第2章 国内外の原子力開発利用の状況
1.核不拡散へ向けての国際的信頼の確立

(2)保障措置

 我が国は,IAEAとの間で保障措置協定を締結し,IAEA保障措置を受け入れるとともに,国自らも国内の原子力活動が平和目的に限り行われていることを確認しています。
 近年はイラクの核開発疑惑などが契機となり,国際的に保障措置を強化・効率化することを目指した検討が進められています。

①保障措置制度について
(ア)国際保障措置制度
 NPT第3条は,非核兵器国において原子力が平和利用から核兵器などへ転用されることを防止するため,非核兵器国はIAEAとの間で保障措置協定を締結し,それに従い国内の平和的な原子力活動に係るすべての核物質について保障措置を受け入れること(フルスコープ保障措置)を義務づけている。
 NPT加盟国185ヶ国のうち,我が国も含め非核兵器国108ヶ国(1995年末現在)がIAEAとの協定に基づきフルスコープ保障措置を受け入れている。また,NPTに基づかないその他の形態により保障措置が適用されている国が17ヶ国ある。
(イ)国内保障措置制度
 我が国は,国内すべての原子力平和利用活動についてIAEAのフルスコープ保障措置を受け入れると同時に,国自らも国内の原子力活動が平和目的に限り行われていることを確認しIAEAに必要な情報を提供するため国内保障措置制度を運用している。
 我が国の原子力事業者は,「核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(原子炉等規制法)」に基づき国に計量管理規定の認可を受けることが義務付けられているとともに,核燃料物質在庫変動報告,物質収支報告,実在庫量明細表等を国に提出することが義務付けられている。
 提出された報告の内容の整理・分析は,原子炉等規制法に基づき指定情報処理機関に指定されている(財)核物質管理センターが国からの委託により行い,その結果は国に報告された後,IAEAに報告されている。我が国の報告実績の詳細を(表2-1-2)に示す。
 また,我が国の原子力事業者に対して,国による国内査察*及びIAEAによる国際査察が実施されるが,査察の回数,時期などを我が国とIAEAとの間で協議した上で,我が国とIAEAによる査察が同時に行われるように調整されている。国内査察の際に収去した物質は(財)核物質管理センター保障措置分析所において分析されている。
 我が国は,以上のNPTに基づく保障措置に加え,米国,英国,カナダ,オーストラリア,フランス及び中国と二国間原子力協力協定を締結し,これらに基づく義務を履行するため,供給当事国別に核物質などの管理を実施している。


*査察:後述の用語解説(72ページ)を参照。

②我が国における保障措置の実施内容及び結果
(ア)保障措置の実施内容
 保障措置は,核物質の計量管理を基本的手段とし,封じ込め及び監視*が補助的手段として用いられ,その内容の確認が査察等を通じて行われている。1995年末現在,我が国において保障措置の対象となっている原子力施設は260施設あり,これらの施設に対し1995年に実施された保障措置活動の詳細を(表2-1-3)に示す。
(イ)我が国の核燃料物質の保有量及び移動量
 我が国の核燃料物質の保有量及び移動量は計量管理を通じ把握されている。1995年は海外から原子炉用燃料(集合体)の原料として濃縮ウラン932トン,天然ウラン885トン,原子炉用燃料に加工されたものとして濃縮ウラン1トン,天然ウラン33トンが輸入された。一方,使用済燃料として,プルトニウム2.5トン,濃縮ウラン261トン,劣化ウラン33トンが再処理のため海外の関連施設へ輸送された。また,1995年末の保有量はプルトニウム48トン,濃縮ウラン11,348トン,天然ウラン1,384トン,劣化ウラン4,377トンである。1995年の我が国における主要な核燃料物質移動量及び施設別の在庫量を(図2-1-3)に示す。


*封じ込め・監視:後述の用語解説(72ページ)を参照。


*実効キログラム:核物質に保障措置を適用するに当たって,転用に対する核物質の相対的な有効性を反映して使用される特別の単位。

(ウ)我が国におけるプルトニウム管理
 プルトニウム取扱施設に関し,その計量管理の徹底を図るため,機器の高度化,新しい計測技術の導入が図られている。
 動力炉・核燃料開発事業団プルトニウム燃料第三開発室におけるプルトニウムの工程内滞留*については,回収作業の強化,機器の分解掃除,滞留の発生を抑制する機能を有する新しい機器の開発などにより,順調に低減が図られ予定通り作業が完了した。
(エ)我が国における保障措置の結果
 上述のような保障措置活動の結果,1995年のIAEA年報は以下のように結論している。
 IAEAの1995年の保障措置活動の結果,保障措置下に置かれている核物質が何らかの軍事目的又は未知の目的に転用されたり,保障措置の対象となる施設,設備ないしは非核物質が悪用されたりしたということを示すいかなる徴候も認められなかった。
③保障措置を巡る動向
(ア)保障措置制度の強化に向けた動き
1991年,イラクが秘密裏に核開発を行っていたことが発覚したこと,また,1993年には北朝鮮がIAEAの特別査察を拒否したことなどを契機として,保障措置の強化・効率化に関し,IAEAにおいてこれまでに以下の施策について検討が行われ,既にその一部が実施されている。


