第II部 各論
第5章 原子力バックエンド対策

1.放射性廃棄物の処理処分対策

 放射性廃棄物の処理処分を適切に行うことは,原子力開発利用を進めていく上で重要な課題であり,このための施策については,従来がら原子力委員会の方針に沿って,計画的かつ積極的に進めてきている。
 すなわち,再処理施設において使用済燃料から分離される高レベル放射性廃棄物については,安定な形態に固化した後,30年間から50年間程度冷却のための貯蔵を行い,その後,地下数百メートルより深い地層中に処分する(地層処分)ことを基本的な方針として諸施策を進めている。そして,原子力委員会は,1992年8月,放射性廃棄物対策専門部会において,放射性廃棄物対策の具体的推進方策について,報告書「高レベル放射性廃棄物対策について」を取りまとめた。
 また,1986年放射性廃棄物の廃棄の事業に関する規制を創設し,その安全規制の充実強化を図ることなどを目的とした「核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(原子炉等規制法)」の改正が行われ,我が国の放射性廃棄物対策を円滑に推進していくために必要な法制度上の枠組みが確立された。

(1)放射性廃棄物処理処分の現状
① 高レベル放射性廃棄物処理処分
 高レベル放射性廃棄物は,再処理施設において使用済燃料からウラン及びプルトニウムを分離する過程で,高レベル放射性廃液として発生する。我が国は,この高レベル放射性廃液を安定な形態に処理(ガラス固化)し,30年から50年間程度冷却のため貯蔵した後,地下数百メートルより深い地層中に処分する方針である。
 高レベル放射性廃液については,東海再処理工場の稼動に伴い発生し,その量は1992年度末現在,約516立方メートルであり,同工場内の貯蔵タンクに厳重な安全管理の下に保管されている。
 高レベル放射性廃液の処理については,技術の実証に向けて動力炉・核燃料開発事業団のガラス固化技術開発施設(TVF)が建設され,1992年5月より試運転が開始された。
 また,貯蔵に関しては,日本原燃サービス(株)(現日本原燃((株))が青森県六ケ所村に,英仏両国への海外再処理委託に伴い我が国に返還されるガラス固化体の貯蔵を計画し,現在,廃棄物管理施設を,1995年2月の操業を目指して建設している。
 高レベル放射性廃棄物の処分について,国は処分が適切かつ確実に行われることに対し責任を負い,動力炉・核燃料開発事業団は研究開発及び地質環境調査の着実な進展を図るとともに,電気事業者は処分費用の確保,研究開発段階においても高レベル放射性廃棄物の発生者としての責任を十分踏まえた役割を果たすこととしている。また,官民の協力を図るため,高レベル放射性廃棄物処分対策に係る当面の具体的な推進方策の検討,所要の連絡調整等を行う「高レベル放射性廃棄物対策推進協議会」が,1991年10月,国,電気事業者,動力炉・核燃料開発事業団の3者により組織されている。
 さらに,高レベル放射性廃棄物処分事業の準備の円滑な推進を図るため,1993年5月には同協議会の下に「高レベル事業推進準備会」が設置された。同準備会は,そのまま処分事業の実施主体に移行するものではなく,実施主体の形態,事業計画,必要な法制度等について検討を行うとともに,広報活動を通じて高レベル放射性廃棄物処分に対する国民の理解と協力の増進に努めている。
 他方,実際の処分予定地については,その選定を実施主体に行わせることとしている。実施主体は,2000年を目安に,研究開発等の進展状況や諸般の情勢等を総合的に勘案し,その設立を図っていくことが適当と考えられている。また,実施主体の形態については,永続性の担保,発生者責任,研究開発成果の活用等を考慮しつつ引き続き検討する必要がある。
 実際の処分は,処分事業の実施主体により,国民の理解を得て実施されていくこととなるが,その手順を示せばおおむね次のようになる。
(ア)実施主体は地層処分の候補地を予備的に調査し,処分予定地を選定する。国は,選定の結果を確認し,その地点を処分予定地とするに当たっては,実施主体は地元にその趣旨を十分に説明し,その了承を得ておくものとする。
(イ)処分予定地においてサイト特性調査及び処分技術の実証を行う。
(ウ)処分場の建設,操業の計画は,建設に至るまでに要する期間,原子力開発の状況等から総合的に判断して,2030年代から遅くとも2040年代半ばまでの操業開始を目途とする。
② 低レベル放射性廃棄物処理処分
(i)原子力発電所等から発生する放射性廃棄物
 原子力発電所等の原子力施設で発生する低レベル放射性廃棄物については,各事業者等が自ら処理しており,廃液等の低レベル放射性廃棄物については,蒸発濃縮等の減容を行った後,ドラム缶にセメント固化する等の処理を施し,敷地内の貯蔵庫に安全に保管している。

