第2章 国内外の原子力開発利用の状況
2.原子力安全確保

(1)原子炉施設等の安全確保

 原子炉施設においては,放射性物質の異常な放出による周辺公衆への影響を防止することが安全確保の基本です。この基本に従って,平常時の放出放射性物質の低減,多重防護による事故の防止対策,適切な立地条件の確保などの考え方に基づいて安全の確保が図られています。さらに,これらの安全対策が確実に講じられているかどうか,設計,建設,運転の各段階において国による厳しい規制が行われています。
 また,万が一,原子力発電所などに災害が発生し,または発生するおそれのある場合に備え,災害対策基本法に基づき,国,地方公共団体などが必要な防災対策を実施する体制を整備しています。

①原子炉施設の安全確保
 原子力施設については,従来から「核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(原子炉等規制法)」に基づき,原子炉施設の所管大臣(実用発電用原子炉は通商産業大臣,実用舶用原子炉は運輸大臣,試験研究の用に供する原子炉及び研究開発段階にある原子炉は内閣総理大臣)が厳重な安全規制を行うなど,安全の確保に万全を期してきている。
 とくに,原子炉施設の設置(変更)許可については,原子力委員会及び原子力安全委員会が,原子炉施設の所管大臣の諮問に基づき,各所管行政庁の行った審査の結果について審査指針等に照らし,それぞれ独自の立場から調査審議(いわゆるダブルチェック)を行っている。
 最近では,関西電力(株)大飯発電所4号炉における高燃焼度先行照射燃料集合体の装荷等に係る設置変更許可についての答申(1995年12月),東北電力(株)女川原子力発電所3号炉の増設に係る設置変更許可についての答申(1996年3月),四国電力(株)伊方原子力発電所1号炉における蒸気発生器の取り替えに伴う新型蒸気発生器の採用等に係る設置変更許可についての答申(1996年5月)及び日本原子力研究所JRR-4原子炉施設における中性子ビーム設備の設置等に係る設置変更許可についての答申(1996年8月)などが行なわれている。
 我が国においては,工学的見地からは原子力発電所においてシビアアクシデント*の発生する可能性は現実に考えられないほど低くなっているが,その低いリスクを一層低減し安全性のより一層の向上に努めることが重要であるとの認識から,1992年5月に,原子力安全委員会は,シビアアクシデント対策に対する今後の取組みについての考え方をとりまとめた。通商産業省は1994年10月に軽水型原子力発電所のアクシデントマネージメントの整備について原子力安全委員会に報告を行った。これを受けて同委員会の原子炉安全総合検討会は独自の観点から検討を行った結果,通商産業省報告書が妥当であると判断するとの報告書を1995年11月に取りまとめ,原子力安全委員会に報告した。


*シビアアクシデント:後述の用語解説(93ページ)を参照。

 我が国において初期に運転を開始した原子力発電所においては,運転年数が25年以上を経過したものがでてきているなどの状況を踏まえ,通商産業省は1996年4月に原子力発電所の高経年化に関する基本的な考え方をとりまとめ,原子力安全委員会に報告を行った。これを受けて同委員会の原子炉安全総合検討会において高経年化対策について検討を行っている。

②運転管理
 原子炉施設の運転管理については,保安規定の認可,運転計画の届出等が法令に定められており,安全性を確認しながら行われることとなっているほか,年に1回,2~3ヶ月をかけた厳格な定期検査を実施している。
 また,原子炉施設の運転に関して保安の監督を行うため,原子炉主任技術者の選任が義務付けられているほか,原子力発電所には国から運転管理専門官が派遣され,運転管理の監督がなされている。さらに,運転に関する主要な情報については定期的に報告され,原子炉施設の事故,故障等のトラブルについては,直ちに国に通報されることとなっている。
③防災対策
 原子力発電所などに係る防災対策については,災害対策基本法に基づき,国,地方公共団体などが防災計画を定めるなど所要の措置を講じている。
 具体的には,関係道府県が行う緊急時連絡網の整備,防災活動資機材の整備などに対し助成を行っている。また,緊急時に大気中に放出された放射性物質の拡散や一般公衆の被ばく線量を迅速に計算予測できる緊急時迅速放射能影響予測(SPEEDI*)ネットワークシステムの整備・運用を図るなどの措置を講じている。
 現在,中央防災会議において,原子力事故災害を含めた各種の事故災害対策をより実践的なものとするための防災基本計画の改訂作業を行っているほか,原子力安全委員会においても防災指針をより実効性のあるものとするための検討を行っているところであり,国は原子力


*SPEEDI: System for Prediction of Environmental Emergency Dose Information

 防災対策のより一層の充実強化に努めていくこととしている。
④核燃料施設等の安全確保
 製錬施設,加工施設及び再処理施設並びにその他の核燃料物質または核原料物質の使用のための施設から成る核燃料施設等に関しては,原子炉等規制法に基づき,製錬施設については内閣総理大臣と通商産業大臣が共同で,その他のものは内閣総理大臣が一貫して規制を行うとともに,使用施設以外は原子力安全委員会及び原子力委員会がダブルチェックを行っている。
 原子炉等規制法の主な規制体系と規制形態別事業所数を表2-2-2に示す。

⑤廃棄施設の安全確保
 原子力施設の付属施設としての廃棄施設,廃棄物埋設施設及び廃棄物管理施設から成る廃棄施設に関しては,原子炉等規制法に基づき,廃棄施設の所管大臣及び原子力委員会,原子力安全委員会のダブルチェックによって厳重な規制を行っている。
⑥輸送の安全確保
 事業所外における核燃料物質等の輸送の規制は,輸送方法,手段などに応じて原子炉等規制法,放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律(放射線障害防止法),船舶安全法及び航空法に基づき行われており,一定レベル以上のものについては,輸送に際し,法令で定める技術上の基準に適合することについて行政庁の確認を受けるほか,陸上輸送に関しては都道府県公安委員会に,また海上輸送に関しては管区海上保安本部に届出をするなどの規制が行われている。
 また,事業所内の輸送については,原子力施設の規制の一環として原子炉等規制法に基づき規制が行われている。

⑦放射性同位元素等の取扱いに係る安全確保
 放射性同位元素などの取扱いに係る安全性の確保については,放射線障害防止法などに基づき許認可等の厳正な審査,立入検査,監督指導等所要の規制が行われている。
 なお,1995年度末の放射線障害防止法の対象事業所数は(表2-2-3)のとおりである。

 用語解説
 シビアアクシデントとは?設計基準事象を大幅に超える事象であって,安全設計の評価上想定された手段では適切な炉心の冷却または反応度の制御ができない状態であり,その結果,炉心の重大な損傷に至る事象のことをいいます。


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