30年度原子力平和的利用に関する予算について

 原子力の平和利用が現在世界中で研究され、実施されていることは周知のとおりである。そのための不可欠な施設である原子炉は既に40ヵ国以上で築造中またはその準備がなされつつある。わが国でも原子力の研究を開始すべきであるとの当時の改進党議員の主張により、昭和29年度に原子力予算として2億2,300万円、ウラン資源探査費として1,400万円が実行予算として通商産業省工業技術院と地質調査所とにそれぞれ計上された。これによって原子炉の構造、主要装置、主要材料についての調査及び基礎的研究が着手され、同時に国内ウラン資源の探査、原子力平和的利用海外調査団の派遺が行われた。技術者の養成訓練のためにはアルゴンヌ国立研究所に第1回留学生が照遣され、引き続き30年、31年と現在までに3回計9名が派遣されている。そしてまた29年度中に使用済の金額は、原子力平和的利用研究補助金として6,285万円、ウラン資源探査費として676万5,000円であった。昭和30年度の予算は、29年度の繰越分1億6,040万円、ウラン資源探査費として766万円の他に2億円が計上され、合計3億6,000万円が通商産業省工業技術院に依託費として計上された。その詳細は下記に述べるとおりで、放射能測定器の基礎研究、重水・黒鉛製造の基礎研究、ウランの抽出研究等が行われた。31年度予算としては、総額において約36億2,000万円で、「うち約20億2,000万円は31年度分として計上され、16億円は31年度予算外経費として支出負担行為が行い得ることとなった。31年度予算の概要を示せば次のとおりである。

 原子力委員会原子力局    1億3,000万円
 (原子力技術官駐在費及び留学生費を含む)
 原子力研究所     19億5,200万円
 原子燃料公社     1億5,000万円
 地 質 調 査 所     1億円
 探 鉱 奨 励 金        3,000万円
 研究補助金(民間会社に対する分)4億4,600万円
 通商産業省所管の試験所   1億4,500万円
 金属材料研究所     1億円
 各省関係分(ラジオアイソトープの利用研究及び関係法施行に伴なう経費) 1億3,000万円
 文部省所管の原子炉及び重水購入費5,800万円
 国 会 図 書 館       1,400万円
 原子核研究所     3億6,500万円
  計  36億2,000万円(内16億円予算外契約)

 参考までに諸外国の原子力関係予算を示せば次のとおりである。
 米  国 1956年   5,000億円
  〃   1955年   7,900 〃
 イギリス 1955年    500 〃
 フランス 1955年   150 〃
 スウェーデン1955年  12億6,000万円
 イタリア 1955年    8債7,000万円
 スイス  毎 年    8,000万円支出

 以上のどとくであり、わが国の予算は米国の140分の1に当っている。

 なお、昭和30年度における原子力関係研究の概要を示せば次のとおりである。

参 考

昭和30年度 原子力平和的利用研究概要

(1)原子炉設計の基礎研究
1.実 施 者 (財団法人)学術振興会
2.予   算 6,767千円
3.研究内容

 昭和29年度において、あらゆるタイプの原子炉について基礎調査および基礎計算を行ったが、その結果に基づき、天然ウラン−重水型10MW及び1MWの原子炉のスケルトン設計を行い、性能、建設法、所要資材等について検討し、濃縮ウラン実験炉の設計を行って濃縮ウラン受入れによる実験用原子炉の建設の検討を行う。これがため、国産原子炉材料の物理的、化学的性質の実測、放射線の遮蔽と放射性廃棄物の処理の研究、原子炉制御機構の研究を行う。
 この結果は更に引続き検討を行い、国産原子炉の築造及び濃縮ウラン原子炉の築造、運転に資する。

(2)中性子線計側に関する研究
1.実 施 者 工業技術院電気試験所
2.予   算 13,492千円
3.研究内容
 29年度に整備したRa(α)−Be中性子源(中性子強度1,45X107n/sec)、減速用水槽、ボロン電離槽、ボロン比例計数管等を使用し、更に各種の測定装置、実験装置をととのえ、次の研究を行う。

