第I部 総論
第2章 エネルギー情勢等と内外の原子力開発利用の状況

2.世界の原子力開発利用の状況

(1)世界の原子力発電の状況

①概況
 世界における原子力発電所は,今回(1992年7月から1993年6月末まで)フランス1基,カナダ2基,インド2基,日本1基,合計6基が新たに運転に入った(日本については1993年7月から9月末までに更に3基が運転に入った)。一方,ロシア6基,米国2基の合計8基が閉鎖されることとなった。現在,原子力発電国は,29か国(地域)となった。1993年6月末現在で,416基が運転中で,原子力発電設備容量は3億4,390万キロワットになり,前回(1992年6月末)に比べ,運転中の原子力発電所は2基減少したものの,設備容量は235万キロワットの増加になっている。総発電電力量については,1992年実績では2兆276億キロワット時に達し世界の総発電電力量のほぼ6分の1を占めた。これは約4億2,600万トンの石油に相当し,中東諸国全体の年間石油生産量(1992年実績約8億9,970万トン)のほぼ半分近くに相当する。
 1991年は,米国のアルゴンヌ国立研究所(アイダホ)において,高速増殖炉EBR-Iにより世界で初めて原子炉による発電が行われてから40年目であり,また1992年は,米国で初めて原子炉による核連鎖反応が起こってから50年目である。近年ではチェルノブイル原子力発電所事故の影響等から,一部の国では原子力政策の見直しや新規原子力発電所の建設中止の決定が行われる等,原子力開発は停滞傾向が続いていた。しかしながら,原子力発電は,エネルギー源の多様化に貢献するとともに,地球温暖化防止のための有効な手段の1つとして,その役割及び必要性が再認識され,一部の国・地域ではエネルギー政策の見直しや,原子力発電所建設計画が再開される動きが出てきている。

②各国 (地域)の動向
 米国は,世界第1位の原子力発電設備容量を有し,1993年6月末現在,108基,1億337万キロワットの原子力発電所を運転している。
 1992年には,6,188億キロワット時を原子力により発電し,総発電電力量の約22%を供給している。また,1992年の平均設備利用率も過去最高の70.9%であった。しかしながら,1970年代における,経済成長の低迷,カーター政権時の原子力政策及び1979年のスリーマイル島原子力発電所事故の影響等により,1970年代から80年代にかけて原子力発電所発注のキャンセルが続いた。また,1974年からは,原子力発電所の新規発注のない状態が続いている。
 1991年2月,ブッシュ大統領は2010年を目標年度に,エネルギーの自立達成に向けて「国家エネルギー戦略」を発表した。同戦略で提案されている諸対策の法制化については,1992年10月「エネルギー政策法」として成立した。原子力関連法は,①原子力発電に係る許認可手続きの簡素化,②高レベル放射性廃棄物処分場の立地,許認可の推進,③新型軽水炉の標準化設計の推進,④濃縮業務の濃縮公社への移管⑤軽水炉以外の新型炉技術促進のためのプログラム等がある。
 1993年1月,クリントン大統領が新たに就任したが,新政権のエネルギー環境政策の基本的方向としては,エネルギー効率の改善,省エネルギーの促進,天然ガス及び再生可能エネルギー利用等により,石油輸入依存度低減を図ることとしている。また,同年2月に発表された経済政策演説では,財政赤字削減のため原子力研究開発等の必要のないプログラム等を削除することを表明するとともに,エネルギー税の新規導入の意向も示した。クリントン政権は,原子力への依存度を現状以上とすることについては反対しているが,将来の選択肢として原子力を残すべきとしている。
 同年4月に発表されたエネルギー省1994年予算政府原案においては,エネルギー効率,再生可能エネルギー及びクリーン石炭技術関連のプログラムの予算は昨年に比べ増大している一方,原子力等の予算は削減された。軽水炉関係研究開発予算は昨年とほぼ同等であるが,新型炉関係研究開発予算はアクチニド・リサイクル計画,施設閉鎖費を除いて,すべて削減された。
 この予算案については,下院においては,新型液体金属炉計画(アクチニド・リサイクル計画を含む)を廃止する案が可決されたが,その後上院での審議では,新型液体金属炉予算及びアクチニド・リサイクル予算が復活するという下院と逆の決定となったため,今後,両院協議会において調整されることとなっている。
