第2章 国内外の原子力開発利用の現状
2.原子力安全確保

(1)原子炉施設等の安全確保

①原子炉施設の安全確保
 従来から国は厳格な安全規制等を行うことにより原子炉施設の安全確保に万全を期してきている。
 安全規制の概要としては,「核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(原子炉等規制法)」の定めるところにより,原子炉施設の所管大臣(実用発電炉は通商産業大臣,実用舶用原子炉は運輸大臣,試験研究の用に供する原子炉及び研究開発段階にある原子炉は内閣総理大臣)によって厳重な安全のための規制が行われている。
 このうち,原子炉施設の設置(変更)許可については,原子力委員会及び原子力安全委員会が,原子炉施設の所管大臣の諮問に基づき,各所管行政庁の行った審査の結果について審査指針等に照らしそれぞれ独自の立場から調査審議(いわゆるダブルチェック)を行っている。
 最近における主な案件としては,関西電力(株)美浜発電所1号炉,2号炉及び3号炉における雑固体処理設備の設置等に係る設置変更許可についての答申,東京電力(株)福島第二原子力発電所1号炉及び2号炉における9×9少数体装荷燃料の装荷に係る設置変更許可についての答申及び日本原子力研究所における廃棄物埋設事業の許可についての答申を行っている。
1995年1月に発生した平成7年兵庫県南部地震では,原子力施設に特段の影響はなかったが,原子力安全委員会は,原子力施設の安全確保に万全を期すとの観点から,「平成7年兵庫県南部地震を踏まえた原子力施設耐震安全検討会」を設置し,安全審査に用いられる耐震設計に関する関連指針類の妥当性について確認を行う等所要の検討を行った。その結果,兵庫県南部地震を踏まえても,関連指針類の妥当性が損なわれるものではないことが確認され,9月に報告書が取りまとめられた。一方,現行の指針が策定される以前に設置が許可された主要な原子力施設については,設置者が自主保安の一環として関連指針類に照らしても耐震安全性が確保されていることを確認するとともに,科学技術庁及び資源エネルギー庁においても,設置者の検討内容が妥当であることを確認し,9月にその結果が原子力安全委員会に報告された。
 また,軽水炉によるプルトニウムの利用が今後本格化していくのに伴い,軽水炉によるMOX*燃料の利用に関し,安全審査の際の指標(基本的な考え方)を作成する観点から所要の検討を行い,6月にその検討結果として,軽水炉において,従来の炉心の特性を大きく変更することなく,全燃料の3分の1程度までをMOX燃料に置き換えて使用する場合,
・MOX燃料の特性,挙動はウラン燃料と大きな差はなく,MOX燃料及びその装荷炉心は,従来のウラン燃料炉心と同様の設計が可能である。
・安全評価に当たっては,従来のウラン燃料炉心に用いる判断基準並びにMOX燃料の特性を適切に取り込んだ安全設計手法及び安全評価手法が適用できる。
 との報告書を取りまとめた。


*MOX : Mixed-Oxide

 さらに,1994年9月に原子力発電所の高経年化対策の一環として定期安全レビューについて通商産業省から原子力安全委員会に報告があった。また,同年10月にシビアアクシデント対策としてのアクシデントマネージメントの整備について通商産業省から原子力安全委員会に報告があり,原子力安全委員会においても,その報告を踏まえ原子炉安全総合検討会でシビアアクシデント対策について所要の検討を行っている。

②運転管理
 原子炉施設の運転管理については,保安規定の認可,運転計画の届出等が法令に定められており,安全性を確認しながら行われることとなっているほか,年に1回,2~3ヶ月をかけた厳格な定期検査を実施している。また,原子炉施設の運転に関して保安の監督を行うため,原子炉主任技術者の選任が義務付けられているほか,原子力発電所には国から運転管理専門官が派遣され,運転管理の監督がなされている。
 さらに,運転に関する主要な情報については,定期的に,原子炉施設等の故障・トラブル等については,直ちに国に報告されることとなっている。

③防災対策
 原子力発電所等に係る防災対策については,災害対策基本法に基づき,国,地方公共団体等が防災計画を定める等の所要の措置を講じている。
 具体的には,関係道府県が行う緊急時連絡網の整備,防災活動資機材の整備等に対し助成を行っている。また,緊急時に大気中に放出された放射性物質の拡散や一般公衆の被ばく線量を迅速に計算予測できる緊急時迅速放射能影響予測(SPEEDI*)ネットワークシステムの整備・運用を図るなど,原子力防災対策の充実強化を図っている。

④核燃料施設等の安全確保
 製錬施設,加工施設及び再処理施設並びにその他の核燃料物質又は核原料物質の使用のための施設から成る核燃料施設等に関しては,原子炉等規制法に基づき,製錬施設については内閣総理大臣と通商産業大臣が共同で,その他のものは内閣総理大臣が一貫して規制を行うとともに,使用施設以外は原子力安全委員会及び原子力委員会がダブルチェックを行っている。
 原子炉等規制法の主な規制体系と規制形態別事業所数を表2-2-1に示す。


*SPEEDI : System for Prcdiction of Environmental Emergency Dose Information

⑤廃棄施設の安全確保
 原子力施設の付属施設としての廃棄施設,廃棄物埋設施設及び廃棄物管理施設から成る廃棄施設に関しては,原子炉等規制法に基づき,廃棄施設の所管大臣及び原子力委員会,原子力安全委員会のダブルチェックによって厳重な規制を行っている。

⑥輸送の安全確保
 事業所外における核燃料物質等の輸送の規制は,輸送方法,手段等に応じて原子炉等規制法,放射線障害防止法,船舶安全法及び航空法に基づき行われており,一定レベル以上のものについては,輸送に際し,法令で定める技術上の基準に適合することについて行政庁の確認を受けるほか,陸上輸送に関しては都道府県公安委員会に,また海上輸送に関しては管区海上保安本部に届出をする等の規制が行われている。また,事業所内の輸送については,原子力施設の規制の一環として原子炉等規制法に基づき規制が行われている。

⑦放射性同位元素等の取扱いに係る安全確保
 放射性同位元素(RI*)等の取扱いに係る安全性の確保については,放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律(放射線障害防止法)等に基づき許認可等の厳正な審査,立入検査,監督指導等所要の規制が行われている。
 なお,1994年度末のRI等の使用事業所数は4,967事業所,販売事業所数は184事業所,廃棄事業所数は12事業所となっており,使用,販売,廃棄事業所の総計は5,163事業所となっている。


*RI : Radioisotope

 また,第132回国会において放射線障害防止法の一部を改正し,安全性の確保に支障を及ばさないものとして,適切な放射線障害防止対策がとられることを前提に放射性同位元素の賃貸を認め,安全性の高い特定の放射性同位元素装置機器に係る管理業務を合理化し,許可証の訂正手続きを簡素化する規制の合理化を行った。


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