混合する方法を主体に研究を行い、あわせて、高純度にするための化学処理の研究を行う。

4.放射線遮蔽材料の製造に関する研究

(遮蔽用特殊セメントならびに遮蔽用特殊コンクリートに関する研究)

1.交付先 日本セメント(株)

2.補助額 7,160千円

3.研究内容 ポルトランドセメント、混合セメント、MO系セメントと各種骨材及びこれらの配合でコンクリートを試作し、遮蔽体に必要な長期及び高温における安全性コンクリートの含水量、骨材、混和剤、配合、工法の相互の関連と遮蔽効果及び経済面との関連について研究を行う。

(放射線遮蔽用コンクリートの現場施工に関する研究)

1.交付先 鹿島建設(株)

2.補助額 4,647千円(うち207千円は負担行為分)

3.研究内容 放射線遮蔽用重コンクリートの施工機器の試作及び現場における正確、迅速、経済的な施工方法につき研究を行う。

(放射線遮蔽を目的とする塗料に関する研究)

1.交付先 日本ペイント(株)

2.補助額 2,117千円

3.研究内容 放射性物質を取り扱う建造物、機械器具等に用いる放射性物質に汚染され難いもの、汚染された場合洗浄あるいは塗換えまたは取換えの容易なもの、または放射性物質の浸透し難い塗料の製造及び塗装方法の研究を行う。

(放射線により着色しないガラス及び強放射線用線量計に関する研究)

1.交付先 東京芝浦電気(株)

2.補助額 3,770千円(うち1,020千円は負担行為分)

3.研究内容 コバルト活性ガラス及び銀活性ガラスならびに硫化カドミウムの単結晶により、大量なγ線照射に対して実用し得る性能を有する線量計及び線量率計の試作ならびに放射線により着色しない遮蔽用ガラスの研究を行う。

5.原子炉及びその附属装置に必要な金属材料に関する研究

(原子炉用ステンレス鋼鋼材の製造に関する研究)

1.交付先 住友金属工業(株)

2.補助額 6,570千円(うち2,090千円は負担行為分)

3.研究内容 原子炉用ステンレス鋼鋼材製造の基礎を確立することを目的とし、オーステナイト系ステンレス鋼の代表的鋼種について現場的規模で熔解、造塊より製管、製板にいたるまでの試作研究を行い製造技術上の問題を検討し、問題となる温度範囲(常温〜400℃)におけるステンレス鋼材の機械的性質を試験してその強度的性格につき研究する。さらに純水及び各種不純物を含有水溶液による高温高圧における化学的組織の変化を実験し、ステンレス鋼の成分、不純物、加工度及び水質、温度等の影響について研究する。

(原子炉用ステンレス鋼の熔接等に関する研究)

1.交付先 日本金属工業(株)

2.補助額 6,178千円(うち2,938千円は負担行為分)

3.研究内容 熔接を中心として加工に関する基本的問題を、金属組織、腐蝕性、耐熱性、機械的性質のそれぞれの関連上から、原子炉に使用される数種のステンレス鋼について研究する。またその母材、熔接部、冷間加工部について高温高圧水、熔融金属等に対する腐蝕ならびに機械的性質につき研究する。

6.原子炉の自動制御装置に関する研究

(原子炉制御及び計測装置の試作研究)

1.交付先 (株)日立製作所

2.補助額 12,066千円(うち5,576千円は負担行為分)

3.研究内容 可搬型原子炉シミュレータ及び制御棒駆動機構、出力制御、安全回路を含む制御パネルを試作するとともに制御棒、同駆動装置、衝撃試験装置等を試作し、一連の原子炉の計測制御装置としての研究を行う。

(原子炉制御棒駆動装置に関する研究)

1.交付先 三菱電機(株)

2.補助額 3,250千円

3.研究内容 ワイヤーロープで吊り下げた型の制御棒の駆動装置で、制御棒の落下時の衝撃をコイルバネ及びエアークッションを用いて吸収する装置をもった小型のものを試作するとともに炉の制御機構における装置の機能につき研究する。

(直観式シミュレータに関する研究)

1.交付先 (株)東京計器製造所

2.補助額 2,440千円

3.研究内容 原子炉に相似性ある物理現象による直観式シミュレーターとして、光粒子の媒質中における擬似特性を利用して原子炉内の現象を相似できるシミュレーターの基礎研究を行う。

