2.原子力委員会の決定等

(4)専門部会等報告書

核融合会議報告書
「核融合研究開発の推進について」

1992年5月18日
原子力委員会
 核融合会議

まえがき
 世界の核融合研究開発は,この約20年間に炉心プラズマ技術及び炉工学技術の両分野において大きな進展を遂げている。今日までに,大型トカマク型装置であるTFTR(米国),JET(EC)及びJT-60(日本原子力研究所)により,高いプラズマ性能が実現されており,その温度,密度及び閉じ込め時間は,核融合の実用化の前提となる臨界プラズマ条件の至近領域に到達している。また,超電導コイル,加熱・電流駆動装置等の炉工学技術の研究開発においても,広範な分野の先端技術,極限技術の結集により,著しい進展が図られている。
 一方,日本,米国,EC及びソ連(当時)の4極間の国際協力により,1988年から核融合炉の科学的・技術的な可能性を実証するための実験炉を開発することを目的として,国際熱核融合実験炉(ITER)の概念設計活動が実施された。本活動は,各国において得られた研究開発の成果の集大成にも大きく貢献し,1990年末に成功裡に終了した。これを受けて,本年から6年間にわたり,工学設計活動が実施される予定である。
 我が国の核融合研究開発の歴史を振り返ると,昭和50年7月,原子力委員会が策定した「第二段階核融合研究開発基本計画」の下で研究開発が進められてきた。以来約17年間にわたる各研究機関の精力的な努力の結果,JT-60により原子力委員会が定めた目標に到達するなど,第二段階計画の主要な目標がほぼ達成され,我が国の核融合研究開発は,新たな段階に移行するに十分な科学的・技術的基盤をほぼ確立したと判断される。
 今後の核融合の実用化を目指した研究開発においては,研究開発規模がますます拡大する傾向にあり,これに伴って開発リスク及び所要の人材及び資金の規模が,従来以上に大きなものとなることが予想される。これらを最小限にとどめつつ,効果的,効率的に研究開発を進めるためには,十分な科学的・技術的見通しに基づき,研究開発の目標を明確化することが必要である。
 また,我が国が国際社会に積極的に貢献を果たすことが要請されている今日。
 国際協力にも一層主体的に取り組むことが求められている。
 このように,核融合研究開発が大きな転換期を迎えていることを踏まえ,核融合会議では,平成3年9月,核融合研究開発基本問題検討分科会を設置し,長期的な観点から,今後の研究開発の基本的方向及びその進め方について検討を行ってきた。この報告書は,同分科会での調査審議に基づき,これまでに得られた主要な核融合研究開発の成果を総覧するとともに,今後の研究開発の基本的な進め方及び今後実施すべき研究開発の内容について核融合会議としてとりまとめたものである。本報告書が,我が国が積極的に核融合研究開発に取り組むに当たっての指針としての役割を果たすことを期待する。

第I章 核融合研究開発の意義
 エネルギーは文明社会を維持し,発展させるための原動力となるものである。エネルギーの安定供給を確保することにより,人類は,経済を持続的に発展させ,豊かな国民生活を実現することが可能となる。近年,エネルギー需給は緩和基調で推移してきている。しかし,長期的にみると,世界のエネルギー需給は逼迫化に向かい,その結果として,エネルギー供給の不安定性の増大,エネルギー価格の上昇が懸念されている。
 このようなエネルギーを取り巻く環境の中で,脆弱なエネルギー供給構造を有する我が国にとって,エネルギーの安定供給を確保することは喫緊の課題である。
 核融合は,原理的に高い安全性を有すること,地球環境問題の原因となる物質を排出しないこと,豊富なエネルギー源となり得ることなど多くの長所を有しており,これが実用化された場合,世界のエネルギー問題の解決に大きく貢献するものと期待されている。
 昨今,我が国の国際社会における地位向上とともに,我が国の国際貢献が強く求められるようになってきている。特に基礎研究分野における貢献を求める声が高まってきている。世界の核融合研究開発の第一線に位置している我が国は,この研究開発を通じで国際社会に基礎研究分野での大きな貢献をなし得るものと考えられる。

1.エネルギー需給の長期的動向
 近年,世界のエネルギー需給は緩和基調で推移してきている。しかし,当面の需給緩和にもかかわらず,長期的には世界のエネルギー需給は再び逼迫化に向かう可能性が高いと考えられる。
 先ず,世界のエネルギー需要を見ると,経済成長や人口増加等によって緩やかに増加していくものと見込まれている。特に,発展途上国の需要の伸びは,先進国のそれを大きく上回るものと考えられる。ちなみに,世界及び発展途上国のエネルギー需要は,経済協力開発機構の予測によれば,それぞれ2005年には1989年時点の約1.5倍,約1.9倍程度に増加するとされている。
 エネルギーの供給面に目を転じると,現在一次エネルギー供給の約6割を占める石油については,現在の石油消費レベルが持続されるならば21世紀中葉までには供給能力の低下が不可避と予想されていること,今後の石油探査対象地域は技術的・経済的条件が劣る地域に移っていかざるを得ないこと,上記2点は石油の価格を上昇させる要因になると考えられること,非中東産油国の石油生産量の減少に伴い中東産油国への依存度上昇が予想されており,これが石油供給の不安定性を増加させることが懸念されることなどから,中長期的には供給制約等の問題が顕在化すると考えられている。
 天然ガスについては,石油に比し,未発見埋蔵量の比率が高いため,その可採埋蔵量については諸説あるが,やはり21世紀中葉には石油と同様に供給制約等の問題が顕在化する可能性が高いと考えられている。石炭は石油,天然ガスと比較すると資源量が多く数百年間の供給が可能と見込まれている。
 他方,近年化石エネルギーの大量消費による地球環境への影響に対する懸念が高まっている。このため,地球環境に配慮したエネルギー供給が強く求められており,この観点から化石エネルギーの大量消費に対する障害となる要因が次第に増大すると懸念されている。
 以上のように,エネルギーの需給は長期的には逼迫化に向かい,その結果としてエネルギー価格が上昇することが懸念される。このため,世界各国は,省エネルギーを促進するとともに,環境への負担の小さい,安価で豊富なエネルギー供給源の開発を進めるなど,エネルギーのベストミックスを目指した方策を講ずることが求められている。 我が国は,一次エネルギーの約8割を輸入に依存している。また,主要なエネルギー源である石油は中東産油国にその多くを依存しており,その供給構造は極めて脆弱である。このため,エネルギーの有効利用をより一層進めるとともに,石油代替エネルギーの開発・導入を促進し,エネルギーの安定供給を確保することが我が国にとっては一層重要である。さらに,先進国の一員としで,世界の将来のエネルギー源を開発し,もって人類のエネルギーの安定供給に貢献することが強く期待されるところである。
 核融合は,次節で述べるようにエネルギー源として,多くの特長を有しており,これが実用化された場合,世界のエネルギー問題の解決に太きく貢献することができるものと期待されている。

2.核融合のエネルギー源としての特徴及び実現性
 核融合をエネルギー源として利用するための核融合炉は,原理上高い安全性を有しているとともに,地球環境問題の要因となる炭酸ガス等の物質を排出しないなどの優れた特長を有している。また,核融合炉に必要な燃料・材料資源は地球上に広く豊富に存在し,これを長期にわたり安定的に確保することが可能と見込まれる。また,核融合炉は,今後の研究開発等によりその経済性を一層高めることができ,他のエネルギー源と比較して十分な競争力を有するレベルに到達し得るものと期待されている。このように,核融合は,安全性,環境保全性,供給安定性等の観点を総合すると,極めて優れたエネルギー源になり得る豊かな可能性を有していると言える。
(1)安全性
 核融合炉では,燃料を常時反応領域の外から供給しており,ある瞬間に反応領域に存在する燃料の総量は極めてわずかである。従って,万一異常が発生した場合においても,燃料の供給を停止することにより,核融合反応を速やかに停止することができる。しかも,制御が不可能となるような反応促進の機構(正のフィードバック)が存在しないことから,核融合炉は原理上高い固有の安全性を有していると言える。
 また,核融合炉で原・燃料として用いられる重水素とリチウムは,ともに非放射性物質であり,かつ,化学的毒性を持たない。また,核融合反応によって直接生成されるものは中性子及び非放射性のヘリウムのみである。中性子については,遮蔽を適切に行うことによって,従事者及び周辺公衆への放射線による影響を極めて小さいものとすることが可能である。
 核融合炉において使用又は発生するもののうち,中性子以外で放射線障害防止の観点から配慮を要するものは,中間生成物であるトリチウムと中性子による放射化生成物である。これらのうち,放射性物質であって,かつ,揮発性のものはトリチウム以外にはごくわずかな量しか存在しない。また中性子よる放射化生成物は,そのほとんどが強固な構造材料中に閉じ込められ,移動・拡散が起こりにくい状態にあるのが特徴である。さらに,長寿命核種を含むものや高レベルの放射性廃棄物の生成につながる物質の発生もごくわずかである。従って,核融合炉において,トリチウム及び移動性の放射化生成物以外の放射性物質に起因する従事者及び周辺公衆への放射線の影響は極めて小さいものと評価されている。
 トリチウムは,トレーサー等に広く利用されており,比較的安全なアイソトープである。しかし,核融合炉内に保有されるトリチウムは,数kgの量と予想されている。このように,核融合炉では,扱う量が多量であるので,通常運転時,異常発生時のいかんを問わず,その漏洩・拡散を防止することが需要であり,このための十分な対策を講ずることが必要である。具体的には,核融合炉内のトリチウムの保有量を極力低減するとともに,多重・多分割格納等の対策を講じることにより,その漏洩・拡散のリスクを低減し,トリチウム使用に伴う放射線影響を小さいものとすることが可能であると考えられる。さらに,将来重水素・重水素,重水素・ヘリウム-3,水素-ほう素等の核融合反応を用いた核融合炉が実用化されれば,トリチウムについて考慮する必要性は重水素・三重水素を用いる場合に比べて格段に低下または皆無となる。
 また,中性子による放射化生成物のうち,わずがではあるが放射化ダスト,冷却材中の腐食生成物等の移動性のものが発生するので,その閉じ込め・捕集のための対策を講じることが必要である。さらに,低放射化材料の開発・導入を積極的に進めることにより,放射化レベルの低減を図るとともに,放射化レベルが極めて低い大型構造物についての合理的な処理・処分の方策を確立することも重要である。
 これらの対策を講じることにより,トリチウム,放射化生成物等についても,その放射線による影響を一層低減し,核融合炉の安全性を更に高めることが可能であると判断される。
 このように,核融合炉は高い固有の安全性を有している。トリチウム,放射化生成物等についても適切な対策を講じることにより,これらに起因する放射線影響を十分に低減することが可能であり,核融合炉は安全確保の観点から極めて優れたエネルギー源になると期待される。
(2)環境保全性
 核融合炉は,原子力発電と同様,発電の過程において地球温暖化,酸性雨等の地球環境問題の原因物質と言われる二酸化炭素,窒素酸化物等を排出しないことから,地球環境の保護の面からも重要な役割を果たすと期待されている。今後,地球環境問題への関心が高まり,地球環境に及ぼす影響がより小さいエネルギー源を希求する世論が更に高まるに伴い,核融合への期待が,ますます高まるものと考えられる。
(3)燃料・材料の資源量及び供給安定性
 重水素・三重水素反応を用いた核融合炉の運転を行うためには,原・燃料である重水素及びリチウム所要量だけ確保する必要がある。このうち重水素については,現状においても年間トンの桁の生産能力を有する重水素製造設備が存在し,これにより核融合炉の運転に必要な重水素を供給することが可能である。また,リチウムについては,核融合炉が多数建設された場合に必要となる供給量を数百年程度の期間にわたり賄うために十分な埋蔵資源が確認されている。さらに重水素,リチウムは,いずれも海水中にほぼ無尽蔵(海水中濃度で,重水素33ppm,リチウム0.17ppm)に存在しており,これらを海水から抽出する技術を実用化することにより,核融合炉の運転に必要とされる量をほぼ恒久的に賄うに十分な供給量を確保することが可能となる。さらに,海水からの抽出の可能性は,原・燃料資源に偏在性がないという特長を意味していると言える。また,トリチウムについては,核融合炉への初期装荷量(数kg/基と見積もられている。)さえ確保されれば,トリチウムの増殖を可能とするブランケットに係る技術の確立により,以後のトリチウム供給を外部に依存することなく核融合炉の運転を継続することが可能となる。さらに将来,重水素・重水素反応を用いた核融合炉が実用化されれば,トリチウムの初期装荷も不要となり,ほぼ無尽蔵の燃料を利用することができることになる。
 一方,核融合炉の建設・運転には,超電導コイルの素材として使用されるニオブ,冷媒として使用されるヘリウム,ブランケットの中性子増倍材に使用されるベリリウム等の希少資源が必要とされる。このうち,ニオブ及びヘリウムについては需要量に対して十分な供給量を容易に確保することが可能と予測されている。ベリリウムについては,将来核融合炉が多数建設された場合,これによる需要量が,現時点における他の用途の総需要量を上回ると見込まれる。しかしながら,資源の有効利用や鉛等の他の中性子増倍材の導入により,今後のベリリウム需要を抑制することができるので,ベリリウムの供給が核融合炉を実現する上で障害となることはないと考えられる。
 このように核融合炉に必要な燃料・材料資源は,ごく一部の希少資源を除き豊富に存在し,さらに重水素及びリチウムの海水からの回収技術の実用化,ベリリウム等の希少資源の有効利用や代替等を進めることにより,これらの資源の長期にわたる安定な確保が可能と見込まれる。
(4)経済性
 核融合炉の経済性については,今後実用化に至るまでの長期間にわたる着実な研究開発により,大幅な技術の進展が見込まれることから,現段階においてその詳細を評価することは困難である。しかしながら,日本原子力研究所(以下「原研」という。)において,最近の核融合研究開発の成果を基礎とし,実現性の高いと思われる技術内容を極力盛り込み,実用一号炉を想定した試算がなされている。その他,米国の実用炉を想定したARIESに関する試算等も実施されている。これらによれば,核融合炉の経済性は他の電力源のそれに比肩し得るレベルに到達できると見積もられている。また,核融合炉は,その発電原価に占める操業費,燃料費等の変動経費の割合が低いことから,設備利用率の高い基幹負荷(ベースロード)電力源として用いることが最も経済的に有利と考えられている。
 さらに,核融合炉の経済性は,以下のような改善・合理化を図ることにより,今後これを相当程度向上させ,将来エネルギー源として十分な競争力を有するレベルに到達し得るものと期待される。
・設計の合理化による建設費の低減
・装置の製作・建設に係る習熟効果,製造技術の進歩等による建設費の低減
・ブランケット技術の進歩等による原・燃料費の低減
・エネルギー増倍率の向上,大出力化等によるプラント・エネルギー効率の向上

