第I部 総論
第2章 エネルギー情勢等と内外の原子力開発利用の状況

10.国民の理解の増進

(1)原子力開発利用に対する最近の世論の状況
 1990年に行われた総理府の世論調査によると,原子力発電の必要性については,「必要である」とした人が60%を超えており,必要性について国民の一定の理解は得られていた。一方,原子力発電の安全性については,約50%の人が「安全ではない」と考えていた。
 さらに,原子力発電に対する情報源に対する信用度については,信用できる説明主体として,3割から4割の人が「テレビ・ラジオなどの報道」,「学者・専門家」,「新聞・雑誌などの報道」を挙げていた。
 また,1993年に行われた,(社)エネルギー・情報工学研究会議の世論調査によると,我が国の今後の電力需要から見た原子力発電の重要性については,全国で78%,立地点で84%の人が「重要である」と考えており,過去4年の間高い水準を維持している。また原子力発電所の建設については,「推進すべき」と答えた人が,全国で45%,立地点で50%あり,「廃止すべき」と答えた人が,全国で28%,立地点では24%あり,「推進すべき」とする人が「廃止するべき」だと答えた人を上回っている。また,全国では24%,立地点では30%の人が「現状を維持するべき」としている。原子力発電の安全性を確保できるかどうかについては,「確保できる」とする人が全国で67%,立地点では74%と半数をかなり上回っているが,「できない」とする人も全国で30%,立地点で26%あり,ここ4年間では,1年おきに高低変化を繰り返している。
 原子力発電に対する情報源に対する信頼度については,信頼できる説明主体として「テレビ・新聞などのマスメディア」を挙げた人は,全国及び立地点とも6割以上と多かったが,最近4年間の傾向としては,全国については,テレビ・新聞に対する信頼度が上がっている一方,立地点では,信頼度が低下している。
 また,プルトニウムの海上輸送等を背景として核燃料リサイクルについての関心が高まり,プルトニウム利用の是非を取り上げた報道等も多くなったほか,輸送関連情報等の公開についての関心も高まった。
 さらに,原子力をテーマとした民間のシンポジウムもいくつが開催されており,原子力と直接関係のない分野で我が国の原子力開発利用の在り方について関心を持つ事例も見られるほか,1993年9月には,大阪市において,プルトニウム利用について推進を主張する人々と反対を主張する人々による初めての討論会が開催され,プルトニウム利用の是非等について議論が行われた。

(2)原子力に対する国民の理解の増進のための活動の状況
 このように,世論調査においては原子力に対する不安・心配の高まりや,国や事業者に対する信用度が決して高くはないといった現状が明らかになった。こういった結果を踏まえ,国や事業者は,安全確保の実績を積み重ねるとともに,その時点で分かり得る情報を迅速,正確に提供することはもちろん安全管理体制の全体構造,当該事故の状況,影響度及び対策等について分かりやすい説明に引き続き努力し,原子力に対する正確な理解を求めるとともに,日頃からの誠実な対応により,信頼感の醸成を図っていくことが求められている。
 このような活動を行うに当たっては,国民にとって,原子力の安全性や放射線の性質等が実感できないことも原子力に対する理解の増進を図る上での障害となっており,施設見学会等による体験型広報が理解の促進に役立つと考えられることから,今後は,国民に原子力施設を実際に見てもらう機会を更に一層増やしていくことが重要である。
 他方,未来を担う青少年に対し,科学教育及びエネルギー教育等の場において正確な知識の普及を行い,子供の頃からエネルギー ・原子力について理解を深める場を提供することや,学校を卒業した社会人に対しても生涯教育の場等を活用して,エネルギーや原子力に対する学習の機会を広く提供することは,原子力,省エネルギーを含めエネルギー全般について国民一人一人に考えてもらうための基盤を作るためにも必要なことである。
 このような認識の下,現在,国,地方自治体及び事業者等によって,原子力に対する国民の理解の増進のための活動が種々行われている。
 具体的には,全国各地で開催される勉強会への講師の派遣,電話により質問に答えるテレフォン質問箱,パソコン通信相談室といった対話型の活動,施設見学会や自然放射線を実際に測定する実験セミナーの開催や簡易型放射線測定器「はかるくん」の貸出しといった体験型の活動が中心となっている他,パソコンゲームソフトの配布や漫画等による分かりやすいパンフレット等の配布が行われている。
 また,我が国では,広く国民一般の原子力平和利用についての理解と認識を深めることを目的として10月26日を「原子力の日」と定めている。この日は,1956年に我が国が国際原子力機関憲章に調印した日であるとともに,日本原子力研究所が1963年に我が国で初めて原子力による発電に成功した日である。今年は,30回目を迎える記念すべき年に当たることから,「原子力の日」を従来にも増して広く普及させるため,科学技術庁と通商産業省資源エネルギー庁が共同し,「原子力の日」のシンボルマークを公募,選定し,一般に公表した。
 また,科学技術庁では,前述のように核燃料リサイクルに対する関心が高まっていることや高レベル放射性廃棄物の処分のための準備組織が発足したことに加え,今後,高速増殖原型炉「もんじゅ」の臨界や,重粒子線がん治療装置の臨床試行が行われること等を考慮し,1993年度においては,「プルトニウムの必要性と安全性」,「もんじゅの役割と安全性」,「高レベル放射性廃棄物処理処分対策」及び「放射線の医療分野での利用」の4分野を重点領域として広報活動が実施されている。また,通商産業省資源エネルギー庁等でも,上記の点にかんがみ,プルトニウム利用に関するパンフレットの制作などプルトニウム関係の広報活動を実施している。
 さらに,これらの全国広報に加え,立地地域においても,施設の必要性,安全性に対する住民の疑問や不安に直接答えるべく,国の担当官や専門家が,各地で説明会・座談会を実施するなど,地域の事情に応じた,懇切丁寧な広報を心掛けている。
 加えて,現在見直しを行っている原子力開発利用長期計画についても原子力委員会長期計画懇談会の場で,原子力の専門家以外の有識者の意見も参考にするなど,各界の意見を取り入れている。

