第II部 各論
第2章 安全の確保及び環境保全

4.環境放射能調査

 国民の被ばく線量を明らかにすること等を目的として,自然環境における放射能調査,原子力施設周辺における放射能調査,核爆発実験等に伴う放射性降下物の放射能調査及び原子力軍艦寄港地周辺の放射能調査が行われている。

(1)自然放射線の調査
 国民の被ばく線量に最も大きく寄与する自然放射線による被ばく線量を推定するため,放射線医学総合研究所において,1967年度より日本全国にわたり空間放射線等のレベル調査を実施しており,更に詳細なデータ収集等内容の充実が図られている。
 また,1992年度よりラドン濃度の全国調査に着手しており,地方公共団体(道府県)の協力の下に,14道府県において一般家屋内の調査を実施している。

(2)原子力施設周辺の放射能調査
 原子力発電所等の原子力施設周辺における環境モニタリングについでは,施設起因の放射線による周辺公衆の線量当量が年線量当量限度を十分下回っていることを確認すること,環境における放射性物質の蓄積状況を把握すること等を目的として,地方公共団体,原子力施設設置者及び国がそれぞれの役割に応じて行っている。
 地方公共団体(道府県)が行う放射線監視事業については,電源開発促進対策特別会計により,放射線監視交付金が交付されている。
 環境放射線のモニタリング実施体制は(図2・1)のとおりである。
 さらに,原子力施設が周辺環境に対して与える影響の把握,その影響の軽減方法等に関する研究が,都道府県衛生研究所,国立試験研究機関等で行われている。
 また,1984年1月より,科学技術庁は電源開発促進対策特別会計による事業として,原子力施設周辺の漁場を中心に海洋環境放射能を調査・分析し,放射能水準を総合的に評価把握する海洋環境放射能総合評価事業を行っている。

(3)核爆発実験等に伴う放射性降下物の放射能調査
 核爆発実験等に伴う放射性降下物の放射能調査及び放射能対策に関する研究は,放射能対策本部の方針等に基づき,科学技術庁を中心として,関係各省庁,都道府県等の協力の下に実施されている。
 核爆発実験等に伴う放射性降下物の放射能調査については,平常時における定期的な調査等が実施されている。
 また,放射能対策に関する研究では,国立試験研究機関等において,環境放射能からの障害防止のための研究等が実施されている。
 なお,1986年4月のチェルノブイル原子力発電所事故の経験を踏まえ,我が国の放射能調査体制について,従来32都道府県で実施されていた放射能測定網を1990年度までに47都道府県全部に拡大する等,充実強化が図られている。

(4)米国原子力軍艦の寄港に伴う放射能調査
 米国原子力軍艦の寄港に伴う放射能調査は,科学技術庁,海上保安庁,水産庁及び地方公共団体が協力して横須賀,佐世保及び金武中城(沖縄ホワイトビーチ)港において,寄港時及び非寄港時に実施されている。
 1992年度における米国原子力軍艦の我が国への寄港は,横須賀21隻(前年度31隻),佐世保11隻(前年度9隻),金武中城6隻(前年度9隻),合計38隻(前年度49隻)であったが,放射能による周辺環境放射能による周辺環境への影響はなかった。

(5)旧ソ連・ロシアによる放射性廃棄物の海洋投棄問題について
 1993年4月に,ロシアは,旧ソ連・ロシアによる放射性廃棄物の海洋投棄に関する政府委員会の調査結果を取りまとめ,白書として公表した。これを受け,科学技術庁を中心に水産庁,海上保安庁,気象庁等関係省庁を構成員とする放射能対策本部(本部長:科学技術庁長官)幹事会が開催され,取るべき対応について協議が行われた。
 その結果,関係省庁により急きょ,日本海の海洋環境放射能調査を実施した。また,本件に関する日露合同作業部会が開催され,ロシアとの共同海洋放射能調査の実施につき,原則合意に達した。
 その分析結果は,1993年8月30日に開催された放射能対策本部幹事会において取りまとめられ,「現在までの調査によれば,本件海洋投棄により,我が国国民の健康に対して影響が及んでいるものではない」との見解が発表された。

(6)放射能測定マニュアルの整備
 現在,放射能調査等の実施に際しては,科学技術庁が放射線審議会の審議を経て制定した「ゲルマニウム半導体検出器によるガンマ線スペクトロメトリー」等の分析測定マニュアルが活用されているが,分析対象核種の増加,分析測定法の進歩及び測定装置の改良等に伴い,分析測定マニュアルの制定と改訂等が必要となる。
 このため,科学技術庁は,これら放射能分析測定法について,(財)日本分析センター等に原案作成を委託し,放射線審議会の審議を経て逐次制定又は改定している。現在,マニュアルは25冊あり,その題目を以下に示す。
1.全ベータ放射能測定法         昭和51年9月(2訂)
2.放射性ストロンチウム分析法      昭和58年12月(3訂)
3.放射性セシウム分析法         昭和51年9月(1訂)
4.放射性ヨウ素分析法          昭和52年10月(1訂)
5.放射性コバルト分析法         平成2年2月(1訂)
6.NaI(T1)シンチレーションスペクトロメータ機器分析法 昭和49年1月
7.ゲルマニウム半導体検出器によるガンマ線スペクトロメトリー 平成4年8月(3訂)
8.放射性ジルコニウム分析法       昭和51年9月
9.トリチウム分析法           昭和52年10月
10.放射性ルテニウム分析法        昭和52年10月
11.放射性セリウム分析法         昭和52年10月
12.プルトニウム分析法          平成2年11月(1訂)
13.ゲルマニウム半導体検出器を用いる機器分析のための試料の前処理法 昭和57年7月
14.ウラン分析法             昭和57年7月
15.緊急時における放射性ヨウ素測定法   昭和52年10月
16.環境試料採取法            昭和58年12月
17.連続モニタによる環境γ線測定法    昭和57年7月
18.熱ルミネセンス線量計を用いた環境γ線測定法 平成2年2月(1訂)
19.ラジウム分析法            平成2年2月
20.空間γ線スペクトル測定法       平成2年2月
21.アメリシウム分析法          平成2年11月
22.プルトニウム・アメリシウム逐次分析法 平成2年11月
23.液体シンチレーションカウンタによる放射性核種分析法 平成2年11月
24.緊急時におけるγ線スペクトロメトリーのための試料前処理法 平成4年8月
25.放射性炭素分析法           平成5年9月


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