 カナダは,従来から自国の豊富なウラン資源と自主技術によるカナダ型重水炉(CANDU炉)を柱とした独自の原子力政策を一貫して採っている。1993年6月末現在,21基,1,577万キロワットのCANDU炉が運転中で,1992年には約760億キロワット時を発電している。
 オンタリオ州議会は1990年11月,新規電源に関する環境評価が終了するまで,少なくとも3年間原子力の開発を一時停止することを決定したが,現在建設中の原子力発電所は,予定どおり運転開始させることとしており,建設中のダーリントン1号機は1992年11月に,3号機が1993年2月に運転開始した。4号機は1993年3月に初臨界を達成し,年内の運転開始を目指している。
 フランスは,エネルギー資源に乏しく,エネルギー自給率を改善するため原子力発電を積極的に導入している。1992年11月にパンリー2号機が運転を開始し,1993年6月末現在,55基,5,898万キロワットの発電設備を有し,総発電電力量の約73%を原子力発電により賄っている。現在,6基の原子力発電所が建設中であるが,1993年5月にゴルフェッシュ2号機が初臨界を達成し,年内の運転開始を予定している。
 フランスは,近隣欧州諸国への電力輸出にも力を入れており,総発電電力量の約12%に当たる538億キロワット時を英国,イタリア,スイス及びドイツ等の国々へ送電している。
 イタリア,スイス等の隣国において新規電源建設が難しく,これらの国への電力の輸出増加傾向が続くため,フランス電力公社(EDF)は,1993年1月,1基の新規原子力発電所を発注した。今後,2000年まで18か月ごとに1基(140万キロワット)のペースで発注する予定であったが,EDFは経済不況等の影響により電力需要の伸びを下方修正せざるを得なくなり,1993年6月,新規の発注を当面の間見合わせることを決定した。
 フランスは,高速増殖炉開発においても先進的な地位にあり,既に,原型炉フェニックス,実証炉スーパーフェニックスを運転開始しているが,両炉とも1990年のトラブルにより運転停止状態にあった。フェニックスについては,1993年2月に反応度異常の原因究明のため試験運転を実施している。スーパーフェニックスについては,政府は1992年7月,安全当局の報告書等を踏まえて,運転再開には安全性確保のための対策の実施と,施設の安全性についての公聴会の開催が必要として,スーパーフェニックスの運転再開延期の決定を行った。公聴会については,1993年3月から6月にかけ実施され,その結果,1993年9月原子力施設安全局(DSIN)が,施設の安全性に関する検討,特にナトリウム火災の危険を防止するための新たな対応を考慮した上で,運転再開を支持する判断を出すことを条件に,公聴会委員会はスーパーフェニックスの運転許可の更新を支持することを表明するとの報告がなされたところである。現在,運転再開に向け,安全性確保のための対策が実施されつつある。
 英国では,1993年6月末現在,ガス冷却炉(GCR)及び改良型ガス冷却炉(AGR)を中心に,37基,1,316万キロワットの原子力発電所が運転中であり,総発電電力量の約23%を供給している。
 英国政府は,1992年3月にエネルギー政策白書を発表し,その中で地球環境問題への原子力の貢献が大きいこと等をあげ,原子力の長所を強調している。また,白書は,現在建設中のサイズウェルB(加圧水型軽水炉(PWR))の完成後の1994年に予定されている新規原子力発電所計画の再検討の繰り上げ実施を提案しており,本年後半には本格的な検討に入る見込みである。
 1992年11月,英国政府は,経済的理由等により現在運転中の高速炉原型炉(PFR)を1994年に運転を終了することを発表した。また1993年3月以降,欧州統合高速炉(EFR)計画への資金拠出を取りやめることも発表した。ただし,高速炉開発の意義,必要性を否定したものではなく,PFRでの知見等を通じて同計画へ貢献する旨も表明している。
 ドイツは,1993年6月末現在,21基,2,363万キロワットの原子力発電所が運転中であるが,そのすべてが旧西ドイツ分である。1992年には1,500億キロワット時を原子力により発電し,総発電電力量の約30%を供給している。
 しかし,ドイツでは,多くの州レベルの選挙で社会民主党が政権を握り,これらの州では原子力開発利用が大幅に規制され,現在ドイツにおいては建設中,計画中の原子力発電所は1基もない。
 連邦環境大臣は1991年2月原子力法を改正することを発表し,1992年7月,関係各省に改正案を送付した。この改正案は,①原子力エネルギーの利用促進を図る条項の削減②使用済燃料の再処理路線と直接処分路線の両立③最終処分場の民営化等を含んだ内容となっている。