(1)誘導放射能法による熱中性子線束密度の測定
(2)(1)の技術を利用して中性子線源の絶対測定
(3)29年度輸入したBF3計数管およびボロン電離槽の特性の研究により、それらの国産化の資料を得、かつ試験技術を確立する。
(4)人体等価計数管および人体等価電離槽により、中性子線吸収線量標準測定の研究により、中性子に対する人体防護用計器の較正用標準を確立する。
(5)Ra(α)−Be の速中性子線を対象として、そのエネルギー分布を測定し、線束密度測定の較正条件をしらべる。

(3)放射線計測に関する研究
1.実 施 者 工業技術院電気試験所
2.予   算 23,500千円
3.研究内容

(1)Χ、γ線が種々な物質により散乱せられて生ずる散乱線のエネルギー強度分布を測定し、散乱線の計測。
(2)人体と等価な電離槽による吸収線量の標準測定を行い、これを標準器とし、また(1)の資料と併せて、散乱線の防護計測器の設計上の基礎研究を行う。
(3)γ線放射体の絶対測定および放射能計測標本の製作法の研究を行い、放射性粉塵計測法の基礎的研究手段とする。

(4)皮膜式高抵抗の試作研究
1.実 施 者 富士通信機製造(株)
2.予   算 1,838千円
3.研究内容
 放射線測定装置に使用せられる高抵抗体は未だ国産されていないが、早急なる国産化が望まれるので、皮膜式とモールド式と両方の方法につき、研究を行う。
 本法は、磁器基体の上に高抗抵の皮膜を適当な方法により、薄く塗布焼成し、これをカッターにかけて表面にスリットを入れて抵抗値を調整し、端子を付して硝子パイプに封入し排気するもので、抵抗値が1012オームていどで温度特性、負荷特性、経時変化等の性能にすぐれたものの試作を目標とする。

(5)モ−ルド式高抵抗の試作研究
1.実 施 者 東京芝浦電気(株)
2.予   算 1,107千円
3.研究内容

 放射線の測定には、微小電圧、電流の増幅用真空管のグリッド抵抗用小型高抵抗体が必要であるが、国内にほ実用できるものがない。この国産化をはかるため、素材として、生ゴム、硫黄SiO2およびカーボン黒等を使用し、S、S、ホワイトモールド抵抗類似の高抵抗1012オーム(1兆オーム)ていど、大きさ3.5〜3.7mm直径×15〜20mm長さ、温度係数0.1%/℃、電圧係数10Vで0.05%ていどで、経時変化の少ないものを試作し、その製造技術の確立をはかる。

(6)小型電位計真空管の試作研究
1.実 施 者 東京芝浦電気(株)
2.予   算 1,364千円
3.研究内容

 放射線によって電離槽内に生ずる微少な電流を増幅して、放射線の測定を行うためには、小型軽量な電位計用真空管が必要となる。しかしながら、非常に性能のよいものは現在国産化されておらず、原子力研究の中心的計測器である電離槽式計測器の国産化に支障を来しているので、本研究においては陰極消費電力の小さく(フィラメント電流10mAを目標)、かつ微少な入力格子電流(10-12〜10-13)アンペアを増幅できるような小型電位計真空管(サブミニチュア型)を試作し、その製造技術の確立をはかる。

(7)光電子増倍管の試作研究
1.実 施 者 東京芝浦電気(株)
2.予   算 5,281千円
3.研究内容

 放射線の高速パルス式計測に適するシンチレーションカウンターは、原子力の研究、放射線の監視、原子燃料の採鉱に中堅的計測器として用いられる。しかしながらこの計測器の重要な部品として、シンチレーションヘッドに用いられる光電子増倍管は、現在国産されていない。本所究は、現在試作されている2インチ直径10段型の光電子増倍管をシンチレーション用として実用的見地から再検討し改良する。

