海外原子力関係施設見学者の手続、注意

 最近外国の原子力関係施設の見学者が増加するにしたがい、外務省および関係大使館では許可手続や見学上の留意事項について再三注意を喚起しているが、ここにおもなものを掲載し、重ねて関係者の注意を喚起する次第である。詳細については、外務省関係課に連絡されたい。

 (以下にかかげる公文は編集上の都合により一部変更した部分がある。この点御諒承を乞う次第である。)

ア メ リ カ

昭和30年6月14日

  重光外務大臣あて

在アメリカ合衆国井口大使発

旅行者の米政府関係施設視察に関する件

 米政府関係の研究施設、工場、ダム等あるいは民間関係でも政府(原子力委員会、軍を含む。)との契約事業を行っている所を視察するには、許可を要することになっており、最近わが国の当国旅行者にして、この許可のあっせんを依頼してくる者が非常に多い。然るにこの許可には相当の日数を要し、かつ所定の手続を要することが多いにかかわらず、当地到着直前ないし到着後に申し越し、訪問場所、訪問目的があいまいで、当館も迷惑し、旅行者自身も目的を連せざる場合が少なくない。

 よって、かかる事態を改善するために、あらかじめ下記の諸点を周知せしめるよう、関係方面に御連絡相成りたい。


1.米政府関係施設の視察見学を希望する場合

(1)次の点を1件につき2通ずつ英文にて記したものを提出ありたい。

(a) 氏名、生年月日、出生地、住所、職業
(b) 訪問希望箇所(正確に関係省、、場所、施設名、できれば訪問先関係官氏名)
(c) 視察目的(具体的に)
(d) 訪問日時(変更せる場合にはできるだけ早く通知せられたい。)

(2) 許可に必要な期間

(a) 軍関係・・・3週間
(b) AEC関係・・・場所による。即日返事の得られるものもあるが、多くは2週間ないし1ヵ月必要。
(c) ワシントン所在の政府関係施設は関係官のアポインメントをとればよいから大部分数日前でよい。

2.米政府(軍、AECなど)との契約事業を行っているため許可を要する民間施設の視察見学。

 この場合が最もばく然としていて、世話するのに骨が折れることが多く、次の手順を経れば、簡単に早く許可がとれる。

(1)視察せんとする本人より、視察希望箇所に交渉し、先方よりどこの許可をとる必要があるか返事を貰い、その写を当方に提出する。この際、視察場所(会社名だけでは判らない。場所、工場名等具体的なることが必要)、視察目的および許可を発行する政府機関名(具体的にその工場が政府機関内のどこの許可を要するかを問い合せて貰いたい。)が明瞭であることが望ましい。

 やむを得ざる場合のほかは本項に関する準備を整えた上、当館に申し出られたい。

(2)前項に述べた会社よりの返事写に添えて1.に述べた書類を提出せられたい。

(3)(1)、(2)の書類が整っている場合に、許可をとるための所要期間は1.の(2)に述べたのと同じになる。

3.その他の注意書項

(1)視察目的について

 本人の専門に直接関係のない場所を単なる土産話の種に漫然と視察することはなるべく止めていただきたい。先方に迷惑をかけるのみならず、日本人に対する軽べつを招くことすらあって、他の真に視察を必要とする旅行者に迷惑をかけることとなる。

(2)日程の変更について

 視察直前に日程を変更したり、先方にあらかじめ通知することなく取り止めたりすることのないよう特に御注意願いたい。

  昭和30年11月8日

    重光外務大臣あて

        在アメリカ合衆国井口大使発

原子力委員会施設視察に関する件

 本件に関し、最近わが国よりの旅行者、在米商社等より、原子力施設視察希望者が急増しておるところ、他面AECでは各国よりの視察者激増しおるため少なくとも3週間前に申し込まれたい旨申し越している。

 しかるにわが国関係者よりの視察申出は多くは1週間以内、甚だしきは前日に手続を依頼してくるので、その度に特別措置を依頼せざるを得ず、先方にも余分の手数をかけるのみならず当館においても繁忙の折柄、甚だ迷惑している。よってお手数ながら下記の諸点関係官庁、学界、業界、旅行者等に周知徹底せしめられたい。


1・視察の少なくとも3週間前に申出ること。

2.氏名、生年月日、出生地、現住所、職業、訪問期日、訪問目的を明記されたい。特に自己の専門、訪問目的を明記することは視察を有効ならしめるために必要で、先方はこれに適した者を案内につけてくれるのが例である。

