各 省 関 係

 本号から、関係各省庁における原子力関係業務の状況を掲載することにした。

通商産業省の原子力関係業務の実施状況

 通商産業省では、原子力の開発および利用に関する省内事務の連絡調整を図るため、原子力関係連絡会議を設置することとし、7月9日省議で設置が決定した。その業務、運営等は次のとおりである。

1.大臣官房に原子力関係連絡会議(以下「会議」という)を置くこと。

2.会議は原子力の開発および利用に関する重要事項について省内事務の連絡および調整を図るものとすること。

3.会議は、官房長を議長とし、大臣官房総務課長、会計課長、企画室長および物資調整課長、工業技術院調整課長、重工業局重工業課長、軽工業局軽工業課長、繊維局繊政課長、鉱山局鉱政課長、石炭局炭政課長、鉱山保安局管理課長、公益事業局公益事業課長および特許庁総務部総務課長を委員として構成するが、議長は必要に応じ委員以外の者を会議に出席させることができること。

4.会議に幹事会を置き、幹事会は、関係各課の職員のうちから、議長の委嘱したものをもって構成すること。

5.会議の庶務は、大臣官房物資調整課においてつかさどること。

6.その他会議の組織および運営に関し必要な事項は、議長が定めること。

 以上の要領に基づいて、幹事には、関係各局の法令蕃査委員(主席事務官)と技術連絡審査委員(主席技官)が委嘱された。

 幹事会は定例に開催することとし、科学技術庁原子力局の運営する各省連絡会議(毎月第1、第3金曜日)の翌日を定例とし、必要ある場合は、臨時にひんばんに開催する態勢をとっている。

 最近まで原子力関係連絡会議の議題としてとり上げられた主なものは、(1)科学技術庁原子力局でとりまとめた「原子力開発利用長期基本計画策定上の問題点」に関する審議、(2)昭和32年度原子力関係予算の策定の2点であった。

 これらの審議を通じて、一応まとめられた考え方としては、おおむね次のとおりである。

(1)エネルギーの長期需給見通しの上から近い将来原子力発電所の稼働が必至と考えられるので、これに関する電気事業者側の研究態勢に即応しつつ原子力発電の商業化態勢をできるだけ早く整えるため、その促進策について早急に検討すること。

(2)アイソトープについては、これが持つ特性から、機械、金属、化学、繊維その他の産業など各方面に種々の用途が生れ、その経済的有利性から今後その利用がますます増大していく傾向があるので、この利用を一層促進するための指導について関係原局を通じて関係業界とも密接な連絡を保ちながらこれを積極的に推進すること。

(3)原子力に関連ある機器類、材料類の生産等については、従来の行政の一環としてこれを育成すること。

(4)原子力の平和利用研究については、所属の試験研究機関において一層充実した研究を行わしめ、その成果を原子力の開発利用に資せしめるよう努めること、

などである。

 なお、東京工業試験所および特許庁の二つをえらび、その研究、調査状況を記せば、次のとおりである。

東京工業試験所

 当所は化学工業に関する試験研究を担当する国立機関として、既に両三年前から、(1)原子力利用発展のため化学工業が当然協力しなければならぬもの、(2)化学工業発展のために利用しうるもの等に対して研究を準備しかつ実施してきたのでその経過と今後の計画とを述べたい。

 29年度には重水製造用触媒、ウランの抽出等の研究を行い、30年度にはCo60500mcを輸入して化学反応における予備実験とラジオグラフィーとを可能にし、なおトレーサー、フィッションプロダクトの処理を行うため実験室の改装を行った。また所内の放射線関係の研究体制を整えるため、すなわち研究の企画、立案、調整ならびに推進のための機関として放射線化学委員会を組織、31年春から発足せしめた。

 31年度には乾式法によるウラン精錬法の研究をその規模を一段と大きくして実施、かつ遮蔽材の研究に着手した。また放射線化学の研究を本格化するためCo60400cの照射実験室を建設準備中である。32年度には2kcの照射実験室を増設し一層強力な照射と数多くの研究を進めうるための予算を請求することにしている。更に情勢と要請によっては次々と設備陣容を整備して化学工業における放射線利用センターにまで発展する体制を用意している。