 またこれに対して,社会民主党(SPD)が政権を握っているヘッセン州とニーダーザクセン州では1992年9月に独自の改正案を発表したが,この改正案は,連邦政府案より更に厳しい内容を含んでいる。さらに,エネルギー事業者も原子力法の改正に反対の姿勢を示しており,最終的な法改正に至るまでに調整が必要である。
 これらの状況を踏まえ,コール首相は1992年10月,「エネルギー事業者も連邦と州における政党代表者と対話を持つべきである」と提案し,政治的コンセンサス形成のための協議が1993年3月から1993年末にかけて実施されることとなった。ドイツでは,次回の総選挙が1994年に実施され,原子力法の改正案が成立するのはこの総選挙後にるるものと予想される。
 その他,中・東欧を除く欧州においてはスウェーデン(12基),スペイン(9基),ベルギー(7基),スイス(5基),フィンランド(4基)及びオランダ(2基)において,原子力発電所が運転中である。
 旧ソ運では,1993年6月末現在,42基,3,629万キロワットの原子力発電所が運転中である。旧ソ連で運転中の原子力発電所は,主としてソ連型加圧水型炉(VVER),黒鉛減速軽水冷却沸騰水型炉(RBMK)である。各国の内訳は,ロシア25基(そのうちVVER12基,RBMK11基,沸騰水型炉(BWR)1基及び高速増殖炉(FBR)1基),ウクライナ14基(そのうちVVER12基,RBMK2基),リトアニア2基(RBMK)及びカザフスタン1基(FBR)である。
 ロシアでは,1993年6月末現在,25基,2,026万キロワットの原子力発電所が稼働中である。1992年には,総発電電力量の約12%に当たる1,196億キロワット時を原子力発電で賄っている。1991年以降,新たに運転開始した原子力発電所はなかったが,1993年3月にバラコボ4号機(VVER-1000)が初臨界を達成し,本年秋の運転開始を目指している。
 ロシア政府は,1992年12月に2010年までの新規原子力発電所建設計画を承認した。本計画では,2000年までを安全性向上の段階と位置付け,既存原子力発電所の安全性改善,建設中プラシトの完成及び次世代原子力発電所の開発を重点的に進め,新規の原子力発電所を運転開始させることにより,2010年までに約2,000万キロワットの設備容量を増加させる予定である。また,極東への原子力発電所建設及び高速炉(BN-800)を4基建設する計画も含まれている。2000年以降は,安定的発展段階と位置付けており,次世代原子炉の建設,設備容量増大を目指している。
 中・東欧においては,ブルガリア,ハンガリー,チェコ及びスロバキアにおいてソ連型加圧水型炉が運転中であり,スロベニアにおいては米国製加圧水型軽水炉が運転中である。近年,旧ソ連,中・東欧諸国の原子力発電所の安全性への懸念が高まり,ソ連型加圧水型炉(VVER-440/230)の安全評価,安全性改善に関するプロジェクトがIAEAを中心に進められていた。欧州共同体委員会(CEC)の資金援助により,緊急的な改修(バックフィット)作業が進められていたブルガリアのコズロドイ2号機は1992年12月運転を再開した。
 アジアにおいては,韓国では,1993年6月末現在,9基,762万キロワットの原子力発電所が運転中であり,1992年には565億キロワット時を発電し,同国の総発電電力量の約43%を供給している。同国は,エネルギー資源に乏しく国際的なエネルギー情勢の不確実性に対処するためには,長期的に原子力主導の電源開発を引き続き推進すべきであるとしている。1993年には,月城3,4号機(CANDU炉,各70万キロワット)の建設が開始され,建設中のプラントは7基となった。
 台湾は,原子力発電所6基,514万キロワットの設備容量を有し,総発電電力量の約35%を賄っている。台湾では,近年の電力需要の増大に伴い新たな電源確保が急務となっている。7,8号機目に当たる龍門1,2号機の建設計画は,1986年より凍結されていたが,1991年から1992年にかけて台湾原子力委員会,行政院及び立法院が建設計画再開を承認した。2000年,2001年の運転開始が予定されている。
 インドでは,ナローラ2号機が1992年7月に運転を開始し,1993年6月末現在,9基,172万キロワットの原子力発電所が運転中であり,建設中が7基,計画中が6基ある。カクラパー1号機(CANDU炉,23.5万キロワット)は,1992年9月に臨界に達し,1993年5月に運転を開始した。