(8)ガンマ線用シンテレーター沃化ナトリウムの試作研究
1.実 施 者 神戸工業(株)
2.予   算 2,011千円
3.研究内容

 シンチレーションカウンター用のシンチレーダーのうち、ガンマー線用のうちの一種として、沃化ナトリウム単結晶によるものの試作研究を行う。
 京都大学理学部の協力を得て、沃化ナトリウム単結晶製作技術の確立を計ろうとするものであって、その内容は次のごとくである。
 1)電気炉に温度計冷却装置、引上装置を付属し、まず単結晶製作の準備を行う。
 2)次いで、沃化ナトリウム、沃化タリウムの共晶の製作法の研究を行い、量産用炉体、自動温度調節、自動引上装置等を検討して、量産化を計る。
 3)シンチレーション効率、残光の大小等は、シソチレーダーとして最も重要な問題であるので、この特性を高める研究を行う。

(9)ガンマー線用シンヂレーター(タングステン酸カルシウム)の試作研究
1.実 施 者 浜松テレビ(株)
2.予   算 1,780千円
3.研究内容

 タングステン醗カルシウムはガンマ線用シンチレーションカウンターに用いるシンチレーダーとしてきわめて優秀な性質を有するが大型単結晶を製造することが非常に難しい。このため、タングステン酸カルシウムを適当なアルカリハライド中に熔融させて、これの冷却法を研究し、湿気にも、化学的にも、また機械的にも安定なタングステン酸カルシウムの大型単結晶の製造法を研究する。

(10)高速中性子用シンチレーターの試作研究
1.実 施 者 東京芝浦電気(株)
2.予   算 1,666千円
3.研究内容

 シンチレーションカウンターは、ヘッドのシンチレーダーを取替えることにより種々の放射線を高能率で測定し得るが、その中の高速中性子用シンチレーターとして、高速中性子の衝撃によって高効率の蛍光を発し、かつ残光の減衰時間の短い蛍光体をルーサイト粉末と共にモールドして成型するシンチレーターの試作を行い、その製造技術を確立する。

(11)カウンター式中性子測定器の試作研究
1.実 施 者 (株)科学研究所
2.予   算 3,668千円
3.研究内容

 中性子の測定器の一種としてB10の中性子吸収によってα線を放出する反応を利用したBF3計数管の試作を(株)科学研究所および(株)日立製作所に共同研究の形で行う。
 科研では主として、BF3ガスの精製の分野を担当する。
 高純度BF3ガスを得るには、BF3、CaF2の調製こ細心の注意を要し、更に計数管にBF3を充填する装置にもグリースなどの有機物の使用ができず、特殊真空バルブを付した装置の考慮が必要である。
 試作計数管の個々に対して、印加電圧と計数率の関係、一定印加電圧に対する波高分布曲線の測定、特性の経年変化、計数による寿命試験等の性能検査を行う。

(12)カウンター式中性子測定器の試作研究
1.実 施 者 (株)日立製作所
2.予   算 2,165千円
3.研究内容

 原子炉用あるいは放射線を取扱う研究室等において広く用いられる熱中性子測定用BF3比例計数管の試作を行い、主として金属材料および陽陰極間の絶縁ならびに管の構造について研究し、株式会社科学研究所において研究されるBF3気体の純化研究の結果と合わせて低密度熱中性子のパルス測定器の製作、技術を確立する。

(13)電離槽式放射線測定器の研究
1.実 施 者 神戸工業(株)
2.予   算 5,742千円
3.研究内容

 熱中性子原子炉の設計、運転、維持、自動制御等に必要な中性子測定器として必要なものである。研究の主眼点は次のごとくである。
 1)原子炉中の高中性子束と高温とに耐え、かつガンマ線感度の低い電離槽の研究。
 2)中性子による誘導放射能の影響なきよう材質についてアルミ、鉄、グラフアイト等を検討する。
 3)高温、強放射線等に耐える高絶縁物の検討、および内部ガス封入技術を確立する。
 4)B10の製造法、被覆法等を確立する。
 5)測定回路につき、時定数の減少、安定度の向上等のための研究を行う。

