第2章 国内外の原子力開発利用の現状
4.原子力発電の現状と見通し

(2)原子力発電の将来見通しと原子力施設の立地の促進

①原子力発電規模の見通し
 今後の原子力発電の開発規模については,原子力委員会は原子力長期計画において,2000年において約4,560万キロワット,2010年において約7,050万キロワットの設備容量を達成することを目標とし,さらに長期的展望として,2030年の原子力発電の設備容量は約1億キロワットに達するとの期待を示した。
 また,(財)日本エネルギー経済研究所が行った2030年までの我が国の将来原子力開発に関する試算結果によると,電力化の進展等により増大する電力需要に対応し,原子力発電設備容量を2030年で約1億キロワットにすると発電コストが適切である。
 諸情勢により原子力開発がスローダウンした場合の影響は,超過排出二酸化炭素*の処理等による発電コストの上昇として現れる。2030年の原子力発電設備容量が7,000万キロワット(目標値に比べ30%減少),5,500万キロワット(同45%減少),4,100万キロワット(同60%減少)の場合,それぞれ200万トン,2,800万トン,5,300万トン(それぞれ炭素量)の二酸化炭素の処理が必要となり,発電コストが上昇する。
 以上の結果は,原子力長期計画の見通しに従い,原子力発電を導入することは,単にエネルギーの需要に応えるだけでなく,経済性の観点からも重要であることを示している。


*国民一人当たりの二酸化炭素排出量を1990年レベルで維持するとした場合に,これを超過して排出される二酸化炭素を処理すると仮定している。
*1億kwの発電コストを1とした時の相対的な発電コスト比

②原子力施設の立地促進
 今後,上記の原子力発電設備容量を確保するには,既存サイトでの増設に加えて新規サイトの確保が必要であるが,原子力発電所の立地には計画から運転開始までの先行期間(リードタイム)が長期に及ぶことを考慮すると,早急に新規サイトの確保に向けて対策を充実していくことが必要である。
 原子力施設の立地促進については,これまで国,地方公共団体,事業者等の積極的な立地促進活動が一定の成果を挙げてきたものの,国民の意識の中から原子力に対する不信感,不安感が依然として払拭されていないことも一因となり,立地は年々困難になってきている。また,立地に伴う地域振興効果を期待する地元の声も,ますます多様化してきている。原子力施設の立地による波及効果を地域の長期的発展に結びつけることが重要であるが,その際,既存立地地点における地域の発展状況が,新規立地予定地点の理解を深める上で意義が大きいことにも留意する必要がある。

 原子力施設の立地促進の主体は事業者,地元の地域振興の主体は地方公共団体であるが,国としても立地円滑化の観点から地元と原子力施設が共生できるよう,関係省庁が一体となって地元の地域振興に一層きめ細かな支援を進める。また,立地地域において,マスメディアを通じた積極的な広報などの理解促進策を展開していくほか,用地取得の円滑化を図る必要がある。
 立地地域の振興対策の拡充を図るためには,電源三法(発電用施設周辺地域整備法,電源開発促進税法及び電源開発促進対策特別会計法)の活用等が逐次図られているが,1995年度には,電力移出県(県内における発生電力量が県内における消費電力量を1.5倍以上の比率で上回る県)における企業導入,産業近代化事業等に対する交付金制度の拡充,立地都道府県における,原子力基盤技術に関する試験研究のための施設の整備等に対する交付金制度の追加等が行われた。また,電源開発調整審議会では,電源立地を「国をあげて支援すべきプロジェクト」と位置付けるとともに,電源開発調整審議会に上程される前の段階(初期段階)における取組が重要であるとし,1993年3月同審議会の下に電源立地部会を設置し,関係省庁の協力を得て,初期段階地点の状況の把握,地域振興計画に関する助言,協力等を継続的に行っている。
 立地に関する最近の動向としては,1995年度の電力施設計画において,新たに北陸電力((株)志賀原子力発電所2号炉(BWR,出力135万8,000キロワット)の立地計画が盛り込まれた。これは,1996年度に電源開発調整審議会に上程予定である。
 また,1994年9月総合エネルギー対策推進閣僚会議において,要対策重要電源として,新たに中国電力((株)上関原子力発電所1,2号(135万キロワット×2基)を指定するとともに,中部電力(株)浜岡原子力発電所については,5号機の追加(135万キロワット)が行われた。また,中国電力(株)豊北原子力発電所1,2号(110万キロワット×2基)については,電源開発の計画が取消しになったことにより,指定を解除された。本指定を受けた地点に対しては,電源開発促進対策特別会計電源立地勘定による重要電源等立地推進対策補助金の交付等の諸施策が重点的に講じられる。


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