第II部 各論
第1章 原子力発電

(参考)諸外国(地域)の動向

① 概況
 世界の原子力発電設備容量は,1993年6月末現在,運転中のものは416基,3億4,390万キロワットに達しており,建設中,計画中のものを含めると総計557基,4億6,482万キロワットとなっている。
 現在,欧米等の先進諸国を中心として原子力発電所の運転が行われているが,原子力発電国(地域)は,29か国(地域)となった。その他開発途上国等においても原子力発電所の建設あるいは計画が進められており,これらの国をあわせると37か国(地域)に上っている。
 運転中のものについて見ると,米国が全世界の原子力発電設備容量の約30%を占めており,フランス,旧ソ連,日本がそれに続いている。
 炉型別では約85%が軽水炉で占められており,このうち,約74%が加圧水型軽水炉(PWR),残り約26%が沸騰水型軽水炉(BWR)となっている。

② 各国(地域)の動向
 米国は,世界第1位の原子力発電設備容量を有し,1993年6月末現在,108基,1億337万キロワットの原子力発電所を運転している。
 1992年には,6,188億キロワット時を原子力により発電し,総発電電力量の約22%を供給している。また,1992年の平均設備利用率も過去最高の70.9%であった。
1991年2月,ブッシュ大統領は2010年を目標年度にエネルギーの自立達成に向けて,「国家エネルギー戦略」を発表した。同戦略は,長期的な政策目標として①国内石油生産の増大,原子力発電開発の拡大,②再生可能エネルギー源の開発,③エネルギー効率の改善等を掲げている。原子力発電については,国産エネルギー資源であり,化石燃料の使用抑制や地球環境問題等へ貢献できることから,今後も積極的な活用を期待している。同戦略で提案されている諸対策の法制化については,1992年10月「エネルギー政策法」として成立した。ただし自動車燃費基準の強化法案や北極野生動物保護区での石油開発を認める法案が削除されたため,石油輸入依存度低減の面では重要法案が成立しなかったことになる。原子力関連法は,①原子力発電に係る許認可手続きの簡素化,②高レベル放射性廃棄物処分場の立地,許認可の推進,③新型軽水炉の標準化設計の推進,④濃縮業務の濃縮公社への移管等を挙げている。
 1993年1月,民主党のクリントンが大統領に就任したが,新政権のエネルギー・環境政策の基本的方向としては,エネルギー効率の改善,省エネルギーの促進,天然ガス及び再生可能エネルギー利用等により石油輸入依存度低減策を図ることとしている。また,同年2月に発表された経済政策演説では,財政赤字削減のため原子力研究開発等の必要のないプログラム等を削除することを表明するとともに,エネルギー税の新規導入の意向も示していた。クリントン政権は,原子力については依存度を現状以上とすることについては反対しているが,将来の選択肢として原子力を残すべきとしている。同年4月に発表されたエネルギー省1994年予算政府原案においては,エネルギー効率,再生可能エネルギー及びクリーン石炭技術関連のプログラムの予算は昨年に比べ増大している一方,原子力等の予算は削減された。軽水炉関係研究開発予算は昨年とほぼ同等であるが,新型炉関係研究開発予算はアクチニド・リサイクル計画,施設閉鎖費を除いて,すべて削減された。下院歳出委員会において,新型液体金属炉予算等の復活を含むエネルギー・水資源開発歳出法案が採決されたが,下院本会議での同法案の審議において,新型液体金属炉計画(アクチニド・リサイクル計画を含む)を廃止する修正案が提出され,同修正案は可決された。
 その後上院での審議が行われ,新型液体金属炉予算及びアクチニド・リサイクル予算が復活するとともに,高温ガス炉計画が廃止されることとなり,下院の法案と逆の決定となった。今後,両院協議会において調整されることとなっている。
 米国では,1970年代における経済成長の低迷,カーター政権の原子力政策,及び1979年のスリーマイル原子力発電所事故の影響等により,1970年代から80年代にかけて原子力発電所発注の取りやめが続いた。
 また,1974年以来新規原子力発電所の発注がない状態が続いている。
