天然ウランおよび重水の購入折衝について

 かねて財団法人原子力研究所は、昭和31年度の研究計画の一つとして、天然ウランおよび重水を研究用原子炉とは別箇に購入して基礎実験を行いたい意向を有していたが、委員会にたいしては、1月5日の第2回臨時委員会において駒形副理事長から31年度原子力研究所予算案の説明の際にその意向が表明され、委員会の了解をえた。

 これより先、原子力研究所は昨年12月26日付書簡をもって外務省国際協力局長宛に、わが国の天然ウランおよび重水購入希望に関する米国側の意向を打診するよう依頼していたが、1月19日、以下のごとき諸点が判明したむね外務省から連絡があった。すなわち

(1)米国における天然ウラン燃料棒の形状は直径1インチ、長さ8インチに規格されていること。
(2)天然ウランについては米国側においても貸与か売却か決定しておらぬため売却を希望する場合は、日本政府よりそのむね正式に申入れる必要があること。
(3)重水についてはすでに他国に売却した経験があり、売却契約のドラフトを送付すること

 以上の回答にもとづき原子力研究所は、1月20日原子力局長宛、実験用天然ウラン4トン、重水4トンの購入実現方斡旋を依頼してきた。

 また同時に、原子力研究所は、ウオーターボイラー型原子力炉の購入交渉のため派米する杉本、神原両所員をして、天然ウランおよび重水の購入に関しても折衝せしめたいむね要請してきたので、原子力局では委員会にはかって、上記の申請を承認するとともに、1月25日外務省国際協力局長宛に便宜取りはからい方を依頼した。

 在米日本大使館は、2月15日書面をもって米国政府にたいし、天然ウラン4トンの売却を希望するむね正式に申入れたが、これにより米国原子力委員会は、天然ウランを外国に売却する場合の契約ドラフトを研究している模様である。

 他方重水に関しては、1月末に米国政府から売却アグリーメント・ドラフトを送付してきたが、その内容は政府対政府の契約の形をとっており、財団法人原子力研究所が直接それを購入する場合には不適当と思われたので、そのむね外務省を通じ再度問合せたところ、米国政府は上記ドラフトが米印間のアグリーメントと同一であったことを認め、改めて民間購入者と直接契約するばあいのドラフトを送付してきた。

 重水購入に関する新しい契約ドラフトは、3月16日の第18回定例委員会で報告されて承認をえ、このドラフトにしたがって、原子力研究所が重水を米国から購入することを決定した。重水購入に関するアグリーメント(案)は下記のごとくである。

重水購入契約案 (仮訳)

(1956年2月23日)

 本契約(agreement)は1956年  日、合衆国原子力委員会(以下「委員会」と称する)と(購入者)(以下    と称する)との間で結んだものである。

 両者は以下のごとく同意せることを確認する。

1.委員会は純度0.9975を下らぎる重水〈酸化重水素D2O)すなわちD2Oとして計算された重水素含有量が99.75モル%もしくは99.775重量%(註1)を下らざる重水  ショート・トン(註2)を(購入者)に売却し、引渡し、(購入者)はこれを購入し、受領する。
2.(購入者)に対する価格は重水1ポンド当り28.00米ドルとし、引渡しの際合衆国通貨をもって支払われるものとし、容器・包装・純度分析・船積準備に必要な実費に相当する額を加算する。
3.上記価格は引渡しの都度委員会が指定した工場地点におけf.O.b.価格とし、引渡しは同地点において(購入者)に受領されるものとする。
4.本契約に基づいて売買された重水の受授は以下の条項に従ってなされるものとする。
  その都度における引渡しは(購入者)からの要請受領後可及的速かに行われる。この点に関し(購入者)は少なくとも試料品検査より1箇月前に引渡しの要請を行うこと。
5.引渡しに先立ちこの契約に基づいて売却された重水は委員会により用意されたステンレスティール製容器に船積のため荷造される。右の容器は引渡しのため委員会によって清潔にされ、試験され、記標される。本節に基づき委員会の要した容器および他の費用は委員会により証明され第2節の規定のごとく(購入者)により補償される。
6.本契約に基づき売却された重水は、引渡しが(購入者)により受領された後においては(購入者)がすべてのリスクを負担するものとする。この間明記せるにせよせざるにせよ又法定のものにせよなんらの保証もない。かかるリスクは本契約第5節に従ってなされた容器・包装あるいは委員会の他の行為により生じた損失あるいは損傷を含むものとする。上述にもかかわらず、委員会は輸送中に生じた重水の損失もしくは損傷に対して同価格で本契約の他の条項に基づき取替えるべく追加供給する。
7.本契約に基づいて売却された重水の重量および重水素含有量は正規の手続にしたがって委員会により確認され証明されるものとする。相互の同意する手続にしたがい(購入者)は引渡しを受けるに先立ち重水の純度を試験することができる。クレイムはすべて引渡しお年び受領の前になされねばならない。
8.委員会は本契約に基づく重水引渡し上のいかなる不履行もしくは遅延に対しても、いかなる原因に基づくものにせよ責任を負わないものとする。
9.(購入者)は本契約もしくはそれに含まれるいかなる利益をも譲渡したいことに同意する。本契約に基いて売却された重水は      において非軍事用研究炉と関係を有する(購入者)によってのみ利用され(購入者)によって保持され、転売もしくはその他の方法により分配してはならない。
10.本契約はアメリカ合衆国法律にしたがって解釈されるものとする。

  以上の証として上記両者は正当に授権された代表により冒頭に記載した年月日において本契約に記名調印した。