第2章 国内外の原子力開発利用の現状
6.核燃料リサイクルの技術開発

(参考)諸外国の動向

(1)使用済燃料の再処理
 IAEAによると,1994年現在,世界の再処理設備容量は,フランスが1,600トンU/年(濃縮ウラン),600トンU/年(天然ウラン),5トンHM*/年(高速炉燃料),英国が1,200トンU/年(濃縮ウラン),1,500トンU/年(天然ウラン),10トンHM/年(高速炉燃料),日本が100トンU/年(濃縮ウラン)*,旧ソ連が400トンU/年(濃縮ウラン),インドが120トンHM/年(加圧水型炉燃料等)となっており,再処理設備容量の合計は5,535トンHM/年である。

①フランス
 自国内で再処理を実施するとともに,海外からの委託再処理も実施している。また,軽水炉でのプルトニウム利用,高速増殖炉の研究開発等,核燃料リサイクルを積極的に推進している。
 COGEMAは,1994年8月,軽水炉燃料の年間再処理能力を400トンU/年から800トンU/年に拡張したラ・アーグの再処理工場UP2-800の操業を開始した。1990年に全面運転を開始したUP3(処理能力:軽水炉燃料800トンU/年)が海外からの委託再処理を行うのに対し,このUP2-800は今後,フランス国内の使用済燃料の再処理を受け持つことになっている。


*HM : 重金属(ヘビーメタル)量(ここでは燃料加工規模を燃料に含まれる重金属の量で表現している)。
*日本の再処理設備容量(動燃東海再処理工場)は0.7トンU/日であり,年間70~90トンUを再処理している。

 高速炉燃料再処理についてはマルクールにおいて,APM*と呼ばれる施設(5トンHM/年)が操業されている。

②英国
 自国内で再処理を実施するとともに,外国からの委託再処理も実施しており,軽水炉でのプルトニウム利用を図っていく方針である。
 BNFLは,1,500トンU/年(天然ウラン)に加え,1994年1月よりセラフイールドにおいて,外国からの委託再処理のため1,200トンU/年の処理能力を有する軽水炉燃料の再処理工場(THORP*)の操業を開始した。
 高速炉燃料の再処理については,ドーンレイにおいて既に10トンHM/年のプラントが操業中である。

③ドイツ
 再処理・プルトニウム利用の推進が基本であったが,EC統合等の背景の下1989年に自国内での再処理方針から,英仏に再処理委託を行っていく方針に変更した。
 また,これまで原子力法により再処理・プルトニウム利用が義務付けられてきたが,1994年5月,原子力法の一部改正を含むエネルギー一括法案が成立し,使用済燃料の再処理路線と直接処分路線の両立が認められることとなった。1994年12月にドイツの電力会社数社が,英国BNFL社との再処理契約のうち,2004年以降の契約分を解約するなどの動きも見られた。


*APM : Atelier Pilotede Marcoule
*THORP : Thermal Oxide Reprocessing Plant

④ロシア
 自国内で再処理を進めており,1976年に運転開始した再処理工場RT1によりVVER-440の使用済燃料の再処理を実施している。さらに,VVER-1000の使用済燃料の再処理を主目的とした1,500トンU/年の能力を持つRT2の建設を進めている。

⑤中国
 核燃料リサイクル政策を進めており,使用済燃料は基本的に自国で再処理することとしている。このため,21世紀初頭に再処理のパイロットプラントを操業させる予定としており,さらに,大規模再処理工場を2010年代に操業することを予定している。

(2)MOX燃料利用
 プルトニウムの軽水炉による利用については,主として欧州で実績が積み重ねられている。欧州各国とも新規施設を増設計画中である。

①ベルギー
 デッセルにおいてベルゴニュークリア社が35トンHM/年の工場(PO)を操業中であり,40トンHM/年の新工場(P1)を計画中である。
1993年12月,ベルギー議会は2基の軽水炉へのMOX燃料装荷を承認した。ベルギーでは,1963年から1987年まで研究炉BR-3(PWR,1万キロワット)においてMOX燃料を合計151本装荷した経験を有しており,1995年3月に,商業用原子炉としては初めてチアンジェ2号機(PWR,93万キロワット)にMOX燃料を8本装荷した。