 原子力関係研究の一発表(かっこ内の数字は実施または実施予定年度)

(1)原子力利用発展のための問題(原材料関係)

 燃料制御材等:
  重水製造用交換反応触媒の研究(29,30)
  乾式法によるウラン精錬法の研究(29〜)
    リン鉱石より塩素によるウランの抽出
  トリウム精錬法の研究(32〜)

 遮蔽材:
  放射線遮蔽材料の研究(31〜)
    アルミナセメントを用いる重骨材コンクリートの研究(31,32)
    合成樹脂、合成繊維等の有機質遮蔽材の研究(33)

 諸材料:
  放射線用写真乳剤の研究(32〜)
    γ線用写真乳剤の研究(32)
    粒子線用写真乳剤の研究(33)
    中性子用写真乳剤の研究(34)

(2)化学工業発展のための問題(放射線関係)

 特異検出能利用:(分析、反応解明)
  放射線の分析化学への応用(31〜)
    放射化分析法の研究(31〜)その他
    エネルギー利用:(反応促進、物質変性)

  放射線の有機化学への応用(31〜)
    塩素化(31〜)
    酸化(32〜)
    加圧重合および酸化(33〜)

  放射線の合成樹脂への応用(32〜)
    高分子物の製造(32〜)
    高分子物の変性(32〜)

  放射線の無機化学への応用(31〜)
    結晶生長に対する影響(31〜)
    金属の放射線による変壊(32〜)
    無機化合物の製造(33〜)

昭和30年度研究経過

放射性廃棄物処理の研究

 本研究ばフィッションプロダクトから有用なラジオアイソープの分離調製を目的とし、昭和30年度から新規事業として計画された。シンチレーションスペクトロメーター、フィッションプロダクトその他必要器材、材料の購入手続を行うとともに、これと平行して庁費により実験室の改装にとりかかり、31年春から実験に着手すべく諸般の準備を行った、しかし人事移動もあり、具体的実験着手までに至っていない。

乾式法によるウラン精錬法の研究

 本研究は昭和29年度中より開始されたもので、リン鉱石を600〜900℃に加熱して、少量かつ低濃度の塩素と一酸化炭素の混合ガスで処理することにより、その中に含まれる鉄、ウラン分のみを塩化物として揮発回収し、他の成分はそのまま残して従来の方法によるリン酸肥料その他の原料としようとするものである。

 30年度には、1回に100gのリン鉱石を使用して、塩素、一酸化炭素、窒素の流量、処理温度、処理時間等を変化させて、処理条件を検討した結果、殆んど100%に近いウラン回収率を得ている。また処理後のリン鉱石中のリン酸分は殆んど変化を受けていないことも確められた。

昭和31年度計画

放射線遮蔽材料に関する研究

 アルミナ・セメントは水和量が大きいので、中性子の遮蔽材として有効であるが、さらにγ線の遮蔽を兼ねるため、砂鉄、重晶石などの重量材を加えた試験体をつくり、これにエネルギーの異なるγ線と低速中性子線をあてて、遮蔽効果を測定する。また材料としての強度、耐久性などを測定する。

乾式法によるウラン精錬法の研究

 国産ウラン鉱を原料とし、リン鉱石の場合と同様な方法でウランを回収する研究を行う。

 またこれと平行して、揮発回収された塩化物から蒸溜によってウラン分を濃縮する研究、およびこれをさらに精製して純粋なウラン化合物を製造する研究を実験室的な規模で実施する。

放射線の分析化学への応用

 高純度物質中の不純物はその量が極めて少ないため従来の化学分析法においては処理し難いので、その困難を打開する一つの方法として放射化分析法を研究する。本研究の目的を十分に達成するためには原子炉の使用を必要とするが、本年度はサイクロトロンを使用して各種の基礎実験を行い、原子炉の使用が可能になった時、すみやかに移行しうる準備をととのえる。

放射線の有機化学への応用

 普通の条件で進行しないまたは困難な化学反応で、γ線の照射によって初めて容易に進行する反応を探索し化学工業に新分野を開拓する。

 はじめに塩素化反応をとりあげ、まず、芳香族炭化水素について、そのγ線照射に対する安定性を調べ、ついでγ線照射下の塩素化反応を研究する。現在のところ行えないトルエン、キシレン等の Perchlorination を目標とする。

