第1章 国民とともにある原子力
2.原子力政策円卓会議の開催

(2)原子力政策円卓会議における議論

 第1~4回までの原子力政策円卓会議においては,原子力を巡る論点を出し尽くすべく,とくにテーマを定めず,議論が行われました。
 第4回までの議論を4分野に整理し,第5~11回まで各分野に関する議論を深めました。
 円卓会議の議論を踏まえ,原子力に関する情報公開及び政策決定過程への国民参加の促進に関する提言が行われたほか,第11回までの議論を踏まえた提言をモデレーターが行いました。

 円卓会議は,ともすれば専門的になりがちな原子力に関する問題を,国民各界各層の参加を得て多角的に議論を行うという点でこれまでにない「場」を国民に提供するものである。
 当初4回の円卓会議は,とくにテーマを定めず,原子力を巡る論点を出し尽くすことを目的として全出席者の意見表明及びそれに基づく自由討論が行われた。そこでは,原子力の持つ問題の広がりを反映して多様な議論が行われ,その結果,原子力を巡る論点は概ね摘出されたと考えられる。その議論の論点は,
①原子力と社会,とくに安全・安心に関する事項
②エネルギーと原子力に関する事項
③原子力と核燃料リサイクルに関する事項
④原子力と社会との関りに関する事項
 に分類整理され,第5回以降,それぞれをテーマとして,議論を深めていくこととなった。
 なお,第1~4回までの主な議論を整理すると(表1-2-2)のとおりである。これは,1996年6月19日,原子力委員会が第5回目以降第10回目までの日程を発表した際に,ともに発表された。

 「原子力は安全か?安心か?」をテーマとした第5回円卓会議では,技術的なリスク評価による議論と社会的なリスクに対する感覚の間のギャップに関する議論,様々な社会活動のリスクを客観的に把握した上でのトータルな選択の問題として原子力を考えることの重要性に関する議論,教育やマスコミが果たすべき役割の重要性に関する議論などが行われた。
 「原子力に代われるエネルギーは?」をテーマとした第6回においては,新エネルギーや省エネルギーについての議論が行われた。これらへの取組の重要性に関する意見が多く出された一方,新エネルギーの不確実性や省エネルギーの困難さについての意見も出された。
 「原子力一未来に何を引き継ぐか?」をテーマとした第7回では,エネルギー源の選択に関し,経済性,環境保全なども含め,総合的に考えることの重要性に関する議論,原子力政策,とくにプルトニウム利用政策について現状をどう認識・評価するかについての議論,放射性廃棄物処分対策に関する具体的な展望,安全性・コストなどに関する情報の提示の重要性に関する議論などが行われた。
 「原子力は何をもたらすか?」をテーマとした第8回では,一般公募,原子力モニターからの参加も得て,原子力と社会との関りに関する議論が展開され,エネルギー教育の重要性,立地政策や地域振興などに関する議論などが行われた。
 「原子力開発利用の未来は?」をテーマとした第9回では,核燃料リサイクルについて,経済面,資源面,安全面,環境面などについて総合的に評価することの必要性に関する議論,高速増殖炉開発のあり方,プルサーマルの意義,高レベル放射性廃棄物の処分等に関する議論のほか,電源立地地域,消費地域を含めた国民的な合意形成への努力の重要性に関する議論などが行われた。
 第10回では,第8回と同様,「原子力は何をもたらすか?」をテーマとし,一般公募,原子力モニターからの参加も得て,原子力と社会との関りに関して議論を行ったところ,地域振興,消費地域の人々の理解の促進などに関し,深まりのある議論が行われた。
 「未来に何を残すのか?」をテーマとした第11回では,エネルギー需給の将来展望を踏まえた原子力の意義,位置付けに関する議論,核燃料サイクルや高速増殖炉開発の意義に関する議論などが行われた。
 以下,第4回終了時に整理された4つの事項と,各回を通じて議論の多かった原子力の情報公開や政策決定過程への国民参加に関する議論について,第1~11回までの具体的な論点のいくつかを紹介する。なお,詳細については,別途公表されている「原子力政策円卓会議における議論の論点」*を参照願いたい。
①原子力と社会,とくに安全・安心に関する議論
 原子力の安全性を考える上で重要となる以下のような視点が紹介された。
・「安全」という非常に物理的な問題と「安心」という非常に人間的な問題が絡み合っている。
・放射性物質の放出を伴う場合とそうでない場合の安全性の区別が一般の人にはつかない。これまで,原子力の関係者側が一般社会に近づく努力が足りなかったのではないか。
・「絶対安全」の証明は不可能であるし,「絶対事故が起こる」ことの証明も不可能。
 また,安全を考える上で重要なリスクの問題に関しては,すべての社会的な活動にはリスクが伴うものであり,原子力についても代替するものとのリスクを客観的に把握した上で選択の判断を考えるべきであるとする意見があったほか,原子力は技術的なリスクとしては小さいが,このような評価と社会的なリスクに対する感覚にはギャップがあるという問題提起などがなされた。また,このような専門家と一般の人との受け取り方の違いを生む情報の提供者,媒体(マスコミ),受け手それぞれの問題についての意見には,情報公開を進めていくことが安心のもとになるという意見や,現在のエネルギー教育,マスコミ報道のあり方についての問題提起などがあった。


