第2章 核燃料サイクル
7.放射性廃棄物の処理処分対策

放射性廃棄物の処理処分を適切に行うことは,原子力開発利用を進めていく上で重要な課題であり,このための施策については,従来から原子力委員会の方針に沿って,計画的かつ積極的に進めてきている。
 すなわち,原子力発電所等において発生する低レベル放射性廃棄物については,陸地処分及び海洋処分を行うことを基本的な方針とし,再処理施設において使用済燃料から分離される高レベル放射性廃棄物については,安定な形態に固化した後,30年間から50年間程度冷却のための貯蔵を行い,その後,地下数百メートルより深い地層中に処分する(地層処分)ことを基本的な方針として諸施策を進めている。そして,原子力委員会は,1992年8月,放射性廃棄物対策専門部会において,放射性廃棄物対策の具体的推進方策について,報告書「高レベル放射性廃棄物対策について」をとりまとめた。
 また,1986年放射性廃棄物の廃棄の事業に関する規制を創設し,その安全規制の充実強化を図ることなどを目的とした原子炉等規制法の改正が行われ,我が国の放射性廃棄物対策を円滑に推進していくため一に必要な法制度上の枠組が確立された。
(1)放射性廃棄物処理処分の現状
① 低レベル放射性廃棄物処理処分
 原子力発電所等の原子力施設で発生する低レベル放射性廃棄物については,各事業者等が自ら処理しており,廃液等の低レベル放射性廃棄物については,蒸発濃縮等の減容を行った後,ドラム缶にセメント固化する等の処理を施し,敷地内の貯蔵庫に安全に保管している。
 なお,気体状放射性廃棄物及び一部の液体状放射性廃棄物については,法令に定められた基準値を下回ることを確認して,施設の外に放出している。
 低レベル放射性廃棄物は,1991年度には原子力発電所において200リットルドラム缶にして約6千5百本増加しており,1991年度末の累積で約47万8千本が貯蔵されている。
 低レベル放射性廃棄物の処分は,陸地処分及び海洋処分を行うことを基本的な方針とし丁いる。このうち,陸地処分については,青森県六ヶ所村において,1992年12月の操業開始を目途に,民間事業者が比較的浅い地中に処分する計画を進めている。