*工程内滞留:後述の用語解説(72ページ)を参照。

・原子力施設の設計情報についての早期提出1992年2月のIAEA理事会において,例えば新規施設については,従来運転開始の30日前までにIAEAに提供することになっていた原子力施設の設計情報について,建設開始の180日前までに提供することなどを内容とする勧告が行われ,昨年我が国もこれを受け入れるために所要の手続きを講じた。
・特別査察の権限,役割の確認1992年2月のIAEA理事会においては,現行保障措置協定の範囲内で,申告施設のみならず未申告施設に対しても特別査察を実施し得ることが確認された。
・ユニバーサルレポーティング1993年2月のIAEA理事会では,各国の核物質の輸出及び輸入,並びに特定の機器及び非核物質の輸出入に関する報告を自発的にIAEAに提出することが奨励され,我が国もこれに参加している。
 さらに,これら一連の動きを踏まえ,IAEA保障措置制度の全体的な強化・合理化方策を検討するため,1993年6月のIAEA理事会に,IAEA保障措置制度の強化・効率化のための作業計画「93+2計画」が提出,了承された。この作業計画に基づきIAEAが2年間にわたる検討を行い,1995年6月のIAEA理事会において,各国がIAEAと締結している現行協定に基づいて実施し得るパート1について合意され,IAEAに追加権限を付与する必要のあるパート2については引き続き協議することとされた。
 パート1の諸方策については1995年6月の理事会で承認され,現在具体的な実施手順についてIAEAと関係国との間で協議が進められ,順次実施されつつある。一方,パート2については現在関係国間で協議が進められている。本計画の重要性については1996年に開催された原子力安全モスクワサミット,リヨンサミットでも言及されている。
 また,1996年9月のIAEA総会における中川科学技術庁長官(当時)による政府代表演説においても,パート2の諸方策の早急な合意形成に向け,積極的に貢献する旨述べている。
(イ)保障措置技術に関する研究開発と国際協力
 我が国においては従来より,原子力施設に適用する効果的かつ効率的な保障措置手法を確立するため,研究開発を実施してきている。収去試料*の分析を行うための破壊測定や査察時に行われる非破壊測定の精度を向上させるための機器開発,封じ込め・監視に用いられる機器の開発が行われているほか,査察業務量の低減を目指した遠隔モニタリングシステムの実証試験などを推進している。

 近年はとくに,我が国の核燃料サイクルの充実に合わせて,プルトニウム取扱施設,とりわけ保障措置上重要な大型再処理施設の保障措置に関する総合的な技術開発に取り組んでいる。現在,青森県六ヶ所村に建設が進められている六ヶ所再処理工場は,核物質の取扱量が多量であり,また工程の運転が連続的に行われ,計量管理上これまでの施設に比べて,より複雑な施設となっているため,精緻な核物質の計量が求められる入量計量槽や蒸発濃縮缶内の核物質計量手段の実証,大幅な増大が予想される査察業務の低減を可能にする非立会検認技術の技術開発などを推進するとともに,再処理施設から収去した核物質の分析などをそのサイト内で行うための保障措置総合センターの設計を進めている。


*収去試料:施設にある核物質が記録通りの成分であるかどうかを化学分析によって確認するため無作為に採取された試料

 国際協力の面では,我が国は「対IAEA保障措置支援計画(JASPAS*)」によりIAEAの保障措置技術開発を支援(1981年~),また「IAEA保障措置実施により得られる情報を効率的・効果的に把握・解析するための保障措置情報処理評価システムの構築」を進めるため,IAEAに特別拠出金を提供(1992年~)するなどの国際協力を実施している。
 また,保障措置の合理化の観点から,我が国とIAEAが査察用機器を共同で利用することとしている。その他の国際協力としては,1995年11月に今後原子力活動の進展が予想されるアジア諸国を対象として国内計量管理制度に関する研修を3週間にわたって開催したほか,動力炉・核燃料開発事業団及び日本原子力研究所と米国エネルギー省との間でそれぞれ共同研究のための協定を締結し,協力を行っている。


*JASPAS:Japan Support Program for Agency Safeguards

〈用語解説〉
・保障措置とは?
 原子力発電など平和利用の目的で使われている核物質が,核兵器などに転用されていないことを確認するため,計量管理や封じ込め・監視等を行っています。
 原子力事業者は,原子力施設にあるすべての核物質の管理状況を科学技術庁へ報告し,科学技術庁はこの報告をとりまとめてIAEAへ報告を行っています。また,この報告が正しいかどうかを国とIAEAの職員が実際に施設に立ち入り(査察)して確認しています。
・査察とは?
 国とIAEAの職員が実際に施設に立ち入り,以下のようなことを行っています。
○施設に保管されている計量管理記録の内容と,国とIAEAに報告された内容に矛盾がないことを確認する。
○核物質の放射線を現場で測定したり,試料を取って化学分析をして,その組成などを確認する。
○封じ込め・監視の結果の確認と必要な装置の保守をする。
・封じ込め・監視とは?
 原子力施設に置かれた核物質の保有量と移動の状況を確認するため,例えば,核物質が専用の容器に入れられた後に封印がつけられ,もしその容器が開けられれば分かるようになっています。
 また,原子力施設の大事な場所には,監視カメラがつけられ,核物質の移動を監視しています。
・工程内滞留とは?
 核燃料を製造する際,製造の過程で核物質の粉末が装置などに付着したり,装置の内部に入り込んだりします。このようにして工程内に滞留している核物質を工程内滞留といいます。工程内滞留量は,国及びIAEAにより実測されており,所在が不明になっているものではありません。


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