昭和30年度第4期分放射性同位元素の使用
の確認及びその使用目的について


(1)使用の確認
 本年1月1日の原子力局の発足に伴なって、従来科学技術行政協議会で取り扱っていた放射性同位元素(以下RIと略称する)に関する輸入、配分等の実務は一切原子力局に移管され、同協議会において昨年12月に締切った昭和30年度第4期分のRIの輸入申請は、原子力局において新たに取扱を決定した別記の「放射性同位元素の使用の確認の手続」に従って審査の結果、大要次のとおり決定をみた。

 今回受け付けた総数は、使用者数293名、件数449件に上り、うち292名、446件について使用の確認を行った。専門別の使用者数、件数は第12表に見られるごとく、医学関係の研究及び診療に用いられる面が最も多く、使用者数、件数とも全体の62%を占め、次いで生物、農学、動物の研究、実験が約20%、次に工学または工業的応用が約8%となり、このほか物理化学の基礎研究が同じく約8%ある。

 この比率は毎年各期ともほとんど変動なく、常に医学的利用が全体の60〜70%を占め、これに比して工業的利用は10%前後で、これの利用の推進が今後の重要な課題と考えられる。

 各省別の使用機関数は第13表のごとく、文部省関係の大学、付属病院が全体の半数を占め、次に厚生省関係の研究所、病院が25%、次いで通産省関係の研究所、会社工場等が18%となっている。

 使用の確認を行ったRIの種類は、化学的に精製されたSeparated isotopeが33種、化学的に精製されていない、原子炉中で照射されたままの形で他のRIを含むIrradiated unitが2種、RIを標識した化合物Labeled compoundがアルコール、酸及びそれらの誘導体、アミノ酸など12種に上り、その他金属の形のCo60,Cs137 のSmall source, multicurie source,医療用、工業用のSr90のSource, Fission product,及びC14,Sr90,Co60等の標準線源など12種で、全体で59種類にわたっている。

(2)使用目的
 1.医学関係
 昭和30年度第4期分のRIの使用目的のうちから主なものを取り上げ、簡単に紹介してみる。最も広く使用される医学方面は、トレーサーとして医学研究、診断に用いられる場合と、放射線源として治療に用いられる場合と大きく2つに分けられる。前者のうち最も一般的な研究は、RIを各種物質にラベルし、その生体組織における移行、分布、代謝等を正常時、病変時にわたって調べ、それらの各器官の機能との関連を究明しようとするものである。P32の使用が多く、核酸、りん脂質等の各種りん化合物として骨、肝臓、脾臓等のりん代謝の研究に、またCa45は、骨関節疾患あるいは結核症におけるカルシウム代謝、歯牙組織におけるカルシウム代謝等、Fe59は発熱時における鉄の代謝、肝臓における鉄の代謝Zn65は肝、膵臓における亜鉛代謝、内分泌機能と亜鉛代謝の関連等の研究に使用される。次にP82、S35等を使用し、大腸菌、結核菌、B,C,G,等細菌の物質代謝を研究しようとするもの、また種々の細菌にRIをラベルし、その体内への侵入、分布、消失の経過を追跡し、感染の機序、免疫性について研究しようとするもの等がある。さらに骨髄、肺、脳における循環血液量の測定もあり、疾病の場合の循環機能の変化、外科手術前後における循環血液量の変化等も研究される。また血球にCr51、Fe59をラベルし、輸血赤血球の消長、喀血性貧血の発生機序、血色素の分解に関する研究もある。I131を使用した甲状腺機能の検査も広く採用されており、各種疾患時の甲状腺のよう度代謝が研究される。このほか、放射線の外部照射、または放射性物質の体内摂取の造血機能、生殖機能等各組織に及ぼす影響の研究も活ぱつで、最近特にSr90、Y91、Zr95、Ru103、Cs137、Ce144等の核分裂生成物の各臓器への分布、生体に及ぼす影響、その除去法に関する研究が多いが、今回もこの研究に相当の量が申請された。