 具体的には,1984年7月に電気事業連合会が,核燃料サイクル施設の一つとして,低レベル放射性廃棄物埋設施設の立地協力要請を,青森県及び六ヶ所村に対し行い,1985年4月には県及び村が受け入れ表明を行っている。また,同年3月には,同施設の建設,運営等に当たる日本原燃産業(株)(現日本原燃(株)が設立され,1988年4月に同施設の廃棄物埋設事業の許可申請書が提出された。同申請に対しては,1990年11月に内閣総理大臣より事業許可がなされ,1992年12月の操業開始に向けて施設の建設が進められている。同事業許可における施設の埋設能力は,約4万m3(200リットルドラム缶換算約20万本相当)であるが,今後,逐次増設され,最終的には約60万m3(200リットルドラム缶換算約300万本相当)とする計画となっている。
 また,1992年4月には原子力安全委員会放射性廃棄物安全基準専門部会によりまとめられた陸地処分に関する報告書が公表され,既に基準が示されていた廃液等を容器に固型化したものに加え,新たに雑固体廃棄物,原子力施設の解体等により生ずるもともと放射能レベルが極めて低いコンクリート廃棄物等についても基準が示された。なお,同報告書中において,原子力施設の解体等に伴って発生する固体状の廃棄物について,「放射性廃棄物でない廃棄物」の範囲について考え方が示された。
 また,海洋処分については,これまで所要の調査研究の実施,国内法令の整備,環境安全評価,国際協調の下にこれを進めるための国際条約への加盟等,所要の実施準備が進められてきた。
 我が国としては,海洋処分については関係国の懸念を無視して行うことはしないとの従来よりの方針の下に関係諸国とも協議しつつ対処していくこととしている。
② 高レベル放射性廃棄物処理処分
 高レベル放射性廃棄物は,再処理施設において使用済燃料からウラン及びプルトニウムを分離する過程で,高レベル放射性廃液として発生する。我が国は,この高レベル放射性廃液を安定な形態に処理(ガラス固化)し,30年から50年間程度冷却のため貯蔵した後,地下数百メートルより深い地層中に処分する方針である。
 高レベル放射性廃液については,東海再処理工場の稼動に伴い発生し,その量は1991年度末現在,約471m3であり,同工場内の貯蔵タンクに厳重な安全管理の下に保管されている。
 高レベル放射性廃液の処理については,技術の実証に向けて動力炉・核燃料開発事業団のガラス固化技術開発施設(TVF)が建設され,本年5月より試運転が開始された。
 また,貯蔵に関しては,日本原燃サービス(株)(現日本原燃(株))が青森県六ヶ所村に,英仏両国への海外再処理委託に伴い我が国に返還されるガラス固化体の貯蔵を計画し,現在,廃棄物管理施設を,1995年2月の操業を目指して建設している。
 高レベル放射性廃棄物の処分について,国は処分が適切かつ確実に行われることに対し責任を負い,動力炉・核燃料開発事業団は研究開発及び地質環境調査の着実な進展を図るとともに,電気事業者は処分費用の確保,研究開発段階においても高レベル放射性廃棄物の発生者としての責任を十分踏まえた役割を果たすこととしている。また,官民の協力を図るため,高レベル放射性廃棄物処分対策に係る当面の具体的な推進方策の検討,所要の連絡調整等を行う「高レベル放射性廃棄物対策推進協議会」が,1991年10月,国,電気事業者,動力炉・核燃料開発事業団の三者により組織されている。
 高レベル放射性廃棄物に関する研究開発については,国の重要プロジェクトとして,地層処分技術の確立を目指した研究開発及び地層環境等の適正を評価するための調査が,日本原子力研究所,地質調査所等との適切な役割分担の下に,動力炉・核燃料開発事業団を中核推進機関として推進されている。
 他方,実際の処分予定地については,その選定を処分の実施主体に行わせることとしている。処分の実施主体は,2000年を目安に,研究開発等の進展状況や諸般の情勢等を総合的に勘案し,その設立を図っていくことが適当と考えられている。また,実施主体の形態については,永続性の担保,発生者責任,研究開発成果の活用等を考慮しつつ引き続き検討する必要があるとしている。また,処分の実施主体の設立に向け,その準備の組織をできる限り早期に発足させることができるよう,高レベル放射性廃棄物対策推進協議会において,その組織形態等が検討されている。
 実際の処分は,処分の実施主体により,国民の理解を得て実施されていくこととなるが,その手順を示せば概ね次のようになる。
(ア)実施主体は地層処分の候補地を予備的に調査し,処分予定地を選定する。国は,選定の結果を確認し,その地点を処分予定地とするに当たっては,実施主体は地元にその趣旨を十分に説明し,その了承を得ておくものとする。
(イ)処分予定地においてサイト特性調査及び処分技術の実証を行う。
(ウ)処分場の建設,操業の計画は,建設に至るまでに要する期間,原子力開発の状況等から総合的に判断して,2030年代から遅くとも2040年代半ばまでの操業開始を目途とする。

③ その他
 使用済燃料の再処理,ウラン,プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料の加工の過程で発生するTRU(Trans-Uranium:超ウラン)核種を含む放射性廃棄物については,適切な区分と,その区分に応じた合理的な処分方策を確立することとしている。これを受け原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会において所要の検討が行われ,TRU核種を含む放射性廃棄物の処理処分にかかわる,処分方策立案上の廃棄物の区分の一応の目安値,処分方策の具体化の進め方,研究開発課題等について,1991年7月に報告書がとりまとめられた。
 また,民間のウラン燃料加工事業所,動力炉・核燃料開発事業団のウラン濃縮施設等から発生するウラン廃棄物については,現在,安全に貯蔵されているが,その処分については,その特性に応じた方法を採り得ると考えられ,処分技術の研究開発を進めることとしている。