3.先端技術,極限技術の創出と他分野への波及効果
 核融合の研究開発は,1億K以上の高温プラズマを安定に閉じ込め,核融合反応エネルギーを取り出して発電,水素製造等の熱利用,さらに各種の中性子利用の実現を目指している。その実現のためには,炉心プラズマ技術の研究開発と炉工学技術のそれとが車の両輪となって,相互に発展を促しながら進歩する必要がある。その過程において,超電導磁石技術,高真空技術,耐熱・耐放射線材料技術,高出力粒子ビーム技術,高出力電磁波技術,大電力制御技術,高出力電子ビーム溶接技術等の広範な分野の先端技術,極限技術が大規模な核融合実験装置の建設・運転のために開発・投入されてきた。
 今後も次期装置である核融合実験炉の開発を目指して,従来を上回る技術が開発されようとしている。
 これらの先端技術の開発には,産・学・官の広い研究開発分野にわたる連携と協力が不可欠である。特に,産業界は,これまでにも核融合関連の研究開発に積極的に参加し,その最高度の技術の粋を結集するとともに,新たに開発された技術を他分野に広く波及させることに成功している。その結果として,核融合において開発された先端的あるいは極限的技術の多くは,核融合以外の幅広い技術分野に波及し応用されて,リニア・モーター・カーによる高速輸送,大電流イオン源あるいはプラズマ・プロセス技術を利用した半導体製造,フライホイール発電機等の大電力機器,真空容器等大型構造物製作,その他の分野の技術革新を誘起し加速してきた。
 今後とも,核融合の研究開発は,多くの分野の技術開発を先導する役割を果たしていくものと期待される。

4.新しい学問分野の開拓と人材養成等
 核融合は人類がこれまでに実現できなかった高温のプラズマ状態を作り出し,そのふるまいを研究することにより,新しい学問の分野を開きつつある。
 例えば,磁場閉じ込め核融合研究開発においては,核融合プラズマは非線形物理学の研究対象の宝庫とされ,磁場とプラズマの相互作用の研究は,宇宙プラズマの挙動の理解にも貢献している。また,慣性閉じ込め核融合研究開発においては,電磁波とプラズマの相互作用が新しい物理研究の分野を産み出している。一方,炉工学においても,従来の工学体系にみられない複合環境下での材料・構造に関する研究や超電導現象・技術等の分野において著しい進展が見られ,これらの新しい工学分野の確立に貢献してきた。
 このように,核融合は,基礎研究の対象としても極めて魅力ある分野を提供することができる。このため,核融合は,エネルギー開発にとどまらず,新しい学問分野の発展に寄与しつつ,若く,優れた人材を数多く引き寄せ,その活躍の場を提供してきており,今後ともその役割が期待される。
 昨今,我が国の国際社会における地位向上とともに,我が国の国際貢献が強く求められるようになってきている。特に基礎研究分野での貢献を求める声が高まってきている。我が国は,核融合研究開発にその黎明期から積極的に取り組んできており,その研究開発の水準は世界のトップレベルに達している。その間に研究あるいは技術の基盤や経験,さらには優れた人材を培ってきた。この基盤等を活用した核融合分野における研究開発を通じ,国際社会に広く貢献し得るものと考えられる。

 第II章 核融合研究開発の現状
 世界の核融合研究開発は,この約20年間において,大きな進展を遂げた。
 いくつかの具体例を挙げると,大型のトカマク型装置であるTFTR(米国),JET(EC)及びJT-60(原研)(以下,この3装置を総称して,「三大トカマク型装置」という。)によりプラズマの温度,密度及び閉じ込め時間が臨界プラズマ条件に近づくなど,高温かつ高密度のプラズマの生成・制御技術に大きな進展を見た。さらに,JT-60等による非誘導電流駆動の研究開発が進展し,定常炉心プラズマ実現へ向けての今後の研究開発を展望できるようになった。ヘリカル型,逆磁場ピンチ型,ミラー型等のトカマク型以外の磁場閉じ込め方式においても,プラズマ生成・制御技術の研究開発が進展し,プラズマ性能(温度,密度,閉じ込め時間等)の向上が見られた。
 これらの成果を踏まえ,我が国において大型ヘリカル装置の建設が開始された。また,慣性閉じ込め方式においても,爆縮の研究が進み,点火及び高利得プラズマの実現に向けての研究開発を展望できるようになった。また,プラズマ諸現象の理論及び計算機シミュレーションによる解明においても著しい成果を上げた。
 炉工学技術においても,超電導コイル,加熱・電流駆動装置等の研究開発に著しい進展が見られた。プラズマ対向機器及びブランケットの開発に不可欠な知見や構造材料の中性子照射損傷に関する体系的データが蓄積された。
 また,核融合炉の安全性及び経済性に関する研究が開始され,核融合炉が高い社会的受容性を有し,他のエネルギー源と競合し得る可能性を有していることを確認する結果が出始めている。
 IAEAの後援の下に,日本,米国,EC及びソ連(当時)の4極が参加して行われた国際熱核融合実験炉(以下「ITER」という。)の概念設計,我が国が独自に行った核融合実験炉(以下「FER」という。)の概念設計等に,上記の炉心プラズマ技術及び炉工学技術に関する成果が活用され,核融合研究開発の次の段階において中核となる装置(以下「次期中核装置」という。)の概念が固まってきた。
 我が国の核融合研究開発は,臨界プラズマ条件の接待を主たる目標として,原子力委員会が昭和50年7月に策定した第二段階核融合研究開発基本計画(以下「第二段階計画」という。)の下で進められてきた。第二段階計画の炉心プラズマ技術に関する主な研究開発の目標は,温度が数千万Kから1億K程度,プラズマ密度と閉じ込め時間の積が(2~6)×1019m-3・秒程度のプラズマを実現することであった。
 第二段階計画の中核装置として原研にJT-60が建設され,同装置により温度が5000万K,密度1.7×1020m-3,密度と閉じ込め時間の積が2.3×1019cm-3 ・秒の水素プラズマを実現し,原子力委員会が定めた目標を達成するなど十分な成果を上げた。さらに,JFT-2M(原研)等の他のトカマク型装置,電子技術総合研究所(以下「電総研」という。)の逆磁場ピンチ型装置,また,大学のトカマク型以外の装置を含む広範囲な実験装置により多様な研究開発が行われ,炉心プラズマ技術が進展した。炉工学技術についても,超電導コイル等の研究開発を始めとして,広範な分野での研究開発が進展した。
 このように,我が国は第二段階計画の目標を大略達成し,次段階の核融合研究開発を具体的に実施するに十分な科学的・技術的基盤をほぼ確立したと判断されている。

1.炉心プラズマ技術の研究開発
1. 1 トカマク型装置による炉心プラズマ技術の研究開発
(1)プラズマ閉じ込め
 三大トカマク型装置はトップ・データ取得をねらう研究開発を担ってきた。これだけでは不十分なプラズマ諸現象の物理的解明を行ういわば補完的な研究開発及び三大トカマク型装置等の中核装置に採り入れる前により小規模な実験で新規構想を確認するための先進的な研究開発が,中小型のトカマク型装置であるJFT-2MDIII(日米協力により我が国も建設及び実験に参加),ASDEX(EC)等により実施された。これら三大トカマク型装置による研究開発及び補完的・先進的研究開発の有機的連携により,炉心プラズマ技術に大幅な進展が見られた。特に,Hモード等の高性能閉じ込めモードが発見され,また,その発生機構の解明が実験的・理論的に進展した。
 その結果,三大トカマク型装置により得られるプラズマの温度,密度及び閉じ込め時間が第II-1図に示すとおり,臨界プラズマ条件の至近領域に到達した。さらに,ITER等の次期中核装置において想定されているプラズマ性能を実現する上で有力と考えられているHモード・プラズマを長時間維持するためのプラズマ制御技術に関する知見が得られつつある。
 世界の4極が参加して行われたITERの概念設計活動の一環として,世界各国のトカマク型装置を用いて取得されたプラズマ閉じ込めに関するデータが集積・評価され,この結果を用いてトカマク型装置に関する新しいプラズマ閉じ込め比例則が構築された。これにより,次期中核装置のプラズマ性能を予測する確度が大幅に向上した。
 また,最近JETにおいて,磁場閉じ込め方式では世界で初めて重水素と三重水素を用いた燃焼実験が行われ,メガワット級の核融合出力が実際に得られた。
(2)ダイバータによる不純物制御
 ダイバータはJFT-2a(原研)にトカマク型装置として初めて導入され,不純物量の制御に有効であることが実証された。その後,このダイバータは,JT-60等の大型トカマク型装置に取り入れられ,Hモードの実現等プラズマ性能の向上に大きな役割を果たした。また,日米が協力して世界に先駆けて開発に着手し,DIIIにおいてその機能が検証されたオープン・ダイバータ方式は,JETにも導入され,高いプラズマ性能を得る原動力の一つになった。さらに,この方式はITERの概念設計にも採用された。
 JT-60のLモード・プラズマにおいて,高加熱入力下でのダイバータ板付近の放射損失(遠隔放射冷却)及びセパラトリックス掃引により,ダイバータ板への熱負荷を軽減できること,核融合炉での燃料である重水素及び三重水素の密度の低下を防ぐために必要なプラズマ内部からのヘリウム排出がダイバータにより有効に行われ得ることが各々実証された。
 次期中核装置のプラズマ性能を実現する上で有力と考えられているHモード・プラズマにおいて,ダイバータ板熱負荷並びに重水素及び三重水素の密度の制御を実現することが今後の重点課題である。
(3)電流駆動
 ダイバータによる不純物制御技術の研究開発とともに,我が国がいち早く着手し,世界の研究開発を先導してきた分野として,電流駆動技術の研究開発が挙げられる。
 中小型トカマク型装置であるJFT-2 (原研),WT-2(京都大学)等により電流駆動技術が進展した。その後,JT-60により,低域混成波帯高周波を用い2MAのプラズマ電流駆動が実現された。さらに,この方法による電流駆動効率の向上も図られ,その値はITERの設計下限値の70%に達した((第II-2図))。
 トカマク型装置の長時間運転を実証するため,TRIAM-IM(九州大学),TORE-SUPRA(EC)等,超電導コイルを用いたトカマク型装置が建設された。TRIAM-1Mにおいては,低域混成波帯高周波を用いた電流駆動により1時間に及ぶ長時間のプラズマの生成・維持が実現されるに至った。
 プラズマ中に自然に流れる自発電流(ブートストラップ電流)を有効に利用することにより,プラズマ電流を効率よく駆動することができる。TFT Rにより存在が確認された自発電流は,その後JET,JT-60によっても確認された。さらに,JT-60によりプラズマ電流の80%を自発電流が占めるプラズマが実現された。これらの成果は,トカマク型装置の高効率化につながるものである。
 このように,トカマク型装置を定常核融合炉へと発展させる上で不可欠な電流駆動技術の研究開発が大幅に進展した。
(4)運転領域及びディスラプション制御
 JT-60により,村上係数と安全係数(q値)とで表わされる運転領域が拡大され,ITERの概念設計で想定されている標準運転領域に達した。
 また,DIII-Dにより11%のベータ値が達成されるとともに,PBX-M(米国)により高ベータ・プラズマを得るためのプラズマ制御法についての知見が得られた。
 JT-60により,プラズマ電流が3.2MA以下,安全係数が2.2以上の条件で行われた実験で,ディスラプションの発生原因と,ダイバータ板への入熱量が明らかにされた。また,DIII-Dにより,高ベータ領域でのディスラプションの発生条件が調べられた。
 ディスラプション発生の頻度を低減,あるいはこれを回避し,トカマク型装置の健全性を確保するため,多くのトカマク型装置によりディスラプション制御に関する研究開発が行われた。DITE(EC),JFT-2M,TORIUT(東京大学)及び核融合科学研究所(以下「核科研」という。)のJIPP-TIIUによる研究開発では,真空容器外に設置したコイルを用いて,また,WT-2による研究開発では高周波を用いて,各々デイスラプションの制御が可能であることが示された。
1.2 トカマク型以外の装置による炉心プラズマ技術の研究開発
(1)ヘリカル型装置
 ヘリオトロンーE(京都大学)により,プラズマ閉じ込め研究の進展が図られるとともに,誘導プラズマ電流を流さない状態でプラズマの生成・維持が実現したこと,大規模ディスラプションの発生がないことなどの成果を得た。W7-AS(EC)において,第一壁に黒鉛を用いて,プラズマ中の不純物を低減し,30ミリ秒の閉じ込め時間を得た。ATF(米国)において,プラズマ周辺部の不整磁場を修正することにより,同程度の閉じ込め時間を得た。
 CHS(核科研)によりヘリカル型の小型化(アスペクト比5)への展望を開いた。CHS及びW7-A(EC)により,プラズマ中の電場がプラズマ性能に及ぼす影響について研究され,その成果はトカマク型装置におけるプラズマ閉じ込め研究の進展にも寄与した。
 プラズマ性能の向上及び定常運転の実証を目標として,核科研に,ヘリカル方式に超電導コイルを用いた大型ヘリカル装置LHDが建設されつつある。
(2)逆磁場ピンチ型装置
 TPE-IRM15(電総研)により,電子温度1000万Kが得られるとともに,ベータ値10%が達成された。また,ZT-40(米国)及びHBTX(英国)によりイオン温度1200万Kが得られ,OHTE(米国)によりベータ値30%が達成された。MST(米国)により,閉じ込め時間1ミリ秒が実現された。REPUTE-1(東京大学)によりプラズマ表面の安全係数が1以下の運転の研究が行われ,プラズマ閉じ込めについての理解が進んだ。
 また,大型装置であるRFX(EC)が稼働を開始した。
(3)ミラー型装置
 ダンデム・ミラー型装置であるGAMMA10(筑波大学)及びTMX―U(米国)によって,熱バリアを形成することで閉じ込め電位を効率的に高め,プラズマ性能を改善することに成功した。特に,GAMMA10において,最大1.7kVの閉じ込め電位が形成されるとともに,閉じ込め電位の向上に伴い閉じ込め時間が伸び,中央ミラー部の電子密度1.1×1019m-3,電子温度 290万K,磁場と垂直方向のイオン温度6500万Kが達成された。
(4)コンパクト・トーラス型装置
 スフェロマック型装置では,S-1(米国)によるプラズマの圧縮,TS―3(東京大学)によるプラズマの重合,SPAC(旧名古屋大学プラズマ研究所)及びCTX(米国)によるプラズマの移動等の実験が行われるとともに,逆転磁界配位型装置では,PIACE-3(大阪大学)及びNUCT E-3(日本大学)によるプラズマの安定化等の実験が行われ,コンパクト・トーラス型装置におけるプラズマの制御に関する理解が進んだ。また,コンパクト・トーラス型装置で生成したリング状のプラズマをトカマク型装置におけるプラズマの燃料として高速で入射することが提案され,小規模の実験が行われている。
(5)慣性閉じ込め装置
 激光XII(大阪大学)による爆縮実験において,レーザー光をペレットに均一に照射する技術,均質なペレットを製作する技術等が進展し,分子中の水素を重水素と三重水素で置換したポリエチレン製のペレットを用いて,初期固体密度の600倍(600g/cm3)のプラズマが実現された。この実験での密度と閉じ込め時間の積は1021m-3・秒に達した。NOVA(米国)及びO MEGA(米国)による爆縮実験において,密度と閉じ込め時間の積3×1020m-3 ・秒が達成された((第II-3図))。これらの実験を通じて爆縮過程の理論と実験の比較が進み,高温・高密度の爆縮による点火プラズマを実現するための方法が確立されつつある。点火及び高利得プラズマの実現を目指し,NOVAの増力が決定された。
1.3  プラズマ制御・計測
 電子計算機の演算速度の向上により,ポロイダル磁場コイル電流を調節することによるプラズマ電流,プラズマの位置及び形状の帰還制御の高速化が進んだ。JT-60及びDIII-Dにおいて,セパラトリックス掃引によりダイバータ板への熱負荷軽減できることが実証され,これらの成果はITERの概念設計に活用された。
 プラズマ計測技術では,多くの新しい計測法が開発され,プラズマ諸現象の解明に大きく寄与した。中性子照射環境下での計測法について検討が進むとともに,中性子,ガンマ線による検出器等の特性の変化が調べられ,その結果はITERの概念設計に活用された。
1.4  理論研究
 理論研究及びこれらの成果を取り入れた計算機実験(シミュレーション)を通じて,プラズマ諸現象の理論的解明に著しい進展が見られた。
 プラズマ閉じ込めに関する研究については,プラズマ中の種々の不安定性やプラズマ周辺部の電場がプラズマ性能に与える影響についての解明が進んだ。
 プラズマの加熱及び核融合反応によって発生する高エネルギー・イオンの閉じ込めに関する研究が進展し,これらの結果に基づき,炉心プラズマにおける高エネルギー・アルファ粒子の閉じ込めを予測する研究が行われた。
 加熱・電流駆動に関する研究が進展し,これらの成果が効率の高い加熱・電流駆動法の開発に用いられた。
 ディスラプション発生機構の磁気流体理論に基づく解明が進展するとともに,ベータ値限界を理論的に予測し,更に向上させることが可能となりつつある。
 これらの研究の成果は,ITERの概念設計に活用された。