7.遠隔操作装置に関する研究

(電気的遠隔操作装置に関する研究)

1.交付先 東京芝浦電気(株)

2.補助額 2,991千円(うち2,891千円は負担行為分)

3.研究内容 遠隔操作の動力として電動機を利用した片手式の電気的遠隔操作装置模型を作りその動作特性について研究し、さらに試作を行う。

(ペリスコープの試作研究)

1.交付先 (株)島津製作所

2.補助額 2,334千円(うち1,634千円は負担行為分)

3.研究内容 ホットラボ内において使用する顕微鏡観測用及び一般観測用の2種類のペリスコープを試作しその性能を研究するとともに放射線障害に耐えうるような材料についても研究する。

8.放射線測定器の試作研究

(中性子用フィルムバッジの試作研究)

1.交付先 富士写真フィルム(株)

2.補助額 7,856千円(うち2,786千円は負担行為分)

3.研究内容 高速中性子用原子核乳剤及び低速中性子用フィルムの試作、原子核乳剤の中性子感度増感法、原子核乾板の現像法の研究、さらにバッジケースの試作ならびに総合特性の研究を行う。

(凾型光電子増倍管の試作研究)

1.交付先 東京芝浦電気(株)

2.補助額 2,570千円

3.研究内容 Du Mont6292型に相当するものの試作を行い、二次電子面にAg−Mg合金の使用研究、電極構造の設計、電極部品の試作、Cs137による微分型γ線スペクトルの半値幅を12%〜10%以内に向上せしめるとともにS/N比の改良研究を行う。

(低雑音光電子増倍管の試作研究)

1.交付先 浜松テレビ(株)

2.補助額 3,820千円

3.研究内容 光電面Sb−Cs、二次電子面Ag−Mg、合金にしても5段のものを試作し、次いで12段のもののカソード、ダイノード間に静電レンズと隔壁とを設けたものを5段型の結果を基にしてS/N比のきわめて良好なものを試作しその性能について研究する。

(低速中性子用シンチレーターの試作研究)

1.交付先 東京芝浦電気(株)

2.補助額 1,570千円

3.研究内容 低速中性子用シンチレーターとして性能がよいと考えられる硼素と硫化亜鉛螢光体をモールドしたプラスチックシンチレーター、セリウム活性化珪酸リチウム、カルシウム螢光体等の大型透明な結晶を得る研究を行うとともにシンチレーターとしての性能を試験する。

(ガンマー線用シンチレーターの試作研究)

1.交付先 神戸工業(株)

2.補助額 4,310千円

3.研究内容 市販のNaIを化学的精製して有機不純物をとり、特殊の自動温度調整装置の附属した大型炉により10〜15cmφ×15cmくらいの大型単結晶の試作研究を行うとともに、結晶加工用のdry boxの試作、Sealing及びmountingの研究を行う。

(放射線計測用磁電管型計数管の試作に関する研究)

1.交付先 東京芝浦電気(株)

2.補助額 1,180千円

3.研究内容 永久磁石自蔵型の磁電管型計数管で106c/sに及ぶ高速計数を行えるものの試作研究をする。

(電離槽式放射線測定器の試作研究)

1.交付先 神戸工業(株)

2.補助額 5,680千円

3.研究内容 個々の電離糟式測定器について安定度、速応性の研究を昨年度に引き続き実施するとともに、PCP及びγ線補償型でオークリッジ型の試作研究、パワーメーター、ピリオッドメーターの出力を合成し、さらに温度その他の要素を含めた出力を自動機構に連続するためのシグマ増幅器及び励磁増幅器の試作研究ならびに原子炉用としての計装群としての研究を行う。

(ガスフロー式比例計数管の試作研究)

1.交付先 理学電機(株)

2.補助額 950千円

3.研究内容 低エネルギーの放射線測定に使用するアルゴン、メタン、炭酸ガス及びクリプトンを混合したガスを流す方式の計数管の試作研究を行う。

(携帯用電離箱式中性子測定器の試作研究)

1.交付先 (株)科学研究所

2.補助額 2,910千円

3.研究内容 グラファイトを使用した特殊な蒸着装置を試作し、これを用いて硼素の被覆を行う研究及びγ線の影響を除く方法についての研究を行い、携帯用電離箱式中性子測定器の試作を行う。

