第II部 各論
第5章 原子力バックエンド対策

(参考)諸外国における原子力バックエンド対策の動向

(1)放射性廃棄物処理処分
① 米国
 商業用原子力発電所から発生した使用済燃料については,一定期間貯蔵したのち地層処分することが考えられている。1982年核廃棄物政策法(1987年12月一部修正)により,米国における高レベル放射性廃棄物対策の基本枠組みが示されており,DOEは,2010年の地層処分開始を目標としたネバダ州ユッカマウンテンにおけるサイト特性調査を実施している。また,それまでの期間の暫定貯蔵施設として,監視付回収可能貯蔵施設(MRS:Monitored Retrievable Storage)の建設が計画されている。一方,DOE関係施設の高レベル廃液については,ガラス固化し,貯蔵した後,地層処分する計画である。他方で,種々の固化法についての研究開発も行っている。DOE関係施設からの廃液を処理するサバンナリバーのガラス固化施設は,すでに試験運転中であり,ハンフォードの固化施設は現在建設中である。他にウェストバレーの商用再処理工場の廃液を処理するガラス固化施設は現在,試験運転中である。これらの施設は,いずれも,ガラス固化法としてL FCM(Liquid-Fed-Ceramic-Melter)法*20を採用している。
 商業用原子力発電所からの低レベル放射性廃棄物は,バーンウェル,リッチランド,ビィティの3つの民間の処分施設において陸地処分が行われている。1980年の低レベル放射性廃棄物政策法(1985年に一部修正)においては,州政府が低レベル放射性廃棄物の処分責任を負うこととされ,各州が単独ないしは共同体(コンパクト)を形成して,処分場を建設することが計画されている。DOE関係施設から発生する低レベル放射性廃棄物は,主に連邦政府運営の処分施設において陸地処分を行っている。DOE関係施設から発生するTRU廃棄物については,廃棄物隔離パイロットプラント(WIPP)において地層処分される計画となっている。
② フランス
 使用済燃料を再処理し,高レベル廃液は,ガラス固化し,貯蔵した後,地層処分する計画であり,ガラス固化法としては,AVM(AtelierVitrificationdeMarcoule)法*21が実用段階であり,マルクールにおいて,1978年よりガラス固化体を製造し貯蔵している。また,ラ・アーグでは,実用規模の固化プラントが完成し,1989年より運転を開始している。


*20 LFCM法:高レベル廃液を濃縮し,ガラス原料を加えてセラミック製の溶鉱炉で直接通電により溶かし固化する方法であり,動力炉・核燃料開発事業団が建設している固化プラントにおいても採用されている。
*21 AVM法:フランスが開発したガラス固化法で,高レベル廃液をロータリーキルンで燃焼し,ガラス粉末を加えて溶鉱炉で高周波加熱により溶かした後,キャニスターに封入する方式である。

 地層処分については,1992年1月に長寿命核種の群分離消滅処理,地下研究施設における地層処分等の研究開発を今後15年間にわたり推進するという内容を盛り込んだ,放射性廃棄物管理研究法が新たに制定された。この中で,地層処分に関する処分場の設計,立地,建設及びこれらに必要な調査,研究については放射性廃棄物管理機構(AN DRA,旧放射性廃棄物管理局)が実施されることとされている。
 低レベル放射性廃棄物は,ラ・マンシュ(laManclle)貯蔵センター及び第2処分場として1992年操業を開始したローブ(l'Aube)貯蔵センター (オーブ県スレーヌ)において陸地処分が実施されている。
③ 英国
 使用済燃料を再処理し,高レベル廃液は,ガラス固化して,貯蔵した後,地層処分する方針であり,AVM法を採用したガラス固化施設をセラフィールドに建設し,1990年8月に運転を開始した。
 低レベル放射性廃棄物は,ドリッグ処分場にて陸地処分を行っているほか,海洋処分の実績も有している。
 また,1982年7月,NIREX*22(Nuclear・Industry-Radioactive・Waste。Executive)と呼ばれる低・中レベル放射性廃棄物の処理処分を実施する新たな機関を設立した。1991年7月,NIREXは低・中レベル放射性廃棄物の処分場候補地としてセラフィールドを決定した。
④ ドイツ


*22 NIREX:原子力産業放射性廃棄物執行部英国原子力公社(UKABE),英国核燃料公社(BNFL)及び電気事業当局(CEGB,SSEB)により,それらの代理機関として設立され,低・中レベル廃棄物の処理処分を実施する。法人格を持たない組織であったが,1985年に株式会社として再編成された。