 なお,気体状放射性廃棄物及び一部の液体状放射性廃棄物については,法令に定められた基準値を下回ることを確認して,施設の外に放出している。
 低レベル放射性廃棄物は,原子力発電所において1992年度には200リットルドラム缶にして約7百本増加しており,1992年度末の累積で約47万9千本が貯蔵されている。
 低レベル放射性廃棄物の処分についそは,青森県六ケ所村において,民間事業者が比較的浅い地中に処分する計画を進め,廃棄物埋設事業を1992年12月から開始した。(経緯は第3章7参照)
 具体的には,1984年7月に電気事業連合会が,核燃料サイクル施設の一つとして,低レベル放射性廃棄物埋設施設の立地協力要請を,青森県及び六ケ所村に対し行い,1985年4月には県及び村が受入れ表明を行っている。また,同年3月には,同施設の建設,運営等に当たる日本原燃産業(株)(現日本原燃(株))が設立され,1988年4月に同施設の廃棄物埋設事業の許可申請書が提出された。同申請に対しては,1990年11月に内閣総理大臣より事業許可がなされ,1992年12月に操業開始された。1992年度には,200リットルドラム缶6,080本の低レベル放射性廃棄物廃棄体を受け入れた。
 同事業許可における施設の埋設能力は,約4万立方メートル(200リットルドラム缶換算約20万本相当)であるが,今後,逐次増設され,最終的には約60万立方メートル(200リットルドラム缶換算約300万本相当)とする計画となっている。
 なお,1992年9月には,原子炉等規制法施行令が改正され,従来の廃液等を容器に固型化したものに加え,新たに雑固体廃棄物,原子炉施設の解体等により生ずるもともと放射能レベルが極めて低いコンクリート廃棄物についても埋設処分の濃度上限値が定められた。

(ii)TRU核種を含む放射性廃棄物
 使用済燃料の再処理,ウラン,プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料の加工の過程で発生する低レベル放射性廃棄物は,ウランよりも原子番号が大きいTRU(Trans-uranium:超ウラン)核種を含むため,特にTRU核種を含む放射性廃棄物として区分される。これらについては,適切な区分と,その区分に応じた合理的な処分方策を確立することとしており,原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会において所要の検討が行われた。同部会は,TRU核種を含む放射性廃棄物の処理処分にかかわる基本的な考え方,具体的には,処分方策立案上の廃棄物の区分の一応の目安値,処分方策の具体化の進め方,研究開発課題等について,1991年7月に報告書を取りまとめた。
(iii)ウラン廃棄物
 民間のウラン燃料加工事業所,動力炉・核燃料開発事業団のウラン濃縮施設等から発生するウラン廃棄物については,現在,各事業所において安全に貯蔵されでいる。その処理については,具体的な方策を更に検討していくとともに,その処分については,ウランは自然界に極めて広範に存在するものであることから,その特性に応じた方法を採り得ると考えられ,処分技術の研究開発を進めることとしている。
③ RI廃棄物処理処分
 放射性同位元素取扱事業所で発生する極低レベルの液体状及び気体状の放射性廃棄物については,必要に応じ適切な処理を施し,法令に定められた基準値を十分に下回ることを確認した後,環境中に放出している。また,液体状及び個体状の放射性廃棄物については,主として,(社)日本アイソトープ協会により,集荷・処理されている。