(制御用電離凾型積算線量計の研究)

1.交付先 (株)堀場製作所

2.補助額 2,040千円

3.研究内容 5mr/h〜5,000r/hていどの線量を安定に測定できる電離凾の試作研究、レート指示回路として高入力抵抗直流増幅器の安定なもの、0.05〜10c/secの積分計数回路の安定なもの及びサーボ機構による平衡型方式の線重比例制御機構の試作研究を行う。

(超多重波高分析器の試作研究)

1.交付先 東京芝浦電気(株)

2.補助額 5,822千円(うち3,962千円は負担 行為分)

3.研究内容 波高一時間変換型分析装置の設 計研究、磁心型memoryの実用化研究、ブラウン管直視型表示装置の設計研究を行い、100Channelの装置の試作研究を行い、将来1,000Channel以上のものを作る際の基礎データを得る。

(万能型放射線スペクトル分析器の研究)

1.交付先 (株)島津製作所

2.補助額 2,951千円(うち921千円は負担行為分)

3.研究内容 特にγ線に重点を置き、二結晶法及び三結晶法による分析器の試作研究を行う。すなわち分析器の検出部、分布常数増幅器、同時放電回路、遅延回路、比例増幅器、1channelスキャンニング式パルス高選択器、精確計数率計及び記録計、較正用パルス発振器等を試作し、またこれを組み立てて装置としての研究を行う。

9.放射線防護用具の試作研究

(放射線障害防止機具用ろ材に関する研究)

1.交付先 東洋ろ紙(株)

2.補助額 2,370千円

3.研究内容 放射線障害防止用機具及び粉塵採取用サンプラー等に用いるろ材として軽量、小抵抗、高能率、簡易に廃棄できるろ材の試作を行うとともに、各種条件によりろ材のろ過機構を究明する。

(放射性煙霧質の処理装置の試作研究)

1.交付先 (株)日立製作所

2.補助額 3,220千円

3.研究内容 湿式電気集塵装置及び機械的集塵装置を試作し、酸化ウランダスト、硝酸ウラニルミストを用いて集塵特性を測定し、高能率の集塵装置製作に必要な研究を行う。

10.動力用原子炉に関する研究

(管路内沸騰現象に関する研究)

1.交付先 東京芝浦電気(株)

2.補助額 7,600千円(うち5,600千円は負担行為分)

3.研究内容 種々の形の燃料要素と類似のものを作りこれに抵抗線を巻き込んで熱料要素の代りとし、これを圧力タンクに入れ、熱交換器、ポンプをパイプにて接続し、水を冷却材として使用し、熱負荷の限界、蒸気発生の状況及びそれに及ぼす諸因子を研究する。

(液体金属回路の試作による熱伝達等の基礎研究)

1.交付先 (株)日立製作所

2.補助額 26,397千円(うち16,497千円は負担行為分)

3.研究内容 200kWの電熱棒を備えた管路を試作し、Na及びNaKの両者について実験を行い、発火性の問題、漏洩防止、腐蝕、伝達性、工作上の問題について研究を行う。

(原子炉用高圧密閉電動ポンプの開発研究)

1.交付先 三菱電機(株)

2.補助額 4,950千円(うち1,950千円は負担行為分)

3.研究内容 加圧水用密閉電動ポンプについて、使用特殊材料、材料試験法、金属材料の加工、熔接技術、熱的遮蔽法、電動機冷却法、ポンプインペラの特性、軸受運転特性について研究を行い、電動ポンプの試作、動作特性の試験研究を行う。

11.原子力の研究及び利用に必要な機械器具等に関する研究

(電子線状加速器の試作研究)

1.交付先 東京芝浦電気(株)

2.補助額 6,092千円(うち2,352千円は負担行為分)

3.研究内容 まず1MeVの進行波型電子線状加速管と尖頭出力1Mega watt300Megacycleの大電力マグネトロン、電子入射用パルス電源、集束用電磁石、排気装置等を試作し、更に全系を完成して諸性質及び放射線出力との関係について研究し、それを基礎として4MeVのものの試作を行い、中性子、γ線、β線の測定の研究を行う。