②フランス
1983年に軽水炉でプルトニウムをリサイクルすることを決定し,1994年には7基の90万キロワット級軽水炉でプルトニウムのリサイクルを行っている。最終的には28基程度に増やす予定でMOX燃料装荷が申請されており,これまでに16基が許可を取得した。燃料製造に関しては,カダラッシュにおいてCOGEMAが15トンHM/年の工場を操業中である。また,COGEMA,フラマトム社が共同でマルクールにおいて建設を進めていた120トンHM/年の新工場(MELOX)は,1994年8月にMOX燃料集合体の製造工程の操業許可を受けた。同工場は,1995年中に本格操業を開始する予定である。

③ドイツ
1960年代よりMOX燃料を試験的に使用し,1980年代からは本格的に展開して,現在は8基の軽水炉でMOX燃料を使用している。最終的には20基程度に増やす予定でMOX燃料装荷が申請されており,これまでに12基が許可を取得した。ジーメンス社が,30トンHM/年のハナウ工場において沸騰水型軽水炉(BWR)及び加圧水型軽水炉(PWR)向けのMOX燃料を製造していたが,1991年に操業を停止した。完成を目前に控えていた120トンHM/年の新工場は,完成に必要な許認可の発給拒否や環境保護団体からの訴訟などにより,建設作業が大幅に遅れ,ジーメンス社は同工場の閉鎖を決定した。

④英国
 英国原子力公社(UKAEA*)及びBNFLが1993年10月,セラフィールドにおいて8トンHM/年の実証プラントを運転開始させた。またさらに,BNFLは120トンHM/年のセラフィールドMOXプラントの建設を1994年4月に開始しており,その操業開始は1997年に予定されている。


*UKAEA : United Kingdom Atomic Energy Authority

⑤ロシア
 高速炉及びVVER-1000に使用するMOX燃料の加工を行うため,チャリアビンスクにおいて60トンHM/年の新工場を建設する計画がある。

(3)高速増殖炉の開発
 高速増殖炉開発については,欧州において,1970年代前半にフランス,英国がそれぞれ原型炉フェニックス,PFRの運転を開始した。英国のPFRは約20年にわたる運転経験を蓄積し,1994年3月に運転を終了した。フランスのフェニックスは反応度低下のトラブルのため1990年より運転停止状態となり,1993年2月には反応度低下の原因究明のため試験運転を実施した。1994年12月にフランス原子力施設安全局(DSIN*)は同炉が第49運転サイクルを終えるまで運転を行うことを許可し,同サイクルは1995年4月に予定どおり終了した。ドイツでは,原型炉SNR-300の計画が1991年3月に運転開始目前で政治的理由から中止された。
 フランスの高速増殖実証炉スーパーフェニックス(124万キロワット)は,1994年7月に新たな設置許可を取得し,翌8月に臨界を達成した。その後,定格出力の3%で炉心作動状況などの確認中に,中間熱交換器1基でアルゴンガス圧低下が発生したが,これの安全性への影響は少ないとして,DSINは同年11月に出力30%までの運転を許可した。同月,発電の準備中に蒸気発生器からの蒸気漏えいが発生したが,修理され,12月には送電網への試験併入が行われた。この後,中間熱交換器のアルゴンガス圧低下の修理のため運転を停止した。現在,運転再開に向けた準備を行っており,今後,出力を60%,90%に引き上げる計画で,その都度個別の許可が必要となる。同炉は今後,産業規模の高速増殖炉の性能実証,プルトニウム燃焼研究,長寿命放射性廃棄物の燃焼研究に利用される予定である。
 また,旧ソ連においては実験炉(BOR-60),原型炉(BN-350),大型原型炉(BN-600)が運転中のほか,これに続く実証炉(BN-800)の建設も計画されている。
 このように欧州において,英国,ドイツなど高速増殖炉開発を終了または縮減する例も見受けられるが,これらの国々においては,既に高速増殖炉技術の開発成果を蓄積しており,短期的なエネルギー事情,特にウラン需給の緩和,財政事情等から高速増殖炉へのさらなる開発投資を控えているものである。


*DSIN : Direction de la Surete des Installations Nucleaires

 他方,米国においては,前述のとおり核不拡散政策について民生用のプルトニウム利用をしないとの方針を打ち出しており,予算に示された措置等を見ても高速増殖炉に対して消極的である。

(4)世界のプルトニウム量
 全世界に存在するプルトニウムは,ストックホルム国際平和研究所等の試算によれば,1993年末時点で軍事用が約250トン,民生用が約845トンである。民生用のうち,使用済燃料中のプルトニウムが約701トン,分離貯蔵されているプルトニウムが約110トン,これら以外は核燃料サイクルの工程中に存在しているものである。分離貯蔵されているプルトニウムのほとんどは,英国,フランス及びロシアに存在している。


目次へ          第2章 第7節へ