2.炉工学技術の研究開発
(1)装置システム解析
 ITER, FER等の概念設計の一環として,トカマク型装置の設計を行う各種のコードが開発され,プラズマ性能,真空容器内構造及びコイル・システム等が相互に整合性の取れた炉の規模及びその炉における最適な密度,温度及び燃焼時間等で規定される運転領域が短時間で得られるようになった。
(2)超電導コイル
 トロイダル磁場コイルに関しては,国際協力で進められた大型コイル事業(LCT)及び我が国の国内計画として進められたクラスター試験計画(原研)により,超電導コイルを大型化・高磁界化する技術に大幅な進展が見られた((第II-4図))。
 ポロイダル磁場コイルについては,このコイルの役割として要求されるパルス動作性能を実証するための実証ポロイダル・コイル(原研)が開発され,磁束密度な7Tまで1秒間で立ち上げるパルス動作性能が確認された。
 これらの超電導コイルの開発と並行して,TRIAM-1M,TORE-SUPRA等超電導コイルを用いたトカマク型装置が建設された。また,我が国では,大型ヘリカル装置用の超電導コイルの開発も進展している・
(3)プラズマ加熱
 中性粒子ビーム入射技術では,高効率化に不可欠な負イオン源の研究開発が進んだ。特に我が国において負イオン・ビームの大電流化,高エネルギー化及び長時間化に関する技術が進展した((第II-5図))。さらに,負イオン源を利用した中生粒子ビーム入射装置をJT-60に導入し,高密度プラズマ領域での長時間放電を実現するための検討が進められた。
 高周波加熱技術では,10秒間にわたり大出力(2.1GHzで1.4MW)の高周波を発振できるクライストロンが我が国で開発され,また,短パルスながらITERで想定されている出力レベルのジャイロトロン(140GHzで約1MW)がソ連で開発されるなど,高周波源の高出力化が進展した。高周波スペクトルの制御が可能な低域混成波帯電流駆動用のアンテナ結合系が開発され,JT-60の実験に用いられた。
(4)プラズマ対向機器
 電子ビーム照射装置及び水素ビーム照射装置を利用して,高熱負荷機器の研究開発が進んだ。特に,我が国で開発されたダイバータの模擬試験体により,ITERの熱入力に関する設計条件上限(15MW/m2)の2/3の除熱が可能であることが実証された。また,ITERの第一壁(ダイバータを除く)への熱入力に関しては,最も厳しい設計条件(0.6MW/m2)の1/3の除熱が可能な第一壁構造体が我が国で開発された。
 内外において,黒鉛系材料やボロン等を添加した黒鉛系材料のプラズマ対向機器表面保護材料としての総合特性の評価研究がなされた。
(5)燃料循環
 トリチウムの取扱い等に関する各種の試験を行う設備であるTSTA(米国)により,我が国で開発された燃料精製システムの性能試験が日米協力の下で実施された。まだ,ITERで想定されている重水素・三重水素混合ガス流量の約1/5の条件下で,上記の燃料精製システムを含む核融合炉燃料循環システム模擬ループの長期間連続運転がTSTAを利用して行われ,燃料循環に関する技術,トリチウム格納技術及びトリチウム施設の安全管理技術が進展した。また,大学等による研究開発において,トリチウム精製技術,同位体分離技術等に関する知見が蓄積された。
(6)ブランケット及び同構成材料
 米国及びECを中心に,固体増殖材方式ブランケットの構成材料(トリチウム増殖材,中性子増倍材,構造材)のインパイル試験が開始され,広範なデータが蓄積されつつある。また,国際協力であるBEATRIX計画により,固定増殖材の照射損傷に関する研究が進展した。我が国では,酸化リチウムのトリチウム生成特性に関する研究を進めた。ECでは,固体増殖材方式ブランケットに関して,小型のモックアップ試験が開始された。リチウム鉛方式に関してはEC等において,また,溶融塩方式に関してはECと米国において,データが蓄積されつつある。
 中性子工学の分野で核融合炉にも適用できる核データ・ライブラリーの整備が進み,遮蔽設計の精度が向上した。また,磁場中における液体金属の伝熱流動特性等に関するデータが取得された。
(7)構造材料等
 日米協力の下で行われたHFIR/ORR(米国)及びFFTF/MOT A(米国)を利用した中性子照射実験を通じて,構造材料等に関する広範なデータが蓄積された。HFIR/ORRでは,316ステンレス鋼に関してI TERで上限と予測されている30dpaまでの照射実験が完了し,50dpaの実験が現在進行中である。FFTF/MOTAでは,各種の構造材料,ダイバータ板材料及び絶縁材料の照射試験が実施された。
(8)慣性閉じ込めドライバー
 米国及び我が国において,エネルギー変換効率が高く,繰り返し頻度が高いレーザーの開発を目指し,エキシマ・レーザー及びダイオード励起固体レーザーの高性能化に関する研究が進められている。
 イオン・ビーム装置としてはメガジュール級の軽イオン・ビーム装置PB FA(米国)が開発され,ビームの集束等に関する研究が行われている。また,高周波加速方式の重イオン・ビーム装置の開発が米国,ドイツを中心に進められている。

3.安全性及び経済性の評価
 核融合炉に関する安全研究は,環境放射能安全研究,工学的安全研究及び安全評価研究に分けることができる。環境放射能安全研究に関しては,トリチウムの環境放出実験(カナダ)に我が国も参加し,環境モニタリングや環境影響評価等の安全評価上重要な知見が得られた。また,大学等において,トリチウムの生物影響等に関する研究が行われ,有用な知見が得られた。工学的安全研究及び安全評価研究に関しては,我が国において,核融合炉の安全確保に関する基本的考え方についての検討が開始され,安全性向上のための研究開発の方向付けが行われた。また,核融合炉の経済性について,定常核融合動力炉(原研)及びARIES(米国)の概念設計を通じて評価が行われた。

4.トカマク型核融合実験炉等の設計研究
 ITERの概念設計,我が国が独自に行ったFERの概念設計,ECで行われたITERと同規模の実験炉であるNETの概念設計等を通じて,次期中核装置の概念が構築された。また,ITERの概念設計活動を通じて,プラズマ物理及び炉工学に関するデータ・ベースの整備が進んだ。その結果,次期中核装置のプラズマ性能を予測する精度が向上するとともに,既存の炉工学機器を次期中核装置の構成機器として大型化,あるいは高度化するための研究開発の方向が明らかになった。
 核融合動力炉の設計研究では,JT-60を中心とする炉心プラズマ技術の研究開発やITER概念設計の成果に基づいて定常核融合動力炉の概念設計が内外において実施され,核融合動力炉の開発に向けて実施すべき炉心プラズマ技術と炉工学技術の研究開発の方向が明らかにされた。

第III章 核融合研究開発の基本的進め方
 我が国の核融合研究開発は,第II章に述べたとおり,第二段階計画の目標を大略達成し,研究開発の新たな展開を図るための科学的・技術的基盤をほぼ確立するに至ったと言える。
 今後の核融合研究開発は,その規模が従来よりも更に拡大すると見込まれるため,その開発リスクと所要資源を最小限にとどめ,これを効果的,効率的に進めることが重要となる。この点について,核融合研究開発の歴史,予想される今後の展開を踏まえて検討した結果,段階的アプローチを採ることが適切であるとの判断に達した。段階の具体的設定については,その実現可能性,それに続く段階への基礎形成の必要性,実用炉に至るまでの全体としての経済性等を総合的に検討した。この検討の結果,今後の核融合研究開発の主要な段階として, (1)自己点火条件の達成及び長時間燃焼の実現並びに原型炉の開発に必要な炉工学技術の基礎の形成, (2)定常炉心プラズマの実現及びプラント規模での発電の技術的実証並びに(3)発電プラントとしての経済性の実証の3段階を採ることが適当である。
 段階的な研究開発を進めるに当たっては,各段階の節目毎に,総合的な視野に立ったチェック・アンド・レビューを行うことが重要である。また,それそれの段階毎に,不確実性が大きく,十分に目標達成の見通しを得ることが困難な課題及び研究開発に長期間を要する課題等に関して,適切な配慮を行うことが肝要である。
 次段階の中核装置としては,これまでに臨界プラズマ条件に最も近いプラズマ性能を実現しているトカマク型を採用することが適当である。さらに,その後の段階における閉じ込め方式の選択については,トカマク型以外の閉じ込め方式の発展の結果をも含めて総合的に評価し,将来その最終決定をなすべきである。

1.段階的アプローチの考え方
 これまでの核融合の研究開発においては,プラズマ性能の向上を中心的な課題として,装置規模を順次拡大することによって段階的に進展が図られてきた。その結果,第II章において述べたとおり,三大トカマク型装置によりプラズマ性能が臨界プラズマ条件に近づくなど,炉心プラズマ技術において大きな進展を遂げるとともに,炉工学技術の面でも超電導コイル,プラズマ加熱装置等の研究開発において,長足の進歩が見られた。これにより,我が国の核融合研究開発は,今や,次段階の核融合研究開発を具体的に実施するに十分な科学的・技術的基盤をほぼ確立するに至ったと言える。
 しかしながら核融合をエネルギー源として実用化できるまでには,今後なお,解決すべき炉心プラズマ技術及び炉工学技術に関する課題が山積している。これら課題を解決するには,様々な極限技術を結集し,未踏の技術分野を開拓していくことが必要である。しかも,自己点火条件の達成,定常炉心プラズマの実現等,今後予想されている重要課題の解決は,今までの中核装置以上に大型の装置による以外には,その実現の方策がないと考えられている。
 これらの研究開発に要する人材と資金の規模は,過去のそれらと比較して,更に大きなものになると予想されている。このため,今後の研究開発は,これらの所要資源を最小限にとどめつつ,効果的,効率的に進められなければならない。
 以上のように,今後の核融合研究開発は,巨額の資金を要する大型装置がその中核になると考えられることから,段階的に進展を図っていくことが適当であると判断される。今後の核融合研究開発の推進シナリオを策定するに当たっては,この段階的アプローチを採用し,十分な科学的・技術的見通しに基づき,段階毎に達成すべき明確な目標を設定することにより,開発リスクの低減,効果的・効率的な実施等を担保する必要がある。その目標を実現するため,各段階毎に基本計画を策定し,その時代において実施すべき研究開発内容を明らかにすることが適当である。

2.開発ステップ
 現在の第二段階から実証炉/実用炉に至る開発ステップ(段階)については,以下の諸点を総合的に検討し,判断すべきである。
1)各段階の研究開発目標の設定については,目標とするプラズマ性能が前段階の知見から実現可能と判断されること。さらに,予想される炉工学技術の進歩により,所要装置の製作が可能と見込まれること。
2)また,予想される各段階の研究開発成果が,炉心プラズマ技術及び炉工学技術の諸課題に関し,更にその次の段階の研究開発への適切な基盤を与えるものであること。
3)全体として最小限のコストで実現できるものであること。
4)全体として最短期間で実現できるものであること。
5)全体として最小限の開発リスクで実現できるものであること。
6)各段階における炉心プラズマ技術,炉工学技術の各要素技術開発がバランスの取れたものであること。
 核融合研究開発においては,各段階の中核となる装置の果たす役割が大きく,上記の諸項目について検討する際にも,中核装置に付与すべきミッションに関するもののウェイトが大きい。このため,これからの検討は,中核装置を中心において進めることとする。
 実用炉に至る核融合の研究開発を展望した場合の最終的な段階は,核融合炉が他のエネルギー源と競合できる見通しを得ることである。このためには,それまでの成果を踏まえ,エネルギー発生プラントとして,十分な経済性を実証する段階が必要である(実証炉段階)。
 実証炉段階の前に必要と考えられる段階は,定常炉心プラズマを実現して,これから発生するエネルギーを炉外に取り出し,電気エネルギーに変換して利用することが技術的に可能であることをプラント規模で実証するものである(原型炉段階)。
 プラント規模での発電の技術的可能性を実証する原型炉段階への到達が,現状から中間ステップを経ずして直接に可能であるためには,・次の2点が前提条件となる
1)高エネルギー増倍率の重水素・三重水素燃焼プラズマを定常に維持するための技術が確立されていること。
2)所要装置を構成する機器等の製作技術が確立されており,これら機器等が高い信頼性を有すること。
 しかしながら,重水素・三重水素燃焼プラズマの実績は現時点ではほとんど無く,また未経験の炉工学技術の分野も多いことから,上記の2つの条件の何れも直ちに充足できる状況にあるとは言い難い。また,自己点火プラズマの実現や所要の炉工学技術の開発等を,大型装置を通して経験せずして発電の実証を目指すことはリスクが大き過ぎるなどの理由ら,その前に少なくとも1つのステップを設定し,自己点火条件の達成及び長時間燃焼の実現を図り,併せて原型炉の開発に必要な炉工学技術の基礎を形成することが,原型炉の開発の段階に先立って不可欠であると考えられる(実験炉段階)。
 これらのミッションは,第二段階計画の成果,国際協力によるITERの概念設計の成果及び予想される炉工学技術の進歩等により,最小限の開発リスク,コスト及び期間で実現可能であり,更に次の原型炉段階の研究開発への適切な基盤を与えることができるものと判断される。
 以上の検討を踏まえると,今後の核融合研究開発は,基本的に以下の三段階を設定して展開することが妥当であると考えられる。
1)実験炉段階:自己点火条件の達成及び長時間燃焼の実現並びに原型炉の開発に必要な炉工学技術の基礎形成
2)原型炉段階:定常炉心プラズマの実現及びフラント規模での発電の技術的実証
3)実証炉段階:発電プラントとしての経済性の実証

