第2章 国内外の原子力開発利用の状況
4.原子力発電の展開

(3)世界の原子力発電の状況

 世界の原子力発電設備容量は,1995年12月末現在,運転中のものは432基,3億6,232万キロワットに達しており,建設中,計画中のものを含めると総計540基,4億4,838万キロワットとなっている。
 原子力による発電電力量については,1995年実績で2兆2,236億キロワット時に達し,世界の総発電電力量の約17%を占めている。これは,サウジアラビアの年間石油生産量(世界第1位:1995年実績約4億2,650万トン)を上回る約5億トンの石油を現在の火力発電所で消費した場合に発生する電力量に相当する。

 現在,欧米などの先進諸国を中心として原子力発電所の運転が行われているが,1995年に韓国,メキシコ,日本,インド,英国及びウクライナでそれぞれ1基ずつ,新たに原子力発電所が運転を開始した。
1995年12月末現在,原子力発電国(地域)は,31か国(地域)である。
 その他開発途上国などにおいても原子力発電所の建設あるいは計画が進められており,これらの国を合わせると40か国(地域)となる。
 運転中のものについて見ると,米国が依然全世界の原子力発電設備容量の約29%を占めており,フランス,日本がそれに続いている。炉型別では全体の約86%が軽水炉で占められており,軽水炉のうちの約74%がPWR,残り約26%がBWRとなっている。

①米国

(1995年12月末現在)
運転中109基10,478万kW
建設中1基121万kW
110基10,599万kW
総発電電力量に占める原子力の割合(1995年):22.5%
平均設備利用率(1995年):76.2%
・クリントン政権は,エネルギー・環境政策の基本的方向として,エネルギー効率の改善,省エネルギーの促進,天然ガス及び再生可能エネルギー利用などに重点を置き,原子力に対しては高い優先度を与えていないが将来のオプションとしては維持されるべきとしている。
・1993年10月の「環境改善行動計画」では,発電による炭酸ガス排出の抑制の面で原子力が引き続き主要な役割を果たすとの認識を示している。
・1996年1月,2015年までの長期的なエネルギー需給を予測した,エネルギー省発表の「1996年版年次エネルギー見通し」によると,原子力発電所は,新規発注は仮定されず,運転ライセンス期間の終了により2005年以降徐々に閉鎖され,その不足分は火力発電所で補うとしている。しかし,現存発電所の運転ライセンスの更新により炭酸ガス排出抑制に貢献できる可能性も示されている。
・エネルギー省の1996会計年度予算では,改良型軽水炉開発への支援は継続されたが,ガスタービン・モジュール型ヘリウム炉への支援は中止された。また,1997会計年度予算においても,改良型軽水炉開発への支援は引き続き継続されている。

②カナダ
(1995年12月末現在)
 運転中     21基     1,580万kW
         21基     1,580万kW
 総発電電力量に占める原子力の割合(1995年):17.3%
 平均設備利用率(1995年):69.2%
・自国の豊富なウラン資源と自主技術によるカナダ型重水炉(CANDU*)を柱とした独自の原子力政策を一貫して採っている。
・オンタリオ・ハイドロ社が提案していた長期エネルギー開発計画の白紙撤回(1991年)及び修正開発計画の評価中止(1993年)以降,新規原子力発電所の建設計画は未定である。
・カナダ原子力公社は,CANDU炉の輸出にも力を入れており,アルゼンチン,韓国,インド及びパキスタンで同炉が運転されているほか,ルーマニアでは建設中である。また,中国とは1995年10月にCANDU炉2基を建設する協定を締結した。最近では,インドネシアの原子力発電所計画に対しても,積極的に参加すべく取り組んでいる。


* CANDU:Canada Deuterium Uranium Pressurized Heavy Water Reactor

③フランス
(1995年12月末現在)
 運転中    56基    6,103万kW
 建設中     4基     606万kW
 計画中     2基     303万kW
        62基    7,012万kW
 総発電電力量に占める原子力の割合(1995年):76.1%
 平均設備利用率(1995年):72.4%
・エネルギー資源に乏しく,エネルギー自給率を改善するため原子力発電を積極的に導入している。原子力発電の推進により,エネルギー自給率を1973年当時の23%から約20年間で53%に回復した。
・原子力を中心とする積極的な電源開発の下に同国は,近隣欧州諸国の電力輸出にも力を入れており,1995年には総発電電力量の約15%を輸出した。
・1995年4月に発表された新しいエネルギー政策の中で,原子力に関しては,発電所の許認可手続きの改善・明確化の方策を打ち出した。
・軽水炉開発に際して国内の原子力発電所の標準化を進めているが,さらに21世紀初頭の運転開始を目指して,ドイツと共同で欧州加圧水型炉(EPR*)の開発を進めており,1995年2月に基本設計の段階に移行し,1997年末には詳細設計を開始する予定である。


