第2章 国内外の原子力開発利用の現状
1.核不拡散へ向けての国際的信頼の確立

(1)我が国の核不拡散への取組

 我が国は従来からNPTの締結や,米国等との二国間原子力協力協定の締結により,すべての核物質について平和利用を担保するための措置である「保障措置」が義務付けられている。

①保障措置
 我が国は,1976年にNPTを批准し,これに基づき1977年にIAEAとの間に保障措置協定を締結し,国内の保障措置制度を前提とした国内すべての原子力施設に対するIAEAの保障措置(フルスコープ保障措置)を受け入れているとともに,IAEAにおいて行われている保障措置関連のプロジェクトに参加するなどIAEAの保障措置体制の整備・強化に積極的に貢献している。
 また,我が国が締結している二国間原子力協力協定上の義務を履行するため,供給当事国別の核物質等の管理を実施している。
 保障措置は具体的には,核物質の計量を重要な基本的手段とし,封じ込め及び監視が補助的手段として実施される。これに基づき1994年に実施された保障措置活動は下記のとおりである。
(ア)計量管理規定の認可,計量管理報告
 原子力事業者は,原子炉等規制法に基づき,国際規制物資の適正な計量及び管理を確保するために国による計量管理規定の認可が義務付けられているとともに,在庫変動報告,物質収支報告,実在庫量明細表等を国に提出することが義務付けられている。1994年における計量管理規定の認可(変更を含む)は35件であった。また,計量管理に関する報告の件数及びそれらに含まれるデータの処理件数は,表2-1-1のとおりである。

 また,我が国における1994年の核燃料物質の流れは図2-1-1のとおりである。
(イ) 査察
 我が国の原子力施設に対しては,国による国内査察及びIAEAによる国際査察が実施されている。1994年12月末現在における保障措置対象施設数及び1994年における国内査察実績は表2-1-2,表2-1-3のとおりである。なお,1994年に国及びIAEAが国内の原子力施設に対して実施した保障措置の結果,例年同様,核物質の平和目的以外への転用を示す異常な事実は皆無であったとの結論が得られている。
 なお,昨年5月に報道された,動力炉・核燃料開発事業団プルトニウム燃料第三開発室におけるプルトニウムの工程内滞留については,回収作業の強化,機器の分解掃除,滞留の発生を抑制する工夫を施した新しい機器の導入等により,順調に低減が図られている。

(ウ)保障措置分析
1994年には,(財)核物質管理センター保障措置分析所においてウラン関係試料106個,プルトニウム関係試料280個の分析を行った。また,査察時にウラン関係,プルトニウム関係合わせて3,042回の非破壊測定を行った。


*実効キログラム : 核物質に保障措置を適用するに当たって,転用に対する核物質の相対的な有効性を反映して使用される特別の単位。

(エ)保障措置技術に関する研究開発と国際協力
 日本原子力研究所,動力炉・核燃料開発事業団,また,国の委託により(財)核物質管理センター等において,保障措置の適用をより効果的・効率的なものとするための研究開発を進めている。
 また我が国は,1981年より「対IAEA保障措置支援計画(JASPAS*)」によりIAEAの保障措置技術開発を支援,1992年より「IAEA保障措置実施により得られる情報を効率的・効果的に把握・解析するための保障措置情報処理評価システムの構築に関する調査」を進めるため,IAEAに対する特別拠出金を提供するなどの国際協力を実施している。
(オ) 保障措置をめぐる最近の動向
1991年に発生したイラクの核開発疑惑等を契機として,IAEA事務局は,特に未申告原子力活動の検知能力を向上させることを目的として,1993年6月のIAEA理事会に,IAEA保障措置の強化・効率化のための活動計画「93+2計画」を提出した。この「93+2計画」に従い,IAEA事務局は,同年から2年間にわたる検討を行った結果,本年6月の理事会において,現行の包括的保障措置協定の範囲でIAEAが実施しうる方策として,環境モニタリング(環境試料の高精度分析による未申告活動の探知)や無通告査察(事前にIAEAとスケジュールの調整を行わない査察)の実施等の方策を提案し,理事会の合意を得た。今後,これらの方策の導入に向けての具体的な協議を国,IAEAとの間で行っていく予定である。
 また,IAEA保障措置強化の一環として,1992年2月のIAEA理事会で原子力施設の設計情報の早期提供が勧告されている。新規の原子力施設の設計情報は,従来,運転開始の30日前までにIAEAに提供することになっていたが,本年7月に同勧告を受けて補助取極の改定が行われ,建設開始の180日前までに提供することとなった。さらに,原子力施設数の増加等により査察業務量や査察機器の購入経費が増大する傾向にあったが,査察活動の効率化と経費の低減を図るため,本年より,我が国とIAEAとで査察機器の共同利用が本格的に開始された。


*JASPAS : Japan Support Program for Agency Safeguards

②核物質防護
 核物質の不法な移転の防止及び原子力施設等への妨害破壊行為に対する防護(核物質防護)については,我が国は核物質の防護に関する条約等を遵守し,原子炉等規制法等に基づき関係行政機関により所要の施策を実施してきている。
 核物質の防護に関する条約は,核物質の国際輸送中に一定の核物質防護措置が採られることを確保すること,このような措置が採られる保証のない核物質の輸出入を許可しないこと及び核物質に係る一定の行為を犯罪とし処罰すること等を内容とする。
1992年9月の核物質防護に関する条約の再検討会議において,廃棄物中の核物質に関する核物質防護の在り方等の検討のため,ガイドラインの見直し会合の開催要求が出された。その結果,1993年6月にIAEAガイドラインが改定され,これを受けて原子力委員会は1994年3月に「改定されたIAEAガイドラインの規定に従い,ガラス固化体の核物質防護措置については,慣行による慎重な管理に従って防護するものとし,このための所要の法令整備を図る」旨の委員会決定を行った。同決定を踏まえ,同年5月,原子炉等規制法施行令及び関係規則等の一部改正が行われた。


目次へ          第2章 第1節(2)へ