第2章 国内外の原子力開発利用の状況
9.原子力分野の国際協力

(4)原子力安全確保に係る国際協力

①原子力の安全に関する条約
 本条約は,特に国際的にその安全が懸念される旧ソ連,中・東欧諸国の原子力発電所を念頭において作成された原子力の安全に関する初めての国際約束である。
 この条約は,原子力の高い水準の安全を世界的に達成・維持すること,原子力施設において,放射線による潜在的な危険に対する効果的な防護を確立・維持すること,放射線による影響を生じさせる事故を防止すること等を目的としており,陸上に設置された民生用原子力発電所を対象としている。各締約国は,原子力施設の安全を規律するため,法令上の枠組みを定め及び維持する等の義務を有するとともに,条約に基づくこれら義務履行のためにとった措置に関する報告を締約国会合における検討のために提出する義務を有している。
1996年7月26日に,我が国を含め25ヶ国(うち原子力発電所保有国17ヶ国)が締結し,本条約の発効要件*が満たされた結果,条約の規定により当該日の後90日目の日である1996年10月24日に本条約は発効した。


*本条約の発効要件:原子力発電所保有国17ヶ国を含む22ヶ国の締結の後90日目の日に発効する。

②旧ソ連,中・東欧諸国との協力
 旧ソ連,中・東欧諸国の原子力発電所の安全性確保は,世界的な焦眉の課題として,国際的に支援方策が検討されています。
 また,冷戦の終了後,旧ソ連などにおける核兵器の廃棄などを進めることは,今後の国際社会の平和と安定にとって極めて重要かつ緊急の課題となっています。
(ア)旧ソ連,中・東欧諸国の原子力安全対策に対する協力
 旧ソ連,中・東欧諸国の原子力発電所の安全性確保は,1992年のミュンヘン・サミット経済宣言において世界的な焦眉の課題として取り上げられ,以来国際的に種々の支援方策が実施されているところである。
 また,ロシアのエリツィン大統領の提案により1996年4月に開催された原子力安全モスクワ・サミット宣言においても,これらの国の原子炉の安全性などの向上に対する努力が認められたものの,一層の進展が必要であり,そのために十分な協力を行う決意が再確認されている。

(イ)非核化支援
 旧ソ連の核兵器の廃棄については,1993年5月の原子力委員会委員長談話にもあるとおり,第一義的には当事国が責任を持って対処すべきものであるが,我が国がこれまで培ってきた原子力平和利用の技術と経験を活かし,旧ソ連の核兵器の廃棄等平和に向けた国際的努力に積極的に協力することは,核軍縮と核兵器の拡散防止に貢献する上で重要である。
 核軍縮プロセスを不可逆的なものとするためには,国際的な計量管理体制を早急に確立するとともに,とくに核兵器の解体により生じるプルトニウムなどの核物質が,核兵器に利用不可能な形態に変換・処分される必要があり,我が国としても国際機関や二国間取極などを通じて積極的に協力していく必要がある。

 また,1996年4月の原子力安全モスクワ・サミットにおいて,核密輸の危険が引き続き存在しているため,核密輸の防止,探知,情報交換,捜査及び訴追のすべての側面での政府間の協力を強化するために,核密輸防止プログラムに合意した。さらに,同サミットにおいては,核軍縮の進展に伴い,防衛目的にとり不要とされた核分裂性物質の相当の在庫が生じており,これらを安全に管理し,使用済燃料または同様に核兵器に利用不可能な他の形態に最終的に変えられ,安全かつ恒久的に処分されることが重要とされた。
 特に,このようなプルトニウムの処理処分の方策については,同サミットの合意を受けて,本年10月パリにおいて国際専門家会合が開催され,原子炉での燃焼,ガラス固化などの方策が検討され,特に不拡散のための適切な条件の下で原子炉の燃料として利用する方策が非常に有望であること,これらの方策においては国際的な検討,処分までの間の核物質防護,計量管理が重要であることなどで意見の一致をみた。
 また,高濃縮ウランの取扱いについては,1994年1月,USECは,ロシアの核兵器解体から取り出される500トンUの高濃縮ウランをロシア国内で低濃縮ウランに転換された形で購入する契約を,ロシア原子力省との間で取り交わした。契約期間は20年で,最初の5年間は高濃縮ウラン換算で毎年10トンU分を,それ以降については,高濃縮ウラン換算で毎年30トンU分を購入することとしている。この契約に基づき,1996年1月までに1995年分186トンU(高濃縮ウラン換算で6.1トンU)の引き渡しが完了している。

(ウ)国際科学技術センター (ISTC*)
 旧ソ連邦の大量破壊兵器関連の科学者,技術者などの能力を平和的活動に向ける機会を提供することを主な目的として,日本,米国,EC及びロシアの四極は,1992年11月に「国際科学技術センターを設立する協定」に署名し,1993年12月に本協定を暫定的に適用する議定書への署名を経て1994年3月に本センターがモスクワに設立された。
 我が国はこの目的のため,プロジェクトへの資金支出及び本センターの事務局次長等の人材派遣などの支援を行っている。


* ISTC: International Science and Technology Center

③旧ソ連・ロシアによる海洋投棄
1993年4月に,ロシア政府は報告書を公表し,旧ソ連及びロシアが長年にわたり北方海域及び極東海域において放射性廃棄物の海洋投棄を継続してきた事実を明らかにした。さらに,同年10月には,日本海において液体放射性廃棄物の海洋投棄が実施された。
 政府としては,ロシア政府報告書公表直後及び10月の投棄の直後にロシア政府に対して厳重に抗議するとともに,放射能対策本部において,海洋環境放射能調査を実施し,これまでの投棄により我が国国民の健康に対して影響が及んでいるものではなく,10月の投棄についてもその影響が認められないことを確認している。
 また,5月,11月の日露合同作業部会を始め,ロシアとの間で随時協議を行い,投棄の実態解明に努めるとともに,日韓露共同調査の実施につき協議を実施した。その結果,まず日本海の投棄海域において1994年3月から4月にかけて,日本,韓国,ロシア及びIAEAの専門家による海洋調査を実施した。1995年7月に共同報告書を取りまとめたが,それによると投棄海域で採取した海水及び海底土からは,日本周辺海域で観測されている放射性核種濃度と差が認められず,かつ人工放射性核種の有意な影響は認められなかった。
 さらに,日本海以外の投棄海域については,1995年1月に開催された日露合同作業部会の議論を踏まえ,1995年8月から9月にかけて,日本,韓国,ロシア及びIAEAの専門家による海洋調査がオホーツク海,カムチャッカ沖などで行われた。
 ロシアによる放射性廃棄物の海洋投棄を防止するには,放射性廃棄物の貯蔵・処理問題の解決が不可欠であり,これは一義的にはロシアが自ら解決すべき問題であるが,政府としてもかかる問題の解決につき協力することとし,日露核兵器廃棄支援の資金の一部を利用して,ウラジオストック付近に液体放射性廃棄物の洋上処理施設を建設することについて意見の一致をみている。現在,施設建設作業中である。
 本施設が完成すれば,極東における液体放射性廃棄物の海洋投棄を将来にわたり防止する上で十分な処理能力を有するものとなる予定である。


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