3.実験炉段階のミッション
 実験炉段階のミッションは,重水素・三重水素燃焼プラズマによる自己点火条件の達成及び長時間燃焼の実現並びに原型炉の開発に必要な炉工学技術の基礎の形成とすることが適当である。このミッションはITER,FER等の概念設計を通じて形成された実験炉の基本概念と軌を一にするものである。
 第II章で述べたように,磁場閉じ込め方式の中ではトカマク型装置が,炉心プラズマ技術に関するデータを最も豊富に蓄積しており,また,プラズマ性能に関しても,現時点では各種閉じ込め方式の中で最も高いものを得ている。このため,実験炉段階のミッションを最も速やかに達成し得る閉じ込め方式はトカマク型と判断される。
 実験炉において自己点火条件を達成するためには,プラズマ性能の改善及び高エネルギー・アルファ粒子によるプラズマ加熱入力が全プラズマ加熱入力に占める比率の向上を実現する必要がある。
 また,長時間燃焼を実現するためには,高効率の電流1駆動を実証するとともに,ダイバータ板への熱負荷軽減法及びヘリウム排出法を開発することが必要である。なお,実験炉では,将来の原型炉開発における定常炉心プラズマ実現への展望が得られる程度の長パルス運転を行うことが必要と考えられる。
 さらに,原型炉開発に必要な炉工学技術の基礎を形成するため,主要構成機器の大型化・高性能化を進めるとともに,高中性子負荷,高熱負荷等に耐え得る構成機器を開発子るため,その機能及び健全性に関する総合的試験を行う必要がある。また,原型炉でプラント規模での発電の技術的実証を行うためには,実験炉にブランケット試験体を設置し,トリチウムの生成・回収試験,増殖材,増倍材及び構造材料の試験等の研究開発を行っておく必要があり,これを推進することとする。

4.原型炉段階及び実証炉段階のミッション
 原型炉段階のミョションは,高いエネルギー増倍率の定常炉心プラズマを実現し,これから発生するエネルギーを取り出し,電気エネルギーに変換することが技術的に可能であることをプラント規模で実証することである。効率の良い発電の実証には,30程度以上のエネルギー増倍率を有する重水素・三重水素燃焼プラズマを定常に維持し,循環電力を低減することが必要である。定常炉心プラズマの維持のためには,プラズマからプラズマ対向機器への入熱量を低減する技術及びプラズマ対向機器の除熱能力を高める技術を確立することが必要であり,またプラント全体のエネルギー効率の向上にはプラント内の循環電力の低減を目指してプラズマ性能の一層の向上を図ることが必要である。また,炉工学技術における主要な課題は,原型炉で想定されている中性子照射に耐え得る材料の開発及び十分なトリウチム増殖性能を有する発電用ブランケットの実証等である。
 一方,実証炉段階においては,炉の稼働率,設備利用率を高め,あわせて核融合反応エネルギーを効率良く利用して,プラント全体の総合的なエネルギー効率を向上させ,さらに,エネルギー発生のためのプラントとして核融合炉システムが十分な経済性を有することを実証することを目標とする。

5.段階的アプローチの採用に当たり配慮すべき事項
 段階的アプローチを最も効果的に進めていくためには,それぞれの段階毎に,不確定性が大きく,各段階毎の中核装置による研究開発のみでは十分に目標達成の見通しを得ることが困難な課題や,研究開発に長期間を要する課題に関しては,各段階毎の中核装置による研究開発のみに依存することなく,所要の研究開発を適切に展開することによって,目標達成の確実性を高めることが肝要である。また,新たな手法,概念等を導入してプラズマ性能の向上を始めとする炉心プラズマ技術の向上を図る先進的研究開発については,これらの概念等を中核装置に取り入れるに先立ち,所要の研究開発を実施することが合理的である。
 また,今後段階的に研究開発を推進するに当たっては,所要資源(経費及び人材)を効率的に利用しながら的確に目標を達成できるシナリオを選択するために,各段階の節目において,総合的な視野に立ったチェック・アンド・レビューを適宜行うことが肝要である。

6.各種閉じ込め方式の位置づけ
 第3節で述べたように,次段階の中核装置である実験炉は,トカマク型を採用することが適当である。一方,現在最も高いプラズマ性能を実現しているのがトカマク型であることなどから,原型炉段階における研究開発については,トカマク型を基調とした検討を進めることが必要である。しかしながら,その他の磁場閉じ込め方式に関しても,今後の研究開発の成果によっては,トカマク型を上回る閉じ込めを実現する可能性を有している。したがって,トカマク型装置と並行してこれらの研究開発も進めることとし,その成果を踏まえて,所要の時点において各方式の比較を行い,最終的な原型炉の閉じ込め方式を選定するのが適当である。
 実証炉以降の閉じ込め方式の選択については,現状では不確定性が大きいことから,今後の議論に委ねるべきである。
 他方,磁場閉じ込め方式とは原理的に異なる慣性閉じ込め方式については,磁場閉じ込め方式とは全く異なった核融合炉への展望を開く可能性を有しており,今後ともこの方式による研究を進める。

7.研究開発スケジュール
 核融合研究開発の段階が進展し,中核装置が大型化,複雑化するとともに,装置の設計,建設等に要する期間は長期化する傾向にある。例えば,JFT-2では設計開始(1969年)から運転開始まで約3年を要したのに対し,JT-60では,1975年に設計開始,1978年に製作開始,1985年に運転開始と全体で約10年を要している。実験炉においては,今後必要な設計,炉心プラズマ技術及び炉工学技術の研究開発並びに建設に要する期間を考慮すると,最も順調に進展した場合で2005年頃の運転開始が見込まれている。
 原型炉は,実験炉段階の研究開発等が順調に進展した場合,2020年には運転開始が可能と見込まれている。このような研究開発の着実な実施により,核融合のエネルギー源としての実用化は,21世紀の中頃と予測されている。
8.研究開発体制と国際協力
 我が国の核融合研究開発は,将来のエネルギー源の開発を目指して,原子力委員会の総合調整の下に進められている。具体的には,原子力委員会の下に設けられている核融合会議が核融合研究開発に関する計画の総合的推進,連絡調整等を図っている。今後とも,原子力委員会を中心として,産・学・官の緊密な連携を図りつつ,全体としてバランスの取れた研究開発体制を構築することにより,核融合研究開発を強力に推進することが重要である。
 大規模かつ長期的な研究開発の推進に当たっては,i)その担い手となるべき人材の確保と育成,及びii)強力な推進を可能とする産業界からの支持・支援の確保が不可欠である。
 i)については,大学あるいは各研究機関における研究開発の振興によって有能な人材を吸収し育成する必要がある。また,長期にわたって,優秀な人材の結集・育成,技術の継承等を図るためには,一定水準以上の研究開発規模を維持するとともに,次代を担う若手研究者にとって魅力のあるテーマを提供し続けることができるよう配慮することが必要である。
 一方,ii)については,我が国の場合,核融合研究開発の初期段階から有力企業が積極的な参加を通じて,研究開発の進展に多大な貢献をしてきており,このような我が国の活力ある研究推進体制は米・欧等の他の核融合先進国からも高い評価を得ているところである。核融合研究開発の一層の発展と,そこで生まれた革新的技術の広範な分野への波及を図るためにも,産・学・官が従来にも増して有機的に協力し得る研究体制の強化が重要である。
 また,今後の核融合研究開発においては,研究開発規模の拡大に伴い,開発リスク及び所要資源が増大する。これらの低減と研究開発の効率化を図るために,様々な分野において国際強力を積極的に推進することが重要である。
 基礎研究分野における我が国の積極的な国際貢献が要請されていることからも,我が国の研究開発ポテンシャルを有効に活用しつつ,主体的な国際協力推進が望まれているところである。その際,異なる文化的・社会的背景の下での協力を円滑に実施するため,外国人研究者の受け入れ環境を始めとする国際協力に必要な社会基盤の整備を図ることも重要である。なお,国際協力によって得られた研究開発の成果を国内に有効に還元させ,それを将来の利用に向け蓄積できるシステムの構築に十分留意する必要がある。

第IV章 第三段階核融合研究開発
 第三段階の研究開発は,自己点火条件の達成及び長時間燃焼の実現並びに原型炉の開発に必要な炉工学技術の基礎の形成を主たる目標として,所要の研究開発を行う。この研究開発の中核を担う装置としては,トカマク型の実験炉を開発することとする。
 さらに,実験炉による研究開発だけでは十分解明できない炉心プラズマ技術分野の課題を解明するための補完的な研究開発及び実験炉を含む各段階の中核装置に新技術等を取り入れる前に確認実証等を行うための先進的研究開発を行う。
 実験炉の開発に必要な主要構成機器の大型化・高性能化を図るともに,原型炉の開発に必要な炉工学技術の基礎の形成を図るため,実験炉による試験等を含めた研究開発を進める。さらに,核融合炉の実用化のために必須の炉工学技術であって,その実現までに長期間の研究開発を必要とするため早期に開始する必要のあるものについて,その研究開発を進める。
 トカマク型以外の装置は,トカマク型装置による研究開発への貢献が期待されること,今後の研究開発の成果によっては,トカマク型を上回る閉じ込めを実現する可能性を有していること等から,ヘリカル型装置については,現在進められている大型ヘリカル装置の建設を着実に推進し,データの蓄積を図るとともに,逆磁場ピンチ型装置,ミラー型装置,コンパクト・トーラス型装置,慣性閉じ込め装置についても,引き続きその研究を進める。
 核融合炉は高い安全性を保有しているが,これを更に高めるための研究開発を進める。また,将来の核融合炉システムの具体的構想を固めるための設計研究を行う。

1.炉心プラズマ技術
 研究開発の内容は,次のとおりとする。
1.1 トカマク型装置による自己点火条件及び長時間燃焼の実現を目指した研究開発
(1)自己点火条件
 自己点火条件を達成するためには,プラズマ性能の一層の向上を図るとともに,高エネルギー・アルファ粒子によるプラズマ加熱入力が全プラズマ加熱入力に占める比率を高める必要がある。この比率の高いレベル(80%程度)に相当するエネルギー増倍率20程度を自己点火条件の具体的目標値とする。
 さらに,現在得られている高性能のプラズマ閉じ込め状態(例えばHモード)をより改善することにより,性能の良いプラズマを長時間維持する技術を確立する。同時に,核融合反応で生ずる高エネルギー・アルファ粒子がわずかな磁場の乱れやプラズマ中に生じる波動によって受ける影響に関する基礎的データ・ベースを確立することにより,高エネルギー・アルファ粒子の閉じ込め技術の改善を図る。
 自己点火条件を満たすプラズマを安定に維持するため,プラズマ中の種々の不安定性を制御する技術を確立する。また,ダイバータ板の熱負荷を低減し,ダイバータ板からプラズマ中への不純物の混入を抑制することが,自己点火条件の達成のためには不可欠である。さらに,核融合反応の結果生ずるヘリウムがプラズマ中に蓄積されるので,これを排出するための技術を確立する。
 なお,自己点火条件を満たすプラズマにおいては,プラズマの熱的な平衡に乱れが生ずることが懸念されており,これを制御する技術の確立も重要な課題である。
(2)長時間燃焼
 長時間燃焼を実現するため,高効率電流駆動の実証,ダイバータ板への熱負荷軽減法及びヘリウム排出法の開発等により,原型炉で想定されている定常炉心プラズマへの見通しを得るために必要と考えられる長パルス運転(1000秒程度以上と想定)の実現とダイバータ板熱負荷の抑制(15MW/m2程度を上限と想定)を図る。また,ディスラプションの発生を回避するための技術を確立するとともに,その発生がプラズマ対向機器に及ぼす影響を明らかにする。
 電流駆動装置を用い,長パルス運転を行うとともに,プラズマ中の電流分布を最適化し,プラズマを安定に閉じ込めるための制御技術を確立する。実験炉で想定されているプラズマでは電流分布の変化に長い時間が必要であり,電流分布の変化の様子を知るためにも1000秒程度のパルス幅が必要となる。
 長時間燃焼を実現するために必要なもう一つの課題は,各種のプラズマ粒子の密度制御である。燃料である重水素や三重水素のイオン密度の制御も必要であるが,ダイバータ板の熱負荷を軽減することにより,ダイバータ板の構成物質が不純物としてプラズマ中に混入しないよう制御することが何より重要である。また,先に述べたヘリウムの排出技術の確立が長時間燃焼のためにも不可欠である。
 ディスラプションについては,実験炉の運転の初期段階において,それが発生しやすいプラズマ性能の領域や発生原因を特定し,かつ,ディスラプションを回避するための密度制御法や加熱・電流駆動装置利用法を確立しておくことが重要である。
1.2 その他の研究開発
(1)トカマク型装置
 実験炉の建設・運転に必要な炉心プラズマ技術の課題について,既存の設備を活用することによりその研究開発を進める。この主要課題は,低温ダイバータ・プラズマの実現,ディスラプションの制御技術の確立,Hモード閉じ込め制御法の確立,プラズマの生成・維持の条件(運転シナリオ)の最適化,アルファ粒子挙動の把握等である。
 これらと並行して,前述の補完的・先進的研究開発を進める。この主要課題は,プラズマ電流に占める自発電流の割合の高い高ベータ・プラズマの実現によるプラント内の循環電力の低減,遠隔放射冷却法及びセパラトリックス掃引法の併用によるダイバータ板への熱流束の抑制等である。
(2)ヘリカル型装置
 誘導プラズマ電流を用いず,外部コイルの作る磁場でプラズマを閉じ込める,大規模ディスラプションが発生していないなどの特徴を有するヘリカル型装置では,高い閉じ込め性能が実現されれば,エネルギー効率の高い定常運転が可能となる。我が国では世界最大規模のヘリカル装置計画が進められており,高いプラズマ性能と高ベータ値の実現を目指している。第三段階では,高性能閉じ込め状態の定常維持及び高ベータ値の達成に努め,ヘリカル型装置における閉じ込め比例則の信頼性を高める研究開発を進めることとする。
(3)逆磁場ピンチ型装置
 逆磁場ピンチ型装置は,比較的低いトロイダル磁場でも強力な加熱が得られ,容易に高ベータ値のプラズマが生成できるという特徴を持つ。第三段階においては,プラズマ性能及び安定性の向上を図る研究開発を進めることとする。さらに,プラズマ電流の作る閉じ込め磁場を用いるトーラス・プラズマの安定性を系統的に研究することによりトカマク型装置の研究開発にも貢献することが可能である。
(4)ミラー型装置
 磁場閉じ込め装置として比較的単純な構造を持つミラー方式でも我が国は世界をリードする装置を有している。第三段階においては,本方式の本質的な研究課題である電位による開放端からのプラズマ損失制御の一層の向上を図る。また,ミラー方式に特有な開放端からの流失エネルギーを利用した直接発電を行う研究開発を進める。
(5)コンパクト・トーラス型装置
 コンパクト・トーラス方式はトカマク方式への超高速度燃料注入の可能性を持ち,比較的小規模実験装置により研究開発が可能である。第三段階においては,プラズマ性能及び安定性の向上を図る研究開発を進めることとする。
(6)慣性閉じ込め装置
 慣性閉じ込め装置では,爆縮の最適化とドライバー出力の上昇によって,点火及び高利得プラズマの実現を目指した研究開発を進める。レーザーを用いた装置に代表される慣性閉じ込め装置の開発上の最も重要な課題は,ドライバーの開発である。さらに,システム全体のエネルギー収支を向上させ,慣性閉じ込め核融合の実現性獲得を図る。

