第2章 国内外の原子力開発利用の状況
6.核燃料リサイクルの展開

(7)核燃料リサイクルをめぐる諸外国の動向

 原子力平和利用を進める上で核燃料リサイクルを行うこととしている国は,フランス,英国,ドイツ,スイス,ベルギー,日本などである。他方,核燃料リサイクルを行わないこととしている国としては,米国,カナダ,スウェーデンなどがある。
 核燃料リサイクルの選択は,それぞれの国ごとの事情によってなされるものであるが,核不拡散の動向やエネルギー資源の状況によるところが大きく,また,経済性の比較,環境への負荷度の評価も大きな要素であると考えられる。とくにエネルギー資源の状況に関しては,ウラン資源の需給動向が大きな要素であり,今日の国際的にウラン需給が緩和している状況は,各国の核燃料リサイクルへの取組に影響を与えている。

①使用済燃料の再処理
1995年現在,世界の再処理設備容量を(表2-6-4)に示す。
(ア)フランス
 自国内で再処理を実施するとともに,外国からの委託再処理も実施している。また,軽水炉でのプルトニウム利用,高速増殖炉の研究開発など,核燃料リサイクルを積極的に推進している。
 C0GEMAは,ラ・アーグに,海外からの委託再処理を行うためのUP-3(処理能力:軽水炉燃料800トン/年,操業開始:1990年)及びフランス国内の使用済燃料の再処理を受け持つUP2-800(処理能力:軽水炉燃料800トン/年,操業開始:1994年)の2つの再処理工場を有している。

 高速炉燃料再処理についてはマルクールにおいて,APM*と呼ぼれる施設(5トンHM*/年)が操業されている。
(イ)英国
 自国内で再処理を実施するとともに,外国からの委託再処理も実施しており,軽水炉でのプルトニウム利用を図っていく方針である。
 BNFLは,セラフィールドの再処理工場B-205プラント(処理能力1,500トンU/年(天然ウラン))に加え,1994年1月よりセラフィールドにおいて,外国からの委託再処理のため1,200トンU/年の処理能力を有する軽水炉燃料の再処理工場(THORP*)の操業を開始した。
 高速炉燃料の再処理については,ドーンレイにおいて既に10トンHM7/年のプラントが操業中である。


*APM:Atelier Pilotede Marcoule
*トンHM:ウランとプルトニウムの金属重量

(ウ)ドイツ
 再処理・プルトニウム利用の推進が基本であったが,EC統合などの背景の下,1989年に自国内での再処理方針から,英仏に再処理委託を行っていく方針に変更した。
 また,これまで原子力法により再処理・プルトニウム利用が義務付けられてきたが,1994年5月,原子力法の一部改正を含むエネルギー一括法案が成立し,使用済燃料の再処理路線と直接処分路線の両立が認められることとなった。このため,発電所内の貯蔵に余裕のある2つの発電所が,1994年12月に英国BNFL社との再処理契約のうち,2004年以降の契約分を解約するなどの動きも見られた。
(エ)ロシア
 自国内で再処理を進めており,1976年に運転開始した再処理工場RT1によりVVER-440の使用済燃料の再処理を実施している。さらに,VVER-1000の使用済燃料の再処理を主目的とした1,500トンU/年の能力を持つRT2の建設を進めている。
(オ)中国
 核燃料リサイクル政策を進めており,使用済燃料は基本的に自国で再処理することとしている。このため,21世紀初頭に再処理のパイロットプラントを操業させる予定としており,さらに,大規模再処理工場を2010年代に操業することを予定している。


*THORP:Thermal Oxide Reprocessing Plant

②MOX燃料利用
 プルトニウムの軽水炉による利用については,主として欧州で実績が積み重ねられている。欧州各国とも新規施設を増設計画中である。
(ア)ベルギー
 デッセルにおいてベルゴニュークリア社が35トンHM/年の工場(PO)を操業中であり,40トンHM/年の新工場(P1)を計画中である。
1993年12月,ベルギー議会は2基の軽水炉へのM0X燃料装荷を承認した。ベルギーでは,1963年から1987年まで研究炉BR-3(PWR,1万キロワット)においてMOX燃料を合計151本装荷した経験を有しており,1995年3月に,商業用原子炉としては初めてチアンジェ2号機(PWR,93万キロワット)にMOX燃料を8本装荷した。

