第2章 国内外の原子力開発利用の現状
7.バックエンド対策

(1)放射性廃棄物の処理処分対策

 原子力長期計画においては,整合性のある原子力発電体系という観点から残された最も重要な課題は,バックエンド対策を適切に実施するための方策を確立することであり,これは原子力による便益を享受している我々の世代の責務であるとしている。
 また,バックエンド対策の基本方針として,原子力長期計画では,多種多様な放射性廃棄物の特性を踏まえて合理的に実施することとし,安全確保を大前提に,国民の理解と協力の下,責任関係を明確化して計画的に推進していくこととしている。特に,高レベル放射性廃棄物の処分については重要な課題として取り上げ,処分の手順,スケジュール,関係各機関の責任と役割等を明確にしつつ,円滑に実施していくことが必要であるとしている。
 以上の基本方針の下,今後,必要な研究開発等の諸施策が進められることになっている。
 また,1986年放射性廃棄物の廃棄の事業に関する規制を創設し,その安全規制の充実強化を図ることなどを目的とした「核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」の改正が行われている。

①放射性廃棄物処理処分対策の現状
(ア)高レベル放射性廃棄物処理処分
 高レベル放射性廃棄物の処理処分の現状及び今後の取組は第1章において述べたとおりであり,原子力長期計画に示された方針に従い着実に進めていくことが重要である。
(イ)低レベル放射性廃棄物処理処分
(a)発電所廃棄物
(I)発生の現状
 原子力発電所等の運転等に伴い,低レベル放射性廃棄物(以下,「発電所廃棄物」という」)が発生する。発生した発電所廃棄物については,各事業者により各発電所の中で処理されている。液体の放射性廃棄物は,蒸発濃縮した後,セメント等を用いて固化される。紙・布等の可燃物は焼却した後,焼却灰をドラム缶に詰め保管される。また,ゴム・金属等の難燃物及び不燃物についても,ドラム缶等に保管される。これらの発電所廃棄物は,発電所敷地等の中の貯蔵庫に安全に保管されている。1995年3月末現在の発電所廃棄物の累積保管量は,200リットルドラム缶換算で約51万4千本である。
 発電所廃棄物のうち,気体状の放射性廃棄物及び放射能レベルの極めて低い液体放射性廃棄物は,適切な処理を施し,法令で定められた基準を下回ることを確認した後,施設の外に放出されているが,今後とも放出量の低減化に努めていくことが重要である。
 また,原子力発電所では放射能レベルの比較的高いものもわずかながら発生するが,これらは放射能の減衰のため発電所の使用済燃料プール等に安全に保管されている。

(II)処分の基本方針
 i)責任分担
 発電所廃棄物については,直接の廃棄物の発生者である電気事業者等原子炉設置者に処分を適切かつ確実に行う責任がある。
 ii)処分の考え方
 発電所廃棄物のうち,放射能濃度の比較的低いものについては,浅地中の埋設処分を進めることとしており,青森県六ケ所村の日本原燃(株)低レベル放射性廃棄物埋設センターにおける埋設事業が1992年12月から開始されている。
 同センターでは第一期工事分として,1998年度までに約4万立方メートル(200リットルドラム缶で約20万本)の廃棄物を埋設する予定であり,最終的な埋設能力は約60万立方メートル(200リットルドラム缶で約300万本)となる計画である。なお,1995年3月末の累積受け入れ本数は49,600本である。
 また,放射能レベルの比較的高いものについては,合理的な処理処分が安全に行われるよう引き続き検討を進める。
(b)TRU核種を含む放射性廃棄物の処理処分
(I)発生の現状
 使用済燃料の再処理,MOX燃料の加工の過程で発生する低レベル放射性廃棄物は,TRU*核種を含んでおり,これらの核種は一般にアルファ線を放出し,半減期が長い等の特徴を有するため,特にTRU核種を含む放射性廃棄物として区分される。
 これらの廃棄物は,我が国では主に動力炉・核燃料開発事業団において発生しているが,1995年3月末現在までで,同事業団では200リットルドラム缶換算で約53,000本になる。これらについては,貯蔵庫に安全に保管されている。


*TRU : 超ウラン元素。ウランより元素番号の大きい元素の総称(Transuranic)