* EPR:European Pressurized Water Reactor

④英国
(1995年12月末現在)
 運転中    35基    1,417万kW
        35基    1,417万kW
 総発電電力量に占める原子力の割合(1995年):24.9%
 平均設備利用率(1995年):68.0%
 英国政府は,1994年5月に原子力レビューに向けての検討項目を発表し,以来,原子力発電の将来展望を経済性などの観点から検討する作業を進めてきた。そして,1995年5月にその結果を「英国における原子力発電の見通し」と題する白書に取りまとめ,議会下院に提出した。図2-4-12  英国 サイズウェルB発電所これにより,改良型ガス冷却炉(AGR*)と英国初の軽水炉であるサイズウェルB発電所(PWR,126万キロワット)は,民間会社であるブリティッシュ・エナジー(BE)社が所有し,ガス冷却炉(GCR*)については引き続き政府が所有することとなった。
・BE社は,1995年12月,ヒンクレーポイントC発電所(PWR,118万キロワット)およびサイズウェルC発電所(PWR,125万キロワット×2基)での原子力発電所の建設計画の中止を決定した。このため,英国で計画中の原子力発電所は無くなった。


* AGR: Advanced Gas-cooled Reactor
* GCR:  Gas Cooled Reactor

⑤ドイツ
(1995年12月末現在)
 運転中    21基    2,398万kW
        21基    2,398万kW
 総発電電力量に占める原子力の割合(1995年):29.6%
 平均設備利用率(1995年):74.3%
・旧東独の旧ソ連型原子力発電所は,安全調査結果を受けすべて閉鎖された。
・1994年5月,原子力法の一部改正を含むエネルギー一括法が成立した。この中にはシビアアクシデントを考慮した発電所の設計要件及び使用済燃料の直接処分も選択肢として認めるなどの内容が含まれている。1994年10月に一旦は頓挫したエネルギー・コンセンサス協議が,1995年3月に再開された。しかし,連邦政府と社会民主党との意見調整がつかず,結局同年6月に協議は放棄された。
・1996年5月,ドイツ政府が発表した「第4次エネルギー研究技術計画」によると,原子力による発電技術は確立されたものであり,将来の確実な電力供給と環境保護の観点から,技術的,経済的に二酸化炭素の排出量の削減を可能とするとし,研究政策上重要な柱の一つに原子力利用が挙げられている。
⑥イタリア
・現在,主要先進国(G7)の中で,唯一,原子力発電所の運転を行っていない。
・1987年の国民投票の結果を受け,5年間の新規原子力発電所建設禁止(モラトリアム)が決定され,稼働中の原子炉は閉鎖された。
1992年12月にモラトリアムは終了したが,現在,政府・議会レベルでの原子力発電計画の再開に向けての方針転換は見られない。
・イタリア政府内には,輸入電力への依存度が大きくなり過ぎることを懸念する声があり,イタリア電力公社(ENEL*)も原子力技術の研究開発は継続していく方針である。
⑦スウェーデン
(1995年12月末現在)
 運転中    12基    1,037万kW
        12基    1,037万kW
 総発電電力量に占める原子力の割合(1995年):46.6%
 平均設備利用率(1995年):76.5%


* ENEL:Ente Nazionale per 1'Energica Electrica

・1980年6月の国民投票の結果を受け,2010年までに原子力発電所12基を全廃するとの国会決議を行った。
・1991年6月,議会は,2010年までの原子力発電所全廃の決定は変更ないとしながらも,1995年から1996年にかけて2基を廃止するという計画の放棄を含む新しい国家エネルギー政策を承認した。
・1995年12月,原子力問題を含めエネルギー問題の検討を行っていたエネルギー委員会は,1990年代に1基の原子力発電所を閉鎖することは可能であるが,最終的な閉鎖時期の期限については設定されるべきでないとする報告書を発表した。この報告を受け,政党間の協議の結果,原子力発電所の閉鎖問題については,超党派の委員会により議論されることとなった。

⑧フインランド
(1995年12月末現在)
 運転中     4基    240万kW
         4基    240万kW
 総発電電力量に占める原子力の割合(1995年):29.9%
 平均設備利用率(1995年):90.0%
・1986年のチェルノブイル原子力発電所事故後,新規原子力発電所の建設計画を凍結している。
・1993年2月,政府は5号炉計画を原則決定し議会に承認を求めたが,結局,同年9月の議会における採決で同計画は否決されるに至った。

