第I部 総論
第2章 エネルギー情勢等と内外の原子力開発利用の状況

3,我が国の原子力発電,核燃料サイクル,プルトニウム利用等の開発利用の状況

(1)我が国の原子力発電の現状と見通し
 1963年10月26日,日本原子力研究所の動力試験炉(JPDR,軽水型,1万2千5百キロワット)が運転を開始し,我が国初の原子力発電が始まり(後にこの日を「原子力の旧と決める),今年で30年になる。
 この間,我が国の発電設備容量は順調に伸び,1978年には1,000万キロワット,1984年には2,000万キロワット,1990年には3,000万キロワットを超え,1993年9月現在,3,736万1千キロワットに達し,米国,フランスに次ぐ世界第3位の設備容量を有している。

①原子力発電の状況
 我が国の原子力発電は,1993年2月に関西電力(株)大飯発電所4号炉,7月に北陸電力(株)志賀原子力発電所1号炉,8月に東京電力(株)柏崎刈羽原子力発電所3号炉及び9月に中部電力(株)浜岡原子力発電所4号炉がそれぞれ新たに運転を開始したことにより,1993年9月末現在,運転中の商業用発電炉は45基,設備容量は3,719万6千キロワット,新型転換炉原型炉「ふげん」を含めると,46基,3,736万1千キロワットとなっている。これに建設中及び建設準備中のものを含めた合計は,商業用発電炉で53基,4,590万8千キロワット,研究開発段階発電炉を含めると,55基,4,635万3千キロワットである。

 原子力発電は,1992年度末現在,総発電設備容量(電気事業用)の18.7%,1992年度実績で,総発電電力量(電気事業用)の28.2%を占め,主力電源として着実に定着してきている。また,1992年度の設備利用率は,74.2%で,1983年度実績で70%を超えて以来,10年間続いて70%台の高い水準で推移してきている。設備利用率が1991年度に比べ増加した主な原因は,中間停止等による発電損失の割合が減少したことである。主要国の設備利用率を比較してみると,我が国の設備利用率はほぼ最高の水準となっている。

②原子力発電の経済性
 通商産業省の平成元年度における試算結果では,発電原価は原子力発電が9円/キロワット時程度,石炭火力発電及びLNG火力発電が10円/キロワット時程度,石油火力発電が11円/キロワット時程度となっている。
 以前に比べて他の電源との発電原価は接近しているものの,この試算には,20銭/キロワット時程度の原子力発電所の廃止措置費用が含まれており,また,上記試算に含まれていない放射性廃棄物の最終処分に係る経費を含めても,原子力発電は同等以上の経済性を有する電源となっている。
 また,通商産業省とは試算方法が異なるものの,民間機関においても発電原価の試算が行われている。
(財)日本エネルギー経済研究所の試算結果では,1992年度運転開始ベースでの発電コストは原子力発電が10.14円/キロワット時,LNG火力発電が10.64円/キロワット時,石炭火力発電が10.94円/キロワット時,石油火力発電が11.51円/キロワット時となっており,原子力発電が最も安価な電源となっている。
 この試算には,0.18円/キロワット時の原子力発電所の廃止措置費用が含まれているが,高レベル廃棄物処分に係る経費は含まれていない。
 また,2000年度運転開始ベースの発電コストについても試算が行われており,その結果は,原子力発電が9.52円/キロワット時,LNG火力発電が10.77円/キロワット時,石炭火力発電が11.62円/キロワット時となっており,原子力発電の経済性は更に増すと予測されている。
 さらに,2000年度運転開始ベースの発電コストについては,化石燃料価格変動の影響についても試算が行われているが,化石燃料が低価格のケースにおいても,依然として原子力発電の経済的優位性は変わらない結果となっている。
 なお,近年の動向としてエネルギー需給緩和によりエネルギー価格が相対的に低く推移するとともに,円高の影響等により火力発電の燃料費は低下傾向にあるものの,長期的には石油輸出国機構(OPEC)依存度の高まり,地域紛争,世界経済の動向等により不安定性要因があることから,原子力の経済性の長期安定性は変わらないと考える。