 放射線源として放射線の細胞に対する破壊作用を利用した治療の面は、現在のところ使用されるRIはP32、Sr90、Co60、I131、Au198に限られており、今回もP32は内用による慢性白血病、真性赤血球増多症の治療に、外用による皮膚癌、血管腫、母斑、及びケロイドの治療に、Sr90は同じく表在性の皮膚疾患の治療に使用される。Co60はラジウム代用として釘状のものを局所に挿入し、乳癌、子宮癌、直腸癌などの治療に、またCurie Orderによる深部治療も多く、今回も1,000curieていどが申請された。I121はバセドー氏病等の甲状腺疾患の治療、脳腫瘍の治療に、Au198は子宮癌、前立腺癌及びそのリンパ腺転移等の治療に使用される。

 2.工学及び工業関係
 工学または工業方面の利用をみると、総数38件のうち20件は大学、研究所、民間会社における研究であり、18件が工場現場での利用またはその一歩前の試作段階の用となっている。研究の面では金属冶金等の分野が最も活ぱつで、金属の自己拡散、他金属への拡散の研究、製鋼上の問題で熔融鉱滓中のCaOの挙動の研究、熔銑熔滓中の脱硫反応の研究等がある。このほか放電開隙の放電特性改良の研究、摩耗、潤滑機構の研究も行われ、最近各方面で注目をあびているガンマ線照射による繊維物質改良ビニル重合に関する研究もある。オートラジオグラフィ用感光材料の感度測定のためのRIが4件あり、また各種工業用材料に対する放射線の影響も研究される。工業面で実用に供されるものはいずれも放射線源としての利用であり、トレーサーとしては採用されるにいたっていない。鋳物、熔接部分の非破壊検査用としてCo60、Cs137が2件、紙、ゴム、プラスチック、鋼板等の厚み計用としてSr90、Co60、Ru106が8件、高圧または腐蝕性液用タンクの液面計としてCo60、Cs137が5件、その他避雷器の放電の遅れ除去用、微粉炭の濃度計用としてSr90が各1件ずつある。

 3.農学、生物、動物関係
 農業方面の利用は、トレーサーとしての研究が大部分で、最も多数に上る使用は、米麦、トウモロコシ、桑、果樹等におけるP32、S35、Fe59等を使用した無機代謝の研究であり、次に施肥法の研究がP32、S35等により水稲、タバコ、馬鈴薯等について行なわれ、さらに土壌中の肥料成分の行動がC14、P32などを使用して研究される。このほかイモチ病、バイラス病等の植物病疫のりん代謝の研究、ストレプトマイシン、有機りん殺虫剤、除草剤等農薬の研究もある。放射線源としての利用は品種改良の面で突然変異の研究が、ゴマ、トウモロコシ、ブドウ等で行われ、またCo60による、牛乳、食肉、鶏卵等畜産物の殺菌貯蔵法に関する研究もある。

 生物の面では、光合成の研究が目につき、葉緑素形成と光合成能との関連の研究、クロレラの尿素同化の研究等があり、その他微生物の代謝機構、アミノ酸の生合成機作の研究等生体成分の生合成における中間代謝の研究が多い。

 動物の分野は、鶏卵におけるカルシウム代謝、貝類のカルシウム沈着機構、魚類のりん酸代謝等大部分動物体内での物質代謝である。次に放射性物質の家畜家禽に対する影響、水産生物への転移、その生理作用の研究がある。

 4.物理、化学関係
 基礎科学の面では、物理関係では、レンス・コイル型スペクトロメーターによりベータ、ガンマスペクトルを測定し、ベータ、ガンマ線の性質を研究しようとするもの、その他ベータ、ガンマ線の各種物質に対する吸収、散乱の研究、低エネルギー、ベータ、ガンマ線の測定方法の研究等があり、また標準線源としてのRIの使用も多い。

 化学の領域では分析化学の面が最も多く、微量元素の追跡、溶解度の測定、選択吸着の研究、Fission product の分離の研究等があり、またイオン交換膜電解による廃棄物処理の研究、汚染除去の研究等も行われる。

 このほか野外で使用される実験として、積雪相当水量の測定、河川における砂礫の移動調査がある。

 以上多数に上る使用目的のうちから代表的なものを取り上げ、羅列したに止まるが、各方面におけるRIの利用はますます拡大されて行き、今後いかなる目的にいかなる方法で応用されるか、全く予測のつかない状態であり、将来の成果は期待されること大である。