第2章 国内外の原子力開発利用の現状
2.原子力安全確保

(5)原子力安全確保に係る国際協力

①旧ソ連,中・東欧諸国の原子力安全対策に対する協力
 旧ソ連,中・東欧諸国の原子力発電所の安全性確保は,世界的な焦眉の課題として,国際的に支援方策が検討されている。1994年のナポリサミットの経済宣言において,チェルノブイル原子力発電所の閉鎖が緊急の優先事項として明記されたことに引き続き,1995年6月に行われたハリファクスサミットの経済宣言において主要先進国(G7)は,ウクライナのクチマ大統領による2000年までに同発電所を閉鎖するとの決定を祝福するとともに,ナポリサミットで行った支援の意図表明を再確認し,また同発電所の閉鎖を支援するため,適切なエネルギーの在り方等を踏まえた国際的支援を引き続き行っていくこと等を表明した。さらに同サミットの後半から参加したロシアのエリツィン大統領から1996年春にモスクワにおいて,原子力安全に関する特別サミットの開催が提案され,原則的に了承された。
 我が国においても,多国間協力としては,IAEAの旧ソ連型原子力発電所の安全性評価プロジェクト等に人的及び資金的な面で積極的に貢献し,二国間協力については,旧ソ連,中・東欧諸国より原子力技術者等を受け入れ,原子力安全向上のための研修を実施しており,また,原子力発電技術者の技術レベル・安全意識向上のため,研修生を1992年より10年間に1,000人規模で招へいしている。さらに,旧ソ連,中・東欧諸国の原子力発電の状況等を調査するとともに,旧ソ連,中・東欧諸国に我が国の原子力安全の専門家を派遣し,原子力安全に関する技術の交流を行っていく予定である。
 また,設備の支援としては,原子炉の配管から冷却水漏えいを検知するための運転中異常検知システムをソ連型原子力発電所に設置し,当該技術を適用することにより,安全性の向上を図ることとしている。
 また,運転員の訓練の充実及び資質の向上を図るため,原子炉施設の挙動を模擬する本格的シミュレータをロシアに1基設置することとしている。

②原子力の安全に関する条約
 旧ソ連,中・東欧諸国の原子力発電所の安全問題を契機として,各国の原子力施設の安全性確保を目的とした原子力安全条約の策定が,1991年9月のIAEA主催の原子力安全国際会議で提案された。それ以降,IAEAを事務局とした条約草案策定のためのワーキンググループにおいて検討が進められ,1994年6月に開催された外交会議において原子力の安全に関する条約が採択された。
1994年9月のIAEA総会の機会に同条約の署名開放がなされ,1995年9月21日までに我が国を含む60か国が署名しており,このうち日本を含む12か国は既に締結した。この条約は,原子力発電所保有国の17か国を含む22か国が締結した日の後90日目の日に発効することとなっている。
 本条約は,民生用原子力発電所を対象として,各国が遵守すべき安全上の基本的措置に係る義務的条項や,条約の遵守状況を確認するための締約国会合の開催等について盛り込んである。また,その他の核燃料サイクル施設等については,今後,引き続き検討が進められる。


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