(II)処分の基本方針
 i)責任分担
 TRU核種を含む放射性廃棄物については,廃棄物を直接の発生者(再処理事業者,MOX燃料加工事業者)とその発生に密接に関連する電気事業者が,廃棄物の帰属や処分に関する責任を当事者間で明確にした上で,処分の責任を有する者が,実施スケジュール,実施体制,資金の確保等について検討することとしている。
 ii)処分の考え方
 TRU核種を含む放射性廃棄物の処分に当たっては,全アルファ核種の放射能濃度について約1ギガベクレル/トンを区分目安値とし,これより全アルファ核種の放射能濃度が低く,かつベータ・ガンマ核種の放射能濃度も比較的低いものについては,浅地中処分が可能と考えられ,その具体化を図ることとしている。全アルファ核種の放射能濃度が区分目安値よりも高いものについては,浅地中処分以外の地下埋設処分が適当と考えられ,高レベル放射性廃棄物の処分方策との整合性を図りつつ,1990年代末を目途に具体的な処分概念の見通しが得られるよう技術開発を進めることとしている。
(c)ウラン廃棄物の処理処分
(I)発生の現状
 民間のウラン燃料加工事業所,動力炉・核燃料開発事業団のウラン濃縮施設等から発生するウラン廃棄物については,現在,各事業所において安全に貯蔵されている。1995年3月末までで200リットルドラム缶換算で,動力炉・核燃料開発事業団においては約35,000本,民間加工事業者においては約33,400本発生している。
(II)処分の基本方針
 i)責任分担
 ウラン廃棄物については,廃棄物の直接の発生者(ウラン転換・成型加工業者,濃縮事業者)とその発生に密接に関連する電気事業者が,廃棄物の帰属や処分に関する責任を当事者間で明確にした上で,処分の責任を有する者は,実施スケジュール,実施体制,資金確保等について検討を進めることとしている。
 ii)処分の考え方
 ウラン濃度が比較的低い大部分の廃棄物は,簡易な方法による浅地中処分を行うことが可能と考えられ,今後具体的な方法の検討を行った上で,基準の整備等を図っていくこととしている。
(d)RI廃棄物処理処分
(I)発生の現状
 医療機関及び研究機関等の放射性同位元素(RI)の使用施設等から発生する放射性廃棄物(以下,「RI廃棄物」という)のうち,可燃物,不燃物,無機液体等のRI廃棄物は,(社)日本アイソトープ協会及び日本原子力研究所で焼却処理や圧縮減容処理を行った後,施設内の貯蔵庫に安全に保管されている。(社)日本アイソトープ協会が保管しているRI廃棄物の1994年度末の累積保管量は約73,200本である。
(II)処分の基本方針
 i)責任分担
 日本原子力研究所等の研究機関や大学,企業等のRI使用者等は直接の廃棄物発生者として処分を適切かつ確実に行うことについて責任を有している。一方,(社)日本アイソトープ協会等は,廃棄業者としてRI使用者等からRI廃棄物を譲渡され,自ら保管廃棄していることから,これらの保管廃棄している廃棄物について処分を適切かつ確実に行う責任を有している。したがって,日本原子力研究所,(社)日本アイソトープ協会等の主要な責任主体が協力して,実施スケジュール,実施体制及び資金確保等について,早急に検討を始めることとしている。
 ii)処分の考え方
 処分については,比較的半減期が短い,ベータ・ガンマ核種が主要核種である廃棄物のうち,放射能レベルの比較的低いものは,浅地中処分又は簡易な方法による浅地中処分が可能と考えられる。半減期が極めて短い核種のみを含むのもについては,段階管理を伴わない簡易な方法による浅地中処分が可能と考えられる。今後,これらの処分の具体的な方法を検討し,基準の整備等を図っていくこととしている。
 また,アルファ核種のような長半減期の核種が主要核種であるものについては,TRU核種を含む放射性廃棄物及びウラン廃棄物の処分方法を参考に処分方法を検討することとしている。