放射線の合成樹脂への応用

 γ線による重合反応は他の一般的な重合反応に比較して機構不明な点が多く、たとえば高温になるほど、あるいは溶剤でうすめるほど高分子量の化合物が得られたりするような特異な現象が多く認められ、これらの点を究明するために、まずビニル系化合物の単量体たとえば酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリル酸およびメタクリル酸エステル、スチレンなどの単一および共重合反応を研究する。またグラフト反応(ポリマ一分子と単量体との重合)の研究もあわせて行い新しい高分子材料を作る。本研究には少なくとも数百キュリー程度の線源を必要とするのでその輸入をまって実験に着手する。

放射線の無機化学への応用

 本年度は単結晶製造装置を作り、スズまたはタリウムで付活したハロゲン化アルカリ単結晶を製造する場合に必要な温度調節の効果を検討する。

昭和32年度研究計画

放射線遮蔽材料の研究

 各種の放射線遮蔽材料のうち、カドミウム、ホウ素等の熱中性子の吸収断面の大きなもの、鉄、鉛などのγ線吸収力の大きなものなどを含む焼結体(コンクリート用人工骨材)等の窯業製品に重点をおき、さらに顔料、金属等の無機材料につき試験体を作り遮蔽性能と機械的強度その他の性質を測定する。

 合成樹脂、合成繊維等の有機質遮蔽材についても33年度以降に研究を進める計画である。

乾式法によるウラン精錬法の研究

 国産ウラン鉱およびリン鉱石を原料とし、乾式法によってウランを回収し、純粋なウラン化合物を製造する研究を、原鉱処理量200〜300kg/日程度の規模で実施する。

トリウム精錬法の研究

 ウランの場合と同様に、乾式法によるトリウムの精錬法について基礎研究を行う。

放射線用写真乳剤の研究

 現在の乳剤は放射線に対して感度、粒状性、コントラスト等の点で甚だ不十分なので、各種放射線に適応する乳剤の研究を行う。まず現在の乳剤のγ線に対する特性を検討し、製造方法の異なる乳剤および重金属を添加した乳剤のγ線に対する写真特性を研究する。なお粒子線用乳剤については33年度以降に研究を行う計画である。

放射線の分析化学への応用

 31年に引きつづいてサイクロトロンおよびRa−Be中性子源による放射化分析法を研究し放射化の容易な2〜3の元素について微量分析を行う。また事情が許せば原子炉による放射化分析の基礎実験を行う。

放射線の有機化学への応用

 31年度の研究を拡張し、メタンおよびプロピレンの塩素化、ベンゼンからフェノールの合成オレフィン(C2〜C4)およびアセチレンの加圧重合反応などについて研究する。

 なお無機化学反応への応用についても遂次研究を進める計画である。

放射線の合成樹脂への応用

 各種の天然および合成高分子物製品に放射線をあてて、その性質の改良に適当して条件を研究する。

放射線の無機化学への応用

 31年度の研究を拡張し、結晶成長の最適条件におよぼす放射線の影響を検討する。また金属に対する放射線照射の影響を各種金属を真空蒸着法によって薄膜にしたものにつき研究する。

特 許 庁

 原子力産業が技術的に非常に新しいこと、しかも第2の産業革命を起すであろうといわれるほど重要な産業であることから、原子力に関する特許の問題は、極めて重要なものであることが早くから指摘され、内外から深い関心を寄せられている。わが国の業界や学界の一部でも、今後一定期間は原子力関係に限り外国人の特許申請を受付けないとか特許しないとかいう意見があった。しかし特許行政に保護政策を加味することは、内外人を平等に扱うという工業所有権保護同盟条約に違背するのみならず、技術に対する保護がないのであるから、外国の技術が入らなくなり内外のギャップは益々大きくなる。従って、外国ではすでに公知になっている技術にまで特許を与え、外国の技術によってわが国の原子力産業が支配されるような事態を防ぐためには、外国文献を充実して公知範囲を拡大すると共に、専門審査官を充実して審査面でのミスを防ぐことが、唯一最良の方策と考えられる。