③軽水炉技術の研究開発
 我が国では,政府,電気事業者及び原子力機器メーカー等が協力して,自主技術による軽水炉の信頼性,稼動率の向上及び従業員の被ばく低減を目指し,軽水炉の改良標準化計画を第1次から第3次まで実施してきた。
 これらの成果は,現在運転中又は建設中の在来型軽水炉(LWR)の一層の改良に反映されるとともに,特に第3次計画においては,日本型軽水炉を確立するために,改良型軽水炉(ALWR:改良型沸騰水型原子炉(ABWR)及び改良型加圧水型原子炉(APWR))の開発が進められた。現在建設中の東京電力(株)柏崎刈羽原子力発電所6号炉(1996年運転開始予定)及び7号炉(1997年運転開始予定)は,最初のABWRであり,原子炉圧力容器内蔵型冷却材再循環ポンプ,改良型制御棒駆動機構等の新技術が採用されている。
 また,1991年6月に総合エネルギー調査会原子力部会軽水炉技術高度化小委員会が取りまとめた報告書によると,今後の軽水炉技術の開発に当たっては,経験の蓄積を積極的に活用し,安全性の原則を再認識し,新しい知見・技術を取り入れていくことが重要とし,安全性確保の更なる取組として,故障・トラブル対策の高度化,ヒューマンファクターに係る対策の高度化,安全設計の高度化,静的安全性の可能性の追求及び廃炉対応の高度化を挙げている。

(2)我が国の核燃料サイクルの事業化の進展
 我が国の核燃料サイクル*8の研究開発については,動力炉・核燃料開発事業団及び日本原子力研究所を中心として進められてきたが,このうち,核燃料の再転換・成型加工及び濃縮については,既に民間における事業化が進んでおり,多くの実績を積み重ねている。


*8 ウラン濃縮,加工,照射,再処理等の核燃料がたどる過程に関する施設の一連のシステム。

①ウラン濃縮
 我が国におけるウラン濃縮の国産化については,動力炉・核燃料開発事業団が中心となって主として遠心法に関する研究開発を進めてきた。同事業団は,岡山県人形峠において1979年9月以来,パイロットプラントの運転を続けてきたが,1990年3月に当初の目的を達成したため運転を終了した。パイロットプラントに続いて,同事業団は200トンSWU*9/年の分離作業能力を有する原型プラントを運転中である。この成果に基づき,日本原燃(株)は,1992年3月に青森県六ケ所村において濃縮工場の操業を開始し,1993年9月現在の分離作業能力は450トンSWU/年となっている。この濃縮工場については,今後逐次増設し,最終的には分離作業能力1,500トンSWU/年の規模とする計画となっている。
 動力炉・核燃料開発事業団は経済性向上につながる技術として,新素材を用いた遠心機の開発を進め,民間との協力により実用規模カスケード試験装置*10を建設し,1993年4月から運転を開始している。
 さらに,より一層の経済性の向上を図るため,次世代機となる高度化機の開発を民間との共同研究として,1993年4月から実施している。
 一方,ウラン濃縮に関する新技術としては,レーザー法及び化学法の研究開発が進められてきた。
 このうち,レーザー法については,日本原子力研究所及びレーザー濃縮技術研究組合が原子レーザー法の研究開発を進めており,同研究組合は,各種のシステム試験を行っており,日本原子力研究所は基礎プロセス試験を実施している。


*9  SWUは,分離作業単位(Separative Work unit)SWUは,天然ウランを濃縮する際に,必要とする濃縮度の濃縮ウランを得るための仕事量を表す単位である。ウラン濃縮度を高めるほど,また,廃棄濃縮を低くするほど,SWUは大きくなる。例えば,約0,7%の天然ウランから4%の濃縮ウランを1トン生産するためには,廃棄濃縮が0.25%の場合,約5.8トンSWUの分離作業量が必要である。
*10 多数の遠心分離機を連結した試験装置。

 また,動力炉・核燃料開発事業団及び理化学研究所は,分子レーザー法の研究開発を進めているが,同事業団は,工学実証試験を実施しており,理化学研究所は,この試験を支援するための工学基礎試験を実施している。今後,レーザー法については,更に段階的な開発が必要であり,1998年頃に次の段階に進むべきか否かの評価検討を実施することが適当である。
 なお,化学法については,旭化成工業(株)が研究開発を進めてきた。
 同社はモデルプラントの開発は終了したとしているが,商業化につながる実証プラントの建設については,今後の国内外のウラン需給の動向等を踏まえ,判断されるべきである。
 六ケ所濃縮工場以降の国内濃縮事業規模の拡大及びその時期については,内外の動向等を考慮しながら今後の検討を進めていくことが必要である。