(14)シンチレーションカウンターの試作研究
1.実 施 者 (株)島津製作所
2.予   算 4,365千円
3.究所内容

 シンチレーションカウンターは高能率な放射線計測を可能にし、かつヘッドにつけるシンチレーターを交換することによって、各種の放射線の測定が可能であり、原子力研究には中心的な計測器である。これの国産は一応行われているが、更に高性能なシンチレーション計数装置(シンチレーダー、光電子増培管、比例増幅器、振幅選択器、計数器等からなる)を試作し、シンチレーダーについては特に熱中性子用シンチレーター、リチウムアイオダイド(LiI)の結晶を試作し、その製造技術の確立をはかる。

(15)ガンマ線用フィルムバッジの試作研究
1.実 施 者 富士写真フィルム(株)
2.予   算 1,844千円
3.研究内容

 原子炉の運転、強放射実験等には、従事者の健康管理のためガンマ線、中性子線等の被爆線量の測定が必要であるが、そのうち、ガンマ線用フィルムバッジの試作を行う。
 本研究は0〜0.6レントゲンの測定範囲で確度20〜30%のガンマ線用フィルムバッジ試作し、更にフィルムバッジサービスシステムを確立することを目標とする。
 その内容の主たるものは、乳剤処方の確立、フィルム塗布条件の決定を行い、更に現像装置の設計を行う等である。

(16)中性子用硼素塗布式ドレメーターの試作研究
1.実 施 者 (株)科学研究所
2.予   算 514千円
3.研究内容

 原子炉の操作および中性子実験に伴なう人体障害予防のためには個人携帯用の放射線計測器が必要である。
 このため、現在、市販されているガンマ線用直読式線量計と同様に万年筆型で装着に便利であり、円筒に電離槽、繊維電位計および電位計のふれを拡大して読む拡大鏡を内臓し、電離槽の内壁に硼素を微粒子炭素とともに塗布した熱中性子用の個人用測定器の試作を行い、これの製造技術の確定をはかる。

(17)放射性物質取扱装置の研究
1.実 施 者 (財団法人)放射性同位元素協会
2.予   算 3,200千円
3.研究内容

 原子炉の運転に伴なって、これで生産されるラジオアイソトープ類および燃料中に生ずる分裂生成物等の大量の強力な放射性物質を取り扱う必要が生ずる。したがって原子炉運転従事者に放射能障害の発生を防止するために、特殊な取扱装置と附帯防護施設およびこれ等を使用する技術と経験がなければならない。
 このため、昨年度完成したマスタースレーブ型マニピュレーターを放射線防護施設と組み合わせて、1,000キュリー以上の放射性物質の安全な取接い装置および取扱法の検討を行い、将来原子炉が運転を始めた場合の運転操作およびこれに附随する放射性廃棄物の取扱およびラジオアイソトープの生産が支障なく行えるようにする。

(18)原子炉の自動制御に関する研究
1.実 施 者 工業技術院電気試験所
2.予   算 6,000千円
3.研究内容

 制御性が良好かつ安定度の高い原子炉を設計する基礎資料を得るため、次の2項目につき研究する。
 1)熱中性原子炉の動特性並びに制御系各要素の特性を考慮し、高速度アナコムにより、オペレーションレインヂの制御方式を検討する。
 2)スタートのように時間遅れの大きいものがきいてくる場合は低速度アナコム並びにシュミレーターの試作により、制御方式の研究を行う。

(19)原子炉計装に関する研究
1.実 施 者 工業技術院電気試験所
2.予   算 3,000千円
3.研究内容

 原子炉の運転に関する種々の測定量を符号化して、各種の処理(記録、演算など)をする方式の研究およびそれによって所要の動作をさせるサーボ機構の研究を行い、かつ、これらに必要な部品を試作する。