3.視察の少なくも前日までに視察箇所になるべく電話をもって連絡すること。施設の多くは不便な場所にあり、前日に先方に連絡すれば、自動車等の交通の便を計ってくれる。

4.日時の変更、取止めの場合には先方に必らず連絡すること。なおやむを得ない場合には前日でも特別の措置をとってくれるが、これは多くの人に迷惑をかけることであり避けられたい。

  昭和31年1月16日

外務事務次官

 総理府原子力局長殿

合衆国国防総省関係工場等への視察許可取得手続に関する件

 今般本件事務処理に当っている在米大使館から下記のとおり、従来の日本人の軍関係工場等視察許可取得手続について好ましからざる事例ならびに注意事項を報告越したので、今後本件業務を円滑に遂行し充分所期の目的を達成するためにも、右趣旨を関係業者等に周知徹底せしめるよう特段の御配慮相成りたい。


1.当該許可取付に当っては、在米大使館が各件ごとに氏名、職業、目的、訪問会社等の名称および所在地、訪問月日等を明記の上、1ヵ月の余裕期間を置いて国防省関係当局に対し書類申請を行っている。ちなみに客年1年間を通じて同大使館が処理した件数は202に及ぶ。

2.202件中外務省を経由の上正式申請されたものは一部分で、大部分は在ニューヨーク日本商社代表者を通ずる視察要請に係るクリアランス取得業務で占めている。これらの多くは在米大使館に突発的に要求されるので大使館側としてもその都度関係軍当局に対し相当無理をして特例的な措置を申し入れて来た次第である。

3.工場視察は当該工場側の許可がなければできないのは当然の話であるが、旅行者によっては工場側との事前連絡を怠ったため、在米大使館側でせっかく軍当局からセキュリティークリアランスを取り付けたにもかかわらず当該工場側から立入視察を拒否された事例もある。

4.セキュリティークリアランス取付に際しては明確なスケデュールを要すること言をまたないが、クリアランスさえ確保すれば何等支障ないものと独断して関係方面への事前連絡または確認を怠り、日程を勝手に変更して工場に赴いたため、工場駐在の関係将校から入場を拒まれ、再び在米大使館から国防省に折衝してようやく立入を認められた事例もある。

5・クリアランス取得に当っては前記1.のとおり30日前に書類申請を要するところ、1週間前はおろか明日に差迫った視察のための許可取付方を在米大使館に強要してくる場合がある。この場合、外務省を経て正式の要請があったものについては、大使館においてわざわざ係官を国防省に出向かせる等の方法をとってできるだけ申請人の希望にそうよう処理しているが、その他の場合は本人に対して視察計画の変更を勧告している次第である。

6.事実上実行不能であったりまたは不明確な日程の組み方が多く、逐一本人に連絡して確認を得あるいは訂正しなければ国防省に申請を行えない場合が少なくない。すなわち、同じニューヨーク州でも数百マイルも離れている2工場を同一日に視察するといったずさん極まる計画、日曜、祭日等に工場視察を行うがごとき日程、あるいは土曜等に軍施設見学を希望する計画のごとき場合はたとい30日以前に在米大使館に視察許可取付方申入れがあったものでも、大使館側としてはいかんとも措置し難い次第である。

7.クリアランス許可申請には工場、軍関係施設等の視察先を具体的かつ詳細に明記の要あるは言をまたないところであるが、たとえば同じニューヨーク州内に傘下工場十有余を数えるジェネラルイレクトリック社を視察するのに、単に「ジェネラルイレクトリック、ニューヨーク」とのみ掲げているが如き例が多く、かかる場合もセキュリティークリアランス取付は不可能である。

 また工場の管理関係が三軍に分掌されているため、視察者においてあらかじめ視察工場を特定しないときはその点について在米大使館より三軍に照会しなければならず、いたずらに同大使館の業務量を増大している事情を特筆したい。

8.クリアランス取付についてはニューヨークの日本商社にのみまかせてこと足れりとし、本人がワシントン大使館に全く連絡を行わなかったため、大使館側のクリアランス取付業務を著しく阻害している事例も少なくない。

 昭和31年5月4日

外務事務次官

総理府原子力局長殿

合衆国国防総省関係工場等への立入許可取得手続に関する件

 本件に関しては、すでに本年1月16日付拙信をもって詳細連絡申し上げたところであるが、その後の実情を見ると、いまだ関連業界等にその趣旨が十分徹底しないうらみがあり、そのため当省関係部局はもとより在米日本大使館側も事務処理上多大の迷惑を蒙っている現況であるから、重ねて本件セキューリティ・クリアランス取付け手続に関する従来の経緯並びに事務処理の現状等を下記に摘記して、あらためてその趣旨を貴関係当局から関係業者等に周知徹底せしめられるよう特段の御配慮相煩わしたい。