 中国は,深刻な電力不足から発電設備の増強に力を入れており,原子力発電にも積極的に取り組んでいる。現在,3基の原子力発電所を建設しており,このうち同国で最初の原子力発電所秦山1号機(PWR,30万キロワット)については,自主開発により建設が進められてきたが,1991年12月に初送電に成功し,1992年には10億キロワット時を発電した。現在試運転中であり,1994年には営業運転に入る予定である。
 また,建設中の広東1,2号機(PWR,各98.4万キロワット)は1993年から1994年にかけて送電を開始する予定である。
 現在建設中の3基に続き,秦山2,3号機及び広東3,4号機の計4基の建設が計画されている。
 インドネシアは,石油や石炭等のエネルギー資源に恵まれているが,石油については輸出商品として温存する必要性,石炭については地球環境問題からの制約等を考慮し,今後2015年までに700万キロワット程度の原子力発電所の建設を検討している。1991年よりジャワ島中部のムリア半島で立地に関する調査が開始されたが,1996年初めまでに調査作業を終了し,2003年に運転開始する方向で検討している。
 その他,南アフリカ共和国,アルゼンチン,メキシコ,ブラジル及びパキスタンの各国において原子力発電所が運転中である。

(2)世界の核燃料サイクルの状況

①ウラン濃縮
 経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)の統計等によると,1992年のOECD諸国のウラン濃縮設備容量は,米国が19,300トンSWU/年(ガス拡散法),フランスが10,800トンSWU/年(ガス拡散法),ドイツ,オランダ及び英国が2,750トンSWU/年(遠心分離法),日本が500トンSWU/年(遠心分離法)であり,合計33,350トンSWU/年である。OECD諸国以外では,旧ソ連が約14,000トンSWU/年(推定値,遠心分離法),中国が400トンSWU/年(ガス拡散法)の濃縮設備を有し,また,アルゼンチン,南アフリカ共和国にも小規模の試験施設がある。
1992年の需要は,OECD諸国が25,477トンSWU,旧ソ連が約4,000トンSWU(推定値)であり供給能力が需要を大幅に上回っており,この傾向は2000年以降も続くものと見られている。
 米国のウラン濃縮事業はエネルギー省(DOE)の所管であったが,1992年10月に成立したエネルギー政策法により公社化されることとなり,1993年7月に米国ウラン濃縮公社が発足した。濃縮業務に関する諸業務は基本的にすべて公社に移管され,DOEには公社との間のリース契約を管理する機能のみ残ることとなる。我が国の濃縮役務の大部分を委託している,ポーツマス,パデューカのガス拡散法による2工場も,引き続き公社がDOEよりリースして操業を継続する。研究開発中の原子レーザー法(AVLIS)等の代替濃縮技術はDOEの所管となっているが,AVLISについては開発権は公社のみが保有し,公社の依頼によりDOEが研究開発を継続することとなっている。なお,AVLIS等の代替濃縮技術の商業化については,公社が経済評価を準備することとなり,商業化が決定した場合は,民間資金を活用して行うことができるようになった。
 フランスでは,ユーロディフ社(フランス,イタリア,スペイン,ベルギー及びイランの合弁会社)が,トリカスタンにおいてガス拡散法による工場を操業しており,我が国の濃縮役務の一部を委託している。また,原子レーザー法を中心とする研究開発が進められている。
 英国,ドイツ,オランダでは,ウレンコ社(英国,ドイツ及びオランダの合弁会社)が,カーペンハースト(英国),グロナウ(ドイツ)において遠心分離法による濃縮工場を操業しており,アルメロ(オランダ)において遠心分離法による濃縮工場の建設・操業を行っている。

②再処理
 OECDの統計によると,現在OECD諸国の濃縮ウラン(軽水炉)及び天然ウラン(ガス炉)の再処理設備容量は,フランスが1,200トンU/年(濃縮ウラン),400トンU/年(天然ウラン),英国が1,500トンU/年(天然ウラン),日本が0.7トンU/日(濃縮ウラン)である。またOECD諸国以外では,旧ソ連が400トンU/年(濃縮ウラン)の設備を有している。
 米国は,カーター政権時の原子力政策により商業用再処理及びプルトニウム利用計画を中止した。そのためモーリス及びウェストバレーの再処理工場が各々1974年,1976年に操業を中止し,またバーンウェルの工場も1983年に建設計画を中止した。
