第9章 核不拡散
2.核不拡散に関する国際的協議

(1)NPT再検討会議と原子力平和利用国連会議
① NPT再検討会議
NPT第8条3には,この条約の運用を検討するため,発効の5年後に締約国の会議を開催すること,及び,その後5年毎に必要に応じて締約国の過半数が提案する場合には同趣旨の会議を開催することが規定されている。
この規定を受け,過去1975年,1980年,1985年及び1990年と4回のNPT再検討会議が開催されている。
第4回再検討会議は,1990年8月20日から9月14日まで,スイスのジュネーブで開催された。会議には,全締約国141か国のうち84か国の他,国際連合,IAEA等の国際機関が参加した。また,核兵器国でありNPT非締約国であるフランス,中国等がオブザーバーとして出席した。会議では,核軍縮,核不拡散,原子力平和利用について,各委員会に分かれ,審議が行なわれた。このうち,核不拡散の分野については我が国は,主に以下の点を主張した。
(I)中国,フランス及び有意の原子力施設を有する国を中心にNPT非締約国のNPT締結の促進。
(II)NPT締結非核兵器国の保障措置協定締結の義務の履行。
(III)原子力関連資機材の輸出にあたっては,輸出先国のNPT締結及びフロスコープ保障措置受諾を条件とすること。
(IV)核兵器国への効率的な保障措置の拡大。
また,原子力の平和利用については,IAEAを通じた対開発途上
国協力の重要性及びアジア太平洋地域の開発途上国を対象とした地域的な原子力協力の意義を訴えた。これらの主張は多くの会議参加国の理解を得て,各委員会の報告書にも採り入れられた。
核軍縮,特に核実験禁止についての各国の意見が異なり,合意が得られなかったことから,全体として最終文書の採択には至らなかったものの,同会議において核不拡散,原子力の平和利用について実り多い議論がなされ,核不拡散体制の維持・強化につき,各国の意見が一致したことは有意義であった。
今後は1995年にNPTが無期限に効力を有するか追加の一定期間延長されるかが決定されることとなっているが,1992年のミュンヘン・サミット政治宣言でも「1995年の再検討会議におけるNPTの無期限延長はこの過程における重要な一歩となるものであり,かつ,核兵器の軍備管理及び削減の過程は継続されなければならない」と述べられており,我が国としても今後とも,NPT体制の維持・強化に努めることが重要である。
なお,1991年には,南アフリカ共和国等5が国がNPTを締結した。
また,1992年は,中国及びフランスがNPTに加入したことにより全ての核兵器国がNPT締結国となった。
② 原子力平和利用国連会議(PUNE)
本会議は,1977年の第32回国連総会におけるユーゴスラビアを中心とする非同盟諸国による「経済的社会的発展のための原子力平和利用国連会議」開催提案を発端とするものである。1980年及び1981年の国連総会決議により,原則として1983年に開催することが決定されたが,その後の準備委員会の決定に基づき,1987年3月23日から4月10日にかけてスイスのジュネーブにおいて開催された。同会議には世界106か国,IAEA,OECD/NEAなどの国際機関等が参加し,原子力平和利用における国際協力の原則,国際協力促進のための方法と手段,発電分野及び非発電分野における原子力の役割等に関し討議が行なわれた。同会議においては,国連総会に提出する報告書が全体会議で採択されたほか,原子力分野の国際協力に関する各国の政策・経験・研究成果等に関して詳細な情報交換がなされた。