(20)重水交換反応に関する基礎研究
1.実 施 者 昭和電工(株)
2.予   算 16,631千円
3.研究内容

 29年度におけるアルカリおよびアルカリミストの除去に関する研究および、分離係数の向上に関する研究に引き続き、(電解槽から発生するガス中のドレンに含まれるアルカリ分の除去法としては、蒸発器を用いる方法およびイオン交換樹脂を用いる方法により一応の見通しをつけ、また分離系数の向上に関する研究は30年度に継続試験中である)30年度においては交換塔を試作し、触媒を充填して、これを運転し、触媒の性能および被毒による活性の低下アルカリまたは水分の影響を検討し、低濃度重水製造の基礎資料を得んとするものである。なお交換塔は日立製作所考案のもの1基を使用し、また触媒については白金系触媒では容易に交換反応できることを確認し本年度は他の触媒の基礎試験を行っている。

(注)触媒の研究は昭和電工から宇都宮大学金子教授に委託している。

(21)回収電解法による重水の高濃度濃縮の研究
1.実 施 者 旭化成工業(株)
2.予   算 11,465千円
3.研究内容

 交換反応あるいはその他の方法によってあらかじめ低濃度濃縮された重水から99.7%以上の重水を得る際の電解分離系数の最大となる電解条件、すなわち電解槽の形、電解質、電極表面処理、電解温度、電流密度の各条件の探究と発生する爆鳴気を爆発させることなく連続的に燃焼させる装置の製作および運転を行う。
 燃焼管においては熱バランスを考慮してその構造、材質等について研究し、爆鳴気の対策としては窒素または空気を混入して稀しゃくする方法を検討している。

(22)重水濃度の測定
1.実 施 者 (財団法人)学術振興会(千谷利三)
2.予   算 7,470千円
3.研究内容

 重水濃度の測定は、重水製造の基礎研究の一つとして必要欠くべからざるものである。よって重水専用質量分析計(昭和29年度原子力平和利用補助金によって試作)および試料水分解装置を用いて、電解法、交換反応法、液化蒸溜法等における重水濃度測定を迅速高精度に行う技術を確立する。

(23)液体水素の性質の研究
1.実 施 者 (財団法人)学術振興会(神田英蔵)
2.予   算 3,600千円
3.研究内容

 水素液化蒸りゆう法の基礎資料を得る目的で、従来使用中の水素液化器を、昭和29年度の研究結果により改造し、液体水素の小規模精りゆう実験(0.03%→3%)を行い、さらに特殊水素膨脹機関の試作と低温度作働試験を行う。

(24)原子炉用黒鉛製造に関する研究
1.実 施 者 昭和電工(株)
2.予   算 9,627千円
3.研究内容

 原子炉用黒鉛とLて
  1)純度の高いこと
  2)密度の高いこと
  3)熱伝導度の良いこと
  4)熱膨脹の低いこと
  5)散乱断面積と吸収断面積の比の大きいこと
  6)加工精度の高いこと
等が要求される。
 以上の諸条件の研究を大阪工業技術試験所と連絡協同の上行い、原子炉反射材用黒鉛の試作を行うものである。

(25)原子炉用炭素材料に関する研究
1.実 施 者 工業技術院大阪工業試験所
2.予   算 13,000千円
3.研究内容

 目的 原子炉用減速材および反射材として使用可能な炭素材を国産化することを目標とする。
 内容 1.1千万分の1のケタの微量ほう素の分析方法を確立するため、分光分析、比色分析等につき検討する。
   2.炭素材申の微量ほう素を取除くため、高温処理、化学業品処理等を行う。
   3.石油、石炭その他の資源中から、無ほう素資源を探究する。
   4.簡単な有機化合物から無はう素炭素を合成すると同時に、粘結材の製造を試みる。
   5.炭素材料製造工程におけるはう素の混入を吟味し、工業化のための指針を求める。

