4.その他

(7)原子力モニターから提出のあった意見等の概要

平成8年7月24日
科学技術庁

 原子力モニター(平成8年7月現在1074名)より提出のあった原子力に関する意見等(792通)について,その主なものを整理すると以下のとおりである。


1.原子力と社会,特に安全・安心に関する事項
(1)原子力の安全確保(技術的な安全性,事故故障,放射線等)に関する事項
①原子力の安全確保一般
・「絶対安全」はあり得ないことを踏まえた上で最善の安全確保を求める。
・何重ものチェックや安全対策を求める。
・安全規制行政への不信。

②放射線被ばく
・子供たちの被ばくや生まれてくる子供たちへの影響が不安。
・放射線の人体への影響をなくすことができなければ原子力開発は行うべきではない。
・原子力発電所の通常時の影響,X線検査等の影響も不安。

③「もんじゅ」事故
・  「もんじゅ」事故で原子力の安全性に関する信頼を失った。
・  「もんじゅ」事故の徹底的な原因追究とその説明を求める。
・  「もんじゅ」事故後の対応,運転マニュアル等が不適切。
(2)人々の「安心感」というような心理的,社会的な安全に関する事項
①チェルノブイル事故のような事故が日本でも起きないか不安。

②事故への不安
・原子力の事故の被害はとても大きなものとなるので不安。
③環境放射能に関する意見
・原子力発電所周辺には,放射能の影響が出ているのではないか。
④核兵器を連想した不安
・原子力という言葉からは核兵器を連想して不安。
・日本が平和利用に徹していることについてはきちんと主張すべき。

⑤安全をどう考えるか
・安全性を説明するときに「絶対に安全」という表現を使わず,危険性も認めた上で可能な限りの安全確保が行われていることを説明すべき。
・原子力の持つ危険性も明らかにして,それへの対応策を説明することが安心や理解につながる。


2.エネルギーと原子力に関する事項
(1)世界のエネルギー情勢に関する事項
①世界のエネルギー情勢

②原子力に関する国際協力
・アジア諸国における原子力開発利用の機運の高まり。
・日本はその技術を役立てて,海外の原子力安全などについて協力すべき。
・原子力の安全対策は,各国共通の問題。
(2)ライフスタイル,社会・経済構造とエネルギー需給に関する事項
①ライフスタイル
・社会の消費や浪費を見直すべき。
・ライフスタイルや生活意識の変革を行うべき。

②エネルギー需要
・エネルギーの80%以上を輸入に頼っている日本は,国内でのエネルギー生産が必要。
・電力使用量別の従価税方式を採用し,エネルギー使用量の増加の抑制を図るべき。
(3)地球環境とエネルギー需給に関する事項
①原子力と環境
・地球環境への配慮が必要。
・原子力発電は二酸化炭素の発生量が少なく,地球温暖化防止に寄与。
・水力発電は環境に影響。火力発電は二酸化炭素が多量に発生。
・開発途上国の工業化に伴い,化石燃料の消費が増え,地球温暖化が進むことを危惧。
(4)省エネルギー,新エネルギーに関する事項
①省エネルギー
・発電効率の向上,省エネ型電気製品の使用等省エネルギーを進めるべき。
・国民一人一人が個人,家庭,企業のレベルの省エネに取り組むべき。

②新エネルギー開発
・太陽エネルギー,風力エネルギーのようなクリーンで安全な新エネルギーの開発を推進すべき。
(5)原子力エネルギーの意義に関する事項
①原子力の必要性
・有限な資源を考えれば原子力を使うべき,または使わざるを得ない。
・原子力は環境に優しく,コストも安い。
・本当に原子力が必要なのか,または今以上に必要なのかどうか疑問。
(6)エネルギー源の選択に関する事項
①エネルギー源の選択
・石油系資源の枯渇,自然エネルギーの発電量を考えると原子力発電を選択。
・コストが大きくとも安全なエネルギーを望む。


3.原子力と核燃料リサイクルに関する事項
(1)原子力開発利用政策のあり方に関する事項
①原子力研究開発利用長期計画
・長期計画は時代の要請に併せて柔軟に変化させるべき。
②動燃事業団の体制
・メーカー任せであること等動燃事業団の体質を徹底的に洗い直すべき。
・技術者は過剰な自信を持ちすぎ。

③モラトリアム
・原子力開発利用について5年程度のモラトリアムを提案。
(2)総合科学技術としての原子力開発の意義に関する事項
①原子力の研究開発
・原子力は今やトップクラスの技術を持つに至っており,日本が自ら新しい技術の発見と開拓と実践に出発しなければならない。
・税金を原子力の研究開発や安全対策に十分に有効活用すれば,国と国民との二人三脚での原子力利用も可能になる。
②放射線利用の意義
・農業分野での放射線利用を推進すべき。
③核融合
・将来の原子力利用の本命となるのは核融合で,成功すれば太陽光発電等とともに重要なエネルギー源となるだろう。
・核融合による原子力発電は,クリーンなエネルギー源であり,その開発が非常に期待される。
(3)核燃料リサイクルの意義・展望等に関する事項
①核燃料リサイクル
・核燃料リサイクルは原子力の重要な柱であり,限りある資源を少しでも長く維持していくため,最先端の技術を投入してリサイクルして行くべき。
・なぜ日本だけが核燃料リサイクルを進めているのか。将来の高レベル廃棄物の処分の問題もあり,核燃料リサイクルはやめるべき。