 フラシスは,自国内で再処理を実施するとともに,海外がらの委託再処理も実施している。また,軽水炉でのプルトニウム利用,高速増殖炉の研究開発等,核燃料リサイクルを積極的に推進している。フランスの商業用再処理工場は,コジェマ社が所有し,マルクールとラ・アーグの2か所にある。
 マルクールでは,1958年以来天然ウラン燃料(ガス炉燃料)用のUPlが操業中である。
 ラ・アーグでは,1966年から天然ウラン燃料(ガス炉燃料)800トンU/年の処理能力を有するUP2の操業が開始され(1987年閉鎖),1976年には,UP2に処理能力400トンU/年の濃縮ウラン燃料(軽水炉燃料)用前処理施設(HAO)が付加され,1987年までは天然ウラン燃料と交互に再処理を行い,1987年以降は軽水炉燃料用の再処理工場(UP2-400)として操業され,現在に至っている。さらに,軽水炉燃料の処理能力を800トンU/年に増大させ,かつ将来的にはMOX燃料の再処理にも対応するため,前処理工場等の建設が行われている。
 完成すれば,UP2-800として稼動する予定である。通常燃料については1994年頃から,再処理を開始する予定であり,またウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料についても将来再処理を行う計画である。
 また,外国からの委託再処理を行うためラ・アーグに建設されたUP3(処理能力:軽水炉燃料800トンU/年)は,1989年11月に前処理工程を除いた部分の操業を開始し,1990年8月に全面的に操業を開始した。
 高速炉燃料再処理についてはマルクールにおいて,APM(TOR)と呼ばれる施設(5トン/年)が操業されている。
 英国も,自国内で再処理を実施するとともに,外国からの委託再処理も実施しており,軽水炉でのプルトニウム利用を図っていく方針である。
 英国の再処理工場は,英国核燃料公社(BNFL)が所有し,セラフィールドに天然ウラン燃料を再処理するため処理規模1,500トンU/年の工場が操業中である。我が国の軽水炉燃料の約半分及びガス炉燃料の再処理を委託している。また,セラフィールドにおいて,外国から委託再処理のため,1984年よりTHORP(処理能力:軽水炉燃料1,200トンU/年)の建設を進めていたが,1992年に建設を終了し,さらにホット試験の許可取得のため,汚染検査局により放出許可に関する公開審議が行われ,1993年1月に終了した。1993年6月,英国政府はTHORPの運転開始を判断するための公開審議を再度実施することを決定し,同年8月より第2回公開審議を開始し,10月に終了した。一方,同年9月,THORPにおける天然ウランを用いた試験が開始された。
 高速炉燃料の再処理については,ドーンレイにおいて既に7トン/年のPFRプラントが操業中である。
 ドイツは,再処理・プルトニウム利用の推進が基本であったがEC統合等の背景の下,英仏に再処理委託を行っていく方針に変更した。
 そのため,バイエルン州バッカースドルフにおいて,商業用再処理工場(WAW)の建設を進めていたが,1989年6月,WAWの建設計画の放棄を決めた。なお,実験プラント(WAK)については,WAW建設計画の放棄に伴い,1990年12月に操業を終了した。
 高速炉燃料の再処理については,カールスルーエにおいて,1キログラム/日の実験施設(MILH)が操業中である。

③MOX燃料加工
 MOX燃料は,ベルギー,フランス,ドイツ及び日本において製造が行われている。英国では,現在工場を建設中であり,1993年中に操業を開始する予定である。欧州各国とも新規施設を増設計画中であり,1993年から1997年にかけて順次操業を開始する予定で,世界のMOX燃料製造能力は2000年には400トンHM/年に達する予定である。
 ベルギーでは,デッセルにてベルゴニュークリア社が35トンHM/年の工場(PO)を操業中であり,同規模の新工場(Pl)を計画中である。
 フランスでは,カダラッシュにてコジェマ社が15トンHM/年の工場を操業中である。また,コジェマ社,フラマトム社が共同で,マルクールにおいて120トンHM/年の新工場(MELOX)を建設中であり,1995年に操業を開始する予定である。