②軽水炉使用済燃料再処理
 軽水炉使用済燃料の再処理技術の開発は,これまで動力炉・核燃料開発事業団を中心として行われてきた。同事業団の東海再処理工場は,1977年9月にホット試験を開始し,初期のトラブルを克服して順調に操業を行い,1992年度末までの累積再処理量は約680トンUに達している。
 我が国で発生する使用済燃料の再処理については,東海再処理工場のほか,英国及びフランスに委託しており,1993年3月末現在,軽水炉使用済燃料については,約5,600トンU,ガス炉使用済燃料については,約1,500トンUの委託契約が締結されている。
 これらの契約に基づき,1993年3月末までに,軽水炉使用済燃料約4,700トンUが両国に,ガス炉使用済燃料約1,100トンUが英国に運ばれている。
 将来的には,国内の再処理需要については,現在操業中の動力炉・核燃料開発事業団の東海再処理工場と,日本原燃(株)が建設を進めている青森県の六ケ所再処理工場により対応することとしている。また,国内における再処理能力を上回る使用済燃料については,再処理するまでの間適切に貯蔵・管理することとしている。
 六ケ所再処理工場(処理能力は年間800トンU)については,フランス等の技術を導入したが,動力炉・核燃料開発事業団が東海再処理工場の操業によりこれまで培ってきた技術蓄積をも活かして所要の検討を進め,1992年12月の事業指定を受けて,1993年4月に着工した。
 本格操業開始は2000年の予定である。
 同工場において,使用済燃料から分離されるプルトニウムについては,ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)の形状で製品として生産され,原子炉で燃料として使用される等平和の目的に限り利用されることになっている。また,処理能力については,国内の原子力発電の規模等から判断して,妥当なものと認められる。

(3)我が国の新型動力炉開発とプルトニウム利用の展開
 第1章に述べたように,我が国は核燃料リサイクルについては,商業再処理工場の建設など事業化の進展が図られるとともに,高速増殖炉の開発,高速増殖炉使用済燃料の再処理技術の研究開発が着実に進展し,動力炉・核燃料開発事業団によるプルトニウムの海上輸送も無事に終了した。このような核燃料リサイクルについての事業化,計画推進等の状況を概観すれば以下のとおりである。

①高速増殖炉
 高速増殖炉の開発は,これまで動力炉・核燃料開発事業団を中心に進められてきており,既に実験炉「常陽」(熱出力10万キロワット)が,現在まで順調に運転され,原型炉等の開発に必要な技術データや運転経験が着実に蓄積されてきている。また,同事業団では民間の協力を得て,福井県敦賀市に原型炉「もんじゅ」(電気出力28万キロワット)の建設を進めており,1994年4月の臨界を目途に,性能試験を行っている。
 実証炉については,電気事業者を中心に,実証炉関係の研究開発,基本仕様の選定等を行うこととしている。日本原子力発電(株)において,いわゆるトップエントリ方式ループ型炉の技術的成立性の確認を主たる目的とした,実証炉の予備的概念設計研究を実施したのに続き,基本仕様選定を行うための概念設計研究を実施し,現在,その結果を踏まえ基本仕様の選定が行われている。なお,動力炉・核燃料開発事業団と日本原子力発電(株)の間で,実証炉の開発をより円滑,効率的に進めることを目的に,1989年3月,「高速増殖実証炉の研究開発に関する技術協力基本協定」が締結され,具体的協力が進められている。
 今後の実証炉計画の進め方については,原子力委員会高速増殖炉開発計画専門部会等の場において検討しており,1993年9月現在,いわゆるトップエントリ方式ループ型炉の選定等基本仕様の妥当性,関連研究開発の進め方等について審議を行っている。