 しかし,2010年までに必要とされる新規電源2億キロワットに対応すべく,1990年代後半の着工を目標に,改良型軽水炉の標準化等のプログラムを推進している。
 カナダは,従来から自国の豊富なウラン資源と自主技術によるカナダ型重水炉(CANDU炉)を柱とした独自の原子力政策を一貫して採っている。1993年6月末現在,21基,1,577万キロワットのCANDU炉が運転中で,1992年には約760億キロワット時を発電している。
 一方,CANDU炉を供給しているカナダ原子力公社(AECL)は,CANDU炉の輸出にも力を入れており,アルゼンチン,韓国,インド及びパキスタンで同炉が運転されている。また,新型軽水炉(ABWR,APWR)に対抗する新型炉として,モジュラー型のCAN-DU-3型炉(45万キロワット)の開発にも力を入れている。サスカチュワン州とカナダ連邦政府は1992年12月,同炉の設計開発とサスカチュワン原子力開発センターの設立について協力していくことを合意した。
 オンタリオ州議会は1990年11月,新規電源に関する環境評価が終了するまで,少なくとも3年間原子力の開発を一時停止することを決定したが,現在建設中の原子力発電所は,予定どおり運転開始させることとしており,建設中のダーリントン1号機は1992年11月に,3号機が1993年2月に運転開始した。4号機は1993年3月に初臨界を達成し,年内の運転開始を目指している。
 オンタリオ・ハイドロ社は,1989年12月にCANDU炉10基の建設を含むエネルギー開発25か年計画を発表したが,,州政府の指示により計画の見直しを行い,1991年12月,新規原子力発電所の計画を含む長期電源開発計画を撤回した。州政権を握る新民主党(NDP)は,需要管理と電力購入を中心とした修正開発計画を提案し,この計画はオンタリオ州環境影響評価委員会によって評価されていたが,1993年1月州政府は現状にそぐわないとして評価作業の中止を発表した。
 フランスは,エネルギー資源に乏しく,エネルギー自給率を改善するため原子力発電を積極的に導入している。1992年11月にパンリー2号機が運転を開始し,1993年6月末現在,55基,5,898万キロワットの発電設備を有し,総発電電力量の約73%を原子力発電によら賄っている。現在,6基の原子力発電所が建設中であるが,1993年5月にゴルフェッシュ2号機が初臨界を達成し,年内の運転開始を予定している。
 フランスは,近隣欧州諸国への電力輸出にも力を入れており,総発電電力量の約12%に当たる538億キロワット時を英国,イタリア,スイス,ドイツ等の国々へ送電している。これらの隣国において新規電源建設難から電力の輸出増加傾向が続くため,フランス原子力公社(E DF)は,1993年1月,1基の新規原子力発電所を発注した。今後,2000年まで18か月ごとに1基(140万キロワット)のペースで発注する予定であったが,EDFは経済不況等の影響により電力需要の伸びを下方修正せざるを得なくなり,1993年6月,新規の発注を当面の間見合わせることを決定した。
 フランスは,軽水炉開発に際して国内の原子力発電所の標準化を進めているが,さらに21世紀初頭の運転開始を目指して,ドイツと共同で欧州加圧水型炉(EPR)の開発を進めている。
 フランスは,高速増殖炉開発においても先進的な地位にあり,既に,原型炉フェニックス(1974年),実証炉スーパーフェニックス(1986年)を運転開始しているが,両炉とも1990年,トラブルにより運転停止状態にあった。フェニックスは,1993年2月に反応度異常の原因究明のため,熱出力35万キロワットの試験運転を実施している。スーパーフェニックスについては,政府は1992年7月,安全当局の報告書等を踏まえて,運転再開には安全性確保のための対策の実施と,施設の安全性についての公聴会の開催が必要として,スーパーフェニックスの運転再開延期の決定を行った。公聴会については,1993年3月から6月にかけ実施され,その結果,1993年9月原子力施設安全局(DSIN)による施設の安全性に関する検討,特にナトリウム火災の危険を防止するための新たな対応を考慮した上で,運転再開を支持する判断を出すことを条件に,運転再開を支持する報告がなされたところである。