 ドイツでは,シーメンス社が30トンHM/年のハナウ工場にて,沸騰水型軽水炉(BWR)及び加圧水型軽水炉(PWR)向けのMOX燃料を製造してきた。さらに120トンHM/年の新工場を建設中であるが,MOX工場に対して発給された許可が無効であるとの訴訟が行われているため,その操業目途は立っていない。
 英国では,英国原子力公社(UKAEA)及び英国原子燃料会社(B NFL)がセラフィールドにおいて8トンHM/年の工場を建設中であり,1993年中に操業を開始する予定である。また,BNFLは120トンHM/年のセラフィールドMOXプラント (SMP)の建設を提案しており,その操業開始は1997年に予定されている。

④放射性廃棄物処理処分
 使用済燃料の処理処分についての各国の政策は,使用済燃料を直接処分するワンス・スルーと,使用済燃料を再処理し分離されたプルトニウムとウランを軽水炉,高速増殖炉等で再利用する核燃料リサイクルの2つに大別できる。
 米国では,商業用原子力発電所からの使用済燃料は,一定期間貯蔵したのち地層処分することが考えられている。1982年核廃棄物政策法(1987年12月一部修正)では,米国における高レベル放射性廃棄物対策の基本枠組みが示されており,DOEは,2010年の地層処分開始を目標としたネバダ州ユッカマウンテンにおけるサイト特性調査を実施している。DOE関係施設の高レベル廃液については,ガラス固化し,貯蔵した後,地層処分する計画である。
 商業用原子力発電所からの低レベル放射性廃棄物は,バーンウェル,リッチランド及びビィティの3つの民間の処分施設において陸地処分が行われている。
 フランスでは,使用済燃料を再処理し,高レベル廃液はガラス固化し貯蔵した後,地層処分する計画である。
 マルクールにおいて,1978年よりガラス固化体を製造し貯蔵している。また,ラ・アーグでは,実用規模の固化プラントが完成し,1989年より操業を開始している。
1992年1月に長寿命核種の核種分離・消滅処理,地下研究施設における地層処分等の研究開発を今後15年間にわたり推進するという内容を盛り込んだ,放射性廃棄物管理研究法が新たに制定された。
 低レベル放射性廃棄物は,1969年よりラ・マンシュ貯蔵センターで陸地処分を実施している。これに次ぐ第2処分場として,オーブ貯蔵センターが1992年に運転を開始した。
 英国では,使用済燃料を再処理し,高レベル廃液は,ガラス固化して,貯蔵した後,地層処分する方針であり,セラフィールドにおいてガラス固化施設を操業中である。
 低レベル放射性廃棄物は,ドリッグ処分場にて陸地処分を行っているほか,海洋処分の実績も有している。また,1991年7月,低・中レベル放射性廃棄物の処分場候補地としてセラフィールドを決定した。
 ドイツでは,高レベル廃液のガラス固化体は,貯蔵した後,ゴアレーベン(岩塩抗)に地層処分する計画である。ベルギーと共同でプラントを操業していたガラス固化施設は,目的の研究を完了したため,1991年9月に操業を終了した。なお,直接処分のための技術開発も並行して行われている。
 ドイツでは,原子力法により再処理・プルトニウム利用が義務付けられているが,1992年7月に連邦環境大臣より提案された原子力法改正案には,使用済燃料の再処理路線と直接処分路線の両立が含まれている。原子力法の改正は1994年の総選挙後になるものと予想される。
 低レベル放射性廃棄物については,アッセ(岩塩坑)において1967年から1978年まで陸地処分を実施した。低・中レベル廃棄物についてコンラッドを新処分場として現在許認可審査中である。また,旧東独のモスレーベン低レベル放射性廃棄物を,ドイツ統合後も引き継いで操業中である。
 スイスでは,使用済燃料は,すべて外国で再処理し,返還されるガラス固化体を国内で地層処分する計画である。処分のための研究は南アルプスのグリムゼル岩盤研究所で進めている。
 低・中レベル放射性廃棄物については,4か所の処分場候補地が選定され,現在,調査が進められている。
 スウェーデンでは,使用済燃料は地下貯蔵施設において40年間程度貯蔵した後に地層処分する計画であり,低レベル放射性廃棄物はSFRと呼ばれる沖合海底下岩洞内処分場に処分することとし,1988年より操業を開始している。
 ベルギーでは,使用済燃料はフランスに再処理を委託し,その返還ガラス固化体を国内で地層処分する計画である。
 放射性廃棄物の処理処分の研究開発については,モル原子力研究センター (SCK/CEN)を中心に行われている。


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