(26)ステンレススチールの研究
1.実 施 者 日本特殊鋼管(株)
2.予   算 997千円
3.研究内容

 この研究はウラニル化合物水溶淀を使う原子炉(ウォーター・ボイラー等)を対象とし、そのタンク、配管等を国産材料で作る場合の基礎資料を得ようとするものである。ステンレススチールは熔接部が腐蝕されやすいこと、放射線照射下でほ腐しょくが増すことなどを考慮して、次のような腐しょく試験を行っている。腐しょく液は、硫酸ウラニルまたは硝酸ウラニルの酸性水溶液を用い、濃度を種々変えて試験する。放射線は現在原子炉内と同一のものは得られないから近似的な状況をつくりだすため、放射性同位元素からのガンマ線を用い、照射を行った場合と行わない場合とを比較する。

(27)遮蔽用特殊セメント並びに遮蔽用特殊コンクリートに関する研究
1.実 施 者 日本セメント(株)
2.予   算 6,718千円
3.研究内容

 原子炉の建設並びにそれに関連する放射性物質の取扱い上不可欠な放射線の防禦に関し最も普遍的な構造部材であるとともに有効にして経済的な遮蔽材とみなされる特殊セメントおよび特殊コンクリートについて、その製造に関する基礎的研究とこれらセメントおよびコンクリートの一般的性状並びに遮蔽性能に関する研究を行う。

(28)燐鉱石よりウラン抽出に関する中間試験
1.実 施 者 日産化学工業(株)
2.予   算 15,243千円
3.研究内容

 現在の燐酸肥料工業を利用し、合理的に燐鉱石よりウランを抽出する方法を検討することを目的とし、29年度は基礎研究を行い、30年度は中間試験の規模で次の方針に従い行っている。
 燐酸と共存する数量のウランの分析法の確立、燐鉱石、燐酸液および製品(過燐酸石灰、重過燐酸石灰、焼成燐肥等)中のウランの含有量の測定。
 肥料製造法に大なる変更をきたすことなく、これらの燐鉱石、燐酸液または製品からウランを抽出分離する方法の検討、工業的製造方法、原単位、原価の確立を期し、工業的生産の基離資料を得んとするものである。

(29)ウランの精錬に関する研究
1.実 施 者 工業技術院電気試験所
2.予   算 3,000千円
3.研究内容

 ウランを原子燃料として用いるためには著しく高純度のものが要求され、特に中性子を多く吸収する元素は十分取り除く必要がある。
 ウランの塩化物または弗化物を熔融電解する法によれば、比較的高純度の金属ウランが得られるので、この方法についての基礎資料を得んとするものである。

(30)カルシウム還元による金属ウランの製造
1.実 施 者 (株)科学研究所
2.予   算 2,019千円
3.研究内容

 原子燃料として十分使用しうる高純度の純金属ウランを製造することを目的とし、酸化ウランから弗化ウランを製造し、これを金属カルシウムで還元する条件を検討せんとするものである。
 予備実験においては湿式法により本実験においては乾式法により四弗化ウランを製造して金属カルシウムで還元を行っている。

(31)ウラン核分裂生成物、プルトニウムの相互分離に関する研究
1.実 施 者 (財団法人)学術振興会(木村鍵二郎)
2.予   算 1,772千円
3.研究内容

 原子炉から取り出された使用ずみ燃料を化学的に処理してウラン核分裂生成物プルトニウムの分離を行い原子炉燃料を再生するとともに核分裂生成物をふくむ放射性廃棄物を一括して分離する方法を研究することを目的とする。
 ウランとプルトニウムとの分離はイオン交換法、有機溶媒抽出法、共同沈でん法、ラジオコロイド法を試みて最良の方法を決定し、また硝酸ウラニル水溶液および硫酸ウラニル水溶液から、もっとも能率よくウランを抽出するために必要な条件を、イオン交換樹脂・有機溶媒等を用いて検討する。なお科研サイクロトンを用いてU−239を製造し、これから生成されるプルトニウムを実験試料として研究を行っている。