 現在,運転再開に向け,安全性確保のための対策が実施されつつある。
 また,フランス,ドイツ,英国の設計研究及び関連研究開発等を統合して,経済性を重視した「欧州統合高速炉」(EFR)計画が進められており,ドイツ政府,英国政府は各々1992年12月,1993年3月に資金拠出の中止を決定したものの,現在も高速増殖炉の実用化に向けての努力は引き続き行われている。
 英国では,1993年6月末現在,ガス冷却炉(GCR)及び改良型ガス冷却炉(AGR)を中心に,37基,1,316万キロワットの原子力発電所が運転中であり,総発電電力量の約23%を供給している。これらのうち,運転経験が20年を超えたGCR22基については,原子力施設検査局(NII)が定例的に長期運転評価作業を実施しており,順次運転延長の承認が行われている。
 英国政府は,1992年3月にエネルギー政策白書を発表し,その中でGCRの早期閉鎖の経済的理由はないこと,地球環境問題への原子力の貢献が大きいこと等を挙げ,原子力の長所を強調している。また,白書は,現在建設中のサイズウェルB(PWR)の完成後の1994年に予定される,新規原子力発電所計画の再検討の繰上げ実施を提案している。計画の繰上げについては,1993年1月に発表された英下院の貿易産業特別委員会の報告書においても同様の勧告がなされており,本年後半には本格的な検討に入る見込みである。
 1992年11月,英国政府は,経済的理由等により現在運転中の高速炉原型炉(PFR)を1994年に運転を終了することを発表した。また1993年3月以降,欧州統合高速炉(EFR)計画への資金拠出を取りやめることも発表した。ただし,高速炉開発の意義,必要性を否定したものではなく,PFRでの知見等を通じて同計画へ貢献する旨も表明している。
 ドイツは,1993年6月末現在,21基,2,363万キロワットの原子力発電所が運転中であるが,そのすべてが旧西ドイツ分である。1992年には1,500億キロワット時を原子力により発電し,総発電電力量の約30%を供給している。
 1991年12月「新連邦エネルギー政策」が連邦経済省より発表された。
 同政策では,原子力については,原子力に代わる安定的な代替エネルギー源がない限り,引き続き電力生産における重要な役割を果たすことを指摘している。
 しかし,多くの州レベルの選挙で社会民主党(SPD)が政権を握り,運転中の原子力発電所がある8州のうち7州までが社会民主党政権下にある。これらの州では原子力開発利用が大幅に規制され,現在ドイツにおいては建設中,計画中の原子力発電所は1基もない。
 連邦環境大臣は1991年2月,原子力法を改正することを発表し,1992年7月,関係各省に改正案を送付した。この改正案は,①原子力エネルギーの利用促進を図る条項の削減②使用済燃料の再処理路線と直接処分路線の両立③最終処分場の民営化等を含んだ内容となっている。またこれに対して,社会民主党(SPD)が政権を握っているヘッセン州とニーダーザクセン州では1992年9月に独自の改正案を発表したが,この改正案は①原子力法に原子力利用の廃止目的を含める②使用済燃料の直接処分関連の施設を除いて新規の建設・運転許可を発給しない③使用済燃料の再処理とMOX燃料の利用の禁止,及びこれらに関する既存の許認可を無効にする④放射性廃棄物の処分は民営化しない⑤放射性廃棄物及び中間生成物は,暫定貯蔵または処分のいずれの目的でも外国へ輸出しない等の,連邦政府案より厳しい内容を含んでいる。さらに,エネルギー事業者も原子力法の改正に反対の姿勢を示しており,最終的な法改正に至るまでに調整が必要である。
 これらの状況を踏まえ,コール首相は1992年10月,「エネルギー事業者も連邦と州における政党代表者と対話を持つべきである」と提案し,政治的コンセンサス形成のための協議が1993年3月から1993年末にかけで実施されることとなった。ドイツでは,次回の総選挙が1994年に実施され,原子力法の改正が成立するのはこの総選挙後になるものと予想される。
