第5章 核融合,原子力船及び高温工学試験研究
3.高温工学試験研究

 高温ガス炉研究開発を中心とする高温工学試験研究は,1969年以降,日本原子力研究所を中心に,炉設計,炉物理,炉工学,燃料・材料,高温機器等の分野で進められ,産業界においても通産省の大型プロジェクトとして,原子力製鉄の研究開発が1973年から1980年まで行われた。
 しかし,近年,核熱プロセス利用の動向等,高温ガス炉を取り巻く社会情勢も変化してきたため,1986年3月,原子力委員会は高温ガス炉研究開発計画専門部会を設置し,高温ガス炉に関する研究開発の意義,今後の研究開発の進め方等について検討,評価を行った。そして,高温ガス炉は,高温熱供給,高い固有の安全性,燃料の高燃焼度等の優れた特長を有する炉型であり,利用分野の拡大,熱効率の南上,経済性の向上等原子力開発上重要な課題の解決に寄与し得る点で,その研究開発の推進は大きな意義を有すやものと判断し,高温ガス炉の技術基盤の確立及び高度化を図り,また,各種の高温に関する先端的基盤研究を実施するための施設として,高温工学試験研究炉(HTTR)を早急に建設することが提唱された。
 原子力委員会は,この専門部会報告を受け1987年6月に策定した原子力開発利用長期計画において高温工学試験研究を,次世代の原子力利用を開拓する基盤的・先導的研究として,総合的・効率的に進めることとし,このための中核となる研究施設として高温工学試験研究炉を建設することが重要であると決定した。

(1)研究開発
 実験炉の詳細設計については,1980年以降進めてきたが,1986年度には高温ガス炉研究開発計画専門部会の報告等を踏まえ,所要の設計変更を加えつつ,照射機能,大型試料照射機能等多様な機能を有する高温工学試験研究炉の設計を行い,1989年2月高温工学試験研究炉の原子炉設置許可を申請し,国の安全審査を経て,1990年11月22日に設置許可を取得した。1989年度予算には,高温工学試験研究炉の建設着工のための経費が計上され,1990年度には原子炉建屋の掘削工事に着工し,炉心支持構造物等の製作に着手した。
 1991年度には,原子炉建屋の掘削工事を終了し,ベースマット工事を開始した。炉心支持構造物,原子炉格納容器等の製作も引き続き進めた。
 また,高温工学試験研究炉に組み込まれる主要機器・部品の機能及び健全性を炉外で実証するための大型構造機器実証試験ループ(HENDEL:He1ium Engineering DemonstrationLoop)については,本体部(高温ガス供給部),燃料体スタック実証試験部(T1),炉内構造物実証試験部(T2)を用いた実験が行われている。さらに,高温ガス炉臨界実験装置(VHTRC)による炉物理試験を進めるとともに,耐熱材料,黒鉛材料,燃料,高温熱工学及び高温構造等に関する研究も引き続き進められている。
 一方,次世代の原子力利用を開拓する基礎的,先導的研究として,地球環境保全のために,その生産過程で炭酸ガスを排出しない原子力エネルギーを非電力分野にも積極的に利用するための研究が進められており,核熱を利用した水素製造に関する基礎的研究及び高温工学試験研究炉に接続する水素製造システムの設計研究等を行っている。また,日本原子力産業会議においても,1991年に高温ガス炉の核熱利用とそれによる地球温暖化防止に対する貢献について調査研究が行われた。

(2)国際協力
 日米間の協力については,軽水炉安全性情報交換取決めに基づき,高温ガス炉情報交換会議がこれまで3回開催された。また,1983年7月以来日米間で協力の拡大の可能性について協議が行われ,1985年9月,日本原子力研究所と米国エネルギー省(DOE)との間で,協力の分野,方法等基本的事項を包括的に定める「日米高温ガス炉研究開発協力実施取決め」が締結された。その後,この実施取決めに基づく具体的協力として,1986年3月にフィッションチェンバー及び高温ガス炉用燃料の共同照射試験計画を内容とする付属書1及び2が締結され,1987年5月には黒鉛材料開発試験,耐熱金属材料研究開発を内容とする付属書3及び4が締結された。さらに,1987年9月には,高温工学試験研究炉と米国のモジュール型高温ガス炉(MHTGR)の設計情報の交換等を内容とする付属書5が締結されるなど幅広い分野で研究協力が進んでいる。
 日独間の協力については,日独科学技術協力協定に基づき,これまで5回「高温ガス炉に関するパネル」が開催された。また,1979年2月以来,日本原子力研究所とユーリッヒ研究所との間で研究協力が行われてきたが,1988年1月,従来の研究協力協定の期間満了に伴い,さらに,協力を拡大するために情報交換協定を改訂するとともに,付属書を1988年4月に締結した。付属書に基づいて進められてきた旧西独の高温ガス実験炉AVRにおける安全性実証の共同試験を進め,1990年3月に終了した。また,1984年1月に締結された日本原子力研究所とGHT社/IA社間のKVK(大型高温機器試験ループ)―HENDEL情報交換協力取決めは,1990年1月の期間満了に伴い更新した。日英間の協力については,原子力平和利用に関する日英協定に基づき,日本原子力研究所と英国原子力公社との間で,1990年3月に熱中性子炉に関する情報交換協定を締結し,ガス冷却炉及び加圧水炉に関する情報交換を進めている。また,IAEAが開催する炉物理,燃料・熱流動,熱利用等のワークショップに参加し,情報交換を行うとともに共同研究に参加している。


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