1.昭和29年初頭、防衛生産技術視察団の派米に関し日米間に公文が交換され、技術者等の派米についての一般原則の了解が成立した。これにもとづいて米側から具体的な条件が提示された結果、個々の渡米者に対するセキュリティー・クリアランス取付けのための手続も定まり、これによって日米両国政府は、当時急激に増加した日本人の米国技術の視察希望者の便宜と米国政府の軍機、特許権等の保護の要請に応じられることを期した次第である。

2.本交換公文の対象には、政府派遣団体たると民間会社の個人たるとを問わず、米国の国防生産工場等の機密施設(具体的には米政府関係の研究施設、工場、ダム等あるいは民間関係でも三軍や原子力委員会等米政府当局との契約にもとづいて事業を行っている所は、すべて許可を要する。)の視察を希望する者は、すべて含まれる。

 すなわち、たとえば特需契約の受注者であろうと、JPAの関係者であろうと上記施設に立入りを希望するものは、すべてこの公文に定める条件を満たさない場合は、視察の許可を与えられないことになっている。したがって、本件許可申請に当っては、本取極の規定並びにこれにもとづく在京米大使館からの口上書の要求する所定の手続に準拠してこの申請を行うことになっている。

3.当該許可取得手続の経路は、具体的には次のとおりである。

a、セキュリティークリアランス取付のための申請書の提出期限は、視察目的のいかんを問わず目的地への立入り予定日以前2ヵ月の余裕期間を置いて当省(欧米局第2課、ただし米原子力委員会の管轄する施設のうち原子力平和利用関係施設立入許可については国際協力局第3課)に提出するものとする。
b、当省は、この申請にもとづいて、在アメリカ合衆国日本国大使館に必要手続をとるよう連絡する。
c、同大使館は、各件ごとに所定の手続にのっとり、1ヵ月の余裕期間をもって、国防総省関係当局に対し書類申請する。
d、国防総省関係当局から右申請に対する許可があれば、在米大使館は、必要に応じて外務省あるいは申請者の希望する連絡先にその結果を通報する。

4.以上のほか、当該許可申請に当っては、別に渡米者側においても訪問先の会社等の責任者と事前に充分連絡を図る一方、必要に応じて在本邦アメリカ合衆国大使館の関係軍武官、米極東軍司令部係官とも並行的に緊密な連絡折衝を行う等万全の対策を講じ、セキュリティークリアランス取付事務をスムースに運ぶよう努めることが肝要である。

5.合衆国政府からのセキュリティークリアランスの取得、工場立入に関する当該会社側の許可取付けは、通常の渡航手続とは全く別箇のものであり、渡航者としては単に渡航手続を完了したことのみをもって上記諸手続きを必要としないと誤解しないよう特に留意を要する。

6.ちなみに、本年1月から3月末日までに在米日本国大使館が処理した件数は、86件に達するが、この中上記正式手続に従い当省を経由して申請されたものは十数件に過ぎず、大部分は現地日本商社代表者等を通じて同大使館に突発的に、極端な場合は視察の当日に申請し、大使館側は、その都度他の事務を犠牲にして、しかも関係当局に対しては非常な無理をして特例的措置を講じて貰うよう申し入れて来た次第である。しかしながらかかる事例は、いたずらに在米大使館の事務量を増加する結果を招いているのみならず、先方関係者の心証を甚だしくそこなうことさえなきを保し難い。かような事例が繰り返されるときはわが国の信用問題にもかかわり、この点十二分に留意の要がある。

7.以上の次第につき、かつまた自今本件事務を円滑に遂行し所期の成果を挙げるため許可申請に際しては、申請書はできるだけ日時の余裕をもって提出すること、手続は当省を経由して行うこと、また視察者は、可能な限り米側からのクリアランス取付をまって日本を出発することが望ましい。なお、すでに前記3.に述べたように、余裕期間のない視察日程や、あいまいな視察目的にもとづくクリアランス申請は、適宜変更を加えぬ限り、当省としては今後これを受理せぬ方針である。

カ  ナ  ダ

  昭和30年12月23日

   重光外務大臣あて

在カナダ松平大使発

原子力関係施設見学予定に関する件

 今回の場合は例外と存ずるも、予定取消のごとく同研究所(チョークリグァー)に多少とも面白くない感情を抱かしめるようなことはできる限り避けたく、下記事項御参照の上、当館に対し見学あつ旋を申越される際は、真に見学を必要としかつ多少の困難を排しても予定を実施する熱意を有する向に厳選されるよう特に御配慮願いたい。