(2)放射性廃棄物処理処分の研究開発
① 低レベル放射性廃棄物処理処分
 陸地処分については,日本原子力研究所,(財)原子力環境整備センター等において,放射性同位元素を用いた放射性核種の地中挙動に関する試験,低レベル放射性廃棄物の再利用に関する技術開発,濃度上限値を上回る低レベル放射性廃棄物に関する処分技術の開発,モニタリング手法開発のための調査研究等が行われている。
 海洋処分については,関係省庁,(財)原子力環境整備センター等において,試験的海洋処分の環境影響等に関し所要の調査研究が進められている。
② 高レベル放射性廃棄物処理処分
(I)固化処理技術開発
 固化処理については,世界的に主流となっているホウケイ酸ガラスによる固化処理技術に最重点をおいて,研究開発が進められている。
 固化処理技術の開発を進めるに当たっては,実験室規模の試験と実規模の試験,コールド試験とホット試験を組み合わせて行っており,動力炉・核燃料開発事業団においては,1978年度からの模擬廃液を用いた実規模でのガラス固化処理の試験,1982年度からの高レベル放射性物質研究施設(CPF)における,実廃液を用いた実験室規模でのガラス固化処理の試験の成果を踏まえ,今後,ガラス固化技術開発施設(TVF)において,固化処理技術の実証を行っていくこととしている。なお,工業技術院大阪工業技術試験所においてはガラス固化処理に関する基礎的研究を進めている。
(II)地層処分研究開発
 地層処分の研究開発の推進に当たっては国民的理解を得つつ進めることの重要性がますます認識されてきており,このような観点から,今後の地層処分の研究開発の一層の進展を図るために,原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会において所要の検討が行われ,地層処分の研究開発を進めていく上で,重点的に推進すべき研究開発項目とその進め方について,1989年12月に報告書がとりまとめられた。
 動力炉・核燃料開発事業団は,日本における処分システムを構築することを目標においた第2段階における研究開発の中核推進機関として,各開発プロジェクトの推進を担当しており,研究開発を以下のように進めている。
(イ)多重バリアシステムの長期にわたる性能の評価研究(性能評価研究
 地下深部の地層の性状や地下水の働き及び人工バリア材と地層地下水との化学反応等について,これらを支配する法則を見出し,これに基づく解析モデルと信頼性の高いデータを用いた解析によって,多重バリアシステムによる長期的安全確保の仕組みを理論的・科学的に明らかにする性能評価研究を進めている。
(ロ)人工バリア技術の研究開発
 人工バリアの材料の特性を把握するとともに,人工バリアが工学的に製作可能であることを示すため,人工バリアを構成するオーバーパック等の試作開発を進めている。
(ハ)我が国の地質環境に係る調査研究