(2)放射性廃棄物処理処分の研究開発
① 高レベル放射性廃棄物処理処分
 高レベル放射性廃棄物に関する研究開発については,固化処理技術の実証が着実に進められている一方,国の重要プロジェクトとして,地層処分技術の確立を目指した研究開発及び地層環境等の適正を評価するための調査が,日本原子力研究所,地質調査所等との適切な役割分担の下に,動力炉・核燃料開発事業団を中核推進機関として推進されている。
(i)固化処理技術開発
 固化処理については,世界的に主流となっているホウケイ酸ガラスによる固化処理技術に最重点をおいて,研究開発が進められている。
 固化処理技術の開発を進めるに当たっては,実験室規模の試験と実規模の試験,コールド試験とホット試験を組み合わせて行っており,動力炉・核燃料開発事業団においては,1978年度からの模擬廃液を用いた実規模でのガラス固化処理の試験,1982年度からの高レベル放射性物質研究施設(CPF)における,実廃液を用いた実験室規模でのガラス固化処理の試験の成果を踏まえ,ガラス固化技術開発施設(TVF)において,固化処理技術の実証を進めている。なお,工業技術院大阪工業技術研究所においてはガラス固化処理に関する基礎的研究を進めている。
(ii)地層処分研究開発
 地層処分の研究開発の推進に当たっては国民的理解を得つつ進めることの重要性がますます認識されてきており,このような観点から,今後の地層処分の研究開発の一層の進展を図るために,原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会において所要の検討が行われ,地層処分の研究開発を進めていく上で,重点的に推進すべき研究開発項目とその進め方について,1989年12月に報告書が取りまとめられた。
 同報告書に基づき,動力炉・核燃料開発事業団は,各開発プロジェクトの推進を担当しており,研究開発を以下のように進めている。