 そこで、以下最近の出願状況、特許庁が原子力特許に関しどのような施策をとり、将来どのようにやろうとしているか、どのような問題点があるかについて述べ、さらに参考までに、海外の事情につき若干の説明を加えたいと思う。

原子力関係の出願状況

 原子力に関してはすでに相当以前から出願されて来ている。しかし、従来出願のあったものは、ほとんどが放射線の測定(計数管、線量計など)に関する分野についてのもので、中性子反応炉に直接関係のあるものは皆無に近い。このことは、計数管などの放射線の測定の分野については、以前から相当各方面で研究が進められていたが、その他のものについては、未着手の状況であったことによるものと考えられる。

 一方、原子炉を中心とする原子力平和利用の推移と共に、まず、同位元素の分離に関する出願が昭和26年頃から漸増し、さらに、熱拡散や質量分析による方法について内外からの出願が行われている。特に、ここ2〜3年の最も顕著な特徴は、前記の放射線の測定、同位元素の分離以外に、中性子反応炉(耐熱材料を含む)、減速剤としての重水の製造法、放射線の防御および中性子発生装置等の原子力開発利用に直接関連した技術に属する出願が見られるようになったことである。このような原子力の直接の利用についての分野では日本人の出願もあるが、米国、英国をはじめ独乙、瑞典等欧米諸国からの出願が比較的多いパーセンテージを示している。このことは、実験用原子炉の建設に漸く着手しようとしているわが国の現状からみれば止むを得ないことではあるが、この面からも原子力に関する研究が促進されることを待望するものである。

特許庁の施策状況

 結論的に言えば、審査面での重要施策は、審査文献の整備と審査官の訓練および養成ということにつきる。

1.審査文献の整備

 わが国の特許法第1条は、新規な工業的発明をなした者は特許を受けることができる旨を規定し、その場合の「新規」については第4条において次のように定めている。

 本法二於テ発明ノ新規ト称スルハ発明カ左ノ各号ノ1ニ該当スルコトナキヲ謂フ

(1)特許出願前国内二於テ公然知ラレ又ハ公然用ヰラレタルモノ

(2)特許出願前国内二頒布セラレタル刊行物ニ容易ニ実施スルコトヲ得ヘキ程度ニ於テ記載セラレタルモノ

 したがって、審査官が審査するに当って、最も大きいウエイトの1つは新規性の判断にかかってくる。審査を行うについて、出願前国内に頒布された刊行物に記載されているか否かの調査が不可欠の要件であり、このため資料が完備されない限り完全な審査は不可能である。審査文献の整備の必要性は、第1にこのような特許審査の一般的な性格にもとづくものである。

 加えて、原子力に関しては次のような特別の事情により、文献の整備の必要が痛感される。原子力の技術については、アメリカ合衆国をはじめとする先進諸国は高度の水準に達しているにも拘らず、わが国の技術はようやくその緒についた程度であり、したがって諸外国において公知公用となっているような技術知識でも、わが国においては全く未知の状態にあるものが少なくなく、そのために外国人が諸外国においては公知となっているような技術知識を内容とする発明についてわが国に対して特許出願をすればそれに対して特許を付与しなければならないことになる。これを放置すれば、わが国の原子力産業は外国の特許によって身動きの取れない状態となるであろう。このような不都合なことから国内産業を保護するためには、できるかぎり多くの文献を諸外国から購入して、積極的に公知状態を拡大しなければならない。資料の整備は、不可欠の審査手段としての必要性を持つだけでなく、このような政策的な重要性を持っている。

 以上の理由から、特許庁は文献の収集整備にできるかぎりの努力を払う方針であるが、特に後者の目的のためには、異議申立制度の活用という意味で、各図書館、研究所等が文献の収集につとめると同時にその入手年月日を明らかにされておくよう望むものである。洋書輸入商等の御協力を仰ぎたい所以でもある。

 ところで、特許庁においては、原子力関係の専門文献は極めて少い状態であって、その収集整備には非常な困難と焦燥を感じていた。昭和31年度に始めて原子力関係図書購入費(250万円)が予算化され、ようやくにして文献整備の途についた状態である。