 高レベル廃液のガラス固化体は,貯蔵した後,ゴアレーベン(岩塩)に地層処分する計画であり,処分の責任は連邦放射線防護庁(BfS)が負う。
 ガラス固化法としては,ベルギーとの共同によりLFCM法が開発された。
 低レベル放射性廃棄物については,アッセ(岩塩坑)において1967年から1978年まで陸地処分を実施した。
 低・中レベル廃棄物については,コンラッドを新処分場として現在許認可審査中である。また,旧東独のモスレーベン低レベル放射性廃棄物処分場がドイツ統合後も引き継いで操業されている。
⑤ スイス
 使用済燃料は,すべて外国で再処理し,返還されるガラス固化体を国内で地層処分する計画である。処分の責任は,電力会社と連邦政府の共同出資で設立された放射性廃棄物管理共同組合(NAGRA)が負い,NAGRAはスイス北部の花崗岩地帯および堆積岩地帯を高レベル廃棄物処分のための研究サイトとして調査を実施している。一方,処分のための研究は南アルプスのグリムゼル岩盤研究所で進められており,動力炉・核燃料開発事業団が研究参加している。また,低・中レベル廃棄物については,4か所の処分場候補地が選定され,現在,調査が進められでいる。
⑥ スウェーデン
 使用済燃料は,地下式集中貯蔵施設において40年間程度貯蔵の後に地層処分する計画である。処分は,4つの電力会社が出資して設立したスウェーデン核燃料・廃棄物管理会社(SKB)が行うことになっている。また,1990年よりオスカーシャム近辺にハードロックラボラトリー地下研究施設計画が開始されており,その建設段階より我が国からは動力炉・核燃料開発事業団等が参加している。
 低レベル放射性廃棄物はSFRと呼ばれる沖合海底下岩洞内処分場に処分することとし,1988年より操業を開始している。
⑦ カナダ
 放射性廃棄物の処理処分についてはカナダ原子力会社(AECL)が中核となり研究開発を行っている。
 使用済燃料を最終的に直接処分するか,再処理してガラス固化体にするかはまだ決まっていない。AECLはマニトバ州ピナワに,地下研究施設を設置して,高レベル放射性廃棄物の地層処分の研究開発を実施している。我が国との研究協力については,日本原子力研究所及び動力炉・核燃料開発事業団とAECLの間で,高レベル放射性廃棄物の処理処分に関する研究協力が行われている。
⑧ ベルギー
 使用済燃料はフランスに再処理委託し,その返還ガラス固化体を国内で地層処分する計画である。
 放射性廃棄物の処理処分の研究開発については,モル原子力研究センター(SCK/CEN)を中心に行われている。一方,放射性廃棄物の処理処分の実施については放射性廃棄物・核分裂性物質国家機関(NIRAS/ONDRAF)が行っている。
⑨ オーストラリア
 高レベル廃液の処理方法として,合成岩石中に放射性核種を閉じ込めるシンロック固化法について研究開発を行っており,オーストラリア原子力科学技術機構(ANSTO)と日本原子力研究所を中心とした研究協力も行われている。

(2)原子力施設廃止措置
① 米国
1992年まで米国で永久停止された原子炉は,研究炉も含めれば既に100基に達している。原子炉の廃止措置の方法について,米国原子力規制委員会(NRC)によって,即時除染解体,密閉管理または安全保管後の解体,遮蔽隔離後の解体の3つの方法が提案されているが,発電炉以外については,長期保管による放射能減衰が少ないこと等から,NRCは即時除染解体を提案している。