②放射性廃棄物等の処理処分の研究開発
 発電所廃棄物に関する技術開発については,国により日本原子力研究所,(財)原子力環境整備センター等において,低レベル放射性廃棄物の再利用に関する技術開発,低レベル放射性廃棄物処分施設の長期安全性に関する試験,濃度上限値を上回る低レベル放射性廃棄物に関する処分技術の開発等が行われている。
 また,TRU核種を含む放射性廃棄物やウラン廃棄物に関する技術開発については,動力炉・核燃料開発事業団や日本原子力研究所等において減容・除染技術及び安定な形態への固化技術等処理技術の開発等を行うとともに,特にTRU核種を含む放射性廃棄物の処分について,合理的な処分概念の検討等を行っている。
 一方,RI廃棄物及び研究所廃棄物については,日本原子力研究所,(社)日本アイソトープ協会等で将来の処分に備え,廃棄物中の放射能濃度の確認技術の検討,廃棄物の核種組成及び放射能レベルに応じた合理的な処理処分方法の検討及び廃棄物の減容技術の開発や固化技術の検討等が実施されている。

③放射性廃棄物の海洋投棄について
(ア)ロンドン条約に基づく放射性廃棄物の海洋投棄の禁止
 放射性廃棄物の海洋投棄については,国際的には,従来,廃棄物等の海洋投棄を規制しているロンドン条約(「廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」)において,高レベル放射性廃棄物の海洋投棄については禁止され,また,低レベル放射性廃棄物については,締約国政府の特別許可により可能とされていた。しかしながら,1983年及び1985年の締約国協議会議において,低レベル放射性廃棄物の海洋投棄についても一時停止すること(モラトリアム)が決議された。さらに,1993年の第16回締約国協議会議において条約附属書が改正された結果,低レベル放射性廃棄物の海洋投棄についても禁止されることとなった。但し,ロシアは,海洋汚染を回避するための努力は継続するものの,当該附属書の改正を受諾しない旨の宣言を行っている。
 我が国としては,従来から低レベル放射性廃棄物の海洋投棄については,関係国の懸念を無視して強行はしないとの考えの下に,その実施について慎重に対処することとしてきたが,第16回締約国協議会議に先立ち,次に述べるような旧ソ連・ロシアの海洋投棄の影響を考慮し,低レベル放射性廃棄物の処分の方針として海洋投棄は選択肢としない旨の原子力委員会決定を行った。なお,同決定では将来,政治的,社会的な情勢等が大きく変化した場合には,本政策の再検討も考慮するとしている。
(イ)旧ソ連・ロシアによる海洋投棄
1993年4月に,ロシア政府は報告書を公表し,旧ソ連及びロシアが長年にわたり北方海域及び極東海域において放射性廃棄物の海洋投棄を継続してきた事実を明らかにした。さらに,10月にも日本海において液体放射性廃棄物の海洋投棄を実施した。
 政府としてはロシア政府報告書公表直後及び10月の投棄の直後に放射能対策本部において,海洋環境放射能調査を実施し,これまでの投棄により我が国国民の健康に対して影響が及んでいるものではなく,10月の投棄についてもその影響が認められないことを確認している。
 また,5月,11月の日露合同作業部会を始め,ロシアとの間で随時協議を行い,投棄の実態解明に努めるとともに,日韓露共同調査の実施,液体放射性廃棄物の処理・貯蔵施設建設に関する協力につき協議を実施した。その結果,まず日本海の投棄海域において1994年3月から4月にかけて,日本,韓国,ロシア及びIAEAの専門家による海洋調査を実施した。1995年7月に共同報告書を取りまとめたが,それによると投棄海域で採取した海水及び海底土からは,日本周辺海域で観測されている放射性核種濃度と差が認められず,かつ人工放射性核種の有意な影響は認められなかった。
 さらに,日本海以外の投棄海域については,1995年1月に開催された日露合同作業部会の議論を踏まえ,1995年8月から9月にかけて,日本,韓国,ロシア及びIAEAの専門家による海洋調査がオホーツク海,カムチャッカ沖等で行われた。
 ロシアによる放射性廃棄物の海洋投棄を防止するには,放射性廃棄物の貯蔵・処理問題の解決が不可欠であり,これは一義的にはロシアが自ら解決すべき問題であるが,政府としてもかかる問題の解決につき協力することとし,日露核兵器廃棄支援の資金の一部を利用して,ウラジオストック付近に放射性廃棄物の水上処理施設を建設することで合意している。現在,施設建設に向けて調整中である。


目次へ          第2章 第7節(参考)へ