第II部 各論
第6章 核融合,原子力船及び高温工学試験研究

3.高温工学試験研究

 原子力委員会は,1987年6月に策定した原子力開発利用長期計画において高温工学試験研究を,次世代の原子力利用を開拓する基盤的・先導的研究として,総合的・効率的に進めることとし,このための中核となる研究施設として高温ガス試験研究炉を建設することが重要であると決定している。

(1)研究開発
 日本原子力研究所では,1980年以降,実験炉の詳細設計を進めてきたが,1986年度には高温ガス炉研究開発計画専門部会の報告等を踏まえ,所要の設計変更を加えつつ,照射機能,大型試料照射機能等多様な機能を有する高温工学試験研究炉(HTTR)の設計を行い,1989年2月高温工学試験研究炉の原子炉設置許可を申請し,国の安全審査を経て,1990年11月22日に設置許可を取得した。1989年度予算には,高温工学試験研究炉の建設着工のための経費が計上され,1990年度には原子炉建屋の掘削工事を開始し,炉心支持構造物,原子炉格納容器,圧力容器等の製作に着手した。
 1991年度には,原子炉建屋基礎板のコンクリート工事を終了するとともに,炉内構造物等の製作に着手した。1992年度には,原子炉建屋の地下3階から地下1階までの配筋,コンクリート工事を進めるとともに,原子炉機器本体の製作において原子炉格納容器の現地据え付け,炉心支持構造物,圧力容器,中間熱交換器等の製作を進めた。また,加圧水冷却設備等の製作に着手した。初臨界は1998年度の予定である。
 また,高温ガス炉臨界実験装置(VHTRC)による炉物理試験を進めるとともに,耐熱材料,黒鉛材料,燃料,高温熱工学及び高温構造等に関する研究も引き続き進められている。
 大型構造機器実証試験ループ(HENDEL)は,HTTRの建設に必要な技術情報及びデータの取得に一応の目途が得られたので,1993年度から実験を休止した。
 また,高温での大型試料が照射できるHTTRの特長を利用した高温に関する先端的基礎研究に関しては,日本原子力研究所内にHTTR利用検討委員会を設け,広く学会,産業界,官界から有識者の参加を得て,HTTRで行うべき先端的基礎研究の研究課題を集約しつつある。
 一方,次世代の原子力利用を開拓する基礎的,先導的研究として,地球環境保全のために,その生産過程で二酸化炭素を排出しない原子力エネルギーを非電力分野にも積極的に利用するための研究が進められており,核熱を利用した水素製造に関する基礎的研究及び高温工学試験研究炉に接続する水素製造システムの設計研究等を行っている。
 また,(社)日本原子力産業会議においても,1991年に高温ガス炉の核熱利用とそれによる地球温暖化防止に対する貢献について調査研究が行われた。

(2)国際協力
 日米間の協力については,軽水炉安全性情報交換取決めに基づき,高温工学試験研究炉に関して幅広い分野で研究協力が進んでいる。なお,1992年10月には協力実施取決めの5年間期間延長の改定を行った。
 日独間の協力については,日独科学技術協力協定に基づき,これまで5回「高温ガス炉に関するパネル」が開催された。また,1979年2月以来,日本原子力研究所とユーリッヒ研究所との間で研究協力が行われてきており,現在は,燃料,黒鉛,耐熱金属等に関する研究協力を進めている。また,1991年1月に更新された日本原子力研究所とGHT社/IA社間のKVK(大型高温機器試験ループ)-HENDEL情報交換協力取決めに基づいた協力が行われている。日英間の協力については,原子力平和利用は関する日英協定に基づき,日本原子力研究所と英国原子力公社との間で,1990年3月に熱中性子炉に関する情報交換協定を締結し,ガス冷却炉及び加圧水炉に関する情報交換を進めている。また,IAEAが開催する炉物理,燃料・崩壊熱除去,熱利用等のワークショップに参加し,情報交換を行うとともに共同研究に参加している。


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