第2章 国内外の原子力開発利用の状況
4.原子力発電の展開

(2)原子力発電の将来見通しと原子力施設の立地の促進

①原子力発電規模の見通し
 今後の原子力発電の開発規模については,原子力開発利用長期計画において,2000年において約4,560万キロワット,2010年において約7,050万キロワットの設備容量を達成することを目標とし,さらに長期的展望として,2030年の原子力発電の設備容量は約1億キロワットに達するとの期待が原子力委員会により示されている。

(財)日本エネルギー経済研究所が行った「原子力の将来展望に関する調査」では,2030年におけるコストの観点からのみの最適化を行った電源構成は,発電設備容量で原子力発電が1億キロワット強で37.5%,LNG火力発電が21.9%,石炭火力が14.2%となると試算しており,更に,将来的に,原油,天然ガスの中東への依存度が高まると予想されている状況に対し,エネルギー供給のセキュリティーの面から,この2030年の電源構成において仮にLNGの輸入が1ヶ月間途絶した場合の停電による経済的な損失額を,供給の途絶した電力量に応じて一定の損失が生じると仮定することによって定量的に評価している。
 その結果,月ごとに変動するLNG在庫量が年間で中程度である9月に1ヶ月間のLNGの供給途絶があったと仮定すると,石油,石炭火力の発電量の増加などではLNG火力の発電減少分を賄い切れずに停電が発生し,その被害額は5000億円に達すると試算している。2030年の電源構成がこのケースよりも原子力発電の設備容量が1割程度多ければ,コストのみを考慮したために過度に依存度の高まっていたLNG火力発電の割合が小さくなり,停電による被害が発生しないが,逆に,原子力開発がスローダウンし,その設備容量が3割程度減少するケースでは,コストの有利なLNG火力が設備容量が27.2%まで高まるため,その結果として停電による被害額は1ヶ月で2.3兆円に達すると試算している。

 この調査では,1ヶ月間のLNG供給途絶という極端な仮定を想定しているが,経済性の面のみならず,エネルギーセキュリティーの観点からも,原子力発電の果たす役割が大きいことが示唆されている。
②原子力施設の立地促進
 今後,上記の原子力発電設備容量を確保するためには,既存サイトでの増設に加えて新規サイトの確保が必要であるが,原子力発電所の立地には計画から運転開始までの先行期間(リードタイム)が長期に及ぶことを考慮すると,早急に新規サイトの確保に向けて対策を充実していくことが必要である。
 原子力施設の立地促進については,これまで国,地方公共団体,事業者等の積極的な立地促進活動が一定の成果を挙げてきたものの,国民の意識の中から原子力に対する不信感,不安感が依然として払拭されていないことも一因となり,立地は年々困難になっている。しかし,その一方で,1996年においては,7月に東北電力(株)東通原子力発電所1号炉(BWR,110万キロワット)が第133回電源開発調整審議会の了承を得て国の電源開発基本計画に組み入れられた。また,東北電力(株)女川原子力発電所3号炉(BWR,82.5万キロワット)の設置許可が4月に,設計及び工事の方法の認可が9月に行われた。このほか,11月には北陸電力(株)志賀原子力発電所2号炉(ABWR*,135.8万キロワット),12月には中部電力(株)浜岡原子力発電所5号炉(ABWR,138万キロワット)の第一次公開ヒアリングが行われるなど,新増設に向けた動きに進展が見られる。


*ABWR:Advanced Boiling Water Reactor

 また,立地に伴う地域振興効果を期待する地元の声も,ますます多様化してきている。原子力施設の立地による波及効果を地域の長期的発展に結びつけることが重要であるが,その際,既存立地地点における地域の発展状況が,新規立地予定地点の理解を深める上で意義が大きいことにも留意する必要がある。
 原子力施設の立地促進の主体は事業者,地元の地域振興の主体は地方公共団体であるが,国としても立地円滑化の観点から地元と原子力施設が共生できるよう,関係省庁が一体となって地元の地域振興に一層きめ細かな支援を進める必要がある。また,立地地域において,マスメディアを通じた積極的な広報などの理解促進策を展開していくほか,用地取得の円滑化を図る必要がある。
 立地地域の振興対策の拡充を図るためには,電源三法*(発電用施設周辺地域整備法,電源開発促進税法及び電源開発促進対策特別会計法)の活用などが逐次図られているが,1996年度には,原子力発電施設が運開後15年経過した市町村が行う病院,保健センター老人福祉センターをはじめ福祉関連施設の整備,運営やホームヘルパー採用に対する原子力発電施設周辺地域福祉対策交付金制度の拡充,放射線利用・原子力基盤技術試験研究推進交付金制度の対象道府県の拡充等が行われた。
 また,電源開発調整審議会では,電源立地を「国をあげて支援すべきプロジェクト」と位置づけるとともに,電源開発調整審議会に上程される前の段階(初期段階)における取組が重要であるとし,1993年3月同審議会の下に電源立地部会を設置し,関係省庁の協力を得て,初期段階地点の状況の把握,地域振興計画に関する助言,協力を継続的に行っている。


*電源三法:後述の用語解説(122ページ)を参照。


*初期地点:後述の用語解説(122ページ)を参照。

1994年9月総合エネルギー対策推進閣僚会議において,要対策重要電源*として,前述の中部電力(株)浜岡原子力発電所5号炉のほか,新たに中国電力(株)上関原子力発電所1,2号炉(135万キロワット×2基)が指定されるとともに,中国電力(株)豊北原子力発電所1,2号炉については,電源開発の計画が取消しになったことにより,指定が解除された。本指定を受けた地点に対しては,電源開発促進対策特別会計電源立地勘定による重要電源等立地推進対策補助金の交付などの諸施策が重点的に講じられる。


*要対策重要電源:後述の用語解説(122ページ)を参照。

〈用語解説〉
・電源三法とは?
 安定的かつ低廉な電気の供給を確保することは,電気事業に課された使命ですが,電気事業を巡る内外の情勢は厳しく,今後とも長期にわたって電気事業がこの使命を果たして行くことは決して容易ではありません。
 そこで,電源地域において公共用施設の整備等を行うことにより電源立地の円滑化を図ることを目的として,昭和49年度に電源開発促進税法,電源開発促進対策特別会計法及び発電用施設周辺地域整備法(いわゆる電源三法)を整備し,これに基づいた交付金等の交付を行なっています。
 平成8年度予算においては,約1,613億円の交付金等が電源地域に対して交付されています。
 この交付金等を活用して,例えば,電源地域における道路,港湾,医療施設,教育文化施設などの公共施設の整備,企業導入・産業高度化のために行われる事業に対する支援,電源地域産業の育成を図っていくための支援などが行われています。
・要対策重要電源とは?
 計画的にもかなり具体化しており,電力の長期的な供給確保上とくに重要な電源として,昭和52年度から総合エネルギー対策推進閣僚会議の場で指定を行っているものをいいます。
・初期地点とは?
 電力のより長期的な供給確保上とくに重要な電源であり,要対策重要電源に準ずるものとして,国が指定を行っているものをいいます。


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