(32)放射性廃液の処理
1.実 施 者 (財団法人)学術振興会(広瀬孝六郎)
2.予   算 6,865千円
3.研究内容

 従来から行っている水処理法(すなわち、沈でん法、砂ろ過法、散水ろ過法、活性汚泥法)の研究を基礎とし、放射性廃液処理を行うことを目的とする。このため、核分裂生成物を輸入して、これを分析し、これから有用なものをできるだけ回収した後、これを処理して環境衛生に障害をおよぼさないようにするために必要な方法を研究する。

(33)放射性廃ガスの処理
1.実 施 者 (財団法人)学術振興会(鈴木伸)
2.予   算 937千円
3.研究内容

 原子炉内における燃料の核分裂から生ずる放射性廃棄ガスについて、次の諸項目の研究を実施する。
 1)原子炉において発生する気体の種類の明確化と、その発生機構に関する研究
 2)対象となる放射性ガス並びに放射性エアロゾルの性状およびエアロゾルの除去法、捕集法、分析法等の研究。
 3)放射性ガス並びに放射性エアロゾルの除去装置の設計と、これ等の原子炉内における配置の問題に関する研究。

(34)放射性廃液汚泥の処理
1.実 施 者 (財団法人)学術振興会(合田健)
2.予   算 622千円
3.研究内容

 放射性廃液の安全処理法の一部として、放射性物質を含む廃液から生ずる汚泥の処理法を確立するため、イオン交換、電解、強制沈でんおよびろ過等の各方位の比較実験を行い、残滓の諸性質、処理効果等を調べる。
 なお、この実験は貯留実験をも兼ねているので、これを放射線源として利用し、各材質に対し、いろいろの条件で遮蔽効果をも検討する。

(35)放射性廃棄物の処理研究
1.実 施 者 工業技術院東京工業試験所
2.予   算 1,900千円
3.研究内容

 核分裂生成物から、有用な放射性同位元素を分離する方法として、イオン交換樹脂の選択的吸着性および溶離溶液の選択的溶離性を利用する方法について検討を行う。

(36)放射性廃棄物処理の研究
1.実 施 者 工業技術院名古屋工業技術試験所
2.予   算 1,000千円
3.研究内容

 放射性廃液の濃縮ならびに、放射線源として有用な放射性同位元素の分離技術を研究する。
 内容:1.隔膜電解法による放射性廃液の濃縮放射性廃棄物を化学処理して生ずる放射性廃液は、その後の取扱いの便宜上、濃縮することが必要であるので、陽イオンおよび陰イオン交換膜を用い、隔膜電解法によって廃液を連続濃縮する方法を検討する。
    2.粘土類による放射性の吸着分離廃液中の放射性物質を、粘土類により吸着分離し、これを焼結して取扱いの簡便化を図る。
    3.溶剤による放射性物質の抽出分離無機あるいは有機溶剤を用い、放射性廃液中から工業的に放射線源として用い得る放射性同位元素を分離する方法を研究する。

(37)ウラニウム資源調査
1.実 施 者 工業技術院地質調査所
2.予   算 19,660千円(内7,660千円は29年度分の繰越分)
3.調査内容

 従来からウラニウム鉱の存在を知られている鉱床のほか、世界各地の例にかんがみ、金属鉱床および堆積岩についても調査を行う。
 なお調査に必要な技術の確立を期している。広域の調査として昨年度に引続き福島県阿武隈地域、岐阜苗木地域、岡山県倉敷、鳥取県小鴨を中心とした地域について、エアポーン、カーポーン調査を含めた地質物探地化学調査を行う。
 金属鉱床としては山口県、奈良県、兵庫県等の鉱床につき精査し、探査地域は30年度10数ヵ所に渡っている。
 なお手持ちの各種標本につき、精密な試験をも行っている。