 イタリアは,主要先進国(G7)の中では,唯一,原子力発電所の運転を行っていない。イタリアでは,1987年の国民投票の結果を受け,1基は閉鎖,2基は運転を凍結し,5年間の新規原子力発電所建設禁止(モラトリアム)が決定されたが,1992年12月にモラトリアムが終了した。原子力発電計画の再開に向けて検討が行われているが,政治状況が不安定であるため今後の見通しは明確になつでいない。
 スウェーデンでは,12基,1,037万キロワットの原子力発電所が運転中であり,1992年には608億キロワット時を発電し,同国の総発電電力量の約43%を供給している。
 スウェーデンは,1980年に,2010年までの原子力発電所全廃を決議し,また,1988年には,その第一歩として1995年から1996年にかけて2基を廃止するという決議がなされていた。しかし,1991年6月に,原子力発電所2基を廃止するという計画を放棄することを含む,新しい国家エネルギー政策が,議会で正式に承認された。この新エネルギー政策に基づき,スウェーデンでは,今後,エネルギー節約,エネルギーの効率的利用,新エネルギーへの投資の5か年計画を進めており,その進捗状況により原子力廃止計画を決めていくことになる。
 1992年11月に行われた世論調査によると,国民の53%が原子力発電所全廃の期限である2010年以降も原子力の継続利用に賛成している。
 フィンランドでは,1993年6月末現在,4基,240万キロワットの原子力発電所が運転中であり,1992年には182億キロワット時を発電し,同国の総発電電力量の約33%を供給している。
 同国は,1986年のチェルノブイル原子力発電所事故後,新規原子力発電所の建設計画を凍結しており,1993年2月,政府(内閣)は5号機計画に関する原則決定を行い議会に承認を求めたが,議会は本計画の最終的討議と採決を今秋の国会で行うこととした。順調に進めば2000年頃には運転開始の見込みである。
 スイスでは,1993年6月末現在,5基,308万キロワットの原子力発電所が稼働中である。1992年には,総発電電力量の約40%に当たる221億キロワット時を原子力発電で賄っている。
 1990年9月の国民投票の結果,「今後10年間に原子力発電所の建設許可を発給しない」(モラトリアム)が決定された。火力,原子力については,環境問題・モラトリアム等の理由から新規発電所建設計画はなく,水力も環境問題から開発は困難な状況である。現在は,電力輸出国であるが,2000年頃には,電力輸入国になると予想されている。
 その他,中・東欧を除く欧州においては,スペイン(9基),ベルギー(7基)及びオランダ(2基)において,原子力発電所が運転中である。
 旧ソ連では,1993年6月末現在,42基,3,629万キロワットの原子力発電所が運転中である。旧ソ連で運転中の原子力発電所は,主としてソ連型加圧水型炉(VVER),黒鉛減速軽水冷却沸謄水型炉(RBMK)である。各国の内訳は,ロシア25基(そのうちVVER12基,RBMK11基,沸謄水型炉(BWR)1基及び高速増殖炉(FBR)1基),ウクライナ14基(そのうちVVER12基,RBMK2基),リトアニア2基(RBMK)及びカザフスタン1基(FBR)である。
 ロシアでは,1993年6月末現在,25基,2,026万キロワットの原子力発電所が稼働中である。1992年には,総発電電力量の約12%に当たる1,196億キロワット時を原子力発電で賄っている。1991年以降,新たに運転開始した原子力発電所はなかったが,1993年3月にバラコボ4号機(VVER-1000)が初臨界を達成し,本年秋の運転開始を目指している。