*「原子力政策円卓会議における議論の論点」:入手についての問い合わせ先は,科学技術庁原子力調査室(〒100東京都千代田区霞ケ関2-2-1)。また,インターネット科学技術庁のホームページ(http://www.sta.go.jp/)内の「原子力委員会からのお知らせ」においても掲載している。

 原子力に関してリスク分析を行うことについて,リスクを受ける人とベネフィットを受ける人が異なる場合,意味がなく倫理に反するとの問題提起があったが,リスクとベネフィットのバランスを考える際には,心理的な面と経済的な面とを区別して議論するべきで,心理的なアプローチに対しては,リスク分析は十分意味があり,また,経済的なリスクを考える場合にも,総合的に社会活動を捉えれば,十分意義があることが指摘された。
 このほか,原子力の安全性について,事故が起こった場合に大きな影響を及ぼす可能性があることや通常運転時の放射性物質の放出などについての不安も表明された。
 社会的な安心感を得るためには,事業者や原子力技術が信頼されることが不可欠であり,安全に対する取組,また,その取組を含む様々な情報を一般の人たちにもわかりやすく提供することなどが重要との指摘があったほか,原子力防災対策の充実を求める意見も出された。
②エネルギーと原子力に関する議論
 現在の世界のエネルギー需要を見ると,その大半が先進国により消費されているが,人類は誰しも豊かな生活を享受する権利を等しく有しており,今後,アジアなどの経済成長に伴うエネルギー需要の伸びを考えると,有限な化石エネルギーだけに頼るのは不可能であるとの見解などが示された。また,資源の枯渇,世界人口の増加,新エネルギーの状況,化石燃料使用による公害などを踏まえ,人類は将来のエネルギーをどうするかを国民全体で考えるべきという問題提起などがなされ,様々な意見が出された。
 将来にわたってエネルギーの供給を拡大していくことは,経済活動に伴い発生する廃棄物の問題から不可能であり,エネルギー供給,経済活動の限界に達しないようにするためにはどうしたらいいかについて議論するべきとの意見や,これに関連して,将来,サステイナブル(持続可能)な状況に入っていく過程をなだらかにするには,ある程度のエネルギー源が必要との意見が出された。また,現在の先進国の一人当たりのエネルギー消費を半減できたとしても,途上国の一人当たりのエネルギー消費が2倍になってしまえば世界のエネルギー消費は増加するということを認識することが重要との意見に関連して,日本も地球的視点で考えるべきとの意見が出された。一方,現在の消費量を根拠として,その傾向から将来を予測するのではなく,将来の社会を真剣にイメージして,必要なエネルギー体系を考え直すべきとの意見などもあった。