2.炉工学技術に関する研究開発
 実験炉の開発に必要な主要構成機器の大型化・高性能化を図るとともに,原型炉の開発に必要な炉工学技術の基礎の形成を図るため,実験炉による試験等を含めた研究開発を進める。さらに,核融合炉の実用化のために必須の炉工学技術であって,その実現までに長期間の研究開発を必要とするため早期に開始する必要のあるものについて,その研究開発を進める。特に,高中性子負荷,高熱負荷等の条件下にある構成機器の機能,寿命及び健全性の総合試験が最大の課題となる。ブランケット・モジュールを実験炉に導入し,核融合反応エネルギーの熱変換・取り出し及びトリチウム増殖の機能試験を実施する。また,核融合炉と類似の中性子環境の下での各種材料試験やニュートロニクス試験を行い,材料特性や中性子遮蔽等に関するデータの蓄積を行う。
 これらの試験,研究開発によって,原型炉の開発に必要な炉工学技術の基礎の形成を図る。
(1)加熱・電流駆動
 実験炉の加熱・電流駆動の主要な装置と考えられている負イオン源を用いた中性粒子入射装置については,ビームの大電流化と高エネルギー化,動作時間の長時間化及び高効率化を進める。また,実験炉におけるプラズマ電流の立ち上げ補助,電流分布の制御,不安定性の制御等に有効な低域混成波帯加熱装置,電子サイクロトロン周波数帯加熱装置及びイオン・サイクロトロン周波数帯波加熱装置については,発振源の高周波数化,大出力化及び動作時間の長時間化を図るとともに,装置各部での高周波の損失を低減する高効率化に関する研究開発を行う。
(2)プラズマ対向機器
 実験炉で想定されている高熱負荷に耐えるプラズマ対向機器の開発を行う。また,実験炉においては,現在主に用いられている黒鉛系材料ばかりでなく,金属材料等の幅広い候補材料を開発・導入し,プラズマ対向機器の表面保護材料として使用した場合の機能試験を実施する。
(3)超電導コイル
 実験炉建設に必要な超電導コイルのうち,トロイダル磁場コイルに関しては,大型化及び高磁界化に関する研究開発を行う。ポロイダル磁場コイルについては,大型化及び高磁界化に関する研究開発とともに,所要のパルス性能を有する超電導コイルの研究開発を行う。また,超電導コイル・システム全体を実験炉の構成機器として構造的,電磁気的及び熱的に安定に動作させる技術を確立することが必要である。
 なお,実験炉で使用する以上の高磁界を必要とする原型炉用の超電導コイルについては,開発に長期間を要するため,第三段階から研究開発を開始する。
(4)炉構造,遠隔保守
 炉構造に関しては,大型構造物の製作技術の開発と高精度の加工技術の確立を図るとともに,遠隔操作による分解組立が容易な固定方法の開発を行う。
 真空容器を始めとする核融合炉の主要構成機器は,部分モデル試験,実規模モデル試験等を通して熱・機械特性等の総合性能の確認に努める。遠隔保守技術に関しては,要素技術及び要素技術を組み合わせたシステム技術の研究開発を進める。
(5)ブランケット,トリチウム燃料
 ブランケット技術の確立には,長期間を必要とするため,原型炉での本格的な実装を目指して第三段階からその開発を開始する必要がある。その中心となる課題は高いフルエンスの中性子照射等に耐えるブランケット材料の開発とトリチウム増殖比の向上である。このため,実験炉の中性子環境下でブランケットの照射・機能試験を行い,必要なデータベースの確立に努める。
 また,ブランケット・モジュールからの熱除去及びブランケット構造材の核発熱,放射化に関する試験を行う。なお,別途モックアップ試験等を通じて,実験炉の建設,運転に必要なトリチウム増殖・回収等の技術の確立を図るものとする。トリチウム燃料技術の開発においては,インベントリーの低減とともに,大量トリチウムの循環技術及び安全取扱い技術の確立が主要な研究開発課題である。
 初期装荷用あるいは補充用トリチウムの確保のために,トリチウム製造の研究開発を進める。
(6)構造材料
 原型炉で予想される高いフルエンスの中性子照射に耐え得る構造材料の開発を目指して,構造材料の中性子による損傷や寿命に関する基礎データを得る。長期間を要するこれらの研究開発については,第三段階から開始する必要がある。さらに,低誘導放射化材料の開発を進め,装置の放射化を低減するなど安全性の一層の向上を図る。
(7)システム統合
 システム全体を把握し,各構成機器を一体となるよう統合し,プラントを構成させ,これを適切に機能させるための技術開発を行う。特に,複雑な構成機器を組み合わせ,統合するための高度の技術と経験を蓄積して,第四段階以降における合理的な核融合システムの実現の基礎を確立する。
(8)慣性閉じ辺め用ドアイバー
 慣性閉じ込め装置開発上の最も重要な課題であるドライバーの開発に関しては,エネルギー変換効率及び繰り返し動作頻度の高い高出力ドライバーの研究開発を進める。
(9)計測,制御機器
 高いフルエンスの中性子照射に耐え得る計測,制御機器の研究開発を行う。
 また,プラズマを制御するための大電力制御技術の研究開発を行う。
(10)ニュートロニクス
 核特性及び中性子遮蔽に関する基礎データを取得する。

3.安全性に関する研究
 核融合炉は原理上からも高い安全性を保有しているが,この安全性を一層高めるため,以下の環境放射能安全研究,工学的安全研究及び安全評価研究を進めることとする。
(1)環境放射能安全研究
 環境への影響を評価するに当たっては,被曝線量評価の基礎となるトリチウムや放射化生成物の挙動を明らかにすることが重要である。トリチウムの挙動に関しては,各機器内部でのトリチウムのインベントリーを評価するとともに,定常運転時,分解修理時,事故時におけるトリチウムの漏洩量を知るために,各機器・材料からのトリチウム拡散放出挙動の評価を実施する。
 また,トリチウム漏洩時の挙動特性の基礎となるデータを取得する。放射化生成物の挙動に関しては,放射化生成物の可動化プロセス(ダスト化,腐食及び酸化等)の評価を実施する。
(2)工学的安全研究
 核融合炉を構成する各構成機器・設備に関して,事故の発生・拡大の防止及び事故の影響を緩和することを目的とした研究開発を行う。研究開発が必要な構成機器・システムは,プラズマ対向機器,ブランケット,真空容器,超電導コイル,燃料循環,格納系等である。特に放射化のレベルが高い,または,トリチウムのインベントリーが多い構成機器では,事故時の健全性の確保が必要である。また,第一壁及びブランケットの冷却系の冷却能力が喪失した場合でもこれらの装置等に過度の温度上昇を引き起こさないような冷却能力の維持に関する研究開発を行う。
(3)安全評価研究
 各構成機器及び設備に対する炉工学技術上の対策に加えて,事故の影響を定量的に評価し,核融合炉全体の安全性を確保するため,事故解析手法等の総合的な安全性の評価手法の研究開発を実施する。併せて核融合炉の安全確保の在り方についての総合検討を進める。

4.核融合炉システムの設計研究
 核融合動力炉を含む核融合炉システムの具体的構想を策定し,その設計研究を進める。

5.研究開発の分担
 実験炉に係わる開発,試験及び研究については,日本原子力研究所が担当する。実験炉以外の開発研究は,大学,国立研究機関及び日本原子力研究所が相互の連携・協力により進める。
 なお,今後の研究開発において,産業界からの貢献が極めて重要であることにかんがみ,産業界の積極的参加が得られるよう十分配慮して研究開発を進めるものとする。
 あとがき核融合会議は,本検討において,昭和50年7月に原子力委員会が策定した「第二段階核融合研究開発基本計画」に基づいて推進されてきた我が国の核融合研究開発が,その目標を大略達成し,次段階の研究開発を具体的に実施するに十分な科学的・技術的基盤をほぼ確立したことを明らかにした。さらに,今後の核融合の実用化を目指した研究開発の進め方について,長期的な観点から検討し,その方向性を示すとともに,特に次の第三段階において実施すべき研究開発の内容を摘出した。
 一方,今後の核融合研究開発を推進していくに当たっては,研究開発目標の達成度,研究開発を取り巻く国際情勢等,なお配慮を要する多くの留意点が存在し,原子力委員会核融合会議等において,状況に応じ弾力的に判断・対処していくことが求められると予想される。このような場合においては,開発リスク,所要資源,開発スケジュール,得られる成果等の様々な観点から総合的な検討を行い,必要に応じ研究開発計画を見直していくことが肝要と思われる。
 このように柔軟性を確保しつつ,核融合研究開発を効率的,効果的に推進することにより,優れた特徴を有するエネルギー源としての核融合に寄せられる世論の期待に応えられるよう,一日も早く核融合炉による発電が現実のものとなり,人類のエネルギー問題の解決に貢献することを期待するものである。


核融合研究開発の推進について

平成4年6月9日
原子力委員会

 エネルギーは,文明社会を維持し,発展させるための原動力となるものであり,その安定供給を確保するため,人類は長期的展望のもとに,新たな供給源について技術開発を進めていく必要がある。
 核融合は,必要な燃料・材料資源が地球上に広く豊富に存在すること,原理的には高い安全性を有し,発電の過程において地球温暖化,酸性雨等の地球環境問題の原因と考えられる物質を排出しないことなど,供給安定性,安全性及び環境保全性の観点から優れた特徴を有している。したがって,その実用化に向けて今後とも不断の研究開発の努力を続けていかなければならない。
 世界の核融合研究開発は,この約20年間に三大トカマク型装置によりプラズマの温度,密度及び閉じ込め時間が臨界プラズマ条件に近づくなど,高温・高密度プラズマの生成・制御技術において大きな進展を遂げた。炉工学技術の分野でも,超電導コイル,加熱・電流駆動装置等の研究開発において著しい進展が見られた。また,日本,米国,EC,ソ連(当時)の4極が参加して行われた国際熱核融合実験炉(ITER)の概念設計等に上記の炉心プラズマ技術及び炉工学技術に関する成果が活用され,次の段階の核融合研究開発の中核となるべき装置の概念が形成された。
 我が国の核融合研究開発は,過去約17年間,当委員会が昭和50年7月に策定した第二段階核融合研究開発基本計画(以下「第二段階計画」という。)の下で進められてきた。第二段階計画の主要な目標を達成するため,日本原子力研究所に臨界プラズマ試験装置JT-60が建設された。昭和62年に,同装置により第二段階計画に定められたプラズマ性能の目標が達成されたのを始め,大学等の広範囲な実験装置により多様な研究開発が行われ,炉心プラズマ技術において著しい進展が見られた。さらに,炉工学技術についても,超電導コイル等の研究開発を始めとして,広範な分野での研究開発が進展した。
 これらの成果を踏まえると,我が国の核融合研究開発は第二段階計画の目標を大略達成し,次段階たる第三段階の核融合研究開発を具体的に実施するに十分な科学的・技術的基盤をほぼ確立したと判断される。また,当委員会の核融合会議の下に平成3年9月に設置された「核融合研究開発基本問題検討分科会」がその審議内容を取りまとめて本年5月に核融合会議に提出し,承認された報告書の趣旨に沿って当委員会が検討した結果,第三段階の研究開発を平成4年度から,以下の長期的展望及び方針に基づき推進するものとする。
1. 第二段階の研究開発の成果を踏まえ,当委員会としては,来世紀半ば以降のエネルギー供給に貢献することを目指し,それに至るまでの研究開発目標を段階的に設定し,これを実現するための研究開発を計画的に推進すべきであると考える。
 なお,これらの研究開発は長期にわたり,かつ,未踏の技術的課題を多く含むため,研究開発目標の達成度,研究開発を取り巻く内外の情勢等を十分に考慮しつつ,総合的な視野に立ったチェック・アンド・レビューを適宜行ないつつ,弾力的に進めるものとする。
2. 第三段階の研究開発においては,第二段階と比べて研究開発に要する人材と資金の規模が,更に大きなものになると予想され,その重要性にかんがみ,別に定める「第三段階核融合研究開発基本計画」に基づき積極的にその推進を図るものとする。
3. 今後の研究開発の実施に当たっては,産・学・官の有機的な連携の一層の強化を図り,総合的・計画的に研究開発を推進するためのバランスのとれた体制を構築することが肝要である。当委員会としては,引き続き核融合会議が,研究開発に関する計画の総合的推進,連絡調整等を行っていくことが適当と考える。
4. 第三段階の研究開発の実施に当たっては,その担い手となるべき優秀な人材の確保・養成を図ることができるよう適切な配慮が必要である。他方,研究開発規模の拡大に伴い,研究開発のリスク,所要の資金及び人材が増大することから,これらの低減及び研究開発の効率化を図るために,国際協力に幅広く取り組むことが重要である。特に,基礎研究分野における我が国の積極的な国際貢献が要請されている今日,我が国の研究開発ポテンシャルを有効に活用しつつ,主体的な国際協力の推進が望まれる。その際,国内研究基盤の涵養に努めるとともに,国際協力に必要な社会基盤の整備,研究開発の成果の国内への還元等に留意することも重要である。


第三段階核融合研究開発基本計画

 平成4年6月9日
 原子力委員会

 第三段階の核融合研究開発は,次に示す基本計画に基づき実施するものとする。

1.研究開発の目標
 第三段階の研究開発は,自己点火条件の達成及び長時間燃焼の実現並びに原型炉の開発に必要な炉工学技術の基礎の形成を主要な目標として実施する。これを達成するための研究開発の中核を担う装置として,トカマク型の実験炉を開発する。これらの研究開発により,第四段階以降の研究開発に十分な見通しを得ることを目標とする。

2.研究開発の内容
 上記1.に示した研究開発の目標を達成するために実施すべき具体的な研究開発の内容は,次のとおりとする。
(1) 炉心プラズマ技術
 炉心プラズマ技術に関して,以下の研究開発を行う。
1)  トカマク型の実験炉による自己点火条件の達成及び長時間燃焼の実現を目指した研究開発

(i)  自己点火条件
自己点火条件(エネルギー増倍率が20程度)を達成することを目指し,高性能プラズマの閉じ込めの改善,全プラズマ加熱入力に占める高エネルギー ・アルファ粒子による加熱入力の比率の向上等に関する研究開発を行う。
(ii)長時間燃焼
定常炉心プラズマへの見通しを得るために必要と考えられる長パルス運転(1000秒程度以上)を実現することを目指し,高効率電流駆動法,ダイバータ板への熱負荷軽減法,ヘリウム排出法,ディスラプション回避法等に関する研究開発を行う。
2)その他の研究開発
(i)  トカマク型装置
実験炉による研究開発だけでは十分解明できない炉心プラズマ技術分野の課題を解明するための補完的な研究開発及び実験炉を含む各段階の中核装置に新技術等を取り入れる前に確認・実証等を行うための先進的研究開発を行う。
(ii)トカマク型以外の装置
トカマク型以外の装置は,今後の研究開発の成果によってはトカマク型を上回る閉じ込めを実現する可能性を有していること,トカマク型装置による研究開発への貢献が期待されること等から,これらの研究開発を進める。ヘリカル型装置については,大型装置による計画を着実に推進し,高性能閉じ込め状態の定常維持及び高ベータ値の達成に努め,ヘリカル型装置における閉じ込め比例則の信頼性を高める研究開発を進める。また,逆磁場ピンチ型装置,ミラー型装置,コンパクト・トーラス型装置及び慣性閉じ込め装置についても引き続きその研究を進める。
(2)炉工学技術
 実験炉の開発に必要な主要構成機器の大型化・高性能化を図るとともに,原型炉の開発に必要な炉工学技術の基礎の形成を図るため,実験炉による試験等を含めた研究開発を進める。さらに,核融合炉の実用化のために必須の炉工学技術であって,その実現までに長期間の研究開発を必要とするため早期に開始する必要のあるものについて,その研究開発を進める。
 このため,大型・高磁界の超電導コイル,遠隔保守技術とその適用が可能な炉構造機器,高熱負荷に耐える高い除熱性能を有するプラズマ対向機器,大出力・長時間動作の加熱・電流駆動装置,トリチウムの製造・増殖・取扱い技術,ブランケット技術等の研究開発を進めつつ,これらの装置・機器の統合・集約化の技術を確立する。また,高いフルエンスの中性子照射に耐える構造材料,ブランケット材料,計測・制御機器及び低放射化材料の開発を進めるとともに,中性子照射による材料特性等のデータの蓄積を行う。
 慣性閉じ込めの技術については,高いエネルギー変換効率と繰り返し動作頻度を持つ高出力ドライバーを開発する。
(3) 安全性に関する研究
 核融合炉の安全性の向上に資する観点から,トリチウム等の放射性物質の炉内外における挙動の把握,機器・設備の工学的安全性,核融合炉の安全性評価手法等の研究開発を進める。
(4) 核融合炉システムの設計研究
 核融合動力炉を含む核融合炉システムの具体的構想を策定し,その設計研究を進める。