 ロシア政府は,1992年12月に2010年までの新規原子力発電所建設計画を承認した。本計画では,2000年までを安全性向上の段階と位置付け,既存原子力発電所の安全性改善,建設中プラントの完成,次世代原子力発電所の開発を重点的に進めることとしている。新規の原子力発電所を運転開始させることにより,2010年までに約2,000万キロワットの設備容量を増加させる予定であり,その第1段階として,チェルノブイル原子力発電所事故の影響で建設が凍結状態にあったバラコボ4号機,カリーニン3号機(いずれもVVER-1000),クルスク5号機(RBMK-1000改良型)を1993年から1995年にかけて運転開始させる計画である。また,極東への原子力発電所建設及び高速増殖炉(BN-800)を4基建設する計画も含まれている。2000年以降は,安定的発展段階と位置付けており,次世代原子炉の建設,設備容量増大を目指している。
 ウクライナでは,1993年6月末現在,14基,1,288万キロワットの原子力発電所が稼働中である。1992年には,総発電電力量の約25%に当たる710億キロワット時を原子力発電で賄っている。ウクライナは,1990年にチェルノブイル1,2及び3号機(RBMK)を1995年までに閉鎖することを決定していた。1991年10月の2号機の火災事故発生により閉鎖時期を早め,2号機は早期閉鎖,1,3号機はそれぞれ1992年,1993年までに閉鎖することを決定した。しかし,深刻なエネルギー・電力不足のため,1992年春から保守と修理のため停止していた1,3号機の運転を,それぞれ同年10月,12月に再開した。
 1992年7月のミュンヘン・サミットにおいて,旧ソ連,中・東欧におけるソ連型原子炉の安全性は重大な懸念材料であるとして,安全性向上のための支援を多国間の行動計画の枠組みの中で提供することを決定した。行動計画は,即時的措置として運転上の安全性改善,安全性評価に基づく短期の技術的改善及び規制制度の強化を含んでいる。
 また,長期的な安全性向上のための基礎を築くため,代替エネルギー源の開発,エネルギーの効率的利用,新型原子炉の改修の可能性にも言及しており,更にこれらを補完するものとして,原子力の安全性に関する条約の早期締結を目指すこととしている。
 また,1992年7月に開催された西側先進諸国24か国で構成されるG24原子力安全ワーキンググループ(現G24原子力安全支援調整国際会議)において,ミュンヘン・サミットの経済宣言を受けて既存のG24調整対象国を従来の中・東欧諸国のみならず旧ソ連諸国まで拡大し,より一層効率的にする新しい枠組みを作成することが決定された。同ワーキンググループにおいて,支援策の調整活動が実施されている。
 1993年7月の東京サミットではミュンヘン・サミットの行動計画の実施状況が評価された。経済宣言において,短期的措置については2国間支援,原子力発電所安全支援基金の設置,G24の支援調整メカニズムの機能等で進展があることを評価するとともに,今後の課題として支援を遅滞なく実行に移し,安全性の向上を図ることが重要としている。また,長期的措置については,世界銀行及び国際エネルギー機関(IEA)の報告を参考にしつつ今後の支援の枠組みを策定することとし,各当事国が危険な原子力発電所の早期閉鎖を可能にするようなエネルギー計画を支援し,世界銀行等がそのための融資政策の調整を図れるようにすることを目標としている。
 その他の我が国の旧ソ連,中・東欧支援としては,国際原子力機関(IAEA)を通じた支援,国際原子力研修事業,原子力発電安全管理等国際研修,運転中異常検知システムに関する技術移転,ロシアにおける原子力発電運転技術センターの整備等が進められている。
 ブルガリアでは,コズロドイ原子力発電所で1~4号機(VVER-440/230),及び5,6号機(VVER-1000)が運転中で,1992年には116億キロワット時を発電し,総発電電力量の約33%を供給している。コズロドイ原子力発電所は,IAEAの運転管理調査団(OSM ART)の調査により,多くの安全上の欠陥があり,早急に対策を取る必要があると指摘され,欧州共同体委員会(CEC)の援助により安全性改善作業を行っていた。
 また,1993年3月に,欧州復興開発銀行(EBRD)内に原子力安全支援基金が設置され,同年6月には同基金による最初の支援プロジェクトとしてコズロドイ原子力発電所に対し2,400万ドルが支出されることとなった。
