第9章 核不拡散
4.核物質防護

(1)核物質防護をめぐる国際的動向
 近年,核物質の不法な移転の防止及び原子力設置等への妨害破壊行為に対する防護が重要な課題の一つであることが国際的に認識されてきており,その在り方が真剣に検討されてきている。
 1975年9月,IAEAは,核物質防護のためのガイドラインを取りまとめ(1977年,1989年一部改訂),各加盟国に対し勧告を行った。
 また,我が国を含む原子力資材等の供給国グループ15カ国は,核拡散防止のためのロンドンガイドラインを合意(1978年1月に公表)し,その中に,輸出した核物質等に対して一定の防護措置が輸入国においてとられることを輸出のための要件の一つとして盛り込んだ。改正日加協定(1980年9月発効),新日豪協定(1982年8月発効),日中協定(1986年7月発効),新日米協定(1988年7月発効)及び改正日仏協定(1990年7月発効)においても,これら協定に基づいて入手した核物質等に対して実質的にロンドンガイドラインで求められる基準と同等の基準に沿った防護措置をとる旨の規定が置かれた。
 さらに,1977年以来IAEAにおいて検討されてきた核物質の防護に関する条約は,1980年3月署名のために開放され,1987年1月スイスの批准により締結国が21か国に達し,規定により1987年2月発効した。
 同条約は,核物質の国際輸送中に一定の核物質防護措置がとられることを確保すること,このような措置がとられる保証のない核物質の輸出あるいは輸入を許可しないこと,核物質に係る一定の行為を犯罪とし処罰すること等を内容としている。
 我が国は原子炉等規制法の一部改正等同条約への加入のための必要な法令整備を終え,1988年10月に同条約への加入書を寄託した。これにより,同条約は同年11月27日に我が国について効力を生じている。
 また,1992年9月,同条約の再検討会議がウィーンで開催され,条約の有効性を再確認するとともに,核物質防護のためのIAEAガイドラインが,核物質の使用,輸送,貯蔵全般に渡って有用な指針を示すものであることを確認した。

(2)我が国における核物質防護
 原子力委員会核物質防護専門部会は,我が国の国情に即した核物質防護のあり方について調査検討を行い報告書を取りまとめた。これを受けて原子力委員会は「我が国における核物質防護体制の整備について」(1981年3月)を決定した。この決定に基づき,我が国においては,核物質防護専門部会報告書に示された内容を指針として,従来より,関係行政機関において核物質防護のための所要の施策が実施されてきたところである。
 さらに,原子力委員会は,核燃料サイクル事業の本格化及び国際的な動向等を踏まえ,我が国の核物質防護の基本施策に関して「核物質防護の整備について」(1987年12月)を決定した。
 その内容は,
① 核物質防護条約に加入すること。
② 同条約加入のために必要な法令整備を実施すること。
③ 核物質防護専門部会報告書に示された「事業者等の措置すべき核物質防護要件」に基づく措置の実施が法令上十分明確に位置づけられたものとすること。
④ 核物質防護措置を円滑に実施するために必要な体制整備を図ること。
 である。
 この決定に基づき,核物質の防護に関する条約への加入にあたり,核物質の防護にさらに万全を期するため1988年5月に原子炉等規制法の一部改正が行われた。
 その内容は,ある一定量以上の核物質を取り扱う事業者等に対し
① 核物質の防護のために必要な措置を講ずること
② 核物質防護規定を定め,認可を受けること
③ 核物質防護管理者を選任し,主務大臣に届け出ること
 を義務づけること等である。
 その後,同法実施のために必要な政令,規則等の整備が行われ,核物質防護のための具体的な技術基準,核物質防護規定に記載すべき事項,核物質防護管理者の要件等が規定された。これらの法令については,輸送中の防護に関する部分が1988年11月に,原子力施設の防護に関する部分が1989年5月にそれぞれ施行された。
 また,核物質防護に関し関係省庁間で連絡を密にするとともに情報交換等を行うことを目的として,1990年12月第1回の核物質防護関係省庁連絡協議会を開催した。また,この協議会で,核物質防護条約の第5条1に規定されている,核物質を防護する責任等を有する自国の中央当局及び連絡上の当局の登録に関して,我が国の中央当局は科学技術庁,連絡上の当局は外務省とすることを決定し,1991年1月にIAEAに通知した。
 さらに,核物質管理に対する国際的な関心の高まりを背景に,核物質の輸送情報の取扱いについて,同協議会で検討を進めた結果,輸送日時,経路等,輸送に係る詳細な情報は公表しないよう求める文書を,科学技術庁原子力安全局長名で1992年4月に関係自治体及び事業者へ発出した。


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