(2)原子力資材等の移転に関する原子力供給国グループのガイドライン(ロンドンガイドライン)
 1978年1月,我が国を含む原子力供給先進国15か国よりなる原子力平和利用先進国会議(通称ロンドン会譲)は,原子力資材及び技術の輸出の共通条件とすべきガイドライン(通称ロンドンガイドライン)を公表した。現在27か国(ECを除く)が加入している。
 ロンドンガイドラインの要旨
 イ 核爆発の禁止
 ロ 国際原子力機関の保障措置の適用
 ハ 核物質防護対策(P.P.)の実施
 ニ 濃縮・再処理・重水製造技術の移転規制
 ホ 20%以上の濃縮ウラン生産の規制
 へ 再移転の規制
 また,湾岸危機を契機として,核不拡散目的の輸出規制の一層の強化の重要性が国際的に強く認識されるようになった。このため,1992年3月の第2回原子力供給国会合の会議において,①従来のロンドンガイドラインに加え,原子力・非原子力両分野に用途を有する関連品目を対象とする新たな規制制度を発足させ,核不拡散を一層強化すること,②全参加国が原子力専用品の輸出に際して受領国に対し原則としてフロスコープ保障措置の受け入れを条件とすること及び今後原子力資機材の供給能力を有する国に対して同条件の採用を働きかけること,③ロンドンガイドライン上ロシアを除くすべてのCIS諸国を非核兵器国とみなすことが合意された。
 これらの合意事項の内,新たな原子力関連輸出規制制度の発足については,我が国が本制度の事務局機能を引き受けることが決定された。

(3)国際核燃料サイクル評価(INFCE)後の諸問題
 1977年から1980年にかけて行なわれたINFCEの結果を受けて,国際プルトニウム貯蔵(IPS),国際使用済燃料管理(ISFM),核燃料等供給保証(CAS)等の国際的制度に関する多国間での検討事項について,IAEAを中心に検討が行なわれてきており,その一部は最終報告書がとりまとめられ,今後の取扱いについて検討されている。

① 国際プルトニウム貯蔵(IPS)
IPSはIAEA憲章の規定に基づき,再処理により抽出されたプルトニウムのうち余剰なプルトニウムをIAEAに預託し,国際的な管理の下で貯蔵することにより,プルトニウムが軍事目的に転用されることを防ごうとする構想であり,1978年12月よりIAEAの専門家会合が開始された。
再処理により抽出されたプルトニウムの有効利用を図ることとしている我が国としては,プルトニウム管理に関する何らかの国際的コンセンサスができることは極めて有意義であると考えている。このため,我が国としては,本構想の検討審議に際して,IPS制度と現行の保障措置制度との整合性を図りつつ,その実施に当たっては,現行の保障措置制度が最大限に活用され,過度な追加的負担が課せられないこと及び核拡散を十分防止しつつも我が国のプルトニウム利用が阻害されることのない構想の構築を目途として対応してきた。
最終的には,我が国と同様の立場を取る西側諸国案,開発途上国案,資源国等案の調整がつかず,三論併記の形で報告書がまとめられ,1982年10月専門家会合レベルの検討を終了した。その後,IAEA理事会の場で,IPSの今後の取り組み方について検討がなされたものの調整がつかず,1984年2月,1984年度の予算は凍結するという決定がなされて以降特段の動きは見られない。
② 核燃料等供給保証(CAS)
核燃料等の供給保証については,それが十分に行われるならば,不必要な濃縮や再処理の施設を建設するインセンティブが減少し,結果として核不拡散に寄与することになる。一方,開発途上国の中には,原子力供給国が必要以上に原子力資材,技術の移転を制限しているとの不満がある。
このため,1980年6月,IAEA理事会により,核不拡散を確保しつつ原子力資材,技術及び核燃料サービスの供給をいかに保証するかを検討し理事会に助言する「供給保証委員会(CAS)」が設置され,供給保証に関する今後の国際協力の在り方について国際的合意を築く努力が重ねられている。現在,8つの検討テーマが考えられており,次の3つのテーマについては,すでに各々ワーキング・グループを設け検討がなされている。
(i)核不拡散と国際協力の原則
(ii)緊急時バックアップ措置
(iii)原子力協定等の改正メカニズム
このうち,後2者については,ワーキング・グループにおける結論が1983年9月及び12月に出された。
③ 国際使用済燃料管理(ISFM)
ISFM構想は,核不拡散の観点とともに,原子炉から取り出される使用済燃料が将来,世界的にみて再処理供給量及び貯蔵容量を上回ることが予想されることから,これを国際協力の下に貯蔵し管理しようとするものであり,1979年6月よりその検討が開始された。その結果,1983年4月に最終会合が開催され,IAEAの役割を含めた最終報告書が取りまとめられ,暫定貯蔵に適した種々の貯蔵技術,使用済燃料管理を促す要因が明らかにされた。


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