第2章 国内外の原子力開発利用の状況
6.核燃料リサイクルの展開

(4)高速増殖炉の開発

 高速増殖炉(FBR*)は,発電しながら消費した以上の核燃料を生成することができる原子炉です。ウラン資源の利用効率を飛躍的に高めることができることから,国の原子力政策においては将来的に核燃料リサイクル体系の中核として位置づけられ,燃料サイクル技術と整合性をとりながら2030年頃の技術体系の確立を目指して技術開発が進められています。

①実験炉の運転
 実験炉「常陽」は,1977年4月の臨界以来順調な運転を続け,高速増殖炉の開発に必要な技術データや運転経験を着実に蓄積してきた。
 初臨界以来,1996年3月末現在で,累積運転時間が約51,200時間,累積熱出力が約42億キロワット時に達しており,照射中のものを含め446体の燃料集合体などの照射試験を実施してきている。
 今後,照射性能を向上させ,引き続き高速増殖炉の実用化のための燃料・材料開発用照射炉として活用していくこととされており,実用炉での目標燃焼度(15~20万メガワット日/トン)を踏まえ,高中性子束化と照射場の拡大等を図るための高度化計画(MK-III)が進められている。
②原型炉の建設等
 原型炉「もんじゅ」は,その設計・建設・運転の経験を通じて,発電プラントとしての高速増殖炉の性能,信頼性を技術的に確認するとともに,経済性についても検討・評価を行うためのデータを得ることを目標にして建設が進められてきた。


*FBR:  Fast Breeder Reactor

1985年5月の本格工事着手後,1991年4月に機器据え付け完了し,その後,プラント特性予備試験,臨界試験,炉物理試験,起動試験から構成される性能試験が進められていた。その過程において,1994年4月に初臨界を達成し,1995年8月29日には初送電を行った。

 その後,12月8日,2次主冷却系配管からナトリウムが漏えいするという事故が発生した。この事故による従事者,環境への放射性物質による影響はなかったものの,現実に事故が発生したこと,さらに事故後の情報公開を巡る動力炉・核燃料開発事業団の不適切な対応などにより,原子力に対する不安感,不信感を高めることとなった。同事故については,徹底的な原因究明を行うとともに,安全性総点検を実施し,万全の安全対策を講じ,また,適時適切な情報の公開に努めることなどにより,安心,信頼の回復に全力を挙げることとしている。(第1章第1節(1)参照)
③実証炉の開発
 原型炉に続く実証炉の開発は2030年頃までに実用化が可能となるよう高速増殖炉の技術体系の確立を目指し,発電プラント技術の習熟,性能の向上,経済性の確立を図っていくものであり,動力炉・核燃料開発事業団との密接な連携の下に設計・建設・運転について,電気事業者が主体的役割を果たし,関連する研究開発については,電気事業者,動力炉・核燃料開発事業団,そのほか関連する研究機関などがそれぞれの役割に即し,整合性を持って進められている。

 電気事業者は,実証炉の設計・建設・運転の主体を日本原子力発電(株)とすることとし,同社を中心として設計研究,要素技術,主要機器に関する研究開発,さらにはプラント設計とその技術的成立性の実証試験を実施してきた。1994年1月,電気事業者は,これらの成果を基に,電気出力約66万キロワット,炉型はトップエントリ方式ループ型の実証炉第一号の基本仕様を決定し,さらに必要な技術開発を進めている。
④その他
 高速増殖炉「もんじゅ」におけるナトリウム漏えい事故を契機として,原子力政策に関する国民的合意形成に向けたより一層の努力を求める声を踏まえて,原子力委員会に原子力政策円卓会議が設置され,1996年9月までに11回の会合が開催された。それまでの議論を踏まえて,1996年10月に原子力委員会決定された「今後の原子力政策の展開にあたって」において,「もんじゅ」の扱いを含めた将来の高速増殖炉開発のあり方について幅広い議論を行うため,「高速増殖炉懇談会(仮称)」が設置されることとなった。(第1章第2節(3)④参照)


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