第5章 核融合,原子力船及び高温工学試験研究

(参考)諸外国の動向

(1)核融合
 諸外国の核融合研究開発は,臨界プラズマ条件の達成を主要課題とした研究開発の段階にあり,JT-60と同様臨界プラズマ条件の達成等を目的とするTFTR(米国),JET(EC)及びT-15(ソ連(当時))の建設が進められ,1982年12月にはTFTR,1983年6月にはJET,1985年4月にはJT-60,1988年12月にはT-15が実験を開始した。さらに,各国とも臨界プラズマ条件達成後に建設すべき次期装置についても,検討を行っている。中でも,1978年以来約10年間にわたるIAEAの場における国際トカマク炉(INTOR)計画の成果を受け継いで,1988年から,IAEAの後援の下でITERの概念設計活動が開始され,1990年末,成功裏に終了した。1992年からは工学設計活動が開始されたところである。
① 研究開発の現状
(I)トカマク方式
 1975年に原子力委員会によってプラズマ性能の目標領域として定められた温度,密度,閉じ込め時間に,JT-60が1987年9月に到達した。
 欧州のJETでは総合性能でJT-60をやや上回っており,特に閉じ込め時間において優れた成果を挙げている。また,米国のTFTRでは,高いプラズマ温度に特徴を有している。ソ連のT-15は,超電導コイルを使用した装置である。
 これらの四大トカマク装置は,いずれも大容積高温プラズマの生成を共通の目標とする一方,それぞれ,長時間パルス,不純物制御,-D-T燃焼,非円形プラズマ,・超電導コイル使用等特徴的な目標を掲げている。また,フランスのカダラッシュ研究所にある超電導トカマク装置Toresupraも1989年4月に運転を開始した。これらの装置を用いて,次期装置の設計パラメータを設定するための物理R&Dが行われる見通しである。
 また,閉込め性能の効率化につながる高ベータ化非円形プラズマ制御の進歩,ダイバータに関する経験と知識の増大も注目される。これらの成果から,トカマクによる実用炉相当の炉心プラズマの実現について有益な知見が得られている。また日・米・EC・Uの4極により,核融合炉の科学的・技術的な可能性を実証するための実験炉の開発に必要な詳細設計及び技術データの整備を目的としたITERの工学設計活動が1992年から開始された。

(II)トカマク方式以外の方式
 トカマク方式以外の磁場閉込め方式についても,近年世界的にいくつかの進展が見られた。まず,ステラレータやヘリオトロンにおいては,プラズマ電流を流さない状態で比較的安定したプラズマ閉込めを・達成した。また,ミラーではタンデム方式により静電場によるプラズマ閉込め及びサーマルバリヤの可能性が示された。
 その他の方式についても,それぞれプラズマ性能の向上を目指して実験が行われている。
 さらに,慣性閉じ込め方式については米国において100キロジュール・レーザーの建設が進められる等,その科学的実証を目指して研究が進められている。
(III)炉工学技術
 炉工学技術については,各国において,炉心プラズマ技術の進展を反映して精力的な研究開発が進められている。主要な技術の状況は次のとおりである。
(イ)超電導磁石技術に関しては,IEAにおける大型コイル試験が成功裏に終了した。同試験では,トカマク型核融合炉のトロイダルコイルとして予想される大きさの約1/3のコイルをトーラス状に並べた試験が行われ,定格以上の通電試験にも成功するなど大きな成果が得られた。また,日米協力により強磁場パルス・コイルの開発が行われている。
(ロ)プラズマ加熱技術は,大型トカマク装置の実験に用いられるまでに開発が進み,高温・高密度プラズマの生成に必要な温度までプラズマを加熱できる水準に達している。さらに,次期大型装置に必要な高効率の加熱技術が着実に進展している。
(ハ)構造材料に関しては,米国を中心として各国において原子炉照射などによりデータが蓄積されつつある。
(ニ)トリチウムについては,諸外国においてその取扱技術,生産技術等についての研究が行われ,相当の水準にあるが,核融合炉に応用するためには,まだブランケット中での増殖技術等開発要素が残されている。米国のTSTA施設における日米研究協力でトリチウム取扱技術に関する総合的な試験が行われている。
(ホ)炉設計技術は,各国における各種の設計研究により急速に進展した。特に,IAEAのINTORワークショップやITER概念設計活動に見られるごとく,次期大型装置に関しては,現実的な設計をし得る水準に達している。
これらの技術の他,核融合炉技術には,既存の核分裂炉技術,重電技術等を基礎として発展させ得るものが多い。また,トリチウムを始め,放射化生成物等の生物への影響等についての研究も進められている。

(2)原子力船
①ソ連は,これまでに7隻の原子力砕氷船(レーニン,アルクチカ,シベリア,ロシア,タイミール,ソビエツスキー・ソユーズ,バイガチ)及び1隻の原子力ラッシュ船セブモルプーチを完成しており,退役したレーニン以外は運航中である。またこの他,数隻の原子力砕氷船等を建造中であると伝えられている。
②米国及びドイツは,それぞれ実験的な目的で原子力貨客船サバンナ及び原子力鉱石運搬船オット・ハーンを建造し,それぞれ約10年間にわたって運航することにより原子力商船の技術的可能性を確認した。
 さらに,米国及びドイツは,これらの実験船の運航経験を踏まえて,より改良された舶用炉の開発を進めており,現在は,設計をほぼ固めた段階にまで達している。
③フランスにおいても,原子力軍艦の運航経験を踏まえて商船用舶用炉の開発が進められており,現在は,米国及びドイツと同様,設計をほぼ固めた段階にある。
④また,民間企業(フランスとカナダの共同)においても海洋探査を目的とした小型原子力潜水船Saga-Nの開発が進められている。

(3)高温ガス炉
 現在,ドイツ及び米国が高温ガス炉の開発に取り組んでいる。
 ドイツは,実験炉AVRの経験を踏まえて,高温ガス炉による発電と核熱のプロセス利用を目標として,研究開発を進めている。発電については,蒸気タービン発電用原型炉THTR-300(電気出力30万キロワット)が1986年9月に100%出力運転を達成し,1987年6月より営業運転を行ってきたが,経済的な理由から,1989年運転を終了した。
 また,核熱のプロセス利用については,石炭と褐炭のガス化を図るPNP計画の研究開発がユーリッヒ原子力研究所を中心に実施されている。
 米国では,当初GAT社が中心となり,高温ガス炉の開発を進め,実験炉「ピーチ・ボトム炉」,原型炉「フオート・セント・ブレイン炉」の建設・運転を行ってきたが1974年,1989年にそれぞれ運転を終了した。さらに,特に固有の安全性が高い等の特徴を有する中小型モジュラ型高温ガス炉(MHTGR)の設計が進んでいる。現在は,更に経済性を向上するために1基当たりの熱出力を350メガワットから450メガワットに増加させる設計の検討を進めている。
 また,中国においては,重質油の改質・回収用の熱源とするため高温ガス炉の研究開発が清華大学核能技術研究所を中心に進められてきた。
 さらに,ドイツ,IA社と共同で中国内に高温ガス実験炉を建設する計画が進められていたが,現在は,独力で10メガワットの試験研究炉HTR-テストモジュールを建設することを1992年3月決定し,1997年に臨界の予定である。


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