地質環境に係る調査研究は,地域を特定することなく日本列島全体を対象として,地質環境に関するデータの収集を行っている。
 また,地質環境の長期的な安定性を評価する上で必要とされる断層等に関する調査を進めている。
 同時に,これらの調査を実施する上で必要とされる調査技術,調査機器の開発を進めている。  また,我が国の特徴を踏まえた処分施設の基本的なレイアウトの設計等に関する研究を進めている。
 このように,動力炉・核燃料開発事業団は,中核推進機関として,我が国の地質環境等の特徴を踏まえた地層処分を確立するため,地質環境に係る調査研究と天然バリア,人工バリア等の研究との整合性をとりながら,処分研究を進めており,これらの平成3年度までの成果がとりまとめられ,1992年9月に公表された。動力炉・核燃料開発事業団が2000年までに予定している第2次取りまとめの評価は重要であり,国は評価のために委員会を設け,評価することとなっている。
 深地層の研究施設は安全評価モデルの信頼性向上,確証等を行うものであり,深地層にかかわる総合的な研究の場として重要である。本施設の計画は,処分場の計画と明確に区別して進めるものとする。また,本施設は,我が国の地質の特性等を考慮して,複数の設置が望ましい。
 なお,動力炉・核燃料開発事業団の貯蔵工学センター計画は,地層処分技術を確立するための深地層試験等の研究開発と高レベル放射性廃棄物等の貯蔵とを行う総合研究センターを目指したものであり,その着実な推進を図っている。
 また,経済協力開発機構原子力機関(OECD/NEA)のストリパ計画,スウェーデンの核燃料廃棄物管理公社(SKB),スイス連邦放射性廃棄物管理協同組合(NAGRA),カナダ原子力公社(A ECL)との国際共同研究等の国際協力を積極的に進めている。これらの技術開発と並行して,日本原子力研究所においては,処理処分の各段階の安全評価手法の整備を図るため,ガラス固化体の特性,処分条件下での放射性物質の挙動等の基礎的な試験研究を行っており,1982年度からは廃棄物安全試験施設(WASTEF)において放射性物質を用いた試験を進めているほか,シンロック等ガラス固化以外の新固化技術,核種分離・消滅処理等に関する基礎的研究を進めている。

 また,地質調査所においては,地層処分に係る水,岩石系間での物質移動等について,専門的知見に基づき,基礎的研究を進めている。
③ TRU核種を含む廃棄物処理処分
 使用済燃料の再処理,MOX燃料の加工の過程で発生するTRU(Trans-Uranium:超ウラン)核種を含む廃棄物は,放射能レベルは低く,発熱量も少ないものの,長半減期のアルファ崩壊放射性核種を含むものであり,また,放射性廃棄物の性状も多様で,種類も多い。
 このため,その低減化を図るためベータ・ガンマ廃棄物との区分管理技術,減容・除染技術の開発を行うとともに,安定な形態への固化技術及び高レベル放射性廃棄物処分の研究開発を参考とした処分技術の開発を,動力炉・核燃料開発事業団及び日本原子力研究所で行っている。
④ 核種分離・消滅処理技術開発
 再処理施設において使用済燃料から分離される高レベル放射性廃棄物は,放射能が強く,発熱量が多い核分裂生成物(FP)と,放射能はそれほど強くはないが,半減期が極めて長い長半減期核種とを併せ含んだ廃棄物である。さらに,この廃棄物には,白金族元素(ルテニウム,ロジウム等)や,ラジオアイソトープ(RI)としての活用が期待できる核種(セシウム137,ストロンチウム90等)の有用物質が含まれている。
 このような,高レベル放射性廃棄物の含有物の特徴に着目し,長寿命核種や白金族元素等を分離し,それぞれの特徴に応じて,処分や有効利用を行えば,高レベル放射性廃棄物の資源化と処分の効率化を図ることができ,さらに,分離した長寿命核種等については,核分裂,核破砕又は光核反応などの核反応によって短半減期又は非放射性の核種に変換することにより,一層,処分の効率化を図ることができることとなる。
 核種分離技術及び消滅処理技術は,高レベル放射性廃棄物の最終処分の負担の軽減化と資源の有効利用を図るものであり,これらに関する基礎的研究開発を日本原子力研究所,動力炉・核燃料開発事業団を中心に進めている。
 原子力委員会放射性廃棄物対策専門部会では核種分離・消滅処理技術の研究開発の長期的取組について,1988年10月に報告書をとりまとめた。
 また,我が国は,核種分離・消滅処理技術に関する情報交換の国際協力計画(通称:オメガ計画,期間: 1989~1993年)をOECD/NEAに提案し,1989年6月から同機関において開始された。また,1990年11月には,第1回情報交換会議が我が国において開催された。
 現在,同計画の1998年までの期間延長が検討されている。


目次へ          第2章 第8節へ