3. 研究開発の分担
 実験炉に係わる開発,試験及び研究については,日本原子力研究所が担当する。実験炉以外の研究開発は,大学,国立研究機関及び日本原子力研究所が相互の連携・協力により進める。これらに当たっては,産業界の積極的参加が得られるよう十分配慮して研究開発を進める。

4.研究開発の期間
 第三段階の研究開発は,平成4年度から開始し,実験炉による研究開発が終了し,かつ,次期中核装置と考えられる原型炉による研究開発が開始される段階,又は第四段階核融合研究開発基本計画の策定が行われた段階のいずれか早い時点において完了するものとする。


ウラン濃縮懇談会報告書

1992年8月11日
 原子力委員会
 ウラン濃縮懇談会

まえがき
 我が国では,濃縮ウランの安定供給を図るという見地ばかりでなく,プルトニウム利用等を含め核燃料サイクル全体の自主性を確保する観点から,経済性を考慮しつつ,国内のウラン濃縮の事業化を進めてきており,これまでの動力炉・核燃料開発事業団(以下「動燃」という。)を中心とする技術開発の結果,本年3月には青森県六ヶ所村で日本原燃産業(株)(本年7月1日をもって日本原燃(株)に変更。以下「日本原燃」という。)の六ヶ所ウラン濃縮工場(以下「六ヶ所濃縮工場」という。)の操業が一部開始された。
 さらに,ウラン濃縮の経済性向上を図るために,新素材高性能遠心機,原子レーザー法ウラン濃縮技術,分子レーザー法ウラン濃縮技術及び化学法ウラン濃縮技術について開発を進め,それらは一定の成果を上げつつある。
 このような状況の中で,「今後のウラン濃縮技術開発に関する評価検討の進め方について」(平成3年7月30日原子力委員会決定)に基づき,当懇談会は,新技術評価検討ワーキンググループ及び遠心法検討ワーキンググループを設置し,ウラン濃縮を巡る内外の諸情勢を踏まえ,新技術の評価検討,遠心分離法技術の検討を行い,これらを踏まえた今後の濃縮技術開発のあり方及びその体制等について調査審議を行い,以下のとおりとりまとめた。

1.国内外のウラン濃縮事業を巡る現状と将来動向
(1)国際情勢
 ア.需給動向
 経済協力開発機構・原子力機関(OECD/NEA)の統計によると,1990年におけるOECD諸国のウラン濃縮設備容量は,米国エネルギー省(DOE)が19,200tSWU/年(ガス拡散法の2工場),ユーロディフ(フランス)が10,800tSWU/年(ガス拡散法の1工場),ウレンコ(ドイツ,オランダ,英国)が2,600tSWU/年(遠心分離法の3工場),日本が200tSWU/年(動燃の原型プラント)であり,合計32,800tSWU/年である。同年のOECD諸国の需要実績は23,784tSWU/年であり,世界の供給能力は需要をかなり上回っている状況にある。
 また,同統計によると,ウレンコ(ウレンコと米国の電力会社等との共同出資による米国工場を含む。)及び日本の供給能力の増加に伴い,2010年においては供給能力が37,700tSWU/年に達するのに対し,需要は30,984tSWU/年にとどまり,約20年後においても依然として供給能力過剰の状況にあると予測している。
 このような世界の濃縮需給の将来動向には,米国の濃縮事業公社化の将来動向が必ずしも明確ではないこと等により,少なからぬ不確定要因が残されている。しかし,欧米の濃縮事業者は既存工場について今後2010年以降まで競争力のある運転が可能と判断していると伝えられていること,さらに,近時,米・旧ソ連間で進められつつある劇的な核兵器の削減の動きに伴い,10,OOOtSWU/年ともいわれる旧ソ連の濃縮ウラン供給能力のかなりの部分が西側市場に提供される可能性があること等を勘案すると,今後20年間程度の世界の濃縮需給は供給能力過剰の状態で推移するものと考えられる。
 イ.技術開発の動向
 欧米においては,将来のウラン濃縮事業の国際競争力の一層の向上を図ることを目標として,以下のとおり新濃縮技術の開発を進めている。

(ア)米国
米国の濃縮事業主体でもあるエネルギー省(DOE)は,ローレンスリバモア研究所で1973年に原子レーザー法ウラン濃縮技術の研究を開始した。DOEは1985年に原子レーザー法をガス拡散法の後継技術として選定したことにより研究開発を加速させ,これまで約12億ドルを投資したといわれている。現在は,100tSWU/年規模の実証試験を実施するとともに商業化への移行のための検討が行われている。
当初,この実証試験の結果を基にした商業化移行についての決定が1992年11月に行われる予定とされていたが,この決定は1993年以降に延期されている。DOEは原子レーザー法の商業化は十分可能との判断をしているが,商業化の前提となる経済性,既存ガス拡散工場の解体・除染費負担の問題等については議会を含め,米国内に種々の議論があり,原子レーザー法の濃縮事業主体になるとされる政府公社設立については未だ計画が明確になっていない。
このようなことから米国における原子レーザー法による濃縮事業の商業化についてはその時期等が不確定な状況にある。
(イ)フランス
フランスでは1980年代前半からいくつかの新濃縮技術の開発を行ってきたが,1985年からはそれらの中から原子レーザー法を選定し,原子力庁(CEA)で研究開発を行っており,現在,基礎試験及びパイロット機による研究開発が実施されている。今後は1990年代半ばにその後の開発の進め方を評価し,商業プラントに向けての研究開発投資の是非が決定されるとしている。実際の商業プラントの建設は市場動向等の要因に左右される見込みであるが,順調に計画が進展すれば,最初の商業プラントの導入時期は2005年頃,競争力のある商業プラントの運転は2010年以降とも伝えられている。
(ウ)英国,ドイツ(ウレンコ関係国)
英国では1974年から原子レーザー法及び分子レーザー法ウラン濃縮技術について英国原子力公社(UKAEA)で研究が開始されたが,1983年に分子レーザー法の研究が中止され,現在,UKAEA及び英国原子燃料公社(BNFL)が協力し,原子レーザー法の研究開発を実施している。これらの研究開発の成果は未だ基礎的段階にあるといわれている。また,ドイツではウレンコの構成員であるウラニット社が中心となり,約20年間にわたり分子レーザー法の研究開発を実施してきている。
遠心分離法(以下「遠心法」という。)技術は,既にウレンコの濃縮工場に採用されているが,1989年の同社の発表等によると同社は1972年のパイロットプラント機,1976年の実証プラント機を始め,遠心法技術の改良,性能向上のための研究開発を進めており,稼働中のプラントには商業プラント導入機(第一世代)から数えて第二世代,第三世代及び新鋭の第四世代の遠心機が導入されている。現在,第五世代の遠心機を開発しており,その開発が成功すれば,分離能力は1976年に開発された実証プラントの約12倍,コストも約1/5になるといわれている。
ウレンコは,遠心法による濃縮事業が今後2010年以降も国際競争力を持ち得ると判断しているといわれているが,1992年末に,以上の濃縮技術開発の成果について評価し,将来取り組むべき技術開発の方向を見極めることとしている。
(2)国内情勢
 ア.需給動向
 原子力開発利用長期計画(昭和62年6月決定)では,2000年における原子力発電設備容量を少なくとも5,300万kW程度と見込み,これを前提とする我が国のウラン濃縮の年間所要量は少なくとも7,OOOtSWU程度と見込み,併せて我が国における濃縮事業確立の目標を2000年過ぎに年間3,OOOtSWU程度の規模としている。
 しかしながら,現時点で2000年及び2010年の原子力発電設備容量の目標は5,050万kW及び7,250万kW(石油代替エネルギーの供給目標について,平成2年10月閣議決定)であり,これを前提とすると,ウラン価格の変動による濃縮時の劣化ウラン濃度の仕様の変更,プルサーマルの導入による濃縮ウランの節減等により,2000年での濃縮役務所要量は6,000tSWU/年程度,2010年では8,000tSWU/年弱と見積もられる。
 このような我が国の需要量はOECD諸国の需要量の約1/4を占めているにもかかわらず,現在のところ国内供給力はほとんどないという状況にあるが,2000年には六ヶ所濃縮工場による1,500tSWU/年の国内供給力を有することになる。
 この国内供給力と電気事業者による海外との契約により2000年頃までの供給は確保されることとなる。
 イ.六ヶ所濃縮工場の進捗状況及び遠心法技術開発の動向
 動燃がパイロットプラント及び原型プラントの建設,運転等を通じ開発してきた遠心法技術が日本原燃に移転され,同社は,昭和63年10月に六ヶ所濃縮工場の建設を開始し,本年3月末,150tSWU/年の規模で同工場の操業を開始したところである。六ヶ所濃縮工場は,今後,毎年150tSWU/年の規模で増設され,2000年には1,500tSWU/年の規模に拡大される予定である。
 六ヶ所濃縮工場に導入されつつある遠心機は金属胴遠心機であるが,現在,同遠心機に比べ大幅な性能向上が期待される新素材高性能遠心機について,動燃,日本原燃及び電気事業者が協力し,研究開発を進めており,また,これらの機関及びメーカにより製造技術の開発が国の補助も得て進められてきている。
 この新素材高性能遠心機については,動燃のパイロットプラントを活用し,平成4年度末から約3年間,遠心機1,000台程度からなる実用規模カスケード試験が実施されることが計画されており,その成果を踏まえ,新素材高性能遠心機が六ヶ所濃縮工場に導入されることとなっている。従って,この研究開発が順調に進展すれば,六ヶ所濃縮工場の当初の1,050tSWU/年分は金属胴遠心機となるのに対し,残りの450tSWU/年分,さらには当初導入の金属胴遠心機の取替機分は新素材高性能遠心機が導入されることとなる。
 ウ.新技術開発の動向
(ア)原子レーザー法
原子レーザー法ウラン濃縮技術については,日本原子力研究所(以下「原研」という。)が昭和51年から原理実証試験を開始し,昭和59年からは基礎工学試験として小型分離機器の試作を行ってきた。昭和62年からは原研では長期的・基盤的な基礎プロセス試験を,レーザー濃縮技術研究組合では国の補助を受けて,1tSWU/年規模のシステム試験を,相互に補完させつつ実施してきている。
これまでの研究開発では,基礎プロセス試験の過程で5%以上の濃縮ウランが回収されるなどの成果が得られ,また,システム試験での要素技術の開発についても概ね順調に進展しているが,システム試験装置全体での濃縮試験の結果は昭和61年に本懇談会が設定した技術水準目標(年間tswu相当の約5%の濃縮)に到達していない。技術開発状況は,フランスとはさほど遜色のない開発状況にあるが,米国に比べれば約5年程度の遅れがあるとみられる。
(イ)分子レーザー法
分子レーザー法ウラン濃縮技術については,理化学研究所(以下「理研」という。)が昭和51年にレーザー科学研究グループを設置し,レーザー技術について学際的な研究をスタートし,この中で分子法に関連した研究成果を得た。理研では昭和60年からは分子法原理実証試験を開始し,その成果を踏まえ,昭和63年度からは,動燃で機器開発及びその後の濃縮試験を目的とした工学実証試験を,理研では動燃の工学実証試験を支援するための工学基礎試験を実施している。
これまでの研究開発では,工学基礎試験の過程で約3.7%の濃縮ウランが分離されるなどの成果が得られたが,昭和61年に本懇談会が設定した技術水準目標(原理的に5%の濃縮が可能であることの確認)には到達しておらず,また,工学実証試験では機器開発は概ね順調に進展しているが,濃縮試験は濃縮度等の面で十分な成果が得られていない。
(ウ)化学法
化学法ウラン濃縮技術については,昭和47年から旭化成工業(株)において研究が開始され,昭和55年度からは国の補助を受け,試験研究,モデルプラントの開発が行われた。同社では昨年7月,モデルプラントでの開発は全て終了したとし,現在は研究開発活動を休止しており,今後の国内需給動向等を踏まえ,将来の活動を検討するとしている。
これまでの研究開発では3%以上の濃縮ウランを回収するなどの成果が得られている。

2.今後の国内ウラン濃縮事業化推進に当たっての基本的考え方
 ウラン濃縮を巡る国内外の状況は1.に述べたところであり,全体としては当面,供給能力過剰の状況が続き,我が国が海外から濃縮役務調達を行うことは比較的容易な環境にあると見られるが,このような状況の中で今後の国内ウラン濃縮事業化推進に当たっての基本的考え方を改めて整理し,将来の方向付けをしておくことが重要であると考えられる。
 我が国が自主的核燃料サイクルの確立の一環として,国内でのウラン濃縮事業化を推進してきたのは,濃縮役務を全て海外に依存することに伴い,プルトニウムを含む核燃料リサイクル計画の推進に役務提供国から予期せぬ制約がかかることを出来るだけ避け,併せて自らの技術により,濃縮ウランの一層の安定供給を実現することを目的としたからである。換言すれば,国内濃縮事業化推進の意義は,核燃料サイクル全体の自主性の確保を図り,それによって原子力を長期的に安定なエネルギー源とし,エネルギーセキュリティを高めるということに要約される。さらに,ウラン濃縮の事業化は,関連する技術開発及びその実用化が他の科学技術,産業技術の発展に貢献するという波及効果も期待されてきたところである。
 かかる観点からは,一定の国内供給力及び技術力を保有するという我が国の濃縮路線の意義には基本的にはいささかの変化もないと考えられる。
 しかしながら,今後,世界の濃縮事業者間の需要獲得競争の激化が予想され,各事業者は濃縮役務の経済性の向上に一段と努力を傾注していくものと見られる中で,国内濃縮事業化を的確に進めていくためには,我が国の国内濃縮事業も国際的に遜色のないレベルの役務価格の提供を目指して,不断の努力を重ねていく必要がある。
 このため,我が国初の商業工場となった六ヶ所濃縮工場については,第一により安定した操業を図ることが重要であるが,事業化を進めてきた間の大幅な為替変動等により,当初期待した海外の濃縮役務価格に対する相対的経済性が達成されたとは言えない状況にあるため,中長期的観点からも同工場の経済性の向上に従来以上に積極的に取り組むことが不可欠である。また,高い経済性実現の潜在的可能性をもつ新濃縮技術の開発は我が国のエネルギーセキュリティをより確かなものとするためにも重要である。一方,濃縮技術は原子核科学技術にとっても,同位体元素の特性研究,同位体の利用技術の研究等を行うための中心となる技術であり,ウランのみに限らず,各種の同位体分離にも利用される可能性を考慮することが重要であり,これらの観点にも配慮しつつ研究開発がなされることが期待され,さらに,新濃縮技術の開発による波及効果が他の科学技術分野のブレークスルーや産業の高度化をもたらす可能性が大きいことに留意する必要がある。
 また,六ヶ所濃縮工場以降の我が国の国内濃縮規模の拡大及びその時期については,海外の供給源の多角化による供給安定性の確保の状況,六ヶ所濃縮工場による経済性の達成度,新濃縮技術の実用化見通し等を総合的に勘案し,また,国際情勢の変化に柔軟に対応できるよう,判断していくことが適当である。