(3)安全確保の実績の積み重ね
 原子力発電等の円滑な推進を図るためには,安全の確保が大前提である。我が国は,他の国に比べても厳格な安全規制等を行うことにより原子炉施設の安全確保を行っており,安全規制,運転管理及び防災対策について高い実績を持っている。
 しかし,安全性に支障のないささいなことであっても故障やトラブルは,それ自体が国民の不安を抱かせる原因となっていることから,安全確保対策の実施状況や事故,故障,トラブルの違い及び各々のトラブルの環境への影響度などについて,理解を深めてもらうとともに,安全性の一層の向上を図り,安全確保の実績を積み重ねることにより,国民の理解と協力を得られるよう努力することが重要である。
 このため,今後とも厳重な安全規制と万全な運転・管理の実施,安全研究の充実・強化に積極的に取り組み,より国民の信頼感を得られる体制の強化を図ることが重要である。

(4)原子力分野における情報公開への取組について
 1992年11月から1993年1月にかけて行われた,プルトニウム輸送船「あかつき丸」によるフランスからのプルトニウム輸送等によって,輸送関連情報等の公開についての関心が高まった。我が国の原子力開発利用は,原子力基本法に基づき,平和の目的に限り,安全確保を大前提に,民主的な運営の下に,その成果を公開する等の基本方針により推進している。原子力基本法におけるいわゆる「公開の原則」とは,原子力の研究,開発及び利用に関する成果を公開することにより,原子力の平和利用を確保するとともに,原子力の安全性等についての国民の理解を深め,原子力開発利用の促進を図るものである。
 他方,核物質防護の観点から,例えば輸送関連情報(日時,ルート等)は慎重に取り扱われる必要がある。盗取等による不法移転及び妨害等の障害から核物質を防護することは,原子力平和利用を進める上で必要なことであるが,防護のためには警備と情報管理の両面による対応が必要である。輸送ルート,日時等の輸送関連情報を慎重に取り扱うのは,このような観点から,国際的にも確立しているものであり,情報の管理を緩和すれば核物質の盗取等の可能性が高まるなどの問題があるため,必要な情報管理はやむを得ないものである。これらの対応は,核不拡散の観点からも重要なものである。
 また,民間企業等が財産権の保護の観点から公開できない技術情報等は,所有者の許諾なしに国が公開することはできないため,申請書の内容でも公開できない部分が生ずることがある。
 しかしながら,いずれにしても,核物質防護,核不拡散,財産権の保護に係る情報といった機微情報等の名を借りて,いたずらに非公開とすることは避けるべきであり,原子力開発利用に関する情報については,可能な限り公開することを基本としている。


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