(ア)多重バリアシステムの長期にわたる性能の評価研究(性能評価研究)
地下深部の地層の性状や地下水の動き及び人工バリア材と地層や地下水との化学反応等について,これらを支配する法則を見出し,これに基づく解析モデルと信頼性の高いデータを用いた解析によって,多重バリアシステムによる長期的安全確保の仕組みを理論的・科学的に明らかにする性能評価研究を進めている。
(イ)人工バリア技術の研究開発
人工バリアの材料の特性を把握するとともに,人工バリアが工学的に製作可能であることを示すため,人工バリアを構成するオーバーパック等の試作開発を進めている。
(ウ)我が国の地質環境に係る調査研究
地質環境に係る調査研究は,地域を特定することなく日本列島全体を対象として,地質環境に関するデータの収集を行っている。
また,地質環境の長期的な安定性を評価する上で必要とされる断層等に関する調査を進めている。
 同時に,これらの調査を実施する上で必要とされる調査技術,調査機器の開発を進めている。
 また,我が国の特徴を踏まえた処分施設の基本的なレイアウトの設計等に関する研究を進めている。
 このように,動力炉・核燃料開発事業団は,中核推進機関として,我が国の地質環境等の特徴を踏まえた地層処分を確立するため,地質環境に係る調査研究と天然バリア,人工バリア等の研究との整合性を取りながら,処分研究を進めており,これらの1991年度までの成果が「高レベル放射性廃棄物地層処分研究開発の技術報告書-平成3年度」として取りまどめられ,1992年9月に公表された。これを受けて,1993年7月,原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会は,報告書「高レベル放射性廃棄物地層処分研究開発の進捗状況について」を取りまとめ,その中で,地層処分の研究開発に関する我が国で最初の技術報告書である同報告書について,おおむね妥当なものと結論した。動力炉・核燃料開発事業団が2000年までに予定している第2次取りまとめの評価は重要であり,国は評価のために委員会を設け,評価することとなっている。
 深地層の研究施設は安全評価モデルの信頼性向上,確証等を行うものであり,深地層にかかわる総合的な研究の場として重要である。本施設の計画は,処分場の計画と明確に区別して進めるものとする。また,本施設は,我が国の地質の特性等を考慮して,複数の設置が望ましい。
 動力炉・核燃料開発事業団の北海道幌延町における貯蔵工学センター計画は,高レベル放射性廃棄物等の貯蔵と併せて,地層処分のための研究開発等を行う総合研究開発センターを目指したものであり,本計画は処分場の計画と明確に区別したものであるとの認識の下,その着実な推進を図っていくこととしている。
 また,経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)のストリパ計画,スウェーデンの核燃料・廃棄物管理会社(SKB),スイス連邦放射性廃棄物管理協同組合(NAGRA),カナダ原子力公社(A ECL)との国際共同研究等の国際協力を積極的に進めている。これらの技術開発と並行して,日本原子力研究所においては,処理処分の各段階の安全評価手法の整備を図るため,ガラス固化体の特性,処分条件下での放射性物質の挙動等の基礎的な試験研究を行っており,1982年度からは廃棄物安全試験施設(WASTEF)において放射性物質を用いた試験を進めているほか,シンロック等ガラス固化以外の新固化技術,核種分離・消滅処理等に関する基礎的研究を進めている。
 また,地質調査所においては,地層処分に係る水,岩石系間での物質移動等について,専門的知見に基づき,基礎的研究を進めている。
② 原子力発電所等から発生する放射性廃棄物処理処分
 日本原子力研究所,(財)原子力環境整備センター等において,放射性同位元素を用いた放射性核種の地中挙動に関する試験,低レベル放射性廃棄物の再利用に関する技術開発,濃度上限値を上回る低レベル放射性廃棄物に関する処分技術の開発,モニタリング手法開発のための調査研究等が行われている。
③ 核種分離・消滅処理技術開発
 再処理施設において使用済燃料から分離される高レベル放射性廃棄物は,放射能が強く,発熱量が多い核分裂生成物(FP)と,放射能はそれほど強くはないが,半減期が極めて長い長半減期核種とを併せ含んだ廃棄物である。さらに,この廃棄物には,白金族元素(ルテニウム,ロジウム等)や,放射性同位元素(RI)としての活用が期待できる核種(セシウム137,ストロンチウム90等)の有用物質が含まれている。
 このような,高レベル放射性廃棄物の含有物の特徴に着目し,長寿命核種や白金族元素等を分離し,それぞれの特徴に応じて,処分や有効利用を行えば,高レベル放射性廃棄物の資源化と処分の効率化を図ることができ,さらに,分離した長寿命核種等については,核分裂,核破砕又は光核反応などの核反応によって短半減期又は非放射性の核種に変換することにより,一層,処分の効率化を図ることができることとなる。
 核種分離技術及び消滅処理技術は,高レベル放射性廃棄物の最終処分の負担の軽減化と資源の有効利用を図るものであり,原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会が1988年10月に示した核種分離・消滅処理技術の研究開発の長期的取組に基づいて,日本原子力研究所,動力炉・核燃料開発事業団を中心に基礎的研究開発が進められている。
 また,我が国は,核種分離・消滅処理技術に関する情報交換の国際協力計画(通祢:オメガ計画)をOECD/NEAに提案し,1989年6月から同機関において開始された。さらに,1993年1月には,各国のシナリオ分析の比較を追加し,同計画を発展させることが,同機関の原子力開発委員会において合意された。
④ その他
 TRU核種を含む放射性廃棄物は,放射能レベルは低く,発熱量も少ないものの,長半減期のα崩壊放射性核種を含むものであり,また,その性状も多様で,種類も多い。このため,処理に関する研究開発として,廃棄物の発生量低減化を図るためβ・γ廃棄物との区分管理技術,減容・除染技術及び安定な形態への固化技術の開発を行うとともに,高レベル放射性廃棄物処分の研究開発を参考とした処分技術の開発を,動力炉・核燃料開発事業団及び日本原子力研究所で行っている。
 また,ウラン廃棄物については,除染により放射能レベルを下げる処理技術の活用等も含め,動力炉・核燃料開発事業団において研究開発が進められている。
 一方,RI廃棄物については,減容を図るための適切な処理を進めると同時に,将来の処分に備え,焼却可能な可燃物容器の開発等輸送・貯蔵技術の開発,減容技術の開発や固化技術等の処理技術開発を行うことが重要であるとされている。


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