3.遠心法技術の研究開発のあり方
(1)研究開発目標
 六ヶ所濃縮工場については,2.に述べたとおり,中長期的にもその経済性を一層高めることが極めて重要な課題であり,遠心機の単機性能の飛躍的向上及びその製造コストの低減化が必要である。
 このためには,先ず,現在進められている新素材高性能遠心機の開発を円滑に推進し,同遠心機の六ヶ所濃縮工場への導入を図っていくことが必要である。また,この開発を行うことはその後の遠心機の性能向上を実現する上でも不可欠である。
 他方,事業化を進めてきた間の大幅な為替変動等により,この開発だけではそれ以前に期待していたほどの経済性の達成が困難になったこと,既に世界市場に進出している同じ遠心法技術を採用したウレンコが現在も新しい遠心機の研究,開発及び導入に精力的に取り組んでいること等に照らし,我が国においても新素材高性能遠心機をさらに高度化した遠心機の開発,導入を図ることが必要である。
 新素材高性能遠心機の次世代機となる高度化機が実現出来れば,単位分離性能当たりの一層のコスト低減を図ることが可能と考えられる。具体的には,現在開発中の新素材高性能遠心機胴の構造を単純化,長胴化し,同時に回転胴の周速を上げ,性能向上を図ることにより,新素材高性能遠心機の約1.5~2倍の分離能力を有する高度化機の開発を含め検討していくことが適当である。
 既に動燃及び民間による基礎的な試験において,このような単純構造の回転胴の回転性能は一応安定していることは確認されており,実現の可能性がある。また,これまでの開発によって得られた知見及び新素材高性能遠心機の今後の研究開発成果を効果的に利用することにより,従来のような多数の遠心機によるカスケード試験が不要と考えられるなど,開発コストの低減化も期待出来る。
 さらに,構造の単純化により回転胴の製造コストの大幅な低減が期待されるなどにより,六ヶ所濃縮工場の遠心機の取替機として相当の役務価格低減を実現することが期待出来る。
 ただし,このような高度化機は,新素材の特長を十分に生かした,回転特性上画期的な構造を持つものであり,回転胴の周速が上昇することに伴う材料特性の確認,安定した製品抜き出し機構の開発等新たに克服すべき技術開発課題が少なからずあり,効率的,効果的な研究開発を進めていくことが必要である。
(2)高度化機開発の進め方
 ア.開発計画及びスケジュール
 六ヶ所濃縮工場の経済性の向上を着実に,かつ,出来るだけ速やかに実現していくためには,新素材高性能遠心機の開発計画をも考慮しつつ,高度化機は遅くとも平成15年度の同工場への導入に向けての計画を検討する必要がある。
 高度化機の開発に当たっては,可能な限り従来の経験と知見を活用し,研究開発の効率化を図ることが望ましいが,その場合であっても,高度化機の設計解析,各要素技術の開発,単機の開発,信頼性の確認等最小限の開発工程は必要と考えられる。
 単機開発は,高度化機数機によって安定性能を実現するとともに,高度化機10台程度の小規模カスケードによる回転特性や流動分離特性のばらつきの確認までを行う必要がある。なお,この単機開発の当初においては,複数のモデルを試作,試験し,技術的,経済的により見通しのある目標仕様を決定するという方法が有意義であると考えられる。
 信頼性試験は,新素材高性能遠心機開発の場合は遠心機約1,000台からなる規模のカスケードによる試験であるが,高度化機の場合は,新素材高性能遠心機の成果を効果的に活用すれば,大幅に少ない遠心機台数でのカスケードによる試験でも十分な成果が得られる可能性があり,この点について今後更に検討する必要がある。
 イ.研究開発体制
 現在の新素材高性能遠心機の開発過程全体は,動燃,日本原燃及び電気事業者の共同研究という形で進められている。高度化機に求められる諸性能の厳しさ,それを支える新たな研究開発要素等を勘案すると,高度化機の開発の効率性,確実性を確保するためには,動燃に蓄積されてきた遠心機技術開発の能力を活用することが不可欠と考えられる。
 従って,高度化機の単機開発の終了までは新素材高性能遠心機開発の場合と同様に,動燃力が日本原燃を支援する研究開発体制をとることが適当である。
 この際,日本原燃は国内濃縮事業者として,今後,自らの研究開発能力を高めていく必要があることからも,主体的な取り組みを行うことが適当である。
 単機開発後の信頼性確認試験,寿命試験その他関連する試験研究については,六ヶ所濃縮工場への導入を図るための最終的な試験でもあり,日本原燃が所要の試験研究設備等を整備し,自ら実施することが重要である。さらに,これらの開発過程全体にわたり,電気事業者,メーカも今までと同様に協力することが期待される。
(3) 基礎的・基盤的な研究開発等の進め方
 これまで動燃においては,将来の遠心機技術の開発に必要な基礎的データ,情報の蓄積のため,基礎的・基盤的な研究開発,先導的な研究開発,国として必要な安全性の研究等を進めてきた。これらの研究開発については,引き続き動燃において,軸受け材料等の物性研究,流体工学研究,遠心胴に関する構造力学研究等を着実に進めていくことが重要である。
 この際,高度化機開発をより効果的にするためには,これらの研究開発の成果が,逐次高度化機開発に反映されることが重要である。なお,将来の高度化機以降の更に超高性能の遠心機の開発導入の是非に係る判断に当たっては,この動燃での研究開発の成果が考慮されることが重要である。
(4)関連技術開発
 再処理により回収されるウランについては,再濃縮によるリサイクル利用が最も適当と考えられるため,民間関係者と動燃の協力により原型プラントを利用して実用規模による再濃縮計画を進めていくなど,将来の本格利用に備えることが適当である。
 また,遠心機の取替え等に伴い,機微技術の拡散につながる恐れがなく遠心機を処理出来る技術の開発を動燃において行っているが,これを着実に進めていくことが重要である。

4.新濃縮技術の評価検討
(1)原子レーザー法
 ア.技術面
 原研による基礎プロセス試験及びレーザー濃縮技術研究組合によるシステム試験は相互補完的に良好な関係を保ちつつ,概ね順調に研究が進められてきている。基礎プロセス試験においては,5%以上の濃縮ウランが得られており,システム試験では,色素レーザー,分離セル等の要素技術の開発目標は概ね達成され,また,銅蒸気レーザーの高出力化等,商業機目標への手がかりが得られたものもある。ただし,商業機の開発のためには,レーザー出力,レーザー効率,電子ビーム出力等の要素技術の目標性能が長期間安定的に維持される必要があるが,これらの性能達成の面では不十分である。
 年間tSWU相当の約5%の濃縮という技術水準目標については,現在レーザー濃縮技術研究組合が設置しているレーザー装置で得られる繰り返し数では困難であることなどから達成されておらず,1tSWU/年の能力を得るためには電源容量を増やさなければならないこと,5%を達成するためにはレーザー装置を多重化しなければならないことが判明した。
 また,金属ウランの蒸発効率の向上,電離効率を含めた光利用率の向上等の濃縮コスト低減への影響が大であると考えられる技術の開発,製品及び劣化ウランの連続回収技術の開発も残されており,原料の転換,製品の再転換技術についての検討も更に必要である。
 我が国の原子レーザー法技術開発の進捗状況は,フランスに比べ同程度,米国に比べレーザーで約4~5年,分離装置で約7~8年の遅れがあると推定される。
 イ.経済性
 開発当事者の試算では,金属ウランの転換,再転換に係るコストを除けば,現在期待している商業機の技術目標が達成された場合には,現在のDOEによる濃縮役務価格に比べかなり低コストになるとしている。
 なお,原子レーザー法の事業化には金属ウランの転換,再転換の事業化も併せて行う必要がある。現在の技術状況において国内事業化を行えば六フッ化ウランの転換及び再転換よりコストが高くなると推定される。
 ウ.評価
 個々の要素技術についての技術目標への達成状況は概ね良好であり,また,濃縮役務価格の大幅低減化への潜在的可能性は高いものと考えられる。
 しかし,開発当事者による原子レーザー法の経済性の試算については,今後の技術開発目標の達成を加味した場合のものであり,その前提となる技術開発の状況は,要素技術の面で商業機目標への手がかりが得られたものもあるが,実現への確度ある見通しが得られていない要素技術が残されており,また,システム性能の開発目標は達成されていない。
 従って,実用化に至るまでの工学的問題点は明らかにされたものの,商業化判断を行うには,時期尚早であり,将来,安定化した生産プロセス実現の技術的実証が行われ,期待される役務価格の低減化の確たる経済的評価がなされるとともに,内外のウラン濃縮事業化に係る諸情勢等も考慮した評価検討が必要と考えられる。
 当面の課題としては,生産プロセス実現の技術実証を行う前に,現在のシステム試験の施設を活用し(改造を含む。),所要の機器の整備を進め,銅蒸気レーザー及び色素レーザーの高出力化・長寿命化,製品・廃品回収プロセスの確立等,更に確たる見通しを得るべき要素技術を開発していくとともに,プラント設計技術を確立することが必要である。
 また,光電離率,光利用率,蒸発効率等を上昇させれば,経済性が大幅に改善され,プラント構成機器の仕様,コスト等の負担が軽減できるため,今後とも基礎的な試験を行い,その成果をシステム試験に活用していくことが不可欠である。
 さらに,金属ウランの転換及び再転換技術,原子レーザー法による回収ウランの再濃縮の有利性について検討を進めることも重要である。
(2)分子レーザー法
 ア.技術面
 理研による工学基礎試験及び動燃による工学実証試験においては相互の能力が効果的に発揮され,概ね順調に研究が進められている。理研においては,約3.7%の濃縮ウランが分離され,また,他の技術よりもエネルギー効率が高いことが推定されている。動燃において実施された工学実証試験では,比較的短期間で分離能力の向上が図られている。
 原理的に5%の濃縮が可能であることの確認という技術水準目標については,実験的確認はなされていないが,分離を2段以上とすることで可能と推定される。また,動燃での試験では,分離係数及び製品生産量が目標値より小さいため,今後分離プロセスの最適化,ノズルの改良等が必要なこと等から,商業プラント機の技術的見通しを確度をもって検討出来る状況までには至っていない。
 イ.経済性
 現在技術的に商業化の見通しを得られる状況にないため,経済性について論じられる段階にない。
 なお,分子レーザー法は,工学実証試験においては六フッ化ウラン取扱い技術を始め,遠心法技術の応用が図られ,また,六フッ化ウランを取り扱うため既存の転換,再転換の工程を利用出来るとの技術的特長を有しており,付帯的なコストは低いものと推定される。
 ウ.評価
 現在までの研究開発は工学実証試験に入ったばかりの段階であり,濃縮ウランの回収も期待された成果が得られておらず,商業プラントの具体的設計が出来るだけの技術的蓄積はない。
 しかし,分離エネルギー,既存核燃料サイクル施設との整合性等の面で潜在的には優れた可能性があるため,今後も基礎的な研究成果,工学実証試験の施設等を活用し,所要の機器の整備を進め,スペクトルの精密測定,分離プロセスの最適化,炭酸ガスレーザーシステムの長寿命化,ラマンレーザーの高繰り返し化・高効率化,ノズル型反応装置の最適化,製品等の捕集技術,光学素子や光結合技術の改良等の研究開発を行うことが必要である。
 また,ラマンレーザー及び炭酸ガスレーザーシステムの抜本的改良,反応機構の解明及び制御等,性能の画期的進展が期待されるブレークスルーを目指した研究開発を行うことも分子レーザー法の可能性を見極める上で極めて有意義である。
 さらに,原子レーザー法と同様に,回収ウランの再濃縮の有利性について検討を行うことが重要である。
(3)化学法
 ア.技術面
 システムの簡素化等を図ったスーパー法プロセスの開発,高耐久性・高吸着性吸着体の開発等を踏まえ,モデルプラントにより,3%濃縮ウランのkgオーダーでの取得,長期安定運転の可能性等を実証し,モデルプラントでの研究開発事項はほぼ終了している。なお,濃縮プロセスで得られたウランによる燃料ペレットの品質が良好であることも確認されている。
 今後,商業化を図るためには工業化実証のための実証プラントの建設を行い,長期連続運転の実証,工業化機器の開発を進めることが必要となる。さらに,この実証プラントに濃縮塔,還元塔等の追加を行えば商業プラントとして使用可能となる。
 イ.経済性
 技術的には成熟しているため,今後の研究開発により大幅なコストダウンは見込めないものの,プラント規模によりコスト低減を図ることが出来る。
 開発当事者試算では現在のDOEのウラン濃縮役務価格に比べて低コスト化が可能としているが,プラントとしては原子力施設としての事例がないため,開発当事者の試算値に追加的なコスト上昇要因があると考えられる。
 ウ.評価
 化学法による濃縮は,以前は3%程度の濃縮に数年かかるといわれていたが,旭化成(株)はこれを数ヵ月で達成するなど十分な成果を得ており,技術自体については,今後の事業化に向けてブレークスルーを要するような技術開発課題は認められない。また,実証プラントを建設した場合は,濃縮塔等を追加することにより1,500tSWu/年程度の商業プラント規模までは比較的容易に拡充出来るものと判断される。
(4)新技術開発の波及効果
 原子レーザー法は,分離セル技術を中心とする電子ビーム技術,高温材料技術等について,高融点金属の単結晶化,金属部材の薄膜コーティング化,真空機器への技術波及が考えられる。
 また,分子レーザー法は,ノズル設計技術,高速流体取扱い技術等について,粉体捕集,高速機械の設計等への技術波及が考えられる。
 さらに,原子レーザー法及び分子レーザー法いずれのレーザー法も同位体分離,元素分離,分析・計測,加工等への技術波及が考えられる。
 化学法は耐放射線樹脂,精密多段分離等の技術で原子力分野への応用が考えられる。

