第2章 国内外の原子力開発利用の現状
7.バックエンド対策

(参考)諸外国における原子力バックエンド対策

 原子力バックエンド対策は,原子力開発利用を行っている各国とも重要な問題として捉え,取組を進めている。具体的には以下のとおり。

①米国
 米国では,商業用原子力発電所から発生した使用済燃料については,高レベル放射性廃棄物として一定期間貯蔵したのち直接地層処分することが考えられている。米国エネルギー省(DOE*)は,ネバダ州ユッカマウンテンを処分サイト候補地としており,現在サイト特性調査を実施している。また,処分までの期間の暫定貯蔵施設として,監視付回収可能貯蔵施設(MRS*)の建設が計画されている。一方,DOE関係施設の高レベル放射性廃液については,ガラス固化し,一定期間貯蔵した後,地層処分する計画である。現在の計画では2010年に処分を開始することとしている。


*DOE : Department of Energy

 商業用原子力発電所からの低レベル放射性廃棄物は,バーンウェル及びリッチランドの2つの民間の処分施設において陸地処分が行われている。1980年の低レベル放射性廃棄物政策法(1985年に一部修正)において,州政府が低レベル放射性廃棄物の処分責任を負うこととされ,各州が単独ないしは共同体(コンパクト)を形成して,処分場を建設することが計画され,現在までに,ウォードヴァレー (カリフォルニア州)が許可され,ウェイク(ノースカロライナ州)が候補地として選定されている。DOE関係施設から発生する低レベル放射性廃棄物は,主に連邦政府運営の処分施設において陸地処分を行っている。
 DOE関連施設から発生するTRU廃棄物については,廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP*)において地層処分される計画となっている。

②フランス
 フランスでは,高レベル放射性廃棄物に関しては,1991年12月30日付けの「放射性廃棄物管理の研究に関する法律」に沿って研究が進められている。同法第4条には,
(ア)放射性廃棄物中の長寿命核種の分離・変換方法の研究,
(イ)複数の地下研究施設の建設による深地層での一時貯蔵・最終貯蔵の可能性の調査,
(ウ)放射性廃棄物の事前処理(コンディショニング)及び地上での長期保管方法の研究


*MRS : Monitored Retrievable Storage
*WIPP : Waste Isolation Pilot Plant

 の3分野について,政府は毎年議会に対し研究の進捗状況に関する報告書を提出することが規定されている。さらに,政府は本法律の公布から15年を超えない期間の後,議会に対し上記研究に関する総合評価報告書を提出することとなっている。
 なお,上記法律では,外国からの高レベル放射性廃棄物は委託再処理によるものも含めて国内では処分できない旨が記されている。
 低レベル放射性廃棄物は,1992年操業を開始した放射性廃棄物管理庁(ANDRA*)のローブ(L′Aube)貯蔵センターにおいて陸地処分が実施されている。

③英国
 英国では,使用済燃料の再処理により生じる高レベル放射性廃液を,ガラス固化し一定期間の貯蔵の後,地層処分する方針である。
1982年7月,放射性廃棄物管理白書を発表し,高レベル放射性廃棄物管理について高レベル放射性廃棄物をガラス固化して地上で少なくとも50年間貯蔵を行い,その後の処分についての意志決定は,後の世代に委ねるとの方針を示している。現在これらの方針について原子力レビュー及び放射性廃棄物管理政策レビューの中で再検討が実施されている。
 低レベル放射性廃棄物は,ドリッグ処分場にて陸地処分を行っている。
 また,原子力産業放射性廃棄物管理会社(NIREX*)は,低・中レベル放射性廃棄物の処分場候補地としてセラフィールドを検討している。また,NIREXは,セラフィールドに地下研究施設を建設する計画をもち,1994年7月に地元州に対し申請を行っている。


*ANDRA : Agence Nationale pour la Gestion des Dechets Radioactifs
*NIREX : Nuclear Industry Radioactive Waste Executive

 本年7月に英国環境省は,「放射性廃棄物管理政策の見通し」を議会に提出した。これには,英国が海外から受託した使用済燃料の再処理により発生する中・低レベル放射性廃棄物を高レベル放射性廃棄物に置き換えて返還することを認めるということ,一部が民営化される原子力産業の規制のための基本政策等が示されている。

④ドイツ
 ドイツでは,1994年5月の原子力法の改正により使用済燃料を直接処分する方法と,再処理の後ガラス固化体を処分する方法の2つの選択肢が可能となった。これらの使用済燃料又はガラス固化体は約30年間貯蔵した後,地層処分する方針である。これら直接処分及びガラス固化体処分のサイトとしては,ゴアレーベン(岩塩ドーム)が候補地と考えられており,現在サイト特性調査が行われている。処分の責任は連邦放射線防護庁(BfS*)が負う。
 連邦政府は,1994年10月,ゴアレーベン使用済燃料中間貯蔵所にフィリップスブルク原子力発電所からの使用済燃料を貯蔵することを承認し,1995年4月に燃料集合体9体が搬入された。
 低・中レベル廃棄物については,新処分場としてコンラッドを現在許認可審査中である。また,旧東独のモルスレーベン低レベル放射性廃棄物処分場については,ドイツ統合後も引き続いて操業されている。


