第II部 各論
第6章 核融合,原子力船及び高温工学試験研究

2.原子力船

(1)原子力船「むつ」による研究開発
 原子力第1船「むつ」は,1968年に建造が開始され,1969年は進水するなど研究開発が順調に進められたが,1974年,出力上昇試験中に遮蔽の不具合による放射線漏れを起こし,その計画は大幅に遅れることとなった。その後,佐世保において安全性総点検及び遮蔽改修工事が行われ,事業主体であった日本原子力船研究開発事業団は,1985年,日本原子力研究所に統合された。同年,内閣総理大臣及び運輸大臣によって策定された「日本原子力研究所の原子力船の開発のために必要な研究に関する基本計画」により,むつ市関根浜に新定係港が建設され,1990年3月からの出力上昇試験及び海上試運転を経て,1991年2月に,核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律に基づく使用前検査合格証及び船舶安全法に基づく船舶検査証書が交付され,「むつ」は我が国初の原子力船として完成した。
 その後,約1年間の予定で実験航海が開始された。この実験航海においては,1991年2月下旬から12月中旬にかけて4回の航海により,東はハワイ諸島沖,南はフィジー諸島沖,北はカムチャッカ半島沖まで航行し,通常海域,高温海域,荒海域等における実験を順調に進め,陸上では得られない貴重なデータ,経験等を取得し,1992年2月,すべての実験航海を成功裏に完了した。出力上昇試験,海上試運転及び実験航海を通じたこれまでの航海で,「むつ」は,原子動力により地球2周強に相当する約82,000キロメートルを航行し,原子炉の運転時間は100%出力換算で2,252時間に達した。
 実験航海を通じて,海洋環境における振動,動揺,負荷変動等が原子炉に及ぼす影響を把握するためのデータとして,気象・海象,船体運動,原子炉プラント各種変量等のデータが得られた。これら多くのデータ等「むつ」の開発で得られた成果をまとめると以下のとおりである。
① 国産技術により設計,建造された我が国初の原子力船が,厳しい海洋環境下で設計どおりの機能を発揮できることを実証した。
② 高温海域,荒海域等の厳しい環境条件下においても良好な負荷追従性を示す等の性能が確認され,原子炉が船舶用推進機関として優れた性能を有することを実証した。
③ 設計,建造から実験航海までの過程において貴重なデータ,知見,経験等を得た。
 このように我が国は,「むつ」の開発により,原子力船を設計,建造,運航するために必要な基礎的技術基盤を確立することができたと考えられる。「むつ」の実験航海で得られたデータ,経験等は,日本原子力研究所において十分な解析を行い,舶用炉の設計研究に活用される等,今後の原子力船の研究開発に最大限に活用されていくこととなる。
 実験航海終了後,「むつ」は関根浜港において解役の段階に入っている。
 日本原子力研究所では,原子炉の廃止措置として,原子炉を遮蔽体と合わせて原子炉室ごと一括して撤去し,陸上にそのまま保管する「撤去隔離」方式を採用する等を内容とする解役計画を策定し,地元の理解を得つつ解役を進めており,1993年度は,使用済燃料の取出し等を行っている。

(2)その他の研究開発
 日本原子力船研究開発事業団は,原子力船「むつ」による研究開発の成果を踏まえつつ,経済性・信頼性の向上を目指して舶用炉の改良研究を行っており,本業務は日本原子力船研究開発事業団が日本原子力研究所に統合された後,日本原子力研究所に研究が引き継がれている。現在,種々の改良舶用炉の設計研究により炉概念の確立を図りながら,必要な要素機器としての制御棒駆動装置の小型化の研究が実施されているほか,原子力船の多様な運転状態を再現できる原子力船エンジニアリングシミュレーションシステムの整備等が進められている。

 また,運輸省船舶技術研究所においても,原子力船に関する研究等が実施されている。


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