(イ)フランス
1987年から軽水炉でのプルトニウム利用を開始し,1995年には7基(サンローランB1,B2,グラブリーヌ3,4,ダンピエール1,2,ブレイエ2)の90万キロワット級軽水炉でプルトニウムのリサイクルを行っている。最終的には28基に増やす予定でMOX燃料装荷が申請されており,これまでに16基が許可を取得した。燃料加工に関しては,マルクールにおいてC0GEMA,フラマトムが共同で建設した120トンHM/年のMEL0Xが,1995年から操業を行っており,また,カダラッシュにおいてはC0GEMAが35トンHM/年の工場を操業中である。
(ウ)ドイツ
1960年代よりMOX燃料を試験的に使用し,1980年代からは本格的に展開して,現在は9基の軽水炉でMOX燃料を使用している。最終的には20基程度に増やす予定でM0X燃料装荷が申請されており,これまでに12基が許可を取得した。ジーメンス社が,30トンHM/年のハナウ工場においてBWR及びPWR向けのMOX燃料を製造していたが,1991年に操業を停止した。完成を目前に控えていた120トンHM/年の新工場は,完成に必要な許認可の発給拒否や環境保護団体からの訴訟などにより,建設作業が大幅に遅れ,ジーメンス社は同工場の閉鎖を決定した。
(エ)英国
 英国原子力公社(UKAEA*及びBNFLが1993年10月,セラフィールドにおいて8トンHM/年の実証プラントを運転開始させた。さらに,BNFLは120トンHM/年のセラフィールドMOXプラントの建設を1994年4月に開始しており,その操業開始は1997年に予定されている。
(オ)ロシア
 高速炉及びVVER-1000に使用するMOX燃料の加工を行うため,チャリアビンスクにおいて60トンHM/年の新工場を建設する計画がある。
③高速増殖炉の開発
 高速増殖炉開発については,欧州において,1970年代前半にフランスの原型炉フェニックス,英国の原型炉PFR*がそれぞれ運転を開始した。英国のPFRは約20年にわたる運転経験を蓄積し,1994年3月に運転を終了した。フランスのフェニックスは反応度低下のトラブルのため,1990年より運転停止状態となったが,1993年2月には反応度低下の原因究明のための試験運転を実施した。1994年12月にフランス原子力施設安全局(DSIN*は同炉が第49運転サイクルを終えるまで運転を行うことを許可し,同サイクルは1995年4月に予定通り終了,その後寿命延長計画に基づく対策を講じている。ドイツでは,原型炉SUR-300が建設され,連邦政府は安全面,技術面で問題がないとの結論を出したものの,燃料装荷に係る州政府の許可が下りないまま,財政負担の増加により1991年3月に計画が中止された。
 フランスの実証炉スーパーフェニックス(124万キロワット)は,1994年7月に新たな設置許可を取得し,翌8月に臨界を達成,その後,中間熱交換器におけるアルゴンガス圧低下,蒸気発生器からの蒸気漏えいなどを経験しながら,1996年5月に制御棒を交換,60%出力までの運転許可の下,運転を継続している。さらに,同年10月には,90%までの出力上昇の許可を得ており,出力を段階的に上げていくこととしている。同炉は,今後産業規模の高速増殖炉の性能実証,プルトニウム燃焼研究,長寿命放射性廃棄物の燃焼研究に利用される予定である。


* UKAEA: United Kingdom Atomic Energy Authority
* PFR: Prototype Fast Reactor
* DSIN:Direction de la Surete des Installations Nucleaires

 ロシアにおいて,実験炉(BOR-60),大型原型炉(BN-600),またカザフスタンにおいて原型炉(BN-350)が運転中であるほか,これらに続く実証炉BN-800の建設も計画されている。
 このように欧州において,英国,ドイツなど高速増殖炉開発を終了または縮減する例も見受けられるが,これらの国々においては,すでに高速増殖炉技術の開発成果を蓄積しており,短期的なエネルギー事情,とくにウラン需給の緩和,財政事情などから高速増殖炉への更なる投資を控えているものである。
 他方,米国においては,核不拡散の観点から,民生用のプルトニウム利用を行わないとの方針を打ち出しており,予算に示された措置などをみても高速増殖炉開発に対しては消極的である。
④世界のプルトニウム量
 全世界に存在するプルトニウムは,ストックホルム国際平和研究所などの試算によれば,1993年末時点で軍事用が約250トン,民生用が約845トンである。民生用のうち,使用済燃料中のプルトニウムが約701トン,分離貯蔵されているプルトニウムが約110トン,これら以外は核燃料サイクルの工程中に存在しているものである。分離貯蔵されているプルトニウムのほとんどは,英国,フランス及びロシアに存在している。


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