第II部 各論
第5章 原子力バックエンド対策

2.原子力施設廃止措置対策

 原子力の開発利用が進展するとともに,老朽化した原子力施設,あるいは当初の使命を果たした原子力施設が増加することとなる。これらの施設の廃止措置を円滑に実施することは,原子力の開発利用を進める上で重要な課題であり,このための施策については,従来から原子力委員会の方針に沿って,計画的かつ積極的に進めてきている。

(1)原子炉の廃止措置
 我が国における商業用原子力発電施設の廃止措置は1990年代後半以降に現実のものになると予想される。
 原子力開発利用長期計画においては,原子炉の廃止措置を進めるに当たっての基本的考え方として,
①安全の確保(作業環境の放射線防護及び周辺公衆の被ばく防止等)
②廃止措置後における敷地の有効利用
③地域社会との協調
 を挙げ,その運転終了後できるだけ早い時期に解体撤去することを原則とし,個別には合理的な密閉管理の期間を経る等,諸状況を総合的に判断して定めるものとしている。
 原子炉の廃止措置作業については,既存技術又はその改良により対応可能であるが,作業者の安全性の一層の向上を図る等の観点から技術の向上を図ることとしている。このため,科学技術庁では,日本原子力研究所に委託し,1981年度から原子炉の解体撤去に必要な技術の開発を進めており,解体技術,除染技術,遠隔操作技術等の総合的な技術開発を行っている。この技術開発計画の前半の成果については,日本原子力研究所が外部専門家からなる検討委員会に評価を依頼し,同研究所の動力試験炉(JPDR)の解体撤去に技術的見通しが得られたとの評価を受けた。これを受けて,1986年度から1995年度までの予定で,JPDRをモデルとした解体実地試験を実施しており,炉内構造物,圧力容器等の解体撤去を終了して,1993年度からは格納容器の解体撤去に着手している。一方,1990年度からは,これまでに得られた技術開発の成果を基に,作業者の安全性の一層の向上を図る等の観点から,日本原子力研究所及び(財)原子力施設デコミッショニング研究協会に委託して原子炉解体高度化技術開発を実施しており,解体技術,除染技術,安全技術等の高度化を図っている。

(財)原子力発電技術機構においては,廃止措置に係る技術のうち,安全性,信頼性の観点から特に重要な技術の実用化を促進するための確証試験を進めている。また,(財)原子力施設デコミッショニング研究協会においては,研究開発用の原子力施設の廃止措置に関する技術の確立を目的として,試験研究及び技術情報の提供等を行っている。
 国際協力については,1985年に経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)の「原子力施設デコミッショニング・プロジェクトに関する科学技術情報交換協力計画」(参加10か国)が,また,国際原子力機関(IAEA)においても1989年より「原子力施設の除染及び廃止措置に関する協力研究計画」の第2次計画(参加15が国)が開始された。我が国からも,JPDR解体実地試験がOECD/NEAの科となって解体技術等に関する情報交換を積極的に行い,円滑な原子炉の廃止措置に備えている。
 また,商業用原子力発電施設の廃止措置の在り方について,1985年7月総合エネルギー調査会原子力部会において,最終的に運転を終了した原子力発電施設は,その規模,炉型等にががわらず,5~10年の密閉管理後解体撤去することを基本方針とする旨の報告書が取りまとめられた。同報告書によれば,廃止措置費用について,例として,110万キロワット級の原子力発電施設で約300億円程度(1984年度価格)と試算している。
 原子炉の廃止措置の費用確保に関しては,1989年3月期決算から,引当金方式による積立が開始され,さらに,1990年度より租税特別措置法に原子力発電施設解体準備制度が創設され,解体費用見積額のうち,当該年度相当分の85%を限度として損金算入することが認められた。

(2)その他の原子力施設の廃止措置
 再処理施設,燃料加工施設等の原子炉以外の原子力施設の廃止措置に際しては,放射化についてはほとんど考慮する必要がない一方,TRU核種及び核分裂生成物による汚染に対応するため,原子炉の廃止措置とは異なった観点からの技術開発が必要である。
 これらの施設の廃止措置に関しては,動力炉・核燃料開発事業団において施設の更新,解体等のための技術が開発されているほか,1990年度からは,日本原子力研究所の再処理特別研究棟(JRTF)をモデルとした再処理施設解体技術開発が開始されており,再処理施設解体に必要な技術の開発が進められている。
 国際協力については,JRTFの解体実地試験が前述のOECD/NEAの「原子力施設デコミッショニング・プロジェクトに関する科学技術情報交換協力計画」に登録されるなど,積極的な国際情報交換の下で進められている。

(3)廃止措置により発生する廃棄物
 原子力開発利用長期計画においては,原子力施設の廃止措置により生じるもともと放射能レベルが極めて低い廃棄物等は,放射能レベルに応じた合理的な処分を行うほか,一定の条件を付して,再利用の途も拓くとされている。
 このような廃棄物に該当する解体コンクリート廃棄物の処分に関しては,1992年9月に原子炉等規制法施行令の改正が行われて埋設処分の濃度上限値が定められ,その後の規則,告示の改正等により,素掘りトレンチへの埋設処分による廃棄物埋設事業の途が拓かれた。このような素掘りトレンチへの埋設処分に関しては,JPDR解体実地試験で発生する極めて放射能レベルの低い解体コンクリート廃棄物を活用した埋設実地試験が計画されている。
 なお,原子力施設の廃止措置によって発生する廃棄物のうち,①使用履歴,設置状況を考慮して,汚染がないことが明らかであるもの,または汚染部分が限定されていることが明らかであって,当該汚染部分が分離されたもの,②構造上,放射化の影響を考慮する必要がないことが明らかなもの,または計算等により放射化の影響を考慮する必要がないと評価されたもの,あるいは計算等により放射化の影響を考慮する必要があると評価された部分が分離されたもの等については,放射性廃棄物でない廃棄物とすることができるとの考え方が原子力安全委員会放射性廃棄物安全基準専門部会により示され,1992年6月には原子力安全委員会により了承された。
 解体廃棄物の再利用は,処分量の減量,資源の有効利用等の観点から重要とされ,再利用に関する基準,制度等に関する調査のほか,1987年度からは,日本原子力研究所において,解体金属廃棄物の再利用に関する溶融造塊試験等の技術開発が行われている。


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