第II部 各論
第6章 核融合,原子力船及び高温工学試験研究

(参考)諸外国の動向

(1)核融合
 諸外国の核融合研究開発は,現在,臨界プラズマ条件の達成を主要課題とする段階から,自己点火条件の実現を目指す核融合実験炉を設計する段階に移行している。
 TFTRにおいては1993年秋から重水素・トリチウム燃焼実験を約1年間にわたって行い,その後,解析・評価が行われる予定である。また,JETではダイバータ改造が終了する1994年初めからダイバータ最適化実験が開始され,その後1995~1996年に重水素・トリチウム燃焼実験に進む計画である。
 また,1992年から,IAEAの後援の下でITERの工学設計活動が開始されたところである。
① 研究開発の現状
(I)トカマク方式
 欧州のJETではQ値(核融合エネルギー増倍率)でJT-60を上回っており,特に閉じ込め時間において優れた成果を挙げている。また,米国のTFTRでは,高いプラズマ温度に特徴を有している。ソ連のT-15は,超電導コイルを使用した装置であるが,現在は運転を停止している。
 これらの四大トカマク型装置は,いずれも大容積高温プラズマの生成を共通の目標とする一方,それぞれ,長時間パルス,不純物制御,重水素・トリチウム燃焼,非円形プラズマ,超電導コイル使用等特徴的な目標を掲げている。また,フランスのカダラッシュ研究所にある超電導トカマク装置Tore supraも1989年4月に運転を開始した。これらの装置を用いて,核融合実験炉の設計パラメータを設定するための物理研究開発が行われる見通しである。
 また,閉じ込め性能の効率化につながる高ベータ化非円形プラズマ制御の進歩,ダイバータに関する経験と知識の増大も注目される。これらの成果から,トカマクによる実用炉相当の炉心プラズマの実現について有益な知見が得られている。
(II)トカマク方式以外の方式
 トカマク方式以外の磁場閉込め方式についても,近年世界的にいくつかの進展が見られた。まず,ステラレータ方式やヘリオトロン方式においては,プラズマ電流を流さない状態で比較的安定したプラズマ閉込めを達成した。また,ミラーではタンデム方式により静電場によるプラズマ閉込め及びサーマルバリヤの可能性が示された。また,逆磁場ピンチ方式は,米国等において装置が稼働しており,初期実験の段階であるが,予定のパラメータが得られつつある。
 その他の方式についても,それぞれプラズマ性能の向上を目指して実験が行われている。
 さらに,慣性閉じ込め方式については米国において100キロジュール・レーザーの建設が進められる等,その科学的実証を目指して研究が進められている。
(III)炉工学技術
 炉工学技術については,各国において,炉心プラズマ技術の進展を反映して精力的な研究開発が進められている。主要な技術の状況は次のとおりである。
(ア)超電導磁石技術に関しては,IEAにおける大型コイル試験が成功裏に終了し,磁場8テスラ,1ギガジュールのトロイダル・コイル技術が開発された。また,日米協力により強磁場パルス・コイルの開発が行われている。
(イ)プラズマ加熱技術は,大型トカマク装置の実験に用いられるまでに開発が進み,高温・高密度プラズマの生成に必要な温度までプラズマを加熱できる水準に達している。さらに,次期大型装置に必要な高効率の加熱技術が着実に進展している。
(ウ)構造材料に関しては,日米協力試験を中心としたスペクトル調整照射実験等によって,実験炉の候補材料の核融合中性子損傷の評価が進んでいる。また,実証炉の有力候補材料の開発研究もIEA活動を中心に国際的規模で進展しつつある。
(エ)トリチウムについては,諸外国においてその取扱技術,生産技術等についての研究が行われ,相当の水準にあるが,核融合実験炉に向けてはトリチウム格納・除去等の安全工学技術及びブランケット中でのトリチウム増殖・回収技術等の開発要素が残されている。米国のTSTA施設における日米協力で核融合燃料ガス循環技術に関する総合的試験が行われている。
(オ)炉設計技術は,各国における各種の設計研究により急速に進展した。特に,ITER概念設計及び工学設計活動に見られるように,核融合実験炉に関しては,詳細な設計が進展している。
 これらの技術の他,核融合炉工学技術には,既存の核分裂炉技術,重電技術等を基礎として発展させ得るものが多い。また,トリチウムを始め,放射化生成物等の生物への影響等についての研究も進められている。

(2)原子力船
① 旧ソ連においては,ソ連崩壊前に8隻の原子力砕氷船(レーニン,アルクチカ,シベリア,ロシア,タイミール,ソビエツスキー・ソユーズ,バイガチ,ヤマル)及び1隻の原子力ラッシュ船セブモルプーチを完成しており,退役したレーニン以外は運航中である。またこのほか,ロシアが原子力砕氷船「ウラル」を建造中である。
② 米国及びドイツは,実験船(原子力貨客船サバンナ及び原子力鉱石運搬船オット・ハーン)の運航経.験を踏まえて,より改良された舶用炉の開発を進めており,現在は,設計をほぼ固めた段階にまで達している。
③ フランスにおいても,原子力軍艦の運航経験を踏まえて商船用舶用炉の開発が進められており,現在は,米国及びドイツと同様,設計をほぼ固めた段階にある。

(3)高温ガス炉
 現在,ドイツ及び米国が高温ガス炉の開発に取り組んでいる。
 ドイツは,実験炉「AVR」の経験を踏まえて,高温ガス炉による発電と核熱のプロセス利用を目標として,研究開発を進めている。発電については,蒸気タービン発電用原型炉「THTR-300」(30万キロワット)が1986年9月に100%出力運転を達成し,1987年6月より営業運転を行ってきたが,経済的な理由から,1989年運転を終了した。
 1989年度は,民間主導開発体制でHTR-500及びHTRモジュールの研究開発が行われている。また,核熱のプロセス利用については,石炭と褐炭のガス化を図るPNP計画の研究開発が1975年よりユーリッヒ原子力研究所を中心に実施されている。
 米国では,当初GAT社が中心となり,高温ガス炉の開発を進め,実験炉「ピーチ・ボトム炉」,原型炉「フォート・セント・ブレイン炉」の建設・運転を行ってきたが1974年,1989年にそれぞれ運転を終了した。1985年からは,DOEの主導の下にガス冷却協会(GCRA)が中心となって,特に固有の安全性が高い等の特徴を有する中小型モジュラー型高温ガス炉(MHTGR)の設計を進め,1987年に概念設計を終了し,原子力規制委員会による安全評価報告書のドラフトが1989年2月に出された。現在は,更に経済性を向上するために1基当たりの熱出力を350メガワットから450メガワットに増加させる設計の検討を進めている。
 また,中国においては,重質油の改質・回収用の熱源とするため高温ガス炉の研究開発が清華大学核能技術研究所を中心に進められてきた。
 さらに,ドイツのIA社と共同で中国内に高温ガス実験炉を建設する計画が進められていたが,独力で10メガワットの試験研究炉HTR-テストモジュールを建設することを1992年3月に決定し,現在は詳細設計が進められている。


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