原子力開発利用基本計画策定要領の決定について

 わが国における原子力開発は平和的目的にのみ限られることはいうまでもないことであるが、平和的利用の面においても、なおわが国の原子力の開発状況は列国に比べて著しく立ち遅れている現状にあり、一方将来のエネルギー需給の面では世界の工業国中において最も困難な問題を内蔵していると考えられる。このような状況の下にあっては、できる限りすみやかに原子力開発を推進しなければならないのであるが、国家財政の規模等から考えて先進諸国が原子力開発に投下したごとき資金量をわが国の原子力開発のため調達することはほとんど不可能である実情にかんがみ、資金の効率的使用を図るため原子力開発を計画的に推進する必要性がつとに叫ばれていた。

 以上の趣旨により、原子力利用準備調査会においては、わが国の原子力開発の基本方針について審議した結果昨年11月原子力研究開発計画を決定した。

 その後昨年末にいたり原子力基本法が制定される一方総理府に原子力局が設置され、また原子力委員会が発足することになり、ようやく原子力開発の行政機構が確立整備されることになったのであるが、特に原子力委員会は原子力基本法により、「原子力の研究、開発及び利用に関する国の施策を計画的に遂行」するために設置されることになったものである。

 また第24国会に提出された日本原子力研究所法第24条及び原子燃料公社法第20条の規定によると、日本原子力研究所及び原子燃料公社はそれぞれ、「原子力委員会の議決を経て内閣総理大臣が定める基本計画に基いて行わなければならない」こととなっており、これにより日本原子力研究所及び原子燃料公社の発足に当り原子力委員会及び内閣総理大臣は基本計画の策定を法律的に要請されることになったのである。

 原子力委員会はこのような状況にかんがみ、さきに原子力利用準備調査会が定めた原子力研究開発計画を一応白紙にもどし、新たにわが国の原子力開発利用に関する基本的総合的な計画として原子力開発利用基本計画を策定することに決定したが、なにぶんこの基本計画は原子力利用準備調査会の改定した原子力研究開発計画に比べるとその範囲が広汎にわたるのみならず種々の複雑な問題も内蔵しているので、まず第一着手として3月22日原子力開発利用基本計画策定要領を定め、いかなる方法で基本計画の策定を行うかを決定した。

 この策定要領によると、基本計画は長期計画と年度計画の二つに分かれるものであり、長期計画は現在の段階では具体的計画として策定することは困難な状況なので、問題点の摘出、その対策、開発の目標等を中心として策定するにとどめ、具体的事項については基本計画に基づき毎年策定される年度計画に記載することになっている。したがって、日本原子力研究所及び原子燃料公社の発足に当り当面必要となる基本計画としては、昭和31年度においては年度計画をもって充てられるものと考えられる。

原子力開発利用基本計画策定要領

31.3.23
原子力委員会決定

I 策定の目的
 原子力の開発及び利用に関し基本的総合的な計画を策定し、これに基き原子力の平和利用を計画的かつ効率的に推進させることを目的とする。

II 策定の大要
(1)この計画は、長期計画及びこれに基き毎年策定される年度計画とし、基礎研究と応用のための計画とを併せ考慮して策定するものとする。
(2)長期計画は、現在の段階では、その具体的計画の策定が非常に困難である事情に鑑み、わが国が原子力利用開発を行うに当っての将来の問題点の摘出、それに対する対策、その見透し、及び開発の目標についての基本的事項を中心に策定し、年度計画は、現実に即した実施計画とする。
(3)基本計画の内容には、次の事項を記載するものとする。
  1.原子力開発の基本的方針
  2.原子炉の設計、建設、利用等に関する事項
  3.原子力開発用器材の充足に関する事項
  4.核原料物質及び核燃料物質の開発及び管理に関する事項
  5.アイソトープの利用に関する事項
  6.放射線障害防止に関する事項
  7.研究者及び技術者の国内及び国外における養成訓練に関する事項
(4)この計画の策定に当っては、次の事項を考慮するものとする。
  1.わが国における電力需給その他石炭石油等エネルギー需給の見透し
  2.わが国における関連産業の生産能力及び技術水準等
  3.原子力に関する国際情勢の見透し
  4.諸外国における原子力の開発利用の状況及び見透し
  5.その他

III 策定の方法
(1)原子力委員会は、この計画の立案に資するため、参与のうち、適当な者若干名のほか、専門委員を以て構成される小委員会を設ける。
(2)この計画の策定に当っては、必要に応じて関係官庁、日本学術会議、日本原子力研究所、日本原子力産業会議等と連絡をとるものとする。
(3)長期計画は、本年6月30日までに策定することを一応の目標とするが、昭和31年度計画の策定が至急に要請されている事情に鑑み、長期計画のうち昭和31年度計画の策定に必要な事項については、昭和31年度計画を本年4月30日までに策定できるよう早急に決定するものとする。