 1992年末現在,15基の商用炉が運転停止され,この内一部は密閉管理または安全保管後解体されており,シッピングポート発電所(PWR,7.2万キロワット)は1990年までに完全に解体撤去され,パスフィンダー発電所(BWR,6.6万キロワット)は原子炉部分の解体と火力発電所への改造が行われている。フォート・セント・ブレイン発電所(ガス冷却炉,34.2万キロワット)は原子炉部分の解体が1992年に許可され,最終的には,火力発電所に改造される計画である。この他,1960年代には,4基の実験用あるいは実証用発電炉が既に廃止されている。
 エネルギー省(DOE)の管理する施設については,年間予算が約53億ドル(1993年)に達する環境回復・廃棄物管理計画の下,多くの軍事用,非軍事用施設の廃止措置が行われている。非軍事施設としては,アルゴンヌ研究所のEBWR(BWR,熱出力10万キロワット)の原子炉解体,ウエストバレーの旧再処理プラントの除染と廃液処理等が進められている。また,軍事用施設としては,ハンフォードにある既に運転停止した8基のプルトニウム生産炉の廃止措置計画が進められている。
② フランス
 原子力庁(CEA)は,所有している使命を終えた原子力施設について,原則として早期に施設の廃止措置を行う方針で,実験施設を中心に広範な廃止措置計画が行われでいる。現在,G2/G3炉(ガス冷却炉,各4万キロワット)及びラプソディー(LMFBR試験炉,4万キロワット)の遮蔽隔離,AT-1(高速炉試験燃料再処理設備)の内部の解体・除染等が進められている。
 発電炉を運転,管理する電力庁(EDF)は旧式化したガス冷却炉5基を運転停止し(1基は遮蔽隔離済),安全保管に向けて関連施設の一部撤去等を行っている。また,ベルギーと共有のショーズ―1発電炉(PWR,32万キロワット)も停止され,遮蔽隔離の措置が検討されている。EDFは炉運転停止後数年程度の遮蔽隔離の後,PWRについては約50年間,内蔵放射能の減衰を待って解体撤去することとしている。
 廃止措置に関わる技術開発は,主にCEAの廃止措置プロジェクトを通じて実施されており,再処理施設解体のための大型の遠隔操作型のマニピュレーターの開発や,ガス冷却炉に使用されている黒鉛の燃焼処理技術の開発等が行われている。
③ ドイツ
 商用炉の開発段階で建設された種々の炉型の原型炉,実証炉計9基が運転停止され,現在,廃止措置の対象となっている。主なプロジェクトとしては,ニーダーレイヒバッハ発電所(重水減速ガス冷却炉,10万キロワット),グンドレミンゲン発電所A号炉(BWR,25万キロワット),MZFR炉(加圧重水炉,5.8万キロワット)の3基が解体中であり,リンゲン発電所(BWR,25.6万キロワット)は安全保管中(1988年から25年間の計画),THTR炉(高温ガス炉,30万キロワット)は安全保管のための作業中となっている。また,旧東独地域のソ連型PWR(VVER)は,安全上の理由からすべて停止され,廃止措置が行われる計画である。この内,グライフツバルト発電所の5基(各40.8万キロワット)及びラインスベルク炉(7万キロワット)については,解体プロジェクトが開始されている。また,ステンダル発電所(2基)は途中で建設が中止され,解体されることが決定した。原子炉以外では,カールスルーエにある再処理施設(WAK)が1990年に閉鎖され,廃止措置が計画されている。
④ 英国
 英国で現在までに運転された発電炉は,すべてガス炉であり,ニュークリア・エレクトリック社及びスコティッシュ・ニュークリア社が運営管理している。最初の廃止措置は,1989年に運転を停止したバークレイ発電所(コールダーホール型,16.6万キロワット×2)で,1992年3月までに燃料取出しを終え,安全保管のための措置が行われている。その後,100年程度の密閉管理または安全保管期間が提案されている。一方,英国原子力公社(UKAEA)はウィンズケールのWAGR炉(改良型ガス炉原型炉,3.4万キロワット)の解体撤去,ウィンフリスのSGHWR炉(重水減速SG軽水炉,10万キロワット)の安全保管,多くの研究施設の廃止措置が行われている。また,英国核燃料公社(BNFL)により,セラフィールドにある初期の再処理設備の解体,カーペンハーストにあるガス拡散濃縮プラントの解体撤去が行われている。これらの廃止措置を通じ,ロボット,マニピュレーターを使用した遠隔解体工法の開発,適用等の研究開発が行われている。
⑤ カナダ
 カナダ原子力公社(AECL)は,CANDU炉の開発段階で建設した試験炉1基,実証炉2基の廃止措置を行い,これらは遮蔽隔離されている。また,研究炉,燃料試験設備等の解体が行われている。
⑥ その他の国の状況
 ベルギーのBR-3炉(PWR,4.1万キロワット)は各種の切断技術の開発と試験を兼ねて,1994年終了を目途に解体撤去が行われている。
 また,旧ユーロケミック再処理プラントの除染・解体が進められている。
 イタリアでは,ガリグリアノ発電所(BWR,16万キロワット)のタービンの解体と原子炉の安全保管のための工事が行われている。
 スロバキアのボフニチェ―Al発電炉(重水減速ガス冷却炉,7万キロワット)は,1977年に運転停止され,遮蔽隔離に向けて廃止措置が行われている。
 ロシアでは,ベロヤルスク発電所(黒鉛減速軽水冷却炉,10及び20万キロワット)とノボボロネジ発電所(VVER,21及び36万キロワット)の計4基の発電炉が運転停止され,廃止措置の準備がなされている。


目次へ          第2部 第6章(1)へ