 また,省エネルギーが進むように,社会構造,生活様式の改善などに取り組むべきであるといった意見に対し,民生用エネルギーについては,社会の変化を考えれば,一般的な家庭がすべて贅沢な使い方をしているとは言えず,使用量を減らすことは難しい,産業用エネルギーについては,経済発展と大きく関わっており,理念だけで簡単に省エネルギーができるとは思えないといった意見が出された。
 新エネルギーについて,自然エネルギーは,エネルギー密度が薄い,自然条件に左右されると言われるが,使いこなすための技術開発や,知恵を出してうまく使っていくことが重要との意見や,予算を新エネルギーの開発に向けるべきという意見が表明された一方,新エネルギーの供給力,信頼性,コストの問題を指摘し,将来を支えるエネルギー源としては不確実であるとする意見があった。
 また,原子力の意義に関して,原子力の利用は,原子核を安定な状態にしている核の結合のエネルギーを取り出すものであり,社会との間に基本的な困難をもたらすとして原子力の利用を疑問視する意見などがあった。一方,21世紀のエネルギーの供給安定性を考えれば,エネルギー源の多様化を図ることが重要であり,原子力は基幹エネルギーの大きな選択肢の一つとする意見や,安全性を高めつつ,技術を信頼しながら進めていくことに国民の合意を得る努力をするべきとの意見などが示された。
③原子力と核燃料リサイクルに関する議論
 原子力発電所で発生する使用済燃料を再処理し,得られたものを利用していく核燃料リサイクルの意義について,資源的意義,環境への負荷などの観点からその是非について様々な意見が出された。
 また,政策のあり方という観点で,国が国策として明確に位置付け,国民的な合意形成を図っていかなければならないという意見がある一方,リサイクルを進めようとするなら,その影響などに関する十分な評価検討がなされる必要があるとの意見があった。
 このほか,使用済燃料の発電所内貯蔵の長期化についても議論が行われ,使用済燃料が永久に立地地域に置かれることのないよう方向付けをはっきりさせるべきという意見などがあった。
 プルサーマルに関しては,ウラン資源の有効利用,プルトニウム利用技術の確立などに意義があるだけでなく,海外再処理委託により回収されたプルトニウムが現実に存在することを考えると,国際的にも緊要な課題であるとの意見があった一方,資源利用上の利点は小さく,経済性,MOX*(ウラン・プルトニウム混合酸化物)燃料の使用済燃料の取扱いなどの観点から問題があるとの意見があった。また,立地自治体と事業者の問題ではなく,国が責任を持って幅広い観点に立ち,国民的な合意を得る努力を行うべきとの意見などがあった。


*MOX:Mzxed-Oxide通常の原子炉燃料はウランの酸化物を原料として製造されるが,MOX燃料は混合酸化物燃料(Mixed-OxideFuel)と呼ばれ,ウランの酸化物とプルトニウムの酸化物を混ぜ合わせてつくられた燃料。従来のウラン燃料と同じように,ペレットと呼ばれる小さな円柱形に焼き固められ,丈夫な合金でできたサヤ(被覆管)に閉じ込められて使用される。