5.まとめ長期的なウラン濃縮の進め方
 遠心法技術については,六ヶ所濃縮工場の安全確保に万全を期し,安定した操業を図るとともに,経済性の向上を図るための着実な努力を重ねることが不可欠であり,財政事情を考慮しつつ,3.で示した研究開発の計画的な推進が図られるべきである。
 原子レーザー法及び分子レーザー法については,欧米でも研究開発が進められてきているが,濃縮ウラン需給の供給能力過剰傾向,既存工場の今後の供給能力等に鑑み,これらの研究開発は一時に比べれば時間をかけて着実に進めていくとの傾向が見られる。我が国においてもこれら新技術によるウラン濃縮の経済性向上の潜在的可能性は遠心法技術よりも高いものの,その有利性は遠心法技術の経済性の向上の進展状況,国内需給の動向等の周辺事情に影響を受ける側面がある。このため,これまでの研究開発の状況も含めて判断すると,今後の研究開発は段階的に進めていくことが現実的であり,その都度,これらの周辺事情を踏まえ開発成果の評価検討を行い,開発継続の是非を判断することが適当である。
 原子レーザー法については,これまでの研究開発の成果で実用化に至るまでの技術的問題点が明らかとなりつつあり,また,海外での開発状況も勘案すると,これらの問題点を解決するための技術的見通しもある。このため,原研は光電離率の向上等のための基礎的研究開発を行い,この成果も利用しつつレーザー濃縮技術研究組合は,現在保有するシステム試験施設を活用し,システムの最適化を目指した要素技術等の開発を官民の協力体制のもと,着実に進めることが必要である。これによって,平成10年頃には生産プロセス実現の技術実証,すなわち,試験機による開発成果の実証の段階に進むべきか否かの判断が可能となると期待される。従って,この実証段階に進むべきか否かの評価検討をこの時期に実施することが適当である。
 分子レーザー法については,未だ工学実証試験に入ったばかりであり,動燃及び理研の研究協力関係を維持しつつ,技術の可能性を見極めるために,理研はブレークスルー研究を,動燃は工学実証試験施設等を活用し,工学試験を継続し,原子レーザー法に係る評価検討の時期にそれまでの成果を評価検討することが適当である。なお,原子レーザー法,分子レーザー法については相互に関連する事項もあるため,関係機関の情報交換に努めることが望ましい。
 化学法については,既に技術的観点からは商業化を目指した実証プラントの建設の段階に進み得るレベルに達しつつあるが,一方,現時点で実証プラントを建設するとの決定を行うことは,事業化判断を行うに等しい意味を持つものと考えられ,そのような決定は,今後の国内外のウラン濃縮需給の動向,国内外のウラン濃縮事業の経済的見通し,今後更に必要となる技術開発投資・期間等を総合的に判断して行われることが適当と考えられる。
 六ヶ所濃縮工場以降の国内濃縮事業規模の拡大及びその時期についての基本的考え方は既に2.において示したとおりであり,2000年以降の国内需要に応える方策の一環として,今後,この点についての検討を進めていくことが必要である。


放射性廃棄物対策専門部会報告書

「高レベル放射性廃棄物対策について」

1992年8月28日
 原子力委員会
 放射性廃棄物対策専門部会

1. まえがき
 高レベル放射性廃棄物の処分は,核燃料サイクルを確立する上で重要な課題であり,その確立なくして原子力の開発利用の円滑な推進はあり得ないものである。しかしながら,高レベル放射性廃棄物の処分に対する安全性への懸念等が一部にあり,また,処分対策に対する国民の理解が十分に得られていないので,高レベル放射性廃棄物処分対策は円滑に進んでいるとは言い難い状況にある。
 これまで,高レベル放射性廃棄物の処分方策としては,「有効な地層の選定」(第1段階)の成果を踏まえ,「処分予定地の選定」(第2段階),「処分予定地における処分技術の実証」(第3段階)及び「処分施設の建設・操業・閉鎖」(第4段階)という4段階の手順で進めることとされており,上記第2段階においては,地層処分技術の確立を目指した研究開発等を実施し,その最終目標たる処分予定地の選定を行うこととされている。しがし,この第2段階の進め方が必ずしも国民の間に周知されていなかったため,あたかも研究開発等の結果が処分予定地の選定プロセスに直接的に結び付くかのような印象を与え,本来は処分予定地の選定プロセスとは直接的な関連性のない研究開発等を阻害する要因の一つとなっていたことは否めない。さらに,処分の進め方に関する具体的なビジョンも必ずしも明確にはなっていなかったため,核燃料サイクルの確立のみならず,原子力発電の円滑な推進にも影響を及ぼしかねない状況になっていた。
 このため,当専門部会としては,処分の進め方と研究開発等の進め方を併行したものとして整理することとともに,高レベル放射性廃棄物処分の進め方に関する具体的なビジョン,特に処分対策全体の手順及びスケジュール,関係各機関の責任と役割等を明確に示し,処分対策全般に対する透明性を図ることが,国民の理解と協力を確保する途であり,ひいては処分対策の円滑な推進につながるとの認識から,これらを中心として昨年7月より鋭意検討審議を重ねてきた。今般,その検討結果を取りまとめたので報告する。
 当専門部会としては,今後,本報告に基づき,高レベル放射性廃棄物処分の円滑な推進に向けた努力を官民がその役割分担に基づき有機的な連携を図って強力に進められることを切望する。

2.現状認識
 高レベル放射性廃棄物の処理処分対策の適切な推進は,原子力の開発利用を進める上で最も重要な課題となっている。高レベル放射性廃棄物の処分については,国民の間にその安全性に対する懸念等が一部にあり,安全性に関する研究を行うための地下における研究施設の立地も円滑に進み難い状況にある。さらに,海外においても,高レベル放射性廃棄物の処分対策については,難しい状況に直面している例が多い。
 我が国として,このような状況を打開し,処分対策を円滑に進めて行くため,今後の高レベル放射性廃棄物の処分の進め方をできるだけ明らかにし,広く国民の理解と協力を求めて行くことは,喫緊の課題である。

3.基本的考え方
 高レベル放射性廃棄物の処分の基本方策としては,関係各機関の役割を明確化し,研究開発等を着実に実施しその進展状況を国民に周知するとともに,処分対策全体の手順及びスケジュールを具体的に示すことが肝要である。
 今後,国民の理解と協力を得て,処分対策を円滑に進めるためには,特に以下の点に留意する必要がある。
① 長期に渡り研究開発等を要することとなるので,知見の得られた段階ごとに,国がその妥当性について判断を示すこと
② 処分に係る地元との長期に渡る信頼関係が重要なので,段階の節目において地元の意向が反映されることを具体的に示すこと

4.地層処分の進め方
 高レベル放射性廃棄物の処分対策を円滑に進めていくためには,官民一体でその推進を図っていくことが不可欠であり,その際,官民の役割分担を明確にすること,実施主体等の設立時期と形態等について時宜を得て的確に判断すること及び処分手順を明示することが肝要である。
(1)官民の役割分担
 高レベル放射性廃棄物対策は,国,電気事業者,動力炉・核燃料開発事業団(以下,「動燃事業団」という。)等関係機関の適切な役割分担の下に進めていくことが不可欠である。
 国は,処分が適切かつ確実に行われることに対して責任を負うとともに,処分の円滑な推進のための所要の施策の策定が求められる。動燃事業団は,当面,研究開発及び地質環境調査の着実な推進を図ることが求められているところであり,また,電気事業者は,処分費用の確保のみならず,研究開発の段階においても,高レベル放射性廃棄物の発生者としての責任を十分踏まえた役割が求められる。
 官民の協力については,高レベル放射性廃棄物処分対策に係る当面の具体的な推進方策の検討,所要の連絡調整等を行う高レベル放射性廃棄物対策推進協議会が,既に,国,電気事業者,動燃事業団の三者により組織されている。三者はこの場を活用し,国民の理解と協力を得るために行うべき具体的諸対策を,着実かつ積極的に推進していく必要があり,処分対策に関し本格的な取組を開始すべき時期に来ている。
(2)実施主体の設立時期と形態等
 処分事業の実施主体の形態の明確化及びその決定は,処分予定地選定の具体的作業の本格的第一歩である。
 実施主体の形態については,その永続性の担保,発生者責任,研究開発成果の活用等を考慮しつつ,実効性があり,かつ国民に信頼される実施主体が具体的にどのようなものかを念頭において,引き続き検討する必要があるが,取りあえず以下の点を指摘できる。すなわち,実施主体には,組織の永続性,技術能力,立地能力等が求められ,特に永続性については,特殊法人形態のほか,その他民間組織形態であっても,必要な場合にはその永続性の担保につき,国の責任を明確化する等の措置が求められる。
 現在は,地層処分の研究開発等を着実に進めるとともに,高レベル放射性廃棄物の地層処分に対する国民の理解を醸成していく時期であり,実施主体については,処分場の建設スケジュールを考慮し,2000年を目安に,研究開発等の進展状況や諸般の情勢等を総合的に勘案し,その設立を図っていくことが適当と考えられる。
(3)準備のための組織
 高レベル放射性廃棄物対策推進協議会においては,実施主体の組織形態等の検討を速やかに行い,準備のための組織をできる限り早期に発足させることが望ましい。
(4)地層処分の手順
 実施主体は,国民の理解を得て処分を実施していくことになるが,その手順を示せば概ね以下のようなものである。
① 実施主体は,地層処分の候補地として適切と思われる地点について予備的に調査を行い,処分予定地を選定する。国が選定の結果を確認し,その地点を処分予定地とするに当たっては,実施主体は地元にその趣旨を十分に説明し,その了承を得ておくものとする。
② 実施主体は,実際の処分地としての適性を判断するため,処分予定地において,所要の地下施設によるサイト特性調査及び処分技術の実証を行う。
③ 実施主体は,処分場の設計を行い,処分に係る事業の申請を行うこととなるが,国は,処分に係る事業を許可するに当たり,所要の安全審査を行う。処分場の建設・操業の計画は,処分場建設に至るまでに要する期間,我が国の今後の再処理計画等原子力開発の状況等から総合的に判断して,2030年代から遅くとも2040年代半ばまでの操業開始を目途とする。

5.費用の確保
 費用の確保は,世代間の負担の公平の原則から,早期に開始する必要がある。処分費用については,現在の技術と処分場のモデルに基づき,処分費用の範囲,概算,確保方策など,費用の確保の考え方に係る検討が進められている。今後は,早急に合理的な費用の見積りを行い,それに基づいて費用の確保の具体化を図るべき段階に来ている。費用の確保は,処分の実施への国及び関係者の姿勢を明確にするとともに,処分の必要性に対する国民の認識を深めることに寄与すると考えられる。

6.処分場の管理
 高レベル放射性廃棄物の地層処分は,処分システムの健全性を維持する責任を将来世代に特に依存することなく,高レベル放射性廃棄物を安全に処分することを基本としたものであり,国際的には閉鎖後の安全性については制度的な管理等に依存してはならないものとされている。一方,高レベル放射性廃棄物が処分によって人の管理下から離れることに対する国民の不安は,小さくないものとも考えられる。従って,閉鎖後の監視,記録の維持等の制度的な管理の考え方を導入することは,我が国においては,国民の理解を得る上で有力な考え方の一つである。このため,技術的観点を踏まえつつ,制度的な管理の意義,内容,期間の考え方等について引き続き検討を行うことが必要である。

7.研究開発等の進め方
(1)研究開発の評価
 研究開発の進展は,処分実施の基礎となるものであり,国民の理解を得る上でも極めて重要である。このため,関係各機関による研究開発の進展状況及び成果を適切な時期に取りまとめることにより,研究開発の到達度を明確にして,国民のコンセンサス形成に寄与する必要がある。
① 動燃事業団が本年作成する研究開発の第一次取りまとめについては,現段階における研究開発の進展状況および成果を明らかにし,その結果につき国に報告することが必要である。
② 動燃事業団が2000年前までに予定している第二次取りまとめについては,人工バリアの定量化,地質環境調査手法・機器の開発がほぼ終了する計画であるので,その評価は重要である。国は,評価のための委員会を設け,その評価を行うものとする。評価のための委員会は,安全確保に関する基本的な考え方,技術的知見及びそれまでの地質環境調査の結果等を踏まえて,我が国における地層処分の技術的信頼性等を評価することとする。
(2)深地層の研究施設の役割
 動燃事業団では,これまで国内における既存坑道を利用した試験や,海外の地下研究施設を利用して,地層に係る研究等を進めてきている。
 深地層の研究施設は,深地層の環境条件として考慮されるべき諸特性等の正確な把握,安全評価モデルの信頼性向上・確証等を行うとともに,深地層についての学術的知見の向上を図るためのものであり,深地層に係る総合的な研究の場として重要である。
 本施設の計画は,処分場の計画と明確に区別して進めるものとし,我が国の地質の特性等を考慮して,複数の設置が望ましい。
(3)地質環境調査
 動燃事業団は,地域を特定することなく,広い範囲を対象に,地質構造,火山,断層の分布,岩石の透水係数,地下水組成等を調査し,我が国の地質環境データ・ベースの構築を進めている。今後,深地層の性状について具体的知見を得るために,深地層試錐のデータが重要と判断されるので,関係者の協力により,その促進を図ることが望ましい。

8.アクチニド等除去・消滅
 アクチニド等除去・消滅については,これにより高レベル放射性廃棄物の地層処分の必要性に影響を与えるものではないが,長寿命核種を適切に除去することによって,高レベル放射性廃棄物の放射能レベルを下げるとともに,その放射能レベルの継続期間を短縮する可能性があること,あわせて除去した核種を燃料資源として利用し得ること等の長期的観点から,その実用性を見極めるため,研究開発を積極的に進める必要がある。

9. 地域との共生等
 処分予定地については,各種調査の期間が長期に渡る上,処分場の建設・操業期間は,更に長期に及ぶという特殊性があるので,その実情に即した地域振興に関し,制度の改善等を含め,その在り方について検討を行うことか望ましい。
 深地層の研究施設については,研究推進上の重要性に鑑み,地域振興のための制度を検討することが必要である。また,地下空間の有効利用の見地から,地下空間の多目的利用等についても検討することが望ましい。

10. 国際協力の推進
 高レベル放射性廃棄物対策は,原子力開発利用を進める国々の共通の課題であり,海外においても積極的な取組が行われつつあることから,研究開発等の効率的推進,コンセンサスの形成等,広い観点に立って,国際協力,国際協調を進めるべきである。


高レベル放射性廃棄物対策の進め方について

平成4年8月28日
原子力委員会委員長談話

1.原子力発電は我が国のエネルギー供給の一翼を担うまでに成長した。他方,原子力の研究開発利用に伴い不可避的に発生する放射性廃棄物は適切に処理処分すべきであり,このための適時的確な対策をとっていくことは原子力によるメリットを享受している我々の責務である。特に高レベル放射性廃棄物の処分は,核燃料サイクルを確立する上での重要な課題であり,その確立なくして将来の原子力研究開発利用の円滑な推進は望めないものである。

2.我が国の放射性廃棄物の処理処分対策の現状は,低レベル放射性廃棄物については,埋設事業の操業が間近に予定される等着実に進展が図られているものの,高レベル放射性廃棄物については,その対策の確立に向け,より一層努力を傾注すべき状況にある。当委員会は,本日,放射性廃棄物対策専門部会より高レベル放射性廃棄物対策の推進方策について,その検討結果の報告を受けた。本報告書においては,処分対策全体の手順及びスケジュール,研究開発の進め方等,高レベル放射性廃棄物処分の進め方に関する具体的ビジョンが示されているものと考える。今後は,本報告の趣旨に沿い,国民各位の理解と協力の下,高レベル放射性廃棄物対策を着実に推進していくことが必要である。

3.原子力発電及び核燃料サイクル事業化の進展等の状況を考慮すれば,高レベル放射性廃棄物処分対策に関し,今や本格的な取組みを開始すべき時期に来ており,実施主体の組織形態等の検討をはじめ高レベル放射性廃棄物の処分対策を強力に推進していくため,その中核となる組織を早期に設置すべきであると考える。
4.関係各機関においては,高レベル放射性廃棄物の処分に関し,国民の理解と協力を得るため,旧に倍する努力を行い,必要な取組みを積極的に展開されんことを望むものである。


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