 1991年の9月,11月に,1,2号機は,運転停止し安全性改善作業に入り,3,4号機が,これに代わって運転を再開したが,1992年12月に2号機は運転を再開し,1号機も1993年内に運転を再開する予定である。3,4号機はこれと入れ替えに,本格的安全性改善作業に入る予定である。2号機は,VVER-440/230の安全性改善計画としては初の成果であるが,OSMARTの調査でも指摘されている,格納容器の欠如及び非常用炉心冷却装置(ECCS)の不備については,改善されてはいない。今後,コズロドイ原子力発電所は5,6号機の安全性改善作業を進めるとともに,1,2号機は,1997年初めまで,3,4号機は1998年末まで運転継続される予定である。
 韓国では,1993年6月末現在,9基,762万キロワットの原子力発電所が運転中であり,1992年には565億キロワット時を発電し,同国の総発電電力量の約43%を供給している。同国は,エネルギー資源に乏しく国際的なエネルギー情勢の不確実性に対処するためには,長期的に原子力主導の電源開発を引き続き推進すべきであるとしている。
 1993年には,月城3,4号機(CANDU炉,各70万キロワット)の建設が開始され,建設中のプラントは7基となった。
 韓国動力資源部と韓国電力公社は,1991年10月に,長期電源開発計画を取りまとめ,18基を2006年までに開発し,2006年の原子力発電規模を現在の約3倍の2,320万キロワットとすることとしている。18基のうち,12基は100万キロワットの改良型加圧水型軽水炉で,6基はカナダ型重水炉(CANDU炉)を計画している。また,韓国原子力委員会は,1992年6月,原子力技術の自立を目標として,「原子力研究開発中・長期計画(1992~2001年)」を発表した。本計画によると,今後10年間にわたり技術開発を行い,軽水炉の改良,高速増殖炉の開発等を行うこととしている。
 台湾は,原子力発電所6基,514万キロワットの設備容量を有し,総発電電力量の約35%を賄っている。韓国と同様にエネルギー資源に恵まれない台湾では,原子力発電に大きな期待を寄せている。特に,同国では,近年の電力需要の増大にともない新たな電源確保が急務となっている。7,8号機目に当たる龍門1,2号機の建設計画は,1986年より凍結されていたが,1991年から1992年にかけて台湾原子力委員会,行政院及び立法院が建設計画再開を承認した。2000年,2001年の運転開始が予定されている。
 インドでは,ナローラ2号機が1992年7月に運転を開始し,1993年6月末現在,9基,172万キロワットの原子力発電所が運転中であり,建設中が7基,計画中が6基ある。建設中のカクラパー1号機(CANDU炉,23.5万キロワット)は,1992年9月に臨界に達し,1993年5月に運転を開始した。
 中国は,深刻な電力不足から発電設備の増強に力を入れており,原子力発電にも積極的に取り組んでいる。現在,3基の原子力発電所を建設しており,このうち同国で最初の原子力発電所秦山1号機(PWR,30万キロワット)については,自主開発により建設が進められてきたが,1991年12月に初送電に成功し,1992年には10億キロワット時を発電した。現在試運転中であり,1994年には営業運転に入る予定である。
 また,建設中の広東1,2号機(PWR,各98.4万キロワット)は1993年から1994年にかけて送電を開始する予定である。
 現在建設中の3基に続き,秦山2,3号機及び広東3,4号機の計4基の建設が計画されている。
 インドネシアは,石油や石炭等のエネルギー資源に恵まれているが,石油については輸出商品として温存する必要性,石炭については地球環境問題からの制約等を考慮し,今後2015年までに700万キロワット程度の原子力発電所の建設を検討している。1991年よりジャワ島中部のムリア半島で日本企業により立地に関する調査が開始されたが,1996年初めまでに調査作業を終了し,2003年に運転開始する方向で検討している。
 その他,南アフリカ共和国,アルゼンチン,メキシコ,ブラジル及びパキスタンの各国において原子力発電所が運転中である。


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