第II部 各論
第7章 放射線利用

1.放射線利用の動向

 放射線利用は,原子力発電と並ぶ原子力開発利用の重要な柱として位置付けられており,今日まで実用化及びそのための研究開発が進められてきた。放射線利用には,大別して,物質の挙動を追跡する放射性同位元素(RI)によるトレーサー利用と放射線の物理的,化学的又は生物学的作用を利用する線源利用の2種類があり,その利用は医療,農林水産業,工業等の幅広い分野にわたっている。
 我が国の放射線利用は,1987年6月に原子力委員会放射線利用専門部会が取りまとめた「放射線利用の推進について」を踏まえつつ,着実に進められてきた。以来,約6年を経過し,加速器施設等の先端的研究施設が整備されつつあり,これらの施設を活用した研究開発を推進するための体制整備が求められている。また,近年,生活者の立場を重視した科学技術の活用が要請されており,この観点からの放射線利用の貢献も大いに期待されているところである。このような状況を踏まえ,原子力委員会放射線利用専門部会は,1992年10月,放射線利用推進分科会を設置し,今後の推進方策について検討を進めた結果,1993年6月には,原子力委員会放射線利用専門部会報告「放射線利用の新たな展開について」が取りまとめられた。
 本報告においては,大型放射光施設等の先端的な加速器が整備されつつある中で,これらから発生する放射光,イオンビーム,RIビーム等を活用し,物質・材料・ライフサイエンス等広範な分野で先端的・独創的な研究成果を挙げていく必要があるとしている。また,そのためには,内外の優れた研究者を結集するとともに,開放性,流動性及び国際性を向上させるなど,研究開発体制を整備する必要があり,このような取組を通じて,当該研究機関が中核的研究拠点(センター・オブ・エクセレンス)となることが期待されるとしている。さらに,近年,生活者の立場を重視しながら,健康の維持・増進,生活環境の向上等に向けて科学技術を活用することが求められており,放射線利用分野においても医療や環境保全といった分野において重点的に研究開発に取り組むことが適当であると提言している。このほか,研究開発の成果については,民間企業,地方機関等への積極的な技術移転が望まれており,このための機関の整備等,普及促進のための施策推進を求めている。


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