②軽水炉におけるプルトニウム利用及び新型転換炉
 軽水炉によるプルトニウム利用は,電気事業者を中心に進められており,既に,少数体規模実証計画が実施されている。今後の利用計画としては,1990年代央に,80万キロワット級以上の沸騰水型軽水炉(BWR),加圧水型軽水炉(PWR)それぞれ1基において,その4分の1炉心相当分のMOX燃料を装荷する方法を採用することとしている。これに続いて,3分の1炉心相当分のMOX燃料の装荷を,100万キロワット級軽水炉に換算して1990年代末には4基程度,2000年過ぎには12基程度の規模にまで段階的かつ計画的に拡大し,リサイクル利用を行えるよう準備を進めることとしている。
 新型転換炉(ATR)の開発は,これまで動力炉・核燃料開発事業団において進められてきており,1979年より原型炉「ふげん」(電気出力16万5千キロワット)が本格運転を開始し,おおむね順調に運転されている。
 また,これに続く実証炉については,電源開発(株)が2002年3月の運転開始を目指して,青森県大間町において,電気出力60万6千キロワットのATR建設のための準備を進めている。

③高速増殖炉使用済燃料の再処理
 高速増殖炉使用済燃料の再処理技術については,動力炉・核燃料開発事業団において研究開発が実施されてきている。現在,実規模模擬試験が行われるとともに,高レベル放射性物質研究施設において,高速実験炉「常陽」及び海外炉の照射済燃料を用いた実験室規模の再処理試験が行われている。今後,工学規模のホット試験によりプロセス・エンジニアリングの確立を図るため,リサイクル機器試験施設(RETF)の建設が予定されており,1993年8月に設置変更承認がなされた。

④MOX燃料加工
 MOX燃料加工は,これまで動力炉・核燃料開発事業団が行ってきているが,1993年3月末現在,「ふげん」,「常陽」及び「もんじゅ」用燃料の累積製造実績は約123トンMOXを達成している。さらに現在,新型転換炉実証炉用燃料製造技術開発施設の整備が予定されている。
 また,軽水炉による核燃料リサイクル利用計画及び2000年に予定されている六ケ所村の再処理工場の操業開始を踏まえ,年間約100トン程度の国内MOX燃料加工の事業化を図る必要があり,現在,民間関係者を中心として,事業内容に関し具体的な検討が進められている。
 その事業化の推進のためには,国内における技術の実証を図るとともに,動力炉・核燃料開発事業団の有するMOX燃料加工技術の民間事業者への円滑な移転を行う必要がある。そのため,動力炉・核燃料開発事業団のプルトニウム燃料第三開発室の活用等について,関係者の間で,早急に検討を進める必要がある。
 なお,海外再処理により回収されるプルトニウムについては,一定期間,適切な量について,海外でMOX燃料加工を行うことが適当であり,そのための検討を進めることが必要である。

⑤プルトニウム輸送
 英国及びフランスでの再処理により回収されたプルトニウムについては,我が国に返還輸送し核燃料として使用することとしている。
 高速増殖原型炉「もんじゅ」の取替燃料製造に使用するプルトニウムのフランスから日本への海上輸送については,1992年11月上旬輸送船「あかつき丸」(総トン数:約4,800トン)がプルトニウム約1.1トン(核分裂性プルトニウム量)を積みフランスを出港し,1993年1月5日東海村の日本原子力発電(株)東海港に入港した。
 この輸送の対象となったプルトニウムは,がって我が国の電気事業者が原子力発電所において発電に使用した使用済燃料をフランスで再処理して抽出されたものであり,動力炉・核燃料開発事業団はこのプルトニウムを電気事業者から購入したものである。
 この「あかつき丸」によるプルトニウム輸送は,新日米原子力協定の海上輸送のガイドライン(回収プルトニウムの国際輸送のための指針)に基づく最初の輸送であり,日米政府間及び日仏政府間の協議が行われるとともに,動力炉・核燃料開発事業団が主体となり,海上保安庁の巡視船「しきしま」(総トン数:約6,500トン,35ミリ機関砲,20ミリ機銃装備)による護衛を始め,関係機関の協力の下に行われた。
 輸送の経路はシェルブールを出て大西洋を南下し,インド洋,南太平洋を通過するものであり,約2か月間にわたる航行であったが,安全確保のため,衛星航行装置,衝突防止用レーダー等衝突事故防止に必要な装置が装備され,船体も二重構造とし,火災対策として延焼を防止する防火構造となっており,万一の場合にも,船倉に水を満たす装置も装備し,慎重な計画の下に実施され,無事終了した。