 前記の図書購入費は、現在までに殆ど購入乃至発注済みであるが、図書(単行本)については、原子力の基礎部門およびアイソートプ関係のものに重点を置き、雑誌は、Nucleonics, Nuclear Science Abstract, Atom Kerne 等約60種のものを購入しつつある。勿論この金額では不足であり、明年度以降その飛躍的増額をはかって、審査文献の充実整備に努めたい所存である。

  なお、これらの文献(主に雑誌)の分類整理は抜萃カードを作成し、これによって急増しつつある資料を完全に整理するよう準備中であるが、何分にもこのカード作成の作業は相当の労力と予算とを必要とするため、目下昭和32年度の予算化に努力している。

2.審査官の訓練および養成

 特許法第70条は、「特許ノ出願アリタルトキハ審査官ヲシテ審査セシム」と規定している。出願のあった発明について特許を与えるべきかどうかは審査によって決まることであり、その審査の主体となるのは審査官である。この意味で審査官の訓練および養成ということは常に特許制度における重要課題として採り上げられねばならないのであるが、原子力に関してはそれが新しい技術分野であるだけにより一層重要な課題として採り上げられねばならない。すなわち、原子力関係の専門審査官が極めて少ない現状では、関連技術についてはともかく、高度かつ複雑な技術的内容を持つ特許出願があった場合に、十分な審査を行い得なくなるであろうことが危惧されるのである。

 勿論、審査官が特許すべきか否かの決定をなすに当っては第三者に鑑定を依頼することも制度上認められており、特殊な問題については鑑定を依頼した例もある。殊に、原子力関係特許出願については、専門審査官が充実するまでの過渡期において、この制度を利用する必要性が生ずるであろうし、特許庁としても場合によっては専門家に鑑定を依頼して審査の適正を期したいと考えている。

 しかしながら、これらの制度は、審査の適正をはかるための補足的手段とはなり得てもこれに取って替ることはできない。原子力に関する専門審査官を質的にも量的にも充実させることの重要性をいささかも減ずるものではない。

 原子力に関する技術者の不足は、今日一般的に当面している問題であり、その養成が原子力の開発利用に関連する重要施策の一つとして打出されているわけであるが、これと同じことが特許の審査官についても言い得ることなのである。

 以上のような見地から原子力関係特許出願の審査に当る者の訓練および養成については海外原子力事情の調査と資料の収集とをかねて、原子力関係出願の担当審査官を海外へ派遣することの必要性が痛感されたので、原子力局と協議の結果まず昭和31年度においては米国および英国の原子力研究所へ各1名の派遣を内定している。32年度には、さらに相当数の審査官の海外派遣によって有能な原子力関係審査官を養成すべく、企画中である。

 また、特許庁では各方面の専門家に依頼して職員の研修を行っているが、原子力に関しても研修計画に織込んで実施する予定である。

海外の原子力特許事情

 諸外国における原子力関係の特許出願がどのような傾向を持っているか、またその件数はどの位あるかということを知ることは、現在のところ殆ど不可能に近い。しかしA.E.C.レポートその他の刊行物に記載されているものから判断すると、中性子反応炉をはじめとして技術水準の相当高い、そしてまた相当多額の特許出願がなされているであろうことはほぼ推察できる。たとえば、英国あたりでは、原子力関係のうち、中性子反応炉に関するものが特許公報に相当数掲載されている。

 また、米国においては、政府所有の原子力関係特許のうち、1950年以降現在に至るまで385件のものを産業界の使用に供するため解除し公開したので、これらによってその一端は知り得る。ただ、それらは主に原子力に関する初期的なものであって原子力技術のピークを示したものではないと思われる。勿論、アメリカにおける技術水準が極めて高いことはいうまでもないが1954年の原子力法改正までは重要発明が不特許となっていたので、特許公報類を通じて知ることはできない。



 以上審査面を中心として特許庁の方針、出願の状況、施策の状況についてその概要を述べた。将来原子力工業が産業界に占めるべき地歩したがって関連技術の急速な進歩発展を思うとき、今後ますます審査文献の充実整備、審査官の研修強化等につとめ、激増を予想される出願に対処して適確迅速な審査態勢を整えるため、原子力局その他関係機関とも緊密な連絡を図り万全を期したいと思っている。


次号には電気試験所の状況につき掲載予定。