 高速増殖炉に関しては,「もんじゅ」事故の教訓や核拡散への国際的懸念の増大を配慮し,その開発計画を再構築すべき時期に来ているとの意見が出された。また,「もんじゅ」事故だけを取り上げ,高速増殖炉全体を否定するのは短絡的との意見や,原子力技術は開発に長期間を要するので,長期的観点から継続的な研究開発が必要との意見などが出された。このほか,高速増殖炉の実現可能性を疑問視する意見に対し,将来の重要性を考え,研究開発に努力を傾注するべきであるとの意見が出された。
 バックエンド対策関連では,放射性廃棄物対策の安全性やコストについて国民に充分説明するべきとの意見があった。また,世代間の公平の問題に関し,現在の世代が責任を持ってやるべきなのかも含め,しっかりその方法について議論するべきという意見が出された。また,廃棄物についての研究は産業界の利害と独立した研究機関で行うべきとの意見などもあった。
④原子力と社会との関りに関する議論
 原子力施設の立地政策に関して現在の政策を利益誘導型であるとし,時代遅れであるとの指摘もあったが,立地地域から地域振興策への取組を要請する声が強いことも指摘された。具体的には,立地地域が誇りを持てるように,国は立地地域の痛み,国のエネルギー政策,原子力政策についての消費地における理解を増進する努力を行うとともに,恒久的,かつ地元に本当に役に立つ地域振興策を全省庁一丸となって実施すべきであるとの意見が示された。これに関連して,原子力委員会委員長からは,立地地域が夢と誇りを持てるよう全力を尽くしていくとの見解が示された。また,原子力委員会委員から原子力をどのように地域社会形成に生かしていけるかを考えることが重要との見解が示された。
 また,エネルギー教育の重要性は,一般公募,原子力モニターからの参加者を含め,様々な参加者から指摘された。エネルギー教育をより充実させることや正しい議論をするための知識を若者に持たせることの重要性などが指摘された。
 また,巻町の住民投票の結果について,
・ 十分時間をかけて議論したものであり,結果を率直に認めるべき。
 住民の理解不足というべきではない。
・国策と地域との関りをどのように考えるかについて問題提起されたものと理解できる。立地地域だけの問題ではなく,都会の人たちも共有の認識を持つべきことを問いかけている。
・あのような問いかけに対してよく4割も賛成したというのが率直な感想。
・自治体の長としては,住民を二分することがないような解決に努力すべき。
 などの意見が出された。
⑤原子力の情報公開及び政策決定過程への国民参加に関する事項
 円卓会議各回の議論を通じて情報公開や政策決定過程への国民参加の促進を求める意見が多かったことも円卓会議の議論の大きな特徴であった。
 具体的には,
・国民的合意形成の大前提は「情報公開」である。
・原子力発電に対して国民的な合意形成を進めていくために,情報公開を徹底し,様々な情報をわかりやすく幅広く国民に伝えていくことが重要。
・情報公開を促進し,国民の意見を行政に反映できるシステムの構築が必要。
 などの意見が表明された。
 「国民とともにある原子力」を目指すためには,原子力活動全般にわたる透明性を確保しつつ,原子力政策を進めていかなければならない。また,このような活動を地道に進めることによってのみ,国民の信頼感,安心感を得ることができる。
 国は従来よりこのような認識に立ち,情報公開に努めてきており,安全規制のための審査指針類はもちろん,主要な原子力施設の設置許可に係る申請書や審査書,設計及び工事の方法の認可に係る申請書なども国会図書館などにおいて国民の閲覧に供されている。しかしながら,「もんじゅ」事故後の不適切な対応などもあり,国民から情報公開がなされていないとの意見が多く円卓会議の場で表明されたことを関係者は十分受け止めなければならない。
 この情報公開及び政策決定過程への国民参加の促進に関しては,円卓会議の多くの出席者から意見が出されたことから,第5回円卓会議(6月24日)の場で,原子力に関する情報公開及び政策決定過程への国民参加の促進に関して必要な措置を取るよう,円卓会議より原子力委員会へ提言が行われた。
 この提言に対しては,原子力に関する情報公開及び政策決定過程への国民参加を促進するための施策を講じていくことが,とりもなおさず今後の原子力開発利用に対する国民の理解と信頼の回復を図り,国民的な合意形成に資するものとの認識の下,9月25日,原子力委員会は,対応方針に関する決定を行い,発表した*。その内容については,次の(3)「今後の原子力政策に反映すべき提言と原子力委員会の対応」において詳しく述べる。


*「原子力政策円卓会議における議論の原子力政策への反映について」:資料編323ページ参照。
*「原子力に関する情報公開及び政策決定過程への国民参加の促進について」:資料編324ページ参照。


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