⑨スイス
(1995年12月末現在)
 運転中     5基    321万kW
         5基    321万kW
 総発電電力量に占める原子力の割合(1995年):39.9%
 平均設備利用率(1995年):88.5%
・1990年9月の国民投票で,以後10年間に原子力発電所の建設許可を発給しないというモラトリアムが決定されている。火力,原子力とともに,環境問題・モラトリアムなどの理由から新規発電所建設計画はなく,水力も環境問題から開発は困難な状況となっている。
・スイス電力協会は,将来の電力不足に対しては,新規の電源としては,原子力発電所と天然ガス火力発電所のミックスが有効との考えを示している。

⑩ロシア
(1995年12月末現在)
 運転中    26基    2,126万kW
 建設中     8基     740万kW
 計画中    15基     870万kW
        49基    3,735万kW
 総発電電力量に占める原子力の割合(1995年):11.8%
 平均設備利用率(1995年):52.8%
・現在運転されている原子力発電所は,ソ連型加圧水型炉(VVER*)13基,黒鉛減速軽水冷却沸騰水型炉(RBMK*)11基,沸騰水型炉(BWR)1基及び高速増殖炉(FBR)1基である。
・ロシアの原子力発電の開発については,2000年までは,既存の発電所の改良を行うとともに建設中の発電所を完成させ,2000-2010年については,新世代の原子力発電所を建設するとともに,古い原子力発電所の閉鎖に着手することとしている。
・ロシア原子力省(MINATOM*)は,その第1段階として,チェルノブイル原子力発電所事故の影響で建設が中断していたクルスク5号炉(RBMK-1000改良型,100万キロワット),カリーニン3号炉(VVER-1000,100万キロワット),ロストフ1,2号炉(VVER-1000,100万キロワット×2基)を完成させる予定である。また,新規計画としては,次世代のロシア型軽水炉(VVER-640,64万キロワット)をソスノブイボルに1基,コラに3基建設する見通しである。


*VVER: Vode-Vodjanoj Energetichesky Reactor
*RBMK: Reactor Bolshoj Moshchnosti Kanalny
*MINATOM:Министерство Российской Федерации по атомной энергии

⑪ウクライナ
(1995年12月末現在)
 運転中    15基    1,388万kW
 建設中     5基     500万kW
        20基    1,888万kW
 総発電電力量に占める原子力の割合(1995年):37.8%
 平均設備利用率(1995年):62.1%
・ウクライナは,深刻なエネルギー・電力不足から,事故があった4号炉以外の炉(RBMK,各100万キロワット)の運転を当面の間継続する動きがあったが,同発電所の閉鎖及び代替電源に関して西側が援助することを条件に,1995年4月,同発電所を2000年までに閉鎖することを明らかにした。
・1995年12月に,G7とウクライナの間で覚書を作成し,ウクライナが2000年までにチェルノブイル原子力発電所を閉鎖することを支援するため,G7及びウクライナが他の支援国や国際機関などの貢献も得つつ,ウクライナの電力部門改革,エネルギー投資計画,原子力安全などの分野に関して協力していくことを表明した。さらに,1996年4月の原子力安全モスクワ・サミットにおいて,チェルノブイル原子力発電所の閉鎖の決定が再確認されるとともに,同覚書の完全な実施に関するコミットメントが各国首脳により再確認された。
⑫ブルガリア
(1995年12月末現在)
 運転中     6基    376万kW
         6基    376万kW
 総発電電力量に占める原子力の割合(1995年):46.4%
 平均設備利用率(1995年):52.1%
・ブルガリア政府は,1995年11月,2010年までの長期エネルギー政策を発表した。この計画の中で,1991年に建設が中断されたベレネ1号炉を完成させるとしている。
・コズロドイ原子力発電所では,欧州連合(EU)の支援により,世界原子力発電事業者協会(WAN0*)の枠組みの下で専門家による安全性改善作業が進められている。1994年に同発電所の安全性のレビューを行ったIAEAの運転管理調査団(OSART*)などの専門家は,安全水準と性能が向上しつつあることを指摘している。


* WANO:  World Association of Nuclear Operators
* 0SART: Operational Safety Review Team

⑬韓国
(1995年12月末現在)
 運転中     10基    862万kW
 建設中      6基    510万kW
 計画中      2基    200万kW
         18基   1,572万kW
 総発電電力量に占める原子力の割合(1995年):36.1%
 平均設備利用率(1995年):86.4%
・ 1995年12月に発表された長期電力需給計画によると,2010年までに18基を建設するとされており,計画が順調に進めば,2010年には,原子力発電所の総数27基,設備容量にして2,633万キロワットとなり,現在の規模の約3倍に増大する見込みである。また,原子力発電の総発電力量に占める割合は,45.5%に達すると見られている。
 なお,2007年には,130万キロワット級の次世代原子炉の営業運転開始を予定している。
・現在,原子力技術の国産化と標準化が並行して進められている。建設中のウルチン(蔚珍)3,4号炉(PWR,各100万キロワット)を標準化の初号機とすることにしており,それらの国産化率は95%程度に達するとしている。