*BfS : Bundesamt fur Strahlenschutz

⑤スイス
 スイスでは,使用済燃料をすべて外国で再処理し,返還されるガラス固化体については,約40年間の中間貯蔵の後,国内で地層処分する計画である。処分場サイトの選定までの責任は,連邦政府及び電力会社が共同で設立した放射性廃棄物管理協同組合(NAGRA*)が負う。
 NAGRAはスイス北部の花崗岩地帯及び堆積岩地帯を高レベル廃棄物処分のための研究サイトとして調査を実施している。一方,処分のための研究は,南アルプスのグリムゼル岩盤研究所で進められている。
1994年10月,連邦議会下院はビュレンリンゲンのホウル・シラー研究所に放射性廃棄物の中間貯蔵施設を建設する計画を承認した。
 また,低・中レベル廃棄物については,4か所の処分候補地が選定され,調査が進められてきたが,1993年にスイス中央部のウェレンベルグ(Wellenberg)が予定地として決定された。しがしながら1995年6月,同処分場の建設計画の可否を問う州民投票により,この建設計画は否決された。


*NAGRA : Nationale Genossenschaft fur die Lagerung Radioaktiver Abfalle

⑥スウェーデン
 原子力発電所からの使用済燃料を使用済燃料中間貯蔵施設(CLAB*)において約40年間貯蔵した後,再処理せずに直接地層処分する方針である。
 処分事業の実施主体は,民間のスウェーデン核燃料・廃棄物管理会社(SKB*)である。現在,SKBは最終処分候補地の予備調査(文献等での調査)を進めているが,今後,最終処分候補地を2ヶ所に絞り,サイト特性調査を行った上で,最終処分地1ヶ所を選定し,さらに詳細な調査を行った上で処分地を決定する予定である。2010年頃処分場運開を予定している。
 1990年よりオスカーシャム付近のハードロック・ラボラトリー(HRL)地下研究施設において,最終処分のための研究開発が進められている。現在,掘削による岩盤(花崗岩)への影響や,地下水の流れや物質の移行モデルの確証等の処分のための研究開発を実施している。同施設において,動力炉・核燃料開発事業団はSKBとの共同研究を実施している。また,低レベル放射性廃棄物については,原子炉廃棄物最終貯蔵所(SFR*-1)において処分が行われている。

⑦カナダ
 カナダでは,使用済燃料を約50年間中間貯蔵した後,再処理せず地層処分する方針である。放射性廃棄物の処理処分については,カナダ原子力公社(AECL*)が中核となって研究開発を行っている。1994年10月,連邦政府環境評価パネルは,高レベル放射性廃棄物の深地層処分の概念に関する環境影響評価声明書を公表した。


*CLAB : Centralt Lager for Anvant Bransle
*SKB : Swcdlsha Nuclear Fueland Waste Management Co.
*SFR : Slutforvar for Reaktoravfa11

 この声明書では,将来における放射性廃棄物による影響から人間の健康と自然環境を防護するためには,深地層処分を行うことは適切であり,カナダの場合には楯状地の深成岩中へ処分することが適切であるとしている。この声明書は,現在関係者の評価を受けるために公表されており,その後公聴会を経た後に,環境大臣及び天然資源大臣に提出されることとなっている。
 AECLはマニトバ州ピナワに,地下研究施設を設置して,高レベル放射性廃棄物の地層処分の研究開発を実施している。

⑧ベルギー
 ベルギーは,使用済燃料をフランスに再処理委託し,返還ガラス固化体については,50年以上中間貯蔵の後,国内で地層処分する計画である。
 放射性廃棄物の処理処分の研究開発は,モル原子力研究センター(SCK/CEN*)を中心に行われている。また,放射性廃棄物の処理処分の実施については,放射性廃棄物・核分裂性物質国家機関(NIRAS/ONDRAF*)が行っている。現在の計画では2035年に処分場の操業開始を予定している。

⑨オーストラリア
 オーストラリアでは,高レベル廃液の処理方法として,オーストラリア原子力科学技術機構(ANSTO*)が合成岩石中に放射性核種を閉じ込めるシンロック固化法について研究開発を進めている。


*AECL : Atomic Energy of Canada Ltd.
*SCK/CEN : Studiecentrum voor Kernenergie/Cenre d’Etude l’energie Nucle’aire
*NIRAS/ONDRAF : Nationale Instelling voor het beheer van Radioaktief Afval en Splijtsoffen/Organisme National des Dechets Radioactifs et des Matieres Fissiles


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