核原料物質開発促進臨時措置法案立案の経緯について

1.は し が き
 核原料物質開発促進臨時措置法案は、去る3月12日国会に提出され、即日、衆議院科学技術振興対策特別委員会に付託になり、同月30日衆議院本会議を通過して、現在(4月17日)参議院商工委員会に付託されている。以下、本法案の立法の過程をたどってみることとする。

2.政府案の立案(その1)
 昭和29年の秋頃、工業技術院地質調査所からウラン鉱の調査にあたり必要があるときは他人の土地、鉱業権者等の事業場に立入って調査ができるようにしてもらいたいとの要望があり、当時の経済審議庁計画部計画2課が中心となって関係者の間で種々検討したのが、本法案の立案の端緒というべきであろう。しかし、この際は、事実上政府の原子力政策に関する最高諮問機関である原子力利用準備調査会の総合部会でも、時期尚早との意見が強く実を結ぶにはいたらなかった。

 その後、欧米各国における原子力利用の実情も次第に明らかになり、わが国においても、原子力の研究の必要性が痛感されてきたので、政府部内では、通商産業省鉱山局が中心となって、経済企画庁原子力室等関係各方面と緊密な連絡をとりながら本法案の立法作業を進めた。そうして、昨年12月「ウラン鉱及びトリウム鉱開発促進法案」という名称で第23臨時国会に提出すべく準備したが、この法案は、原子力基本法の制定後に制定するのが筋ではないか、臨時国会に提出する緊急性はないではないか等の意見が強かったために臨時国会提出は、見送りとなった。

 この政府案は、
(1)通商産業大臣は、ウラン鉱、トリウム鉱の探鉱のため必要があるときは、その職員に他人の土地または鉱業権者等の事業場に立入らせることができ、その職員は、探鉱の障害となる植物の伐採、探鉱のため必要な最少限度の量の土石の採取をすることができる。
(2〉通商産業大臣は、ウラン鉱、トリウム鉱の探鉱のため必要があるときは、鉱業権者等に通知して、その事業場を一時使用することができる。
(3)通商産業大臣は、ウラン鉱、トリウム鉱の探鉱のため、坑口の開設等をするときは、他人の土地を使用することができる。
(4)通商産業大臣は、ウラン鉱、トリウム鉱を目的とする鉱業権者等がその開発に着手しないときは、開発の指示をすることができる。
等をその主な内容とするものである。

3.原子力合同委員会案の発表
 これより先、ジュネーヴの国際原子力会議に出席後欧米諸国を視察して帰国した中曽根康弘(民主)、前田正男(自由)、志村茂冶(左社)、松前重義(右社)の諸氏(いすれも当時の党籍による。)が中心となって、国会議員による超党派の原子力合同委員会を結成し、同委員会は、昨年11月20日原子力法体系要綱を発表した。この要綱中の「核燃料資源開発促進法案要綱(案)」は、政府部内で検討中であった政府案を参考としながら独自の構想を取入れたもので
(1)主務大臣は、核原料資源(ウラン鉱およびトリウム鉱をいう。)の探鉱を行うため必要があるときは、その職員または主務大臣の指定する者を他人の土地または鉱業権者等の事業場に立入らせることができ、その立入った者は、探鉱の障害となる竹木の伐採、資料の収集をすることができる。
(2)主務大臣または主務大臣の指定する者は、坑道等を開設するため他人の土地または鉱業権者等の事業場を使用することができる。
(3)鉱業法の特例を定め、核原料資源を掘採しようとするときは、鉱業法第67条の規定により核原料資源存在の確認を要する。
(4)主務大臣は、核原料資源を目的とする鉱業権者等がその掘採を行わない場合には、その掘採を命じ、または政府の指定する者に代出鉱をなさしめ、さらに必要な場合には、鉱業権等の買取をなさしめる。
(5)政府は、探鉱助成金や探鉱奨励金を交付する。
等をその主な内容とする。

 この原子力合同委員会案は、政府案に比し、より積極的であり、原子燃料公社等の存在を前提として作られている点に特色がある。

4.政府案の立案(その2)
 本年初頭、原子力委員会、原子力局が発足し、一時は議員提出になる見込であった本法案は、再び内閣提出となったため、通商産業省鉱山局がその原案の作成に当たった。

 この政府案は、去る臨時国会に提出すべく準備した案に原子力合同委員会案を参考として立案したもので
(1)通商産業大臣または公社は、核原料物質の探鉱のため必要があるときは、その職員に他人の土地または鉱業権者等の事業場に立入らせることができ、その職員は、探鉱の障害となる植物の伐採、探鉱のため必要な最少限度の量の土石の採取をすることができる。
(2)通商産業大臣または公社は、核原料物質の探鉱のため必要があるときは、鉱業権者等に通知して、その事業場を一時使用することができる。
(3)通商産業大臣または公社は、核原料物質の探鉱のため、坑口等の開設するときは、他人の土地を使用することができる。
(4)通商産業大臣は、核原料物質を目的とする鉱業権者がその開発に着手しないときは、開発の指示をすることができ、これに従わない鉱業権者があるときは、公社の申請により、その鉱業権に租鉱権を設定する旨の決定をすることができる。
(5)通商産業大臣は、核原料物質を目的とする鉱業権者に奨励金を交付し、内閣総理大臣は、核原料物質の探鉱に寄与した者に賞金を交付する。
(6)この法律は、公布の日から10年以内に廃止する限時法とする。
等をその主な内容とするものであり、「核原料物質開発促進臨時措置法案」と称する。この最終案は、原子力委員会に付議し、その同意を得、それと並行して内閣法制局の審議も終えた上3月6日閣議決定をして今国会に提出された。

 この核原料物質開発促進臨時措置法案は、原子力基本法の制定、原子力委員会の発足、科学技術庁の設置の決定、原子燃料公社法案の国会提出等の新しい情勢に即応して立案されたもので、内閣総理大臣が探鉱計画を定める場合には、原子力委員会の議決を経なければならないものとしたこと、通商産業大臣と並んで公社が土地立入、使用、事業場の一時使用をできることとしたこと、開発の指示に従わない鉱業権者があるときは、公社が租鉱権を設定できる途を開いたこと、政府が奨励金、賞金を交付できることとしたこと、限時法としたこと等が旧政府案と異なる主な点で原子力合同委員会案の構想への歩み寄りと、新情勢への即応の跡がみられる。