1.研究所見学については原子力管理委員会の許可を要するため、2週間ていどの余裕をみて通知ありたい。

2.チョークリヴァーはオタワの130マイル西北にあり、交通機関は自動車で往復には1日を要する。

3.昨年度チョークリヴァーを訪問した各国の見学者は800名の多数に達した趣きで、研究所は見学者の見学日取り決定およびその応接に多忙を極めており、したがって今回のごとき見学の予定変更はもし今後とも起るようなことあらば将来いっさい見学あつ旋を謝絶するのほかなく以上御了承置きを得たい。

 昭和31年6月25日

外務省国際協力局長

 科学技術庁原子力局長殿

カナダ原子力研究所視察に関する件

 今般在カナダ日本国大使館からの通報によれば、最近わが国からチョーク・リヴァー原子力研究所の視察許可方を直接カナダ原子力会社に申請した一事例があり、同原子力会社から同大使館に対し書面をもって、同社からはとりあえす承諾の回答を送ったが、同社は政府の監督下にあり、その許可取付には同大使館から政府機関に対し正規の手続を執る必要がある旨通告があった趣である。

 ついては、カナダのみならず外国原子力関係施設の視察申請は、原則としてすべて当省を経由するよう、今後とも関係の向に御注意しおきありたい。

フ ラ ン ス

 昭和31年4月13日

  重光外務大臣あて

在フランス 西村大使発

日本人旅行者に対する要望に関する件

 当地来訪の日本人旅行者は本年も旅行季節に入るとともに激増しつつあるところ、その訪問ないし見学先がしばしば同一にしてしかも時間的に間隔短かく繰返されるため、当館において鋭意あつ旋に努めているにかかわらず、訪問先においてよろこばれずむしろ「またか」といった調子で嫌悪の情をもって受けとられる場合が生じてきている。これは他館においてもほぼ同様の状態であろうと存ずる。よって、本省におかれては、在外公館に便宜供与方依瀬越される旅行者に対しあらかじめ左の諸点を徹底させるよう御高配相煩わしたい。

1.往訪先に関しては本人より以前に往訪した邦人からできるだけ予備知識を得るようにして往訪を計画されること(前後の往訪者の間に連絡が全然ないため、同一の往訪先に対して同一の質問をくりかえし同一の資料を要求する場合がきわめて多い)。

2.質問事項も内地においてあらかじめ研究決定せしめられ、当座の愚問をもって往訪先を悩まさないようにすること。

3.旅行者は軽々に日程を変更しないこと。やむを得ず変更した場合にはすみやかに当館に連絡すること。

 かかる些末なる事項を申し上げるのは、最近次のような諸事例があったからである。

(イ) 出張者が頻繁に日程を変更したため、当国外務省(公務出張者が当国国内官庁機関を往訪見学するためには外務省を経由することが原則となっている。)では、業を煮やし、当館から直接に然るべく連絡されたいとあつ旋を断られた。
(ロ) 原子力研究所(サクレー)では従来日本人参観者にはきわめて親切に応侍して呉れていた。しかるに、最近一邦人旅行者が往訪日時の変更を求めた機会に研究所側から来訪者頻繁のため研究に支障を来すことを理由として、爾今は遊覧式に見学を許可している土曜日午前だけに制限する旨の申越があった(遊覧式と言ってもあらかじめ本人の履歴書を添えて申請をする手続には変りはない)。

  昭和31年5月3日

   重光外務大臣あて

在フランス 西村大使発

日本人旅行者に対する要望に関する件

 4月13日付往信に対し

1.原子力庁は書簡をもって同庁施設視察に関し次のとおり申し越した。

(1)視察は原則として科学的、技術的知識を有するもののために許可されている。

(2)週日中は「正式訪仏の大臣級」のもの以外は原則として許可しない。

(3)視察許可申請は可及的長期の時間的余裕をもって(最悪の場合も1週間以前)提出の要あること。

(4)視察者多数にて、拒否される可能性もあること。

2.上記のとおり今後は事前の許可を得た公開日(土曜日)以外の一般の視察はほとんど不可能となった。

 したがって、海外視察旅行に際し便宜供与方本省に申出ある際、その日程中「原子力事情の視察」を計画しある向に対しては、日程の組方、手続等につき前記原子力庁の新措置につき注意喚起せられるようお願いする。

イ ギ リ ス

  昭和31年6月22日

 科学技術庁原子力局長殿

外務省国際協力局長

英国における原子力関係施設見学希望者に関する件

 本件に関し今般在連合王国西大使から、同国原子力関係施設見学のためには、前広に同国外務省を通じ許可取付け方必要であるところ、許可取付けの際見学希望者の出生地、生年月日、現住所のほか旅券番号を通知しなければならない趣をもって、今後原子力関係施設見学希望者についてはこれらをあらかじめ通報ありたい旨申し越したので、関係方面に周知方しかるべくお取り計らいありたい。