第6章 放射線利用
2.農林水産業への利用

 農林水産業における放射線利用としては,食品照射,害虫防除,品27種改良等があげられる。

(1)食品照射
 食品照射は,放射線を利用して殺虫,殺菌,発芽防止等を行い,食品の保存期間を延長するものであり,食品流通の安定化及び食生活の改善に大きく寄与するものと期待されている。我が国における食品照射については,1967年に原子力委員会が策定した「食品照射研究開発基本計画」に基づき,馬鈴薯,玉ねぎ等7品目の安全性,照射効果等の研究開発が関係国立試験研究機関,日本原子力研究所等において進められてきた。この結果,馬鈴薯について,1972年に発芽防止を目的とした照射が許可され,1974年から北海道士幌町農業協同組合において実用照射が実施されている。玉ねぎ,米,小麦,ウインナーソーセージ,水産ねり製品及びみかんについては,研究成果が取りまとめられ,公表されている。
 なお,1991年10月現在,世界の37ヵ国で合計約60品目について食品照射が法的に許可されている。米国では,1986年4月,生鮮果実への1キログレイまでの放射線照射が,また,1990年5月には家禽肉への3キログレイまでの放射線照射が許可された。また,フランスでは,1991年7月に干しぶどう等への6キログレイまでの放射線照射が許可された。

(2)害虫防除
 放射線を利用した害虫防除については,不妊虫放飼法が行われている。この方法は,コバルト60のγ線照射によって不妊化した虫を大量に野外に放飼することにより,野外の健全虫が正常な交尾をする機会を減少させ,正常な産卵を抑制し,次世代の個体数を減少させることを数世代にわたって繰り返し,根絶に至らしめるものであり,人体及び環境への影響のない画期的な方法である。この方法により,ウリミバエについては1978年に沖縄県久米島で根絶に成功したのを基礎として,南西諸島全域のウリミバエを根絶するhめ,1979〜84年名瀬市に,1980〜86年那覇市にウリミバエ不妊虫大量増殖施設をそれぞれ建設し,1987年に宮古群島で,1989年までに奄美群島全域で,1990年に沖縄群島でそれぞれ根絶に成功した。現在,八重山群島でウリミバエの不妊虫散飼が行われている。また,ミカンコミバエについては,1985年に小笠原諸島で,また1986年までに南西諸島全域で根絶に成功した。

(3)品種改良
 農業生物資源研究所放射線育種場等において,コバルト60等からの放射線を利用した品種改良が行われており,1990年にはナシの黒斑病抵抗性品種が育成されたほか,イネ,オオムギ,果樹,花き等を対象に多収性・病虫害抵抗性,品質向上等の改良が進められている。
 また,スギ,ヒノキ等の林木についても放射線照射による品種改良が進められている。


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