⑭中国
(1995年12月末現在)
 運転中     3基    227万kW
 計画中    12基   1,067万kW
        15基   1,294万kW
 総発電電力量に占める原子力の割合(1995年):1.2%
 平均設備利用率(1995年):-
 *
・中国核工業総公司(CNNC**)は,運転中の原子力発電設備容量を2010年に2,000~2,500万キロワット,2020年に4,000~5,000万キロワットに拡大する計画である。
・ 1995年10月に発表した「第9次五ヶ年計画」(1996年~2000年)の中で,広東・嶺澳1,2号炉,秦山原子力発電所への2基のCANDU,秦山サイトで建設中の国産型PWR(60万キロワット×2基),遼寧サイト(遼寧省)に建設予定の2基のロシア型PWR(VVER- 1000,100万キロワット)の合計8基の原子力発電所を増設する計画を公式に表明した。なお,山東省海陽,福建省恵安,浙江省三門など10ヶ所以上が,建設候補サイトとして承認されている。


*データなし
*CNNC:China National Nuelcar Corporation

⑮台湾
(1995年12月末現在)
 運転中     6基    514万kW
 計画中     2基    260万kW
         8基    774万kW
 総発電電力量に占める原子力の割合(1995年):28.8%
 平均設備利用率(1995年):78.4%
・エネルギー資源に恵まれない台湾では,原子力発電に大きな期待を寄せている。とくに,台湾では,近年の電力需要の増大に伴い新たな電源確保が急務となっている。7,8号炉目に当たる第4原子力発電所(龍門)1,2号炉の建設計画に関し,1994年7月に「立法院」本会議において建設予算が承認された。
・1996年5月には,国際入札により,第4原子力発電所(龍門)1,2号炉の供給メーカーが決定したが,同月,「立法院」は建設計画中止を決議した。これに対し,「行政院」は,「電力の安定供給に影響する」とし,一種の゛拒否権゛である決議撤回動議を「立法院」に提出し,同年10月に「立法院」にて可決された。このため,原子力発電所の建設計画中止決議案は撤回された。
 図2-4-22  台湾 第3原子力発電所(馬鞍山)
⑯インドネシア
・インドネシアでは,石油や石炭などのエネルギー資源に恵まれているが,近年の目覚ましい経済成長に伴い増大するエネルギー需要に対応するとともに,石油については輸出商品として温存する必要性を,また,石炭については地球環境問題からの制約などを考慮し,今後2005年までに200万キロワット程度の原子力発電所の建設を検討している。さらに,2020年には国内で供給可能な石油が13%まで減少する見込みであることから,原子力発電所を1400万キロワットまで拡大する可能性がある。
・1991年よりジャワ島中部のムリア半島で日本企業により立地可能性に関する調査が開始され,設備容量合計180万キロワット規模の原子力発電所の建設を1998年に開始する方向で検討していた。1996年5月には最終報告書がインドネシア政府に提出された。なお,この原子力発電所導入の資金調達については,BOO(建設,運転,所有)方式を採用する可能性も検討されている。
⑰その他
 アルメニアは,同国の危機的エネルギー状況の打開をはかるため,1989年に閉鎖されていたアルメニア原子力発電所1,2号炉(VVER-440,各41万キロワット)を再開することを1993年3月に正式に決定し,1995年11月に2号炉の運転を再開した。
 ルーマニアにおいてCANDUを採用したチェルノボーダ1~5号炉の建設工事が進展しており,同1号炉(70万キロワット)は,1996年7月に送電を開始した。
 ベトナムは,現在の主要なエネルギー源は水力・火力であるが,エネルギー需要が急速に増加する見込みであり,原子力発電も含めて長期計画を検討中である。なお,ベトナム原子力委員会は,将来の原子力発電所導入についての調査に着手したことを明らかにした。
 フィリピンは,最近のエネルギー計画では,環境面で将来に原子力発電所導入の余地があるとしており,その検討を進めるために1995年5月に「原子力発電運営委員会」が大統領令により設立さた。
 タイは,今後の経済発展による電力需要の増加を,輸入天然ガス,輸入石炭,輸入LNGおよび原子力で賄う予定であり,1995年12月に原子力発電の導入に関わる委員会を設置した。
(注)・運転中,建設中,計画中の基数および容量は,(社)日本原子力産業会議「世界の原子力発電の動向 1995年次報告」による。総発電電力量に占める原子力の割合は,「IAEA YEAR-B00K1996」による。平均設備利用率は,NUCLEONICS WEEK等による。
・四捨五入により,一部積算が一致しない場合がある。


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