(4)我が国の原子力バックエンド対策の状況

①高レベル放射性廃棄物処理処分
(処理処分の基本的進め方)
 東海再処理工場において使用済燃料から分離される高レベル放射性廃棄物については,1993年3月末現在,その累積量は溶液の状態で,516立方メートルとなっている。また,電気事業者の使用済燃料の海外再処理に伴い発生する高レベル放射性廃棄物が返還されることになっている。
 これらの高レベル放射性廃棄物については,ステンレス製の容器に安定な状態にガラス固化し,30~50年間程度冷却のための貯蔵を行った後,地下数百メートルより深い地層中に処分することを基本的な方針としている。
 高レベル放射性廃棄物処分対策の進め方に関しては,まず,処分方策については,2030年代から2040年代半ばの処分場の操業開始に向け,2000年を目安に処分の実施主体の設立を図っていくことが適当である。一方,研究開発等については,その進展状況及び成果を適切な時期に取りまとめ,深地層の研究施設の計画を処分場の計画と明確に区別して進めることとする。また,関係各機関は適切な役割分担の下に進めていくことが不可欠である。
 今後は,上記の方針に従い,着実にその対策を実施していくこととしているが,1993年5月,高レベル放射性廃棄物に関する調査・研究及びその成果の普及・活用等を通じて,国民の理解と協力を得つつ,高レベル放射性廃棄物処分事業の準備の円滑な推進を図るため「高レベル事業推進準備会」が発足し,活動が行われている。
 また,海外再処理に伴い発生し,我が国へ返還される高レベル放射性廃棄物の貯蔵施設については,日本原燃(株)が六ケ所村において1992年5月に建設を開始し,1995年2月に操業を開始する予定である。

(研究開発の状況)
 ガラス固化技術については,動力炉・核燃料開発事業団を中心に研究開発が進められてきている。同事業団は,ガラス固化技術開発施設(TVF)において,固化処理技術実証の一環として1992年5月から模擬廃液を使ったコールド試験*11を進めている。高レベル放射性廃棄物の地層処分については,動力炉・核燃料開発事業団が中核推進機関となり研究開発を実施してきている。北海道幌延町における貯蔵工学センター計画は,高レベル放射性廃棄物等の貯蔵と併せて,地層処分のための研究開発等を行う総合研究センターを目指したものであり,本計画は処分場の計画と明確に区別したものであるとの認識の下,その着実な推進を図っていくこととしている。


*11 放射性物質を含まない模擬物質を用いて行う試験。

 さらに,高レベル放射性廃棄物の資源化と処分の効率化を図ることを目指して,核種分離・消滅処理技術の研究開発を進めている。

②低レベル放射性廃棄物処理処分
 原子力発電所等において発生する低レベル放射性廃棄物のうち,気体及び一部の液体廃棄物については,フィルターを通したり,蒸発処理を講じた後,法令に定められた基準値を下回ることを確認して,施設の外に放出している。その他の液体及び固体廃棄物については,発生量を極力低減した後,固化,焼却等により適切な処理を行って,各発電所等の敷地内に安全な状態で貯蔵されている。1993年3月末現在,原子力発電所において貯蔵されているものは200リットルドラム缶に換算して約48万本分となっている。
 低レベル放射性廃棄物については,日本原燃(株)が,青森県六ケ所村に低レベル放射性廃棄物を比較的浅い地中に処分する低レベル放射性廃棄物埋設センターを建設しており,1992年12月に操業を開始した。
 この施設の埋設能力は200リットルドラム缶に換算して約20万本相当であるが,今後,逐次増設し,最終的には約300万本相当の規模とする計画である。
 なお,1993年4月に,ロシア政府が,国際的合意に反し,旧ソ連・ロシアがバレンツ海やカラ海の北方海域及び日本海等に,液体及び固体の放射性廃棄物を長年にわたり海洋投棄していた事実を白書として発表した。この問題に関して,我が国は,投棄の即時中止を申し入れるとともに,5月には第1回日露合同作業部会を開催し,日露合同海洋調査の実施につき,原則的に合意を見た。また,放射能対策本部幹事会の決定を受け,4月から6月に科学技術庁,水産庁,海上保安庁,気象庁による日本海の海洋環境放射能調査を実施した。その分析結果は,8月30日に開催された放射能対策本部幹事会において取りまとめられ,「現在までの調査によれば,本件海洋投棄により,我が国国民の健康に対して,影響が及んでいるものではない。」との見解が公表された。さらに,10月中旬に至り,ロシアは日本海に液体放射性廃棄物の海洋投棄を行なった。これに対し,我が国は,強い懸念を伝えるとともに直ちに,このような投棄を中止するよう強く申し入れたところ,ロシアは予定されていた第2回の海洋投棄を中止することとした。
 なお,我が国は,独自に海洋環境放射能調査に着手した。