②プルトニウム利用
・「あかつき丸」による海上輸送への非難,高速炉用プルトニウムの軍事転用可能性,発ガン性,有毒性などの理由から,プルトニウム利用については国内外に様々な批判がある。
③使用済燃料の処理
・使用済燃料の処理がどうなるのか不安。
・使用済燃料の貯蔵問題について,国の政策がはっきりしていないため,立地県や住民の不信感が強まるのではないか。

④放射性廃棄物処理処分
・放射性廃棄物の処理処分が不安。しっかりとした対策を望む。
・高レベル放射性廃棄物の最終処分場が決まらないままに原子力発電を続けることに不信,不安を感じる。
・原子力の理解増進のためには,高レベル放射性廃棄物最終処分方法の確立が最優先課題。
・高レベル放射性廃棄物については,再分離による有用資源の回収と消滅処理等の廃棄物の利用に関する研究も行うべき。

⑤廃炉
・廃炉に際しては,従事者はもとより地元住民等への影響が心配。
・廃炉に関して,解体撤去の方法,跡地の利用,コスト等などをわかりやすく説明するべき。

⑥高速増殖炉
・日本が高速増殖炉の研究に取り組んでいるのは頼もしい。
・「もんじゅ」事故により増殖炉技術の困難さを強く印象づけられ残念。
・人類の将来を担う重要技術として長期的視野で研究を進めるべき。
・「もんじゅ」の安全性と必要性には疑問を感じる点が多い。

⑦核燃料サイクル施設の立地
・原子力施設の立地は,経済効果が望めることや,最先端の技術・情報の発信源になり得ることから立地地域への利点もある。


4.原子力と社会との関りに関する事項
(1)人間の文化・社会と原子力の関りに関する事項
①人間の文化・社会と原子力の関り
・文明の発達は,危険の上に成り立っているものであり,危険との共存を認めるべき。また,原子力の危険度は低い。
・大きなリスクを持っている原子力を推進するべきではない。
・事故の重大さに鑑み,原子力従事者が人間文化を推進する誇りや責任感等を持てる教育が必要。
・原子力は必要最小限,または現状維持にとどめたい。

②人類は原子力を使いこなしていくべき
・人類は原子力を有効適切に,安全に使いこなしていかなければならない。
・環境問題も含めて,原子力発電を社会的,文化的問題として考えるべき。
(2)地域社会における安全,安心に関する事項
①防災対策
・事故発生初期において,関係機関を結ぶホットライン等連絡方法を整備すべき。
・非常事態の対応マニュアルを作り,各自治体職員の教育訓練をすべき。
・万一の原子力災害に備え,地域に即した研修や住民参加の防災訓練を実施する等,平時から,防災対策の周知徹底に努めることが必要。
(3)地域振興,電源立地地域と電力消費地の関係に関する事項
①原子力発電所の立地
・原発誘致のメリット,デメリットを明らかにすべし。
・原子力発電所はエネルギーを沢山必要とする東京等に建設すべき。
・立地県と非立地県との間で原子力に対する関心のずれが生じる。生産者と消費者が協力して,理解すればよい方向に進んでいくと思う。
・使う側が当事者としての認識なしには安易な反対はできない。
・電源地域の住民が誇りを持てるような,また,都市住民が地方の実状がよく理解できるような原子力行政を望む。
・電源供給地の人に対する消費地の無理解と無責任さを解消する努力が必要。

②地域振興
・交付金による事業に関しては諸々の制約をもつと緩和し,広く財源を利用できるようにすべき。
・立地地域から優秀な人材を多く雇用して欲しい。
・電源立地地域にとって必要なのは,Uターンしても安心して働ける環境など,若い世代の地元定着の施策を講じることではないか。
(4)原子力に関する教育,広報啓発活動,報道の重要性・役割に関する事項
①地域社会における原子力に関する説明の強化
・発電所の近くでは活発な反対運動が目立ち,マイナス面のみ強調されるが原子力がもたらすプラスの面を強調,啓発すべき。
・原子力施設の安全面に関する地元住民への情報提供が不足している。
・原子力立地推進には,地元住民の理解と協力が必要である。

②原子力に関する説明
・原子力について知る機会がほとんどなく,与えられる情報も少ない。
・もつと国民に知る機会や原子力についてのわかりやすい情報を提供すべき。
・危険性,デメリットについてもつと知らせるべき。
・日本のエネルギー需給,環境問題などの観点からの理解増進を図るべき。

③報道の役割やあり方
・マスコミの報道には,国民の不安を煽ったり,偏ったものが多い。
・マスコミは原発の負の部分ばかり強調する。
・原子力の安全性や必要性を正しく報道すべき。

④教育における原子力の取扱い
・エネルギー問題は重要で,原子力に関する正しい知識を学校教育でもつと取り上げていくべき。
・原子力施設の見学等を教育現場で実施すべき。
・教師の理解を深めるべき。
・選択する意志を持った人間を作る教育が必要。
(5)情報公開の促進に関する事項
①情報公開
・国民全体が議論できる(対話型の)原子力の情報公開が必要。
・正確かつ敏速な情報の提供を通した国民の理解を深めることが必要。
・パソコン,FAX等を活用した情報公開を求める。
・誰にでもわかるように情報を公開し,一般の人が参加できる説明会や報告会を開催してほしい。

②事故の情報を公開すべき
・事故に関する情報を完全に公開することが,国民の理解を得て,国民に信頼感や安心感を与えるために必要。
・動燃事業団の事故隠しは国民に不信感を持たせ,極めて遺憾。

原子力白書 (平成8年版)  平成9年3月10日 発  行   定価は表紙に表示してあります。
 編集 原子力委員会
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 発行 大蔵省印刷局
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 ISBN4-17-182371-4


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