原子力産業会議設立の提唱

 1月27日の第8回定例委員会において、正力委員長から次のごとき提案が行われた。すなわち原子力の平和利用開発は、挙国一致の形ですすめなげればならぬと考えるが、たとえば学界のごときは、日本学術会議というのがあって学界の意見というものがそこを通じて総合されて出てくるが、一方民間産業界の声をまとめて出してくる機関がないことは正しい発展を実施する上に不十分と思われる。これまで民間でも原子力平和利用調査会などいくつかの機関があるのは事実だが、これらがバラバラに存在するだけではその役割を十分果すことがむつかしい。しかし既存の機関を発展的に解消し一つの大きな団体に再構成することは誰でも必要と認めながら従来の行きがかりもあってなかなか実現しない事情にある。そこで委員長が音頭とり役を買って出てひろく民間に原子力産業会議の設立を提唱したい。

 この提案にたいして各委員から、それが民間産業の自発的機関であるべきであるとの意見が出され、原子力委員長としては原子力産業会議設立の提唱だけを行うにとどめられたいむねの発言があり了承された。その結果、2月3日総理大臣官邸に民間代表者数十名を招き席上正力委員長から別項のごとき声明書が発表された。

 この正力声明にこたえて、民間産業界は直ちに設立準備小委員16氏を委嘱し、3月1日創立発起人総会を開催、社団法人日本原子力産業会議として発足することとなり、3月14日正式に設立が認可された。

原子力産業会議設立の提唱

原子力委員会委員長 正力松太郎

 原子力平和利用の実現を目ざし、原子力基本法に基いて政府は原子力委員会を中心にわが国原子力平和利用の歩むべき基本方向、開発のための諸方策等について具体的検討を開始したが、検討を進めるに従い益々その開発の緊要性を痛感するに到った。

 特にわが国エネルギー資源の現状を見るとき、その主要エネルギー源である石炭、水力等は資源的にも経済的にも次第に需要に追いつかなくなりつつあり、わが国経済発展の将来性についても危惧されている。従って原子力発電を1日も速かに実現することが急務と考えられる。

 更に原子力のエネルギーへの利用は、その一面にすぎず、アイソトープの利用は、医療、農業、工業等の各方面にわたっての改善、発展に偉大なる貢献をもたらすものである。

 私が原子力平和利用の実現を1日も早く期待するのも以上の如き理由によるものである。

 併しながらこのような原子力平和利用の実現のためには、広く各界にわたる協力が必要であり、いわば国民的な協力と理解の上に始めてその成果が期待できるものである。特に原子力産業は、関連産業の総合の上に成り立ついわば総合産業であり、これら関連産業の緊密な協調連繋によりその発展が期待されるものである。他方原子力産業の確立とその進展により関連産業延いては産業全般が、その技術水準を向上し得るものと確信している。

 私はこのような考えから、既に外国にもその例が見られるように原子力産業会議の設立を提唱するものである。

 原子力産業会議は、原子力開発の関連する全民間産業が相協調し、原子力委員会の行う原子力平和利用に関する基本政策の決定に当り民間産業の総意を反映させると共に各産業の研究成果を結集し、著しい立遅れを示しているわが国の原子力開発を重点的、且つ効果的に推進し延いては人間社会の改善と世界の平和と繁栄のための原子力産業の発展に先駆的役割を果されることを切望するものである。

 私は、産業界の指導者各位が原子力開発の重要性に意を致され、原子力産業会議設立の趣旨に賛同され民間の創意において之が実現に御尽力されんことを期待し且つお願いするものである。