 使用済燃料の再処理,ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料の加工の過程で発生する,TRU*12核種を含む放射性廃棄物の処分については,適切な区分と,その区分に応じた合理的な処分方策を確立することとしている。これを受け原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会は,1991年7月に報告書を取りまとめ,TRU核種を含む放射性廃棄物の区分の考え方,区分の目安値,処分方策の具体化の手順等,今後の処理処分の推進のための具体的在り方を示した。


*12 超ウラン元素,ウランより元素番号の大きい元素の総称(Transuranic)

③放射性廃棄物の輸送
 我が国の原子力発電所から発生した低レベル放射性廃棄物については,日本原燃(株)が1992年12月,青森県六ケ所村において低レベル放射性廃棄物埋設センターの操業を開始したことに伴い,(株)原燃輸送所有の専用運搬船「青栄丸」(総トン数:約4,000トン)により,全国の原子力発電所より,むつ小川原港まで海上輸送され,むつ小川原港から同センターまでは専用のトラックにより陸上輸送が開始された。1992年12月から3月までの間に約6,080本のドラム缶が輸送されている。
 英国及びフランスでの再処理に伴って発生し,我が国へ返還される高レベル放射性廃棄物については,1995年2月に操業を開始する予定で建設が進められている日本原燃(株)の廃棄物管理施設に輸送する計画である。第1回の返還については,フランスからガラス固化体の専用の輸送容器に厳重に納めた状態で海上輸送を行うこととしているが,輸送の詳細については我が国電気事業者とコジェマ社との間で話合いが行われている。

④原子力施設の廃止措置
(原子炉の廃止措置)
 原子炉の廃止措置に関する技術開発については,実際の商業用原子力発電施設の廃止措置が必要となる時期を考慮し,技術の向上が図られており,1981年度から,日本原子力研究所が動力試験炉(JPDR)をモデルとしてその研究開発に取り組んでいる。同研究所では,1986年度からJPDRの解体実地試験を行っており,圧力容器の解体を終えて,1991年2月から放射線遮蔽体の解体作業に着手している。
 また,1988年度に,(財)原子力施設デコミッショニング研究協会が設立され,研究開発用の原子力施設の廃止措置に関する研究成果の蓄積・普及等を行っている。
 (財)原子力発電技術機構においては,廃止措置に関する技術のうち,安全性,信頼性の観点から特に重要な炉内構造物切断技術,解体廃棄物処理技術等について確証試験を進めている。
 電気事業者においては,原子炉の廃止措置費用について,世代間負担の公平化を図るため,発電を行っている時点で,引当金を積み立てる方式によって料金原価に算入することとし,1989年3月期決算から原子炉廃止措置費用引当金の計上を開始した。

(その他の原子力施設の廃止措置)
 再処理施設,燃料加工施設等の原子炉以外の原子力施設の廃止措置に関しては動力炉・核燃料開発事業団において施設の更新,解体のための技術が開発されているほか,1990年度からは日本原子力研究所の再処理特別研究棟(JRTF)をモデルとして,再処理施設解体に必要な技術の開発が進められている。

(廃止措置により発生する廃棄物)
 原子力開発利用長期計画においては,原子力施設の廃止措置により生じるもともと放射能レベルが極めて低い廃棄物等は,放射能レベルに応じた処分を行うほか,一定の条件を付して,再利用の途も開くとされている。
 このような廃棄物に該当する解体コンクリート廃棄物の処分に関しては,1992年9月に原子炉等規制法施行令の改正が行われて以来,素掘りトレンチへの埋設処分による廃棄物埋設事業の道が開かれた。
 解体廃棄物の再利用は,処分量の減量,有用資源の再利用等の観点から重要とされ